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6話 探偵、看取る

 その3日後、猫さんの元へ花奈が相談に来た。


 家のポストに封筒が届き、その中に花奈の隠し撮り写真が入っていたと言うのだ。


『そう言う話は僕じゃなくて警察にしてほしい』


 猫さんは内心そう思った。 だがストーカーに遭っていたという事を聞いてしまったし、ここまで来たら乗り掛かった船だ。


 花奈はカバンから触れるのもおぞましいと言わんばかりの表情で封筒を取り出しテーブルに置いた。 その封筒には、切手が貼られておらず郵送されたもので無い事は明白だ。 猫さんは封筒から写真を取り出しテーブルに並べて見る。


 気になる点は2つだ。


 まずは写真の縦横の比率が縦長い点。


 カメラで撮った物の比率とは異なるため、この写真はスマホで撮られたと考えるべきだろう。


 次は写真に映る花奈が後ろ姿か横からの物しかない点だ。


 普通カメラをこちらに向けて構えた人物が前にいれば誰でも怪しむだろう。 その点、構えている物がスマホなら怪しまれる事は少ない。 地図アプリを見ていたり、位置情報を利用したゲームなど街中でスマホを持って歩いている人は多いだろう。 そんなふりをすれば今はシャッター音が出ないカメラアプリなどもあるため、怪しまれずに隠し撮りができてしまう。


 だが敢えてそれをしなかったという事は──。


 猫さんがそう考えていると花奈のスマホの着信音が鳴った。


「はい。 はい、そうですが……はい、分かりましたすぐに向かいます…………」


 電話を切ると今にも泣きそうな表情をする花奈を見て猫さんは悟った。


「病院から?」


「ええ、お母さんが危篤だって……」



            ♢♦︎♢



 恭介は3日前に訪れた病院に来ていた。


 猫さんと呼ばれていたあの探偵に呼び出され、連れて来られたのだ。 初めは何故自分の携帯の電話番号を知っているのか怖かったが、猫さんの車に乗っていた花奈の表情を見てそんな考えは吹っ飛んだ。


 それから病室へ行くと意識の無い雅と必死に処置をする大吾がいた。


 雅の手や腕をさする花奈を見ながら、恭介は何故自分がこんな大切な場に呼ばれたのか不思議に思っていたが、更に不思議に思うことがあった。


 雅は大財閥の社長だと聞いていたが他に見舞い客の姿は無く、病室に居るのは自分と花奈と猫さんと大吾だけなのだ。


「お母さん……」


 涙を流しながら雅に語りかける花奈の横に恭介も座ると雅の手を握った。


「お母さん、会社は私が絶対に守ってみせるから安心して」


 花奈がそう言うのを横で聞きながら恭介は花奈の事をカッコ良く感じていた。 それに比べ自分は漠然と大学に入り、将来の事をあまり考えていない。 そんな自分が恥ずかしく感じられた。


 猫さんは立ったまま黙って雅と花奈と恭介を見つめていた。 ただその表情にはいつものふにゃんとした感じは見受けられない。


 しばらくすると雅は息を引き取った。 看取ってくれる人は決して多くは無かったが、幸せそうな死に顔をしている。 看護師の京香に綺麗に死化粧をしてもらった雅は、恭介の記憶の中にある姿と似て美しかった。


「恭介くん、一緒にいてくれてありがとう」


 花奈は片手で恭介の服の裾をキュッと握り、空いた手で涙を拭う。


「実はお母さん、恭介くんと会ったあの後に意識を失ってね、それからずっと目を覚さなかったんだ。 それでチューブを挿管するって話だったんだけど、前にお母さんがそこまでして生き永らえるのは嫌だって言っていた事を思い出してさ。 それで私、思わず断っちゃったんだよね……。 ──ねぇ恭介くん、私がお母さんを殺しちゃったのかなぁ?」


「そんな事無い!」


 恭介が花奈の手を握ると、花奈は驚いたように涙で濡れた目を丸く見開いた。


「だって雅さんは花奈ちゃんが来るまで待っててくれただろ? 雅さんは自分で死に時を選んだって事だと俺は思うよ」


「そうだね……うん、そうだよね」


 花奈はもう一度涙を拭うとぎこちなく笑った。



            ♢♦︎♢



 それから5日後に雅の葬式が執り行われ、恭介は弔問客に記帳をお願いしながら、ドラマなどで見るような大きな葬式に度肝を抜かれていた。


 花奈に頼まれ葬式の手伝いをする事になり、恭介のゴールデンウィークは消し飛んだ。 母の友人の葬式準備を手伝う事に不満は無かったが、このところ花奈からの呼び出しに驚かなくなって来ている自分には少し驚いていた。


 本当は雅の意向を尊重して花奈は近親者のみの葬儀にする予定だったが雅の妹、並木なみきあおいが出張って来て大々的な葬儀をすると言って譲らなかったのだ。


 葵は大吾の母親だが、花奈から見ればあんな見栄や体面ばかりを気にする人の息子が何故あんな立派に育ったのか不思議なくらいだ。 いつも花奈に優しい大吾だったが、母の勝手を悪く思ってか葬儀準備中からいつにもまして花奈に優しく、人一倍動き回っていた。 それこそ恭介の出る幕など無いくらいに。


 そして何故か猫さんも葬式の準備を手伝ってくれたが、2人が行く先行く先に付いて来て邪魔な事この上ない。


 よく葬式までの期間が短いのは遺族を悲しむ暇もないほど忙しくさせるためだと言うが、本当にこの5日間はあっという間に過ぎて行った。 そのため花奈は銀次から連絡が来ている事に気が付いていたが、とても連絡を返す暇など無いくらいだ。


 雅の葬儀がひと段落付き、やっと落ち着いた頃に銀次からの連絡を思い出して慌てて折り返した。 すると猫さんの探偵事務所に恭介と一緒に来てほしいと言われたので翌日、森が運転する車で恭介を拾い探偵事務所へ向かった。






【次回、恭介の父、涼矢の死が事件だったと明かされる!】

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