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11話 探偵、寝癖が揺れる

 1週間後、猫探偵事務所で──。


「やっぱり猫さんはいつもの探偵スタイルのほうが見慣れてるせいか落ち着くね」


 花奈にそう言われ激しく頷いた猫さんの寝癖がふわふわと揺れる。


「でしょー? 僕もこの方が落ち着くもん。 いやー、飾らないって良いよね。 コンタクトは何回やっても目に異物を入れてるみたいで慣れないし、良いスーツを着ちゃうと皺にならないように絶えず気を使っていなきゃいけないだろ? もう面倒くさくってさ」


『褒められている訳じゃないのに、何でこの人は嬉しそうに語るんだ?』


 恭介は内心ツッコミを入れる。 例の如く今日も花奈と一緒に猫さんの探偵事務所に呼ばれていた。


 半年前の禄ノ島で起きた事件の真相が明らかになったらしい。


 花奈が今日ここにいるのはストーカーの大吾が関わった事件だからだろうし、今まで自分が花奈に多々呼び出されてきたのも納得はしていた。 だが1週間前の遺言開封の日だけは親族では無い自分が何故呼び出されたのかだけは疑問だった。


 初めはボディーガード要員かとも思ったが、考えてみれば大財閥の並木家にボディーガードがいない訳がない。 それにあの場には現役刑事の銀次がいたのだ。 ただの男子大学生の自分が何故あの場に呼ばれたのかが不思議でならない。


 恭介がそんな事を考えていると、探偵事務所の扉が開いた。


「悪い、悪い、遅くなった。 ちょっとばっかり会議が長引いたもんでな」


 銀次がソファにドカッと座ると猫さんは話し始めた。


「さて、今日2人に来てもらったのは伝えていた通り、片瀬涼矢さんの死の真相が明らかになったからなんだけど……。 僕が呼んでおいてなんだけど2人には酷な話になると思う、それでも聞くかい?」


 猫さんは1週間前の失敗を繰り返さないよう予め確認する。 コクリと頷いた2人を見て銀次は話を始めた。


「これから話す内容はまだ記者発表していないから内密に頼む。 事の発端は恭介と釣りに出かけた涼矢氏が財布を落としたところから始まる。 涼矢氏が財布を落とす瞬間を偶然目撃して拾ったのが並木大吾だった。 奴は大学のサークルで禄ノ島を訪れたそうでな、財布を拾ったのはいいが面倒くさがり再びその場に置いて立ち去ろうとしたらしい。 だがそれに気付いた同じサークル仲間だった川田蓮司が落とし主の涼矢氏の姿がまだ見える今のうちに追って返すべきだと言い出したんだ」


『そうだ……あの後ポイントに着いたとき父さんが財布が無い事に気づいたんだ』


 恭介はあの日の事を思い出していた。


「……ですが大吾さんも蓮司さん?も俺達がいた所には来てません」


「ああそうだ、お前ら父子の様子を隠れて伺っていたらしい。 大吾は蓮司に付いて涼矢氏を追った。 それまで後ろ姿しか見ていなかったから財布の落とし主が涼矢氏だとは思わなかったらしいが、そこで涼矢氏の顔を見た。 すぐに思い出したらしいぞ、花奈の誕生日パーティーに呼ばれた恭介に付き添って来ていた人だと。 その事で大吾は咄嗟に隠れて様子を伺ったそうだ。 話を聞いているうちに涼矢氏と一緒にいるお前が恭介で、春から再び花奈が住むこの街に帰って来ると知った。 大吾にとっては恭介は邪魔でしかなかったから殺す事にしたらしい。 全く最近の若い奴は考えが飛躍しすぎで、何を考えているのか到底理解できんよ」


 銀次はため息を吐き頭をガシガシと掻く。


「恭介を殺すタイミングを見計らっていた大吾に蓮司は異様な雰囲気を感じたのか揉めたそうでな、その際揉み合って崖から突き落としたらしい。 その日は午後から雷雨になったそうだな?」


 恭介は頷く。


「海の方から雷鳴が聞こえて大吾がそちらに気を取られていた間に涼矢氏が1人になった。 それを絶好のチャンスだと捉えた大吾が涼矢氏の顔を水に押し付け殺害したらしい。 その頃には周辺が白く霞むほどの雨が降っていたから、人違いだと気づいたのは涼矢氏が亡くなった後だったそうだ」


 それを聞いた花奈は眉を顰め尋ねた。


「それでも近づけば違う人だって分かりそうですけど」


 花奈は大吾の証言を疑っているような表情をしているが、恭介には心当たりがある。 だがそれを銀次に確認する事はとても勇気のいる事だった。


「も、もしかしてベストの色で判断したとか……?」


 やっとの思いで言葉を絞り出した恭介に、銀次と猫さんは気まずそうに頷く。


 恭介は自分が着ていたお気に入りのベストを父に貸したのだ。 それは紛れもなく恭介が父の事を思ってした行為だった。


 雨が本降りになる前に釣りをやめ、道具を片付けに恭介はその場を離れた。 そのとき冬の海は冷えるからと風邪気味だった父に自分が着ていた蛍光オレンジのベストを羽織らせたのだ。


 それが結果的に父を死に至らしめたとは……。


「それと当初財布に指紋が付いていた事で大吾は聴取された。 そのときは蓮司が拾ったそれをサークル仲間に落としていないか片っ端から聞いて回った際に手に取ったんだろうと虚偽の証言をしたらしい。 それとSNSでデマを始めに投稿したのも大吾だ」


 一連の事件の犯人が大吾だとあたりをつけてから銀次は禄ノ島で、猫さんは大吾の周辺を調査した。


 初めに猫さんが大吾に違和感を感じたのは、雅の見舞いに花奈と恭介を送って行った日だ。


 雅の病室から出てきた大吾は、憎々しげな表情で親指を噛んでいた。 短く切られほぼ無いと言っても過言では無い親指の爪をだ。


 その様子に違和感を感じ、後日病院に勤める看護師に大吾について聞いてみた。 予想通り凄ぶる評判は良かったが、何人かの看護師から同じような少し引っかかる話を耳にしたのだ。


 失敗しても『また次頑張りましょう!』と微笑みながら励ましてもらったらしい。


 普通はそうだろう。 だが医療の現場で『また今度』は無いかもしれない。 そのため人命を軽視する人物、自分の行動に責任を持たない人物、もしくは他人に全く興味を示さない人物だと想像できた。


 そして花奈から聞いた大畑祐介の遺体を発見し、身元を調査して疑いは確信に変わった。


 下唇を噛み涙を溢す恭介を心配そうに見つめる花奈に猫さんは尋ねる。


「叔父さんが話したのが事件の真相なんだけど花奈ちゃん、なんでこの話を聞かされているか君なら分かるね?」


 花奈は頷いた。


「……はい。 私の本当のお父さんは涼矢さんだからです」







【次回、花奈と恭介の秘密が明らかに!】

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