アキちゃんとユカちゃんのそれから
アキちゃんは僕の幼なじみで、3歳の頃からずっといっしょだ。僕に近づいて来る子たちをみんな蹴りで追い払ってくれた。中学生になって同じクラスのユカちゃんという美人で胸の大きい女子が僕に言い寄って来た。性に目覚めてしまった僕は、性的にユカちゃんに魅かれてしまう。だがユカちゃんの頭脳では僕の話し相手にはなれない。無視することにした。しかしいつのまにか僕はユカちゃんの公認カレシにされてしまっていた。アキちゃんがユカちゃんを蹴りに来たが、なぜか二人は親友になってしまう。
夏休みユカちゃんの別荘で、もう少しでユカちゃんとやってしまうところだったが、アキちゃんがじゃましに来てくれた。次の日アキちゃんとやろうとした僕は、アキちゃんの無意識の抵抗で蹴られ、救急車で病院に運ばれることになった。ユカちゃんに先を越されることを恐れた母は、アキちゃんに薬を飲ませてやらせようとする。しかしやはり無意識の蹴りが飛んできた。しかたなくアキちゃんは自分の足を縛ってやろうとするが、僕は拒否する。母は最後の手段として、僕に薬を盛ることを提案した。
これはその後の物語。
僕には初体験の記憶がない。なんてことだ。
気が付いたらベッドの上でアキちゃんが僕の胸にもたれかかっていた。
「うれしい…。わたしたち、ちゃんとひとつになれたよ」
僕には射精の後の脱力感だけが残っていた。
たしか父は『薬盛られてやるのも気持ちいいぞ』と言っていた。
薬の量がちがうのか? それとも違う薬なのか? 母はどれだけ盛った? 僕を気持ちよくさせる配慮はなしか? それともわざとか? 僕がアキちゃんを泣かせたから?
「アキちゃん」
「なに?」
「僕にキスした?」
「したよ」
僕にはファーストキスの記憶もない。なんてことだ。
「下に行く?」アキちゃんが僕に言った。
「うん」
下に降りて行ったら、母が上機嫌で待ち構えていた。
「おめでとう。がんばったわね。よくやったわ」
アキちゃんは恥ずかしそうにしている。
「孫の顔が楽しみだ」父は気が早すぎる。
食卓に僕の食べ残した料理がそのままあった。僕は覚悟を決めて好物をすべて並べるように頼んだことを思い出した。寿司、ステーキ、トンカツ、ハンバーグ、天ぷら、うなぎ、唐揚げ、ギョーザ、特大のエビフライ、などなど。食べきれるわけはなかったが、そうしないと気が済まなかった。処刑前の死刑囚の気分だった。最後の晩餐。父はちゃっかりご相伴にあずかり、酒を飲んで浮かれていた。
「大変だったわね。アキちゃんの獣みたいな悲鳴が下まで聞こえたわよ」
アキちゃんは真っ赤になった。
僕は食べ残した料理を食べ始めた。
「僕の思い出はどうしてくれる」
「バカねえ。これからいくらでも作ればいいじゃない。もう蹴られないから、安心していいわよ」
「はじめては、二度とないよ」
「過ぎたことを悔やんでも仕方ないわよ」
「一般論にすり替えるな」
「恨むんなら、わたしを恨みなさい」
「一生恨んでやる」
「いいぞ」なぜか父が答えた。
「えー、ウソ、ほんとー? で、どう、どう?」
「なんかー、まだ股の間にバットをはさんでるみたいな感じ?」
「やだー、いいなー。アタシもしたーい」
「だめー」
「もういいでしょー」
「だめー」
「わからないようにするからー」
「ぜったい、だめー」
「いーじゃん。ケチー」
あいかわらずユカちゃんとアキちゃんが仲よく話している。内容は聞こえないけど。
授業の合間の休憩時間にユカちゃんが話しかけてきた。ユカちゃんは僕の前の席なのでくるっと振り向くたびに大きな胸が揺れる。いつもドキっとさせられる。
「ねえ、アタシも股の間にバットはさみたい」
「何の話だ」
「もうがまんできないの。アタシもう濡れて…」
「やめろ」
ユカちゃんの目がうつろだ。何を想像している?
「決めた。お父さんに電話してくる」
そう言って教室を出て行った。
放課後、アキちゃんは先に待っていた。昨日までと違って、アキちゃんはどこか大人びた気がする。いつもの道をいっしょに歩き出す。後ろからいつかのバンがやってきて、黒ずくめの男が飛び出してきた。アキちゃんの蹴りが炸裂した。男が吹っ飛んだ。だが男はもう一人いた。アキちゃんの背中にスタンガンを押し付けた。アキちゃんが倒れた。男はスタンガンを手に僕に近づいてきた。男が吹っ飛んだ。ツヨシくんが立っていた。
「警察を呼ぶ」僕は大声で叫んで、携帯を取り出し、母の携帯に電話した。
「もしもし、警察ですか? 今、下校途中に襲われました」
「わかった」母が答えた。
男たちはあわててバンに乗って走り去って行った。
母が車で迎えに来た。ツヨシくんを見て
「そいつ?」と聞いた。
「違う。助けてくれた友だち」
「そう。じゃ、いっしょに乗って」
みんなで家に着いた。
「誰に襲われたの?」
「ユカちゃんのお父さんが雇った、誰か」
「そう。いよいよ本気を出してきたわけ。もうアキちゃんに遠慮しなくていいってわけね」
どういう戦いなんだ、これは。
「残り物で悪いけど」父がツヨシくんに昨夜の余った料理を出している。
「すごいな。いつもこんなごちそうを食べてるのか?」
「いや、昨日はその、特別な祝い事?があったから」
「そうか。ありがたくいただくぞ」そう言って食べ始めた。
「でもなんであそこにいた?」
「ボディーガードだからな」
「ユカちゃんのだろ?」
「クビにされたからな。せめてカレシの方だけでも守ってやろうと」
「アキちゃんがいるのに?」
「多いほうがいいだろ。頼むからおまえまでクビにしないでくれ」
そんなにボディーガードが気に入っていたのか。あわれだ。ユカちゃんにもう一度雇うように頼んであげようか。
翌朝からは母が学校まで車で送迎してくれることになった。
「ユカちゃんひどーい」
「ごめんごめん。もー、お父さんったらアタシに似てバカなんだからー。ん?逆?まあいいや。アキちゃんにわからないようにって言ったのにー。わざわざ一緒にいるところを襲ってどーすんのよー」
「なんでそんなことするのよー」
「自分だけ気持ちいいコトしたくせにー」
「え?…そりゃ…まあ…」
「あー、テレてる。かわいー。いいなー。アタシにもわけてよー」
「やだー」
「なんでよー。親友でしょー?」
「親友はそんなことしないよー」
「するよー。なんでしちゃダメなのー?」
「ほかの男子としなよー」
「せっかく見つけた獲物を逃がせって言うのー?」
「誰が獲物だよー」
「アタシさー、もーなんかこう、カラダがウズいちゃってさー」
「し、知らないよー」
「わかるでしょー?」
「わかんないわよー」
「ウソつくんじゃないわよー」
「とにかくぜったいだめだからねー」
「次はうまくやるから、だいじょうぶー」
「蹴るよー」
「バレたら、蹴っていいよー」
「ユカちゃん、何て言い訳してた?」母がアキちゃんに聞いた。
「カラダがウズくんだって」
「それ言い訳なの?」
「知らない」
「うちの子はボンヤリしてるからねえ」
「特に考え事してる時は」
「そうよね。アキちゃん、絶対目を離しちゃだめよ」
「わかった」
毎日母が車で送り迎えするようになったおかげで、アキちゃんとわかりにくくてつまらない話をできなくなった。母には聞かせたくない。母は話をかきまぜるのが大好きだから。あれは僕とアキちゃんだけのものだ。
「それより僕たちまだ中学生だぞ。学校に知られたらどうするのさ」
隣でアキちゃんが顔を赤くしている。
「知らないだけでみんなやってるわよ」母が言う。
そうなのか? 母の中学時代はそうだったのか?
「平気よ。うちはまだ平安時代なんですって言っとけば」
「それで通るのか?」
「どちらもすでに子供を作れる健康体なんだから問題ないでしょ」
「法律上は?」
「おたがい同意の上ならオッケー」
「そうなのか?」
「それより大きな問題になるのはたいてい産まれてくる子を誰がどう養なうのかってことだから、その点わが家はだいじょうぶ」
少し心が軽くなった。
学校に着いてトイレに入ったら、後ろからツヨシくんが入って来た。あいさつをしようとしたら、いきなり羽交い絞めにされて、個室に連れ込まれた。ぐいぐい締め付けられて意識が遠のいていく。
気が付いたら椅子に縛り付けられていた。
「え? もう気が付いたの? 早すぎない?」ユカちゃんの声だ。
「もう一度締め落とすのか?」ツヨシくんの声だ。
「いい、いい。どうせ抵抗できないんだし」
何がどうなっている。
「ここはどこだ?」
「柔道部の部室だよ。もう汗臭くて最悪。でもツヨシくんがここなら見つからないって言うから」
「ツヨシくんが、なんで」
「お父さんから聞いたのよ。ツヨシくんが助けに入ったって。だから、呼びつけて聞いたの。そしたらアタシにボディーガードクビにされたっていうからさあ、そんなつもりじゃなかったよって言ってあげたの。許してあげるから、アタシとカレシ二人っきりにしてほしいって頼んだの」
ユカちゃんの頭脳でもそれくらいはできるのか。成り行きか?
「でもなぜ縛る? カレシなんだろ?」とツヨシくん。
「こういうのが好きなの」ユカちゃんにいきなり猿ぐつわを咬まされた。
「ウウー、ウウウー」
「外で見張っててね。ぜったい中へ入ってきちゃダメだよ」
「わかった」ツヨシくんは素直に出て行ってしまった。
どこまでも命令に忠実な奴だ。
「へへへ、騒いでもムダだよー」ユカちゃんは安っぽいドラマみたいなセリフを口走る。「なんたって、今は授業中だからねー」
ユカちゃんはスカートの中に手を入れて、スルスルと自分のパンツを脱いだ。
「ウウー」
「さっさとすましちゃおうね。アキちゃんにはナイショだよ」
そう言いながら、僕のズボンを下着ごとずり下ろす。
「ウウー」
「すごーい。こんなに大きくなるんだー」
僕の性器をしげしげと見つめる。指でつつく。やめろ。
「おお、まだ大きくなる。えー、こんなのホントに入るのー?」
「ウウー」
ユカちゃんが恐る恐る僕にまたがってきた。やめろ。僕の性器にユカちゃんの性器が当たる。本当に濡れている。温かい。僕の性器が極限までそそり立つ。ユカちゃんがゆっくり腰を沈めてきた。やめろ。
「痛い痛い、痛い!ムリムリ、こんなのぜったいムリ! えー、アキちゃんどうやったの? アキちゃんのってそんなに大きいの? それともアタシのが小さい?」
そこへアキちゃんがドアを蹴破って入って来た。怒りで髪が逆立っている。ユカちゃんが飛びのいた。
「待って待って!蹴るのはナシ!まだやってないから!」
アキちゃんは黙って僕の拘束を解き始めた。ユカちゃんは壁にへばりついて怯えている。
「じ、授業中のはずでしょ」
「男子が言ってるのを聞いたんだよ。ツヨシくんが誰かを担いで歩いてたって。それで教室へ見に行ったら3人ともいなかったから」言いながら落ちていたユカちゃんのパンツを見つけて投げ捨てた。
そしてキッと僕の方をにらんだ。僕は思わず両手で性器を隠して、あわててズボンを引き上げた。アキちゃんの蹴りが僕の頭めがけて飛んできた。僕は尻もちをついた。小便が漏れた。アキちゃんの足はピタリと空中で停止している。おもむろに足を下すと、僕の手をとって部室の外へ歩き出した。ユカちゃんもへたり込んでいる。ユカちゃんも漏らしたかな。部室の外にツヨシくんが倒れていた。所詮アキちゃんの敵ではなかったか。怒ったアキちゃんはものすごく怖い。
アキちゃんは教室へは戻らず、校門の方へ歩いていく。外に母の車が待っていた、
「やっぱり柔道部の部室だった?」
「うん」
「わたしのアドバイスがきいたわね。でもすぐに電話してくれてありがとう」
「どうしていいかわからなくて」
「これからも頼っていいのよ」
「はい」
「ユカちゃんは蹴ったの?」
「…」
「蹴らなかったのね」
「…間に合ったし」
「ユカちゃんが好きなのね」
「…」
「間に合わなかったら蹴ってた?」
「病院送りにはしてもいいと思った」
「殺す気はなかったのね」
「そんな」
「冗談よ。これであきらめてくれたらいいんだけど」
「明日話してみる」
「ねえアキちゃん、どうやってやったの? 教えてー」
「あんなこと、もう二度としないでねー」
「それよりアキちゃんのアソコ見せてよー。アタシのと比べてみよー?」
「やだよー」
「あんな大きいのが入っちゃったんでしょー? アキちゃんのアソコやっぱり大きいんだ」
「そうだよー。きっとユカちゃんの倍はあるねー」
「えー、そうなのー?」
「そうだよー。だからあきらめなー」
「えー」
「カレのもふつうの男子の倍あるんだよー。だから他の男子にしなー」
「えー」
「他の男子のならユカちゃんのでも入るよー」
「そうなのー?」
「そうだよー」
「ちょっと考えてみるー」
「そうしなー」
アキちゃんに生理がきた。父はしょげかえって
「…葵の上は10年かかった」と念仏のように唱え続けている。
「まだ若いんだから、これから毎日だってトライしてくれるわよ」母が慰めている。
そうだ。僕にはまだアキちゃんとした記憶がないんだった。
「僕のはじめては…」
「いいよ。生理が終わったら再現してあげる」アキちゃんが約束してくれた。
「あはははは」母が笑った。
「ユカちゃんが信じてくれたらいいんだけど」とアキちゃん。
「いくら何でもそこまでバカじゃないでしょ。誰にも相談できないタイプならともかく、誰かれ構わず聞くタイプなんでしょ? すぐバレちゃうわよ。時間の問題」
「ですよね」
「でもよく思いついたわね。うちの子のが普通の男子の倍あるって? あはははは」
「とっさに。だって他の男子の知らないし」
「知らなくていいのよ。お願いだから浮気はしないでね」
「しません」
「でもまあ、普通はじめての時女の子は目をつぶって男にまかせちゃうものね。あんなのが本当に入ってくるとは思わないわよね」
「わたしも、ぜったいムリだと思った」
「でもがんばったんでしょ。えらいわ」
「両手を前について、両足浮かせて、反動つけて全体重かけたら、やっと…」
「それであの悲鳴だったのね」
「やだ」
「ああ、わたしも処女にもどりたい」
「やめろ」僕と父が同時に言った。
「でも問題はツヨシくんね。今まで学校にいる間は危険はないだろうと思ってたけど、やっかいなことになったわね」
「夜中に忍び込んで超小型監視カメラでも設置するか」父が言った。
「それ、犯罪だから」
「バレなきゃいいじゃん」母が言った。
どこかで聞いたセリフだ。
その夜、迎えに来たアキちゃんのお母さんに僕の母が事情を話して、16歳になったら必ず籍を入れますから、このまま二人を同居させてやってくださいと頼んだ。アキちゃんのお母さんは涙を流して喜び、
「これでやっとあの人と離婚できます」と言ってみんなを驚かせた。
アキちゃんがこれからは勉強を教えてほしいと父に頼んだ。僕は父がその場で踊り出すんじゃないかと思った。アキちゃんは僕の考え事のじゃまはしたくないからと説明した。
2階が僕とアキちゃんのスペースになった。もともとお風呂とトイレは1階と2階両方にあって、それは父と母がケンカした時のために造られたようだ。ケンカした時用の母の部屋をアキちゃんの部屋にすることにした。アキちゃんはとりあえず僕の部屋のベッドでいっしょに寝ることにした。わかりにくくてつまらない話は、夜ベッドの中ですることになった。
翌朝、アキちゃんが髪を整えパリっとした制服を着て登校したら、みんなが驚いていた。ユカちゃんも驚いていた。事情を話したら「おめでとう」と喜んでくれた。
僕たちの作戦は、ユカちゃんが変な事をしないように、いつもいっしょにいようということだった。朝も授業の合間の休憩時間もお昼休みも、常に見張っておこうということだ。ツヨシくんはアキちゃんが僕のボディーガードだと思っているので問題はない。
ユカちゃんほど美人じゃないけど、アキちゃんだって可愛い。僕にとってはいちばん可愛い。二人をはべらせている僕は男子の羨望の的になった。くやしかったら早く学年トップになってユカちゃんの相手をしてやってくれ。
「じゃあ、結婚するの?」
「そうだよ」
「じゃあ、アタシとは浮気ってことね。愛人?」
「ちがうよ」
「ぜったいだめって言ったよね」アキちゃんが横から口を出す。
「あ、ウソつきは口出さないでくれる?」
「え?」
「この前の、あれウソでしょ。もうあやうくだまされるところだった」
「えーと」
「でもわかった。あんな痛いの自分からじゃムリ。カレにやってもらわなきゃ」
「そうだよ。だからムリなんだよー」
「なんでよー。男はみんな浮気するよー」
「誰が言ったのよー」
「みんな言ってるよー」
「みんなって誰よー」
「みんなはみんなよー」
このトークに入っていけない。
「じゃあなんでじゃましたのよー」とユカちゃん。
「なによそれー」
「ほんとにカレがムリならじゃまする必要ないでしょー」
あ、めずらしく論理的なこと言った。
「ユカちゃんが誘ったんでしょー」
「へー、誘われたらやるんだー」
「うっ」
「カレやる気満々だったよー」
「ウソいわないでよー」
「聞いてみたらー?」
アキちゃんが僕を見た。
「そ、そんな気はなかった。必死で止めようとしたんだ」
「そうだっけー。そそり立ってたじゃん」
「それは男の生理だよー」とアキちゃん。
そのとおりだ。
「じゃあやれるんじゃん」おお、見事な論理展開。
「すごいよ、ユカちゃん、頭いいんだ」思わず言ってしまった。
「え? なにそれ。やだ。てれるー」
「じゃあわかるよね。いくら美人だって男は一度やってしまったら3日で飽きる。そういうものなんだよ」
「そんなことどうでもいいじゃん」
ふりだしに戻った。
「3日で飽きるって、どういうことよー?」アキちゃんが問い詰めてきた。
「心が通じ合ってなければだよ」あわてて答えた。
「そっか。そうだよねー」
「ノロケかよ」ユカちゃんがふてくされた。
「で、子供はいつできるのー?」
「今回はダメだったー」
「え? すぐできるんじゃないのー?」
「そんなんだったらこの世は赤ちゃんだらけだよー」
「ということはできるまでやり続けるってことー?」
「うん」
「そっかー」
「葵の上は10年かかったらしいよー」
「葵の上ってだれー?」
「光源氏の奥さん」
「光源氏ってだれー?」
「知らないならいいよー」
「でもアタシとだったら1回でできちゃうかもー」
「蹴るよー」
「ねー、1回でダメだったらあきらめるからー」
「だめー」
「じゃあ、いつまでもあきらめないよー」
「どうぞー」
「あれ? 余裕じゃーん?」
「もういっしょに暮らしてるからねー」
「世の旦那さんはいっしょに暮らしてても浮気するんだよー」
「うちの旦那はしないよー」
「だったら一晩貸してよー」
「やだー」
「浮気しないんだったらいーじゃん」
「変な知恵つけたねー」
「さっき、ほめられたからねー」
「わかった。この際はっきり言っとく」
「何よー、急に」
「わたし、ユカちゃんがこわいよ」
「え?」
「一晩貸したら、きっとユカちゃんとしちゃうよ」
「それ、どういう…」
「だからやめて」
「…やめない」
「えー? 今わたし真剣に頼んだよね。すっごくマジメに頼んだよね?」
「うん。伝わったー」
「でもやめてくれないの?」
「やめてあげなーい」
「ひどーい。なんでー?」
「おもしろくなっちゃった」
「えー?」
「アキちゃんが本気でこわがってるの見たら、なんかおもしろくなってきちゃったー」
「なにそれー」
家に帰ったら父が僕を呼びつけた。母はキッチンでアキちゃんと何か話している。
「いいか、よく聞け。精子の数は多ければ多いほどいい。精液は濃ければ濃いほどいい」
「何の話だよ」
「アキちゃんは生理だ。たぶん5日ほど続く。その間に精子を溜めるだけ溜めろ」
「普通の親子はそんな会話はしないぞ」
「いいから聞け。オレは10年も待つ気はないからな」
「そんなに孫がほしいのか?」
「ほしいに決まってるだろ」
「変にプレッシャーかけたらアキちゃんがかわいそうだろ」
「だからオマエにかけてんだよ」
「僕はいいのか?」
「男だろ。とにかくガマンするんだ。限界までガマンして濃厚な精液を作りだせ」
「いやだよ。考え事ができなくなる」
「そんなものはどうでもいいんだよ。やった後に好きなだけ考えろ」
「5日はムリだ」
「ムリでもやるんだよ。根性を見せてみろ」
「僕に根性はないよ」
「情けない奴だな」
「情けない息子で悪かった」
「なあ頼むよ。オレだっていつまで生きられるかわからないんだ」
「まだ若いだろうが」
「いや最近やけにトシを感じる」
「知るか」
「とにかく頼んだからな。ムダに出すなよ」
やれやれ。まあ遺伝子を残そうとするのは本能だからしかたないか。
夜、アキちゃんは僕のベッドで寝ている。アキちゃんの寝相の悪さは僕の想像を上回っていた。僕は夜中に何度もベッドから落とされた。何度か落とされて目が覚めたので下へ降りて行ったら母がいた。
「どうしたの?」
「アキちゃん、寝相悪すぎ。夜中に180度も回転してる」
「わかった。明日大きなベッドを見に行ってあげる」
アキちゃんのこととなると、母の決断は早い。
「たのむ」
これは思った以上にキツイ。今までもよおす度にすぐトイレで射精していたから、がまんする習慣がない。免疫がない。授業中だけならともかく1日中はキツすぎる。それを5日はとうてい不可能だ。妄想が止まらない。エロ動画が何度も頭の中で再生される。アキちゃんのハダカが何度も浮かんでくる。ユカちゃんのハダカは浮かんでくるたびに沈ませる。快楽物質が脳内で踊り続け、もはやカーニバル状態だ。数学の難問に挑む。頭が回転しない。普段解ける問題も解けない。ムリだ。授業中にユカちゃんの背中が目に入る。ブラジャーの線が透けて見える。目をつぶって羊の数を数える。羊がアキちゃんのハダカに変わる。アキちゃんのハダカの列がズラッと並んで頭の上を通り過ぎて行く。限界だ。
「先生、気分が悪いので早退させてください」手を挙げて言う。
ユカちゃんがビックリして振り向いた。こんな時に胸を揺らして見せるな。僕は身体をくの字に折り曲げて床に倒れこんだ。ツヨシくんが抱え上げて保健室まで連れて行ってくれた。頼むからユカちゃんはついて来るな。
母が車で迎えに来てくれるまで、僕は保健室のベッドで身体をくの字に折りたたんだまま横になっていた。アキちゃんとユカちゃんが心配そうにのぞき込んでいる。キミたちにはこのツラさがわかるまい。
家に着いたら母が薬を飲ませてくれた。
「とりあえずこれを飲んで寝なさい」
例によって何の薬かわからない。眠気が襲ってきて、そのまま寝てしまった。
目が覚めたら、パンツがぐっしょり濡れていた。寝小便じゃない。こんなのは初めてだ。大声で母を呼んだ。
「あらあら、やっぱり若いのねえ」母は笑った。
「よくも貴重な精液をムダにしやがったな」父は怒った。
僕の性欲プログラムは人より強いに違いない。
その夜、母はアキちゃんを呼んだ。
「これから言うことをよーく聞いてね」
アキちゃんは緊張している。
「今日のことではっきりわかったわ。うちの子はね…」
「…」
「どスケベなのよ」
「えーっ?」
「絶対ユカちゃんとやっちゃうわよ」
「ど、どうしたら…」
「これから毎晩、はっきり言うの。ユカちゃんとやったら別れるって」
「え? でも…わたし…」
「それでも別れる気ないの?」
「だって、大好きだし…。それにユカちゃんはわたしから取り上げるつもりはなくて…ただ…少しわけてほしいだけ…だって」
「シェアするつもり? 甘い! そんなこと言ってると浮気され放題になっちゃうわよ」
「えー?」
「赤信号は止まれ。それを刷り込むのよ」
「?」
「いい? 交差点で赤信号。でも周りには誰もいない。車も通ってない。どう見ても絶対安全、そう思って渡ったとするでしょ? 脳はそれを記憶するの。すると自分が疲れていたり、眠かったり、ボンヤリしてたりすると、一度赤信号で渡った記憶があるから、渡ってもいいやと判断してしまうの。でも普段から赤信号では絶対止まるようにしていれば、脳はそれを記憶していて、どんなにボンヤリしてても赤信号では絶対止まる」
「ええと、何の話でしょうか?」
「だから、ユカちゃんとやる、イコール、アキちゃんと別れる。この公式をあの子の脳に刷り込むの。そしたらどんな状況でも、あの子がアキちゃんと別れたくないと思っている限り、絶対ストップがかかるはず。わかる?」
「なんとなく」
「逆に、それでもユカちゃんとやっちゃったら、それはアキちゃんと別れてもいいと思ってるってことだけど」
「そんなー」
「だいじょうぶ。あの子もアキちゃんが大好き。別れたくないに決まってる」
「お母さん…」
「世の奥様方はそういう努力が足りないのよ。だから旦那は何も考えずに浮気をしちゃうの。バレなきゃいい、バレても何とかなる、勝手にそう思っちゃうの」
「お父さんは?」
「したら殺すって刷り込んでる」
そんな会話があったことを僕は知らない。
「ユカちゃんとやったら、絶対別れるからね」
「何だよ。そんなことあるわけないって」
「本気だからね。絶対別れるから」
「わかったわかった」
僕は軽い気持ちで答えていた。
次の日、家に帰ったら、2階の一番大きな空き部屋に、ダブルサイズよりもクイーンサイズよりも大きな、キングサイズのベッドが置かれていた。キングサイズの枕に、キングサイズの羽毛布団。アキちゃんが真横になっても、僕の避難スペースはありそうだ。枕元に照明装置がついていて、大画面のテレビにゲーム機やDVDデッキも揃えてある。小さな冷蔵庫まである。
「これでカラオケセットがあったらラブホだな」父が言う。
「そういう感想はいらない」
これは絶対罠だ。そう思った。ユカちゃんのお父さんがこの前のお詫びがしたいから家に招待したいと言ってきたのだ。
「断る」
「えー? 何でよー? 謝罪は素直に受け入れるべきだよー」とユカちゃん。
「絶対何かたくらんでるだろ?」
「ひどーい。アタシがそんなふうに見えるー?」
「見える」
「お詫びの印にお父さんがケーキを用意してくれたんだよー。すっごく美味しいって。アタシもまだ食べてないんだよー。ねー、いっしょに食べようよー。ほらこれ」と言ってスマホの画像を見せた。確かに美味しそうだ。
「えー、美味しそう。食べたーい」アキちゃんが釣られた。
「だめだよ。また黒ずくめの男にスタンガンで…」
「あの時は一人しかいないと思って油断したからだよ。油断しなければ何人かかってきても平気だよ。いざとなればユカちゃん人質にしちゃえば突破できるよ」
「じゃあ、来るー?」
「行くー」
僕はユカちゃんのお父さんの謝罪を形式的に受け入れた。アキちゃんの目的はケーキだ。ケーキさえ食べたら、すぐ帰ればいい。
ケーキはすごく美味しかった。今まで経験したことのない味だ。何だこれ。何か…。
「やだ、ほんと美味しー」アキちゃんはパクパク食べてる。待て。
「ほんとー」ユカちゃんも平気で食べてる。じゃあだいじょうぶか。
「なんかいい気分―」
「しあわせだねー」
二人とも顔が赤い。お酒か? 僕も酔っている? 頭がふわふわしてきた。
「これってお酒だよね」僕が言った。
「えー、なにー、ユカちゃんお酒飲んだのー?」
「飲んだんじゃないよー。食べたのー」
「えー、お酒って飲むものじゃないのー?」
「どうでもいいじゃん、そんなことー」
「そうだねー、どうでもいいよねー」アキちゃんお酒弱すぎ。
「アタシ、服脱いじゃうよー」ユカちゃんがそう言って服を脱いだ。下着はつけてなかった。アキちゃんが立ち上がろうとした。だが立てなかった。
「ブランデーだよー。知らなかったー? アタシも知らなかったんだけどさー、ブランデーは足にくるんだってー。このケーキ、ブランデーがいっぱい入っててさー、アキちゃん、もう立てないでしょー? 蹴れないよー」
アキちゃんはもう一度立とうとして、くずれ落ちた。
「ユカちゃん、やめて」
ユカちゃんはハダカのまま倒れるように僕に抱きついて来た。ユカちゃんも足にきている。
「あー、いい気持ち。アタシも食べちゃったからさー、これ止められないよー」
ユカちゃんの柔らかい大きな胸が押し付けられた。僕の性器がそそり立つ。ユカちゃんが僕に抱きついたまま、背中から倒れる。足に力が入らない。そのままユカちゃんの上にのしかかってしまう。
「ねえ、して」耳元でユカちゃんが言う。
そうだ、お願いされてるぞ。やってやれよ。メスに誘われたオスの本能で身体が勝手に動き出す。初体験の記憶がないんだろ?酔った勢いで今やれよ。相手をアキちゃんだと思ってやれば…。
声がした。『絶対別れるからね。本気だからね。絶対別れるから』
僕はユカちゃんを押しのけて、その場にしゃがみこんだ。
「別れたくないよ」
「何言ってんの?」
「僕はアキちゃんと別れたくない」
「誰もそんなこと頼んでないでしょー」
「だからできない」
「アタシは、たった1回だけでいいから…」
「できない」
ユカちゃんが大声で泣き出した。
「なんでよー」
アキちゃんが手をついてふらつきながらやって来て、ユカちゃんを抱きしめた。
「よしよし。つらかったねー」
「何よそれー」
「拒否られた時のくやしさと恥ずかしさったらないよねー」
「わかってくれるー?」
「わかるよー。すっごくわかる。わたしも拒否られた時は大泣きしたんだよー」
「そうなのー?」
「そうだよー」
「ひどい男だよねー」
「許せないよねー」
なぜ僕が責められる立場になっている。
「でもいいよー。できないってわかったからー」
「ありがとー」
「アタシもアキちゃんたちといっしょに暮らしたいなー」
「それはムリだよー」
「なんでよー? 1日だけ、せめて3日、1週間だけでも」
「だんだん延びてるよー」
「じゃあまた別荘へ行くー?」
「うちら新婚だよー、じゃましちゃダメだよー」
「でも生理中じゃん」
「げっ、なんで知ってるの?」
「見てたらわかるよー。それに自分で子供ダメだったって言ったじゃん」
「そうだった」
「でももうアタシのことこわくないでしょー?」
「今はねー」
「まあねー。いつカレが心変わりするかわかんないからねー」
「いやなこと言わないでよー」
「アキちゃんが心変わりするかもだしねー」
いやなことを言うな。
アキちゃんの生理が終わった。アキちゃんは初体験を忠実に再現してくれた。それは僕へのキスから始まった。その瞬間は獣のような悲鳴ではなかったけれど、ちゃんと悲鳴もあげてくれた。僕の忘れられない思い出になった。すごい。気持ち良すぎる。やはり性欲プログラムは危険だ。犯罪を生みだす源だ。
なぜ性欲プログラムの修正はこんなにも進まないのか。一つは、人が日常的に恐怖を感じているため、それを一時的にでも忘れさせてくれる快楽を求め続けているから。性の快楽はいつでも簡単に手に入る。そのため捨てがたいのだ。もう一つは、おそらく他のよろこびを知らなさすぎるから。好きでもない勉強や仕事を仕方なくやっている人は、好きな仕事をするよろこびを知らない。いろんな仕事にいろんなよろこびがあることを知らない。人から感謝されるよろこびも知らない。
「アタシさー、なんかあれから変わっちゃったみたいでさー」とユカちゃん。
「どうしたのー?」
「うーん、もうカラダがウズかなくたったって言うかー」
「えー?」
「やっぱ、思春期だったのかなー」
「思春期もう終わったのー?」
「終わったんじゃないかなー」
「短かかったねー」
「そうだねー。また復活するかなー?」
「するんじゃないのー」
「もう処女のまま一生終わってもいいかなー」
「ただのふられショックなんじゃないのー?」
「ひどーい。そういうこと言うー?」
「今までさんざんイジワルされたからねー」
「そんなことしたー?」
「したよー」
「悪気はなかったんだよー」
「悪気がなかったら何してもいいってもんじゃないよー」
「そうなのー?」
「そうだよー」
いつものようにムダに長い会話が続いている。何か別のことを考えていよう。




