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4話 探偵、息を切らせる

 この病院は老朽化が進みあちこちで工事をしているらしく、ちょうど花奈と恭介が歩いている横でも外壁の塗り替えのため足場を組んでいる最中なようだ。


 今は丁度休憩時間なようで、作業員が集まりコンビニコーヒー片手に語らっている姿が見える。 花奈はその姿を見ながら猫さんが買って来てくれるというコーヒーを楽しみに思っていた。


「最近のコンビニコーヒーって美味しいよね、良く買って飲むんだ。 恭介くんは?」


「俺は、ええと……前に1回買ったくらいかな」


「そっかぁ、私は家ではドリップコーヒーを淹れて飲むんだけど、あれってちょっと面倒くさいじゃん? まぁあの部屋に漂う香りが、その面倒くささに対するちょっとしたご褒美みたいなものだとも思うんだけどさ」


「へぇ、喫茶店みたいな?」


「そうそう! 良かったら今度家に──キャッ!」


 その瞬間恭介が花奈を突き飛ばした。


 2人目掛けて工事用の足場板が数本倒れて来たのだ。 金属が勢いよく地面にぶつかったけたたましい音が辺りに鳴り響く。


 恭介の咄嗟の反応で2人は事なきを得たが、もしも気づかなかったり、反応が遅れていれば2人とも無事では済まなかっただろう。


 音に気付いた作業員たちが駆け寄って来た。


「おい君達、凄い音が聞こえたけど何があったんだ!?」


 自身を襲った恐怖と間近で聞いたあまりの音に放心状態になっていた花奈だったが、ハッとして事情を説明しようとした。 だがその前に恭介が口を開く。


「そこに倒れてる足場板がちょうど俺達が通ったときに倒れて来たんです。 運悪くタイミングが合ってしまったんだと思います」


「そうか、怪我は──そっちのお姉さんが膝を擦りむいたくらいだな? おおーい! そっちに救急セットがあったよな? ちょっと持って来てくれー!」


 作業員の1人が仲間に声をかけ、救急セットを取りに行かせた。 指示を出した作業員が現場監督らしい。


 現場監督が花奈と恭介に頭を下げる。


「大変申し訳ない。 私達の管理不全で危ない目に遭わせてしまった。 その上、初めは君達の悪戯を疑ってしまった本当に申し訳ありませんでした」


 花奈は恭介と一緒に「気にしないでください」と手を振りながら、膝がヒリヒリしている事に気が付いた。 恐らく恭介に突き飛ばされた際に擦りむいたのだろうが、作業員の指摘で初めてその事に気がついたのだ。


 自分が擦りむいた事に気付いた瞬間からこんなにヒリヒリと感じるのに、それまで気づかなかったとは何と鈍感なのだろうか。


 先ほどまで心臓が早鐘を打ち、冷や汗をかいていた花奈は膝のヒリヒリに少し可笑しくなりクスッと笑った。 その様子にオロオロする恭介を見て尚更可笑しくなり、恭介には悪いが笑いが止まらなくなる。


 そんな花奈だったが作業員の1人から傷口に消毒液をかけられると、顔を顰めた。


「おぉ〜い、コンビニを出た瞬間に物凄い音がしたけど何かあったの? 2人とも大丈夫かい?」


 そこへコンビニのレジ袋を持った猫さんが、息を切らせてヨタヨタと走って来た。


 猫さんはその場の状況を見て改めて不思議そうに尋ねる。


「一体何があったんですか?」


「お恥ずかしい話なんですが私達の管理がなっていなかったようで、この2人に迷惑をかけてしまったらしいんですよ」


 猫さんは作業員達と花奈と恭介からそれぞれ事情を聞くと首を捻った。


「いや、それはおかしいですよ。 だって作業員の方達の話によれば足場板はそこに積んであるように平積みなんですよね?」


 猫さんが指をさした先には足場板と足場のパイプがそれぞれ数山平積みで置いてあった。


「ええそうです」


「ですが花奈ちゃんと恭介くんに倒れて来た物は、平積みになっている足場板とは垂直の向きで倒れています。 普通は管理不全で足場板が崩れて落ちたとすれば平行の向きに落ちるはずですよね? 1枚くらいなら向きが違っていても自然かもしれませんが、こう全て同じ垂直に倒れているとなると不自然です。 確認ですが、足場板を立て掛けて置いたりはしてませんよね?」


「え、ええそうですが、あなたは何なんですか?」


 眉を顰める作業員達に猫さんはスッと近寄り、花奈と恭介に見えないように何かを見せると咳払いをした。


「オホンッ、今日はこの2人に付き添って病院まで来ました」


 先ほどまで猫さんに胡乱な目を向けていた作業員達が納得して頷く姿を見て、花奈は猫さんに尋ねた。


「ねぇ猫さん? 私に隠している事は無い?」


 花奈は未だ猫さんを何処で見たか思い出せていない。 初めて(?)会ったあの日、帰って来た猫さんに思い切って聞いてみたがキッパリと初対面だと言われた。


 だが花奈には何処かで見たことがあるという確信があるため、猫さんの正体を突き止める事をまだ諦めていない。 疑いの眼差しを向ける花奈から猫さんはスッと目を逸らす。


「そんな、無い、無いよ。 そ、そんな事よりこの足場板ですよ! 作業員さん達も言ったように足場板がこんな倒れ方をするような置き方はしていないはずだけど、事実こう倒れている。 ……という事は誰かが通行人を狙って倒れるように置いたって言う事になります。 僕の知り合いに刑事さんがいるのでその人に見てもらいましょう」


 猫さんはスマホを取り出すと電話をかけた。


 電話の相手は鈴音すずね銀次ぎんじ巡査部長、猫さんの育ての母親の鈴音すずね美沙みさの旦那だ。


 猫さんの家庭は複雑で、産みの母は猫さんが幼い頃に他界しており、代わりに育ててくれたのが産みの母の妹美沙だった。 そのため銀次は猫さんの叔父さんにあたる。 その辺りの詳しい事情はまた別の機会に語るとしよう──。


 事情を聞くと丁度手が空いていたという銀次は、すぐに駆けつけて来てくれた。 若白髪の生えた角刈りの頭をポリポリと掻きながら猫さんに片手を上げる。 銀次は白のワイシャツにノーネクタイ、仕立ては良いがくたびれた上下のスーツを着ており、昭和のデカと言ったイメージだ。


 銀次は警察手帳を見せひと通り現場の状態を確認すると、猫さんを引っ張ってその場にいた人から少し引き離し改めて事情を聞いた。 猫さんは花奈と恭介と作業員達から聞いた話を説明しながら不思議そうに尋ねる。


「叔父さん、何で僕に聞くんです? 被害に遭ったのはあの2人だし、作業員の方達にも聞いた方が良いんじゃ無いですか?」


「もちろん後で聞くが、お前は物事を筋書き立てて説明する事が上手いだろ? なぁに予習みたいなもんだ!」


「そういえばあの2人のうち女性の方、花奈ちゃんは並木財閥の御息女ですからね、彼女が意図して狙われた可能性もあるかもしれません」


「ほぉ、それなら先ずは彼女から事情を聞いてみるか」







【次回、花奈がある一件の被害者だった事が明らかに!】

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