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12話 探偵、ハッとする

『花奈ちゃんの父親が俺の父さんだって!?』


 恭介は驚きのあまり声が出ない。


「お母さんには秘密にしておいてほしいって言われたけど、やっぱり恭介くんに黙ってるのは良く無いと思うから伝えるね。 私達は赤ちゃんだったときに入れ替えられたの。 だけど私にとってのお母さんは並木雅だから、それ以上の詳しい事は聞いてないんだ」


 混乱を隠せない恭介を前に花奈がそこまで話すと、猫さんは探偵事務所の扉を開け菊池京香を中に招き入れる。


 京香は恭介の父、涼矢が営んでいた病院に勤めていた看護師だ。


 京香の登場に恭介の混乱は最高潮に達した。


「恭介くんも知ってるだろうけど、彼女は雅さんと果奈さんが出産した病院に当時勤めていた看護師だ。 2人が生まれたときの状況につい詳しいから説明してもらおうと思ってお呼びしたんだ。 菊池さん、よろしくお願いします」


 猫さんに紹介され京香はその場で深々と頭を下げる。


「お2人とも、先ずは黙っていて申し訳ありませんでした」


 京香は息を大きく吸い込むと話を始めた。


「先ほど聞いて悟られたでしょうけど、恭介坊ちゃんの産みの母親は雅さんで、花奈ちゃんの産みの母親が果奈さんなんです。 雅さんは恭介坊ちゃんの本当の父親である雄太郎さんと心から愛し合っていました。 そして恭介坊ちゃんが雅さんのお腹に宿ったのですが、雄太郎さんは恭介坊ちゃんが生まれる前に事故で亡くなったのです。 その後恭介坊ちゃんが無事に生まれたのですが……並木家の社長だった雅さんは女の子を産む事を宿命付けられていました。 愛した雄太郎さん以外の男の人と子作りをしなくてはならない事に耐えられなかった雅さんは、偶然2日後に生まれた花奈ちゃんと恭介坊ちゃんを入れ替える事を考えたのです」


「……花奈ちゃんは知ってたの?」


 驚きが隠せない恭介は花奈を見る。 花奈は気まずそうに頷き苦笑した。


「うん……。 でも詳しくは知らないから教えてほしいです」


 京香は頷くと続きを語った。


「雅さんと果奈さんは病院の産婦人科で会って仲良くなったとお2人とも聞いていると思いますが、本当はそれ以前から仲が良かった様ですよ。 そのため雅さんは果奈さんに事情を説明し、頼み込んで子供を入れ替える事にしたのです。 雅さんと果奈さんが入院していた片瀬先生が営んでいた病院は、丁度その頃経営に行き詰っていました。 それを知った雅さんが匿名で多額の寄付をしたそうです。 そうそう花奈ちゃんの名前は産みの母の果奈さんの“奈”の字を貰ったそうですよ」


「あっ、それお母さんから聞きました。 それを知って自分の名前がとても大切なものになったんです」


 京香は嬉しそうに頷きながら話を続けた。


「それからは年に1回お互いの子供に会うという形で花奈ちゃんの大々的な誕生日パーティーが開かれました。 ですが恭介坊ちゃんが小学校5年生のとき果奈さんが亡くなられて……。 あの時の悲しむ片瀬先生はまるで生ける屍の様で痛々しかったです。 それからあっという間に病院を畳まれて、逃げるように恭介坊ちゃんを連れて離島へ引っ越されたのです」


「うん、あのとき恭介くんが急に引っ越す事になって寂しかったの覚えてるよ」


「俺もあの頃の事はあまり覚えて無いな……」


 そう言う2人を見て猫さんは顎に手を当てた。


「うーんこれは僕の想像でしか無いんだけど、きっと涼矢さんは果奈さんが亡くなって、雅さんに恭介くんが取られるような気がしたんじゃないかな? そりゃ初めは赤ん坊の入れ替えに戸惑っただろうけど、10年も一緒に居たんだ、愛しい我が子になってたんだよ。 だけど自分は病院に多額の寄付をして貰って立場が不利だ。 もう逃げるしか無いと思ったんじゃないか? いくら匿名って言っても時期と状況を考えれば誰からの寄付か想像しちゃうもんね? 僕も入れ替えについて恭介くんを探す依頼を受けた時に花奈ちゃんから聞かされたんだ。 本当はいけない事なんだろうけど、話を聞いたうえで両家族の意志を尊重して公にしない事に決めたから。 あとは恭介くん次第だ」


 その場の全員に見つめられ恭介はガクガクと頷きながら、頭の中で言いたい事を整理する。


「今でも俺の両親は片瀬涼矢と片瀬果奈です。 だけど雅さんが俺の事を想っていてくれたのも理解しました。 花奈ちゃはこの事を俺とあの日大学で会う前から知ってたんだ?」


 恭介にじっと見つめられ花奈は頭を下げた。


「隠していてごめんなさい!」


 そう言われて恭介はクスッと笑う。


「いや気にして無いよ。 だって大学で会った時と車に押し込まれた後だと全然雰囲気が違ってさ、今思えば俺を雅さんに合わせる為に必死だったんだろ? 雅さんと会ってその後本当に色々とあって、昔の花奈ちゃんと中身が変わって無くて安心した。 ……だけど雅さんともっと話しておけば良かった。 それが心残りだ」


「それなら大丈夫、私がたっぷりお母さんの事聞かせてあげるから。 代わりに恭介くんのご両親の事も聞かせてね!」


 恭介は口下手な自分にそんな事が上手く出来るか不安だったが迷わず頷いた。



            ♢♦︎♢



 後日、猫さんの探偵事務所へ花奈が尋ねて来た。


 猫さんは目の前のローテーブルに置かれた多額の成功報酬とドリップコーヒー、お茶菓子を見て目を輝かせる。 だがハッと我に返った。


『いけない、いけない、金品に釣られても碌な事が無いんだった! もう猫探し以外の依頼は受けないぞ! やっぱり僕は猫を追いかけているのが性に合うしなぁ』


 そう思いながらも花奈に差し出されたカステラを幸せそうに頬張る猫さんだった。




 【完】

最後まで読んでいただきありがとうございました!


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