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5話 探偵、睨まれる

「ええと並木花奈さん? 不躾な質問で申し訳ありませんがあなた、並木商事のご令嬢だそうですね?」


 銀次がそう尋ねると驚く恭介を他所に花奈は小さく頷いた。


「ええそうです。 ですがどうして刑事さんがそれを?」


「ああそれは猫に──」


「ちょっと、ちょっと叔父さん!」


「ああ?」


 猫さんは慌てて銀次の手を引いて少し離れた場所へ連れて行く。


「僕から聞いたって言わないでください! それから僕の事についても他言無用で頼みます」


 頭を下げる猫さんに銀次は少し驚いた様子を見せながら頷いた。


「だが猫よ何故ひた隠す? 別に知られて困るような事でも無いだろ?」


「いいえ、出来れば避けたいですね。 僕は極力自由で気ままな探偵でいたいんです。 幸い花奈ちゃんは僕の事を不審に思っても覚えてはいないようなので、シラを切り通すつもりです」


 そう言って頷き、花奈と恭介の方に向かって行く猫さんを見て銀次は苦笑する。


「まぁ勝手にすれば良いが、俺はそのうちバレそうな気がすっけどなぁ……」


 それから銀次は再び花奈に事情を聞いた。


「単刀直入に伺いますが並木花奈さん、あなたに狙われる心当たりは?」


「並木商事の社長の娘なのでそれなりには……。 実はそれ以外にもありまして、2ヶ月ほど前にストーカー被害に遭っていたんです。 初めは家のポストにラブレターのような物が入っていて無視してたんですけど、そしたら1週間後くらいから誰かに付き纏われているような気がして……」


 花奈は普通に話すよう努めている様だが、明らかに先程より顔色が悪い。 相当怖い思いをしたのだろう。


「その事を従兄弟の大吾さんに話したら親身に相談に乗ってくれて、できる限り一緒にいてくれました。 それからしばらくして大吾さんがストーカーを捕まえてくれたんです。 その人は反省してたから警察には言わない事にして、それからはピタッと付き纏いが無くなって安心してたんです……」


 今日再会したのだから当たり前だが、恭介は花奈が社長令嬢でストーカー被害に遭っていたと知り大変驚いていた。 だがそれならあの小学生の頃の豪華な誕生日パーティーも納得だ。


 恭介が呑気にそんな事を考えていた横で銀次は話の続きを促す。 だが頭の中では社長令嬢だから狙われた線が濃厚だと考えていた。


「それでそのストーカーがエスカレートしたと?」



「ええ……今日の昼頃に商店街を歩いていたら上から植木鉢が落ちて来て、今度はこれなんです」


 そう話す花奈は気丈に振る舞っていても、やはり疲れを隠しきれないようだ。 無理もない、恭介の気を引くためにかわいい女の子を演じた上に2回も事故に遭いかけ、下手したら死んでいたのだ。


「なるほど……。 確かにストーカーの線もあるかもしれんなぁ」


 聞きたい事はだいたい聞けていたので花奈を帰す事にした。


 しばらくすると花奈の迎えの車が病院に着いた。 だが車を停めこちらへ歩いて来る運転手を見ると、花奈は顔を顰め呟く。


「えっ何で野瀬さんが? あっ、そうだ森さんは休暇を取ってるから居ないのをすっかり忘れてた。 いつもの森さんが迎えに来てくれると思ってたんですけど今日は違ったみたいです……」


 猫さんは花奈から恭介を探す依頼を受けた日の事を思い出していた。 飼い主に猫を届けて自分の事務所へ戻ると、見知らぬ車が停まっており菓子折りを持った森と言う運転手がいたのだ。 並木家には何人か運転手が務めており、あの日会った森は確かに物腰柔らかで優しそうな人だった。 その菓子折りのせいもあって猫さんは今ここにいるのだが……。


 花奈は猫さんと銀次に小声で懇願する。


「それであの野瀬さんって人、運転手って言うよりもお目付役って感じのすごく真面目な人なんですよ。 一連の事がバレたら私の自由が無くなっちゃいそうなので黙っててもらえませんか?」


猫さんはそう言われて苦笑した。


「花奈ちゃんごめんね、そうはいかないんだ」


 野瀬は猫さんと銀次から事情を聞くと硬い表情で黙って花奈を車に乗せた。 車の中から猫さんを睨む花奈の顔には『この裏切り者!』と書いてある。


 野瀬はその場で軽く頭を下げると車に乗り込み走り去った。


 銀次はその場に残った作業員からも事情を聞き取ると、恭介から植木鉢が落ちて来た場所を教えてもらい聞き取りを終えた。







【次回、花奈の母、雅が息を引き取る……】

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