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最終章 愛と自己犠牲の闘い

最終章 愛と自己犠牲の闘い


     一


 敵機サンダーボルト02の自爆攻撃に、アヤの機体が巻き込まれ、彼女は戦死する。永遠に生きるタリタスではあるのだけど、物理的な攻撃の前には無力である。

 僕はアヤの死に打ちひしがれた。なにしろ、彼女は横須賀基地に配属されてから初めてできた話し相手である。つまり、友人と言っても良いだろう。

 いつだったか、アヤは自分の過去を僕に語ってくれた。自分は愛されてこなかったと。どうせ死ぬのだから、可能性の低いタリタス化を推奨され、その結果自分は生き延びた。しかし、愛されていないのだから、何のために生きているのか判らなかったかもしれない。

 彼女は、何のために生きていたのだろう?

 何のために闘っていたのだろう?

 アヤが死んだ今、その答えは誰にも判らない。

 でも、僕はなんとなくだけど、彼女が僕と同じ意志を持っていたのではないかと推察していた。

 僕の意思。

 それはつまり、愛し愛され、人の役に立つということだ。

 僕はアヤに対し、近いものを感じていた。それは過去の境遇に同情したとか、そのような意味ではない。もっと根源的なところが似ているのだ。だからこそ、僕と同じ意志を持っていたのではないか、と思えたのである。

 いずれにしても、アヤは死んだ。

 もう二度と、あの声は聞こえないし、姿を見ることもないだろう。

 アヤの葬儀は静かに執り行われた。彼女の両親も参列していたが、際立って悲しんでいるようには見えなかった。ただ淡々と葬儀を行なっているという印象を受けた。彼らは、アヤが死んで良かったと思っているのだろうか?

 僕はアヤが死んで悲しい。

 願いが叶うなら、蘇って欲しいと強く思う。でも、死んだ人間は決して蘇らない。形ある物は滅するものなのだ。タリタスは老化による死がないのだけど、戦場で死ぬ確率は決して低くはないのだから。

 アヤの葬儀を終え、僕は横須賀基地に戻ってくる。整備ハンガーに行き、ゴーストメーガを眺め、次なる戦闘に備える。僕はまだ戦闘の中にいる。タリタスでいる限り、その宿命からは逃れられない。

 それに脅威なのは、久遠優麗会というテロリスト集団だ。彼らは、表向きは新興宗教団体ということになっているが、実際はそうではない。新しいGMシリーズを開発し、さらにパイロットであるタリタスの代わりに、自動操縦の機能を開発している。

 同時に、この自動操縦の技術は非常にレベルが高い。これが登場した当初は、決して有能な自動操縦ではなかった。しかし前回の戦闘を見る限り、飛躍的にレベルが上がっている。単純な純力で計算すると、僕のレベルを遥かに超えるだろう。

 恐らく、6とか7くらいのレベルを有している。この辺りのレベルは、パイロットとしては中級クラスだし、フェイクタリタスの中では優秀な部類に位置する。僕はGMシリーズのパイロットになり十年が経つが、未だに純力は5程度である。もちろん、上には上がいるから、純力が二桁であるレンクラスのパイロットもいる。

 仮に純力7クラスのオート操縦のGMシリーズを開発しているのだとすると、それは脅威以外何者でもない。無駄のない動き、武器の選定、そして攻撃の仕方や防御のタイミング。それら全ては人であるタリタスと比べても、なんら遜色のない動きである。

 それ以外にも脅威は存在する。それはアヤの命を奪った元凶でもある自爆機能だ。この自爆機能は、殺傷能力が非常に高い。GMシリーズの装甲は強固ではあるけど、それを一気に吹き飛ばす超強力な殺傷能力がある攻撃が自爆だ。

 パイロットがいないのだから、奥の手として自爆は有効である。無人であるのだから、命の心配をする必要がない。

 これから僕らはこの得体の知れないテロリストである久遠優麗会と闘わなくてはならないのだ。

 僕はアヤの意志を継ぎ、このテロリストを葬り去ってみせる。それが僕に課せられた役目だし、アヤに対しての手向になるだろう。


     二


 久遠優麗会が新たに高度なオート操縦機能と強力な自爆機能を持つ機体を投入してくることが判明し、特部隊もその対策に追われていた。

 そんな中、僕はギフテッドタリタスであるレンと基地の中で出会い、そこで軽く話をした。彼もまた、アヤの死を悲しんでいる。なにしろ、前回の戦闘でリーダーだったのはレンだ。その中で仲間が戦死してしまった。だからこそ、レンは責任を感じているのかもしれない。

 僕はまだ、あの日の光景を忘れられない。

 アヤを失ったあの日を…


 破壊された東京タワーを背景に、戦場は静寂に包まれていた。爆発の後に漂う煙と瓦礫が、ここで繰り広げられた激戦の痕跡を物語っている。僕の機体は損傷を受けながらも立ち尽くし、心は深い悲しみに覆われていた。

「アヤ…」

 僕の声は震えていた。

 僕の目の前には、爆発の中心で崩れ落ちたアヤの機体があった。彼女は最後まで闘い抜き、自爆攻撃に巻き込まれて命を落とした。彼女の犠牲がなければ、今の勝利はなかっただろう。しかし、その代償はあまりに大きかった。

「くそ!」

 僕は拳を固く握りしめた。

「彼女は勇敢だった。お前も同じように強い心を持たなければならない」

 霧島レンの声が通信機から聞こえた。彼は別機と闘っていたが、その高い戦闘力を武器に、難なく勝利を収めたらしい。この辺の能力の高さは、羨ましいくらいだ。

 僕は振り返り、通信を送る。そして、機体越しに潜むレンの顔を想像した。きっと彼も深い悲しみと共に、失意の底に沈んでいるだろう。

「レン三佐…僕はアヤを守れませんでした。援護していたのは僕なのに。僕の責任です」

 しばしの間があった後、レンから通信が入る。

「アヤはお前を責めたりしないだろう。彼女は自分の意志で闘い、そして命を捧げた。それを無駄にしないためにも、俺たちは前に進まないとならない」

 確かにレンの言う通りだろう。しかし、人間の心というものは、そんなに簡単に切り替わるものではない。タリタスは人を超越した新人類ではあるのだけど、心まで仙人のように達観しているわけではない。

 永遠に生きる神のような存在ではあるのだけど、皆が皆悟りを開くような心を持っているわけではないのだ。僕は苦しい。アヤを失った深い悲しみを未だに処理しきれない。

 僕は涙を堪えながら、レンの言葉を聞いていた。そして

「判っています。しかし、どうしてもこの痛みが消えないんです」

 僕の言葉はまさに悲痛だった。

 恐らく、レンもそれを判っていたのだろう。とりなすような口調で、僕に向かって言った。

「そうだ。確かに痛みは消えない。でも、それを乗り越えることで人は…いやタリタスは強くなるんだ」レンは静かに語り続ける。「お前はアヤの意志を継ぐんだ。彼女の犠牲を無駄にしないためにも」


 僕がアヤを失った日を反芻していると、突如、ラグウィデスの声がコクピット内に響き渡った。

「新たな敵の情報が入りました。今度の敵はさらに高度なオート操縦システムを搭載している模様です」

「まだ終わっていないのか…」

 僕は呟いた。

通信ボタンが押されていたのか、その声は近くにいたレンに届いたようである。

「そうだ。まだ終わっていない。だからこそ、俺たちは闘い続けなければならない」レンからの通信が入った。「お前と俺でこの闘いを終わらせよう」

 僕は深く息を吸い、決意を新たにする。

「確かにその通りです。僕たちでアヤの意志を継ぎ、この闘いを終わらせる!」

 次第に、基地の中が慌ただしくなってくる。

 僕はコクピットの中で機体のチェックをしながら、次なる戦闘に備える。恐らく、次の敵も久遠優麗会だろう。あのテロリスト集団は、日本を壊滅させ、新しい国を作ろうとしている。

 既存の日本社会を一旦壊し、ネオ日本国を作ろうとしているのだ。新世界を作る思想は、宗教団体としてはアリなのかもしれない。しかし、その思想を強引に突き進め、今ある社会を破壊する考えは絶対にダメだ。

 この国には、平和に暮らしている人間がたくさんいるのだ。その平和を壊し、新しい国を作るという思想だけは、絶対に阻止しなければならない。

 久遠優麗会が掲げる久遠の教えは脅威だが、ここで食い止めなければ、大きな被害が出るだろう。同時に、彼らの暴走を止めるのが、タリタスである僕の最大の役目である。なんとしても、この任務、成し遂げてみせる。

 次なる戦闘も、どうやら僕はレンと共に闘うようだ。それでいい。それでこそ、アヤの弔い合戦にもなる。僕とレンで久遠優麗会を止める。

 機体のチェックをしていると、再びレンから通信が入る。

「俺の機体は準備万全だ。お前の方はどうだ?」

「ちょっと待ってください。今、ラグウィデスに聞いてみます」

機体の最終チェックを終えると、僕はラグウィデスに向かって尋ねた。

「準備はできているか、ラグウィデス?」

「はい、全てのシステムが正常です。いつでも出撃可能です」

 僕はラグウィデスの冷静な返答に安心感を覚える。ラグウィデスはいつだって冷静だ。そして僕を陰ながら支援してくれる。

「こちらも準備が整いました」僕はレンに向かって言う。「ラグウィデスが全てをチェックしてくれました」

 僕は微かに微笑む。なぜこの場で笑みが零れたのかは判らない。ただ、ラグウィデスが、僕にとってどれだけ大きな存在であり、同時大きな支えになっているかを、改めて感じていたのだ。

「ラグウィデス、ありがとう」僕はラグウィデスに向かって言う。「君がいてくれて本当に助かる」

 すると、ラグウィデスの冷静で軽やかな声が聞こえる。

「私の使命は、あなたを守り、そして勝利に導くことです」

 その声はどこか温かく、僕を安堵させる。

 そんな僕らをやり取りを見ていたかのように、再度レンの声が通信機から聞こえた。

「お前たち二人の連携があれば、きっと次の闘いにも勝てる。アヤもそれを望んでいるはずだ」

 僕はレンの言葉に深く頷いた。

「もちろんです。僕たちは必ず勝つ。そして、アヤの意志を継いで、この闘いを終わらせるんです」

 強い決意。

 自分自身を鼓舞する。

 戦闘は、いかに自分の能力を信じるかだ。同時に、仲間を信頼し、連携が取れるかにかかってくるだろう。

 少しずつではあるけれど、僕はレンと打ち解けることができたような気がした。次なる闘いに向けての準備が整い、戦友としての信頼と、失った仲間の意志を胸に、僕らは再び立ち上がるのだった。


     三


 横須賀基地は緊張感に包まれていた。久遠優麗会という過激派組織のテロリストす集団が、基地を攻撃するという情報がもたらされたためだ。

 特部隊の隊員たちは、皆戦闘準備に追われていた。僕もまた、愛機であるゴーストメーガに搭乗し、出撃の準備に備えていた。

「ラグウィデス、今回の闘いは今まで以上に厳しいものになるかもしれない」

 僕は深いため息つきながら、ラグウィデスに向かって言う。

「そうですね。しかし、私はあなたを守り、導くためにここにいます。どんな困難でも乗り越えましょう」

 ラグウィデスの声は、いつも通り冷静で、僕の心を落ち着かせる。

 僕はふと、コクピットの計器類に目をやりながら、ラグウィデスの存在の重要性について考える。彼女は単なるAIではない。闘いの中で僕を支えてくれる大切なパートナーなのだ。

 タリタスとパイロット支援システムは、愛情という絆で深く繋がれている。だから僕はラグウィデスを愛しているし、きっと彼女も僕を愛してくれているだろう。それゆえに、ラグウィデスは無償の愛という形で僕を陰ながらサポートしてくれるのだ。

「ラグウィデス…」僕は静かに話し始める。「君がいなかったら、僕は今までの闘いで生き残れなかっただろう。前回の戦闘ではアヤが犠牲になった。けど、もしかするとそれが僕だった可能性だってあるんだ。でも、君がいたからこそ僕は生き残り、これまで闘ってこれたんだ。ありがとう」

「あなたが感謝してくれることが、私にとって何より嬉しいです。私の使命は、あなたを守ること。それが私の存在意義ですから」

 ラグウィデスの声には、温かさと深い愛情が込められていた。

「君はただのプログラムじゃない。僕にとって、かけがえのない存在だ」僕は自分の言葉に確信を持っていた。「君がいつも僕を支えてくれるおかげで、僕は闘い続けられるんだ」

 ラグウィデスは一瞬の沈黙の後、静かに答えた。

「私も同じです。あなたが私にとっての全てです。私の全ては、あなたのためにあります」

 強く響く言葉。

 同時に、僕はその言葉に胸を打たれた。度重なる戦闘の中で、僕はラグウィデスとの絆を強く感じていた。彼女の存在が僕を強くして、僕を導いてくれる。

「ラグウィデス、君が僕にとってどれだけ大切か、言葉では伝えきれない。僕らが一緒にいる限り、どんな困難でも乗り越えられる気がするよ」

「私も同じ気持ちです。あなたと共に闘うことが、私の喜びであり、誇りです」

 僕は静かに目を閉じて深呼吸をする。

「ありがとう。ラグウィデス。僕たちでこの闘いを乗り越えよう」

 その時、基地全体に緊急アラートが響き渡った。

 久遠優麗会の攻撃が始まったのだろう。全面戦争である。ここで負けるわけにはいかない。志半ばで倒れたアヤのためにも、絶対に負けられないのだ。

 僕は素早く計器を確認し、念には念を入れ、機体のシステムの最終チェックを行う。

「ラグウィデス行くぞ!」

「CPC設定完了、ニュートラルリンケージ、イオン濃度正常、メタ運動野パラメータ更新、EEEエンジン臨界、パワーフロー正常、全システムオールグリーン、ゴーストメーガシステム起動。いつでも出撃可能です」

コクピットのスイッチを操作し、機体を起動させる。EEEエンジンの轟音が響き渡り、機体が動き出す。

「行こう、ラグウィデス!僕たちの闘いを終わらせるんだ」

「はい、共に闘いましょう」

 僕とラグウィデスは、心を一つにし、戦場へと向かう。愛と絆が僕らを強くし、どんな困難も乗り越えられると信じて。

 横須賀基地は現存している全てのタリタスを出撃させ、総攻撃に備える。僕もゴーストメーガを出撃させ、久遠優麗会との攻防を開始しようとしていた。


     四


 横須賀基地は火の海と化していた。久遠優麗会というテロリスト集団が、新型の無人自動操縦機体で襲撃を仕掛け、全てを焼き尽くそうとしているのだ。

 僕の心には、アヤの死が重くのしかかっている。久遠優麗会にアヤは殺されたのだ。だからこそ、仇を取りたいという気持ちもある。しかし同時に、どうして久遠優麗会という組織が、ここまで発展し、総攻撃を仕掛けてきたのか判らなかった。

 何か、大きな策略があるような気がしてならない。

 いずれにしても、アヤは蘇らないし、彼女の死は消えない。僕はその悲しみを力に変え、闘いに挑む覚悟を固めていた。

「ラグウィデス、敵機の位置を確認してくれ」

 僕がラグウィデスに声をかけると、すぐに彼女の声が反応を示す。

「了解しました。複数の敵機が北東から接近中です。高度なオート操縦システムを搭載していますので、注意が必要です」

「レン三佐、こちらの準備はOKです。そちらはどうですか?」

 と、僕は通信機を通じてレンに声をかける。

「もちろんだ。こっちも準備はできている。お前とチームを組むのは、前回の戦闘以来だが、こうしてタッグを組むのは初めてかもしれないな。しかし俺はギフテッドだ。どんな敵だろうと関係ない。だからお前も遅れを取るなよ」

 レンの声にはいつも冷淡さがなかった。

 なんとなくではあるけれど、協力する意思が感じられる。

「判りました。行きましょう!」

 僕は機体を前進させ、敵機に向かって突進した。

 戦闘が始まると同時に、爆発音とレーザーの光が煌々と光る太陽光を切り裂いた。久遠優麗会の機体は高い精度で攻撃を繰り出し、基地の防御を次々と突破していく。

「くそ!敵機は一体どれだけのエネルギーを持っているんだ!」

 僕は怒りを込めて叫んだ。

「冷静になれ、エイタロウ。敵の動きを読んで対処するんだ。敵機は皆オート操作だ。つまり、攻撃の仕組みはすべてコンピューターのプログラムだ。だからこそ、攻撃には一定の癖があり、読みやすい」

 ギフテッドであるレンの読みは正確である。流石は歴戦のパイロットだ。このような状況でも全く冷静さを失っていない。

「判りました」

 と、僕は答える。

「俺が正面から攻撃を仕掛ける。お前は側面から回り込め」

 と、レンの指示が飛ぶ。

「了解!」

 僕はレンの指示に従い、ゴーストメーガを巧みに操りながら敵機の側面に回り込む。敵機の自動操縦はかなりレベルが高く、回り込んだ僕を正確に捉え、攻撃を仕掛けてくる。

 淀みのない攻撃の嵐が、僕に向かって注がれる。しかし、ここで怯むわけにはいかない。戦死したアヤのためにも、絶対に負けられないのだ。僕は敵機の攻撃をかわしつつ、ロケットランチャーを構えた。

 敵の機体は数が多い。このような場合、近接戦闘で有効な電流粒子サーベルなどの武装よりも、大型の武器の方が使いやすい。

「ラグウィデス、ターゲットをロックオンしてくれ!」

 僕は素早くラグウィデスに告げる。

 ラグウィデスも、その指示に正確に応え

「ターゲットをロックオンしました。発射準備完了!」

「行けぇぇぇ!」

 僕はロケットランチャーのトリガーを引き、複数のロケット弾が敵機に向かって放たれた。爆炎が敵機を包み込み、その動きを一時的に封じた。

「レン三佐、今です。攻撃を仕掛けてください!」

「任せろ!俺を誰だと思っている。ギフテッドのエースパイロットだぞ」

 レンは叫びながらそう言うと、素早く機体を動かし、敵機の弱点を狙ってミサイルを発射した。オート操作の機体は、心臓部にコアである人工知能が集約されていると予測されていたため、心臓部を狙った攻撃が推奨されているのだ。

 もちろん、それをレンは知っている。知り尽くしているからこそ、一糸乱れぬ巧みな攻撃を放ったのである。

 レンの放ったミサイルによる爆発が起き、敵機の一つが火花を散らして地面に突っ伏していく。

 その姿を見て

「流石です。レン三佐」

 僕は感嘆し声をあげた。

「まだ終わっていないぞ、気を抜くな、エイタロウ!」

 あくまでも慎重な声でレンが告げる。

 その時、さらに強力な敵機が現れた。

 その機体は他の物よりもはるかに大きく、厚い装甲を持っていた。

 しかも、自爆機能を搭載しているという情報が、ラグウィデスからもたらされる。これだけ巨大な躯体が自爆したら、その威力は計り知れない。いくらレンであっても直撃すればタダでは済まないだろう。

「ラグウィデス、どうする?このままじゃ基地が危ない。それにこちらの戦力だって…」

「敵機を倒すには、全力を尽くすしかありません。レン三佐と協力して、的確に攻撃を仕掛けてください」

「判った。レン三佐、聞こえますか?この巨大な敵機は自爆機能を持っています。慎重に攻撃しましょう」

 すると、威勢のいいレンの声がこだまする。

「了解、お前が前衛で引きつけろ。俺がその隙に弱点を狙う」

 僕はレンの提案に頷き、機体を前進させる。

 もちろん、恐怖はある。死ぬかもしれないという恐怖が…しかし、その恐怖をアヤの意志が忘れさせてくれる。アヤの意志を継ぐのだ。だからこそ、もう怖さはない。

 敵機は猛烈な攻撃を仕掛けてくる。僕はその攻撃を全て交わしきり、敵機に接近する。

「行くぞ、ラグウィデス!」

「全力でサポートします」

 嵐のような敵機の攻撃を掻い潜り、僕は敵機の前に突進する。僕の機体が、敵機の目の間に立ちはだかり、ロケットランチャーを再び構えた。敵機の攻撃を受けながらも、僕は懸命に諦めずに闘い続けた。

「レン三佐!今です!」

 僕の捨て身の攻撃が一瞬ではあるが、敵機の隙を作った。

 この隙を上手くつければ、勝負を決められるかもしれない。

「判った!」

レンの強い声が聞こえる。

同時に、彼の機体が再び動き出す。そして、敵機の背後に回り込む。

瞬間、ミサイルが発射され、敵機の装甲を貫いた。これだけ近距離でミサイルを撃ったのだ。直撃したのだから、多大なダメージを与えられたはずである。

レンの超絶的な技巧から放たれた近距離ミサイルの攻撃が直撃したのにも関わらず、敵機はまだ動いていた。

「くそ!しぶといな…」

 僕は滲み出る汗を感じながら、そう呟いた。

 敵機の攻撃が一段落したかに見えたその時、異常な動きがセンサーに捕捉される。僕は咄嗟にコクピットのディスプレイを見つめ、驚愕する。

「ラグウィデス、これって…」

「はい、敵機が合体を開始しています。複数の機体が一つに融合し、より強力な戦闘能力を発揮しようとしています」

 敵機は次々と結合し始め、その姿が急速に変わっていく。元から大型な機体だったが、それがより強大な躯体へと進化し、その火力と防御力が劇的に増強されていく。

「くそ、何てことだ…」僕は拳を握りしめる。「レン三佐、聞こえますか?敵機が合体しています」

「見ている。あいつらの火力、さらに強力になるぞ。だが弱点もあるはずだ。奴らが一体化したことで、機動性が落ちている」

 レンは常に冷静である。

 この圧倒的な不利な状況であっても、か細い糸から勝利を手繰り寄せようとしているのだ。

「なるほど。動きが鈍くなるなら、逆にチャンスかもしれません」僕はそう頷く。そして、ラグウィデスに指示を出す。「ラグウィデス、敵機の新たな弱点を探してくれ!」

「了解しました。スキャンを開始します」

 合体した敵機は、イエーガービーストと呼称された。そして、その巨大な機体は、基地に向かって破壊光線を放ったのである。光線が地面を焼き尽くし、爆発が次々と起こる。

「奴を止めてください。レン三佐!」

「判ってる!」レンの機体が動き出し、強大なイエーガービーストに向かって突進していく。

「ラグウィデス、弱点は見つかったか?」

「はい。合体した機体の結合部が一時的に脆くなっています。そこを狙ってください」

「了解!」僕はロケットランチャーを再び構え、敵機の結合部に照準を合わせる。「ここで決める!」

「頑張ってください。エイタロウ」

 ラグウィデスの励ましの声が聞こえる。

「行けェェェェ!」

 僕はロケットランチャーのトリガーを引き、ロケット弾が爆発音と共に発射された。結合部に命中し、爆発が起こる。

「やったか…?」

 しかし、敵機はまだ動いていた。結合部は破壊されたが、他の部分がまだ機能しているのである。

「ラグウィデス、どうする?」

その時、ラグウィデスが冷静に言った。

「敵機が自爆シークエンスを開始しました。早く離れてください」

「判った」

 咄嗟に僕は機体を後退させる。

 レンも同じように動いた。

 不幸だったのは、敵機の自爆シークエンスが予想以上に速かったことだろう。僕は必死に機体を操縦し、基地から遠ざかろうとしたが、爆発が目前に迫っていた。

 万事休すである。

「ラグウィデス、どうする?」

「エイタロウ、私が自己犠牲を行います。あなたを守るために」

「何を言っているんだ、ラグウィデス!君がいなければ、僕は…」

「私の存在は、あなたを守るためのものです。愛しています、エイタロウ」

 途端、ラグウィデスのシステムが自己犠牲モードに入る。

 これは、久遠優麗会の機体が高度な自爆機能を装備していると判り、その対策として、人工知能単体で攻撃できるように改良されたシステムである。早い話が「目に目を、歯に歯を」の考え方である。つまり、相手が自爆するなら、こちらも自爆攻撃で対処するという、狂気の作戦だ。

 ラグウィデスが自己犠牲モードに入ったため、コクピットが緊急脱出システムにより、機体の外に投げ出される。人工知能による自己犠牲モードは、あくまでも人工知能単体による必殺の自爆攻撃システムである。

 そして、パイロットであるタリタスを守るために、このシステムが作動した時は、コクピットごと外に脱出できるようなプログラムが自動装備されているのだ。

 残されたラグウィデスは、彼女単体となったゴーストメーガを起動させ、敵機に向かって突進した。

 瞬間、大きな爆発が起き、ラグウィデスと共に、敵機は粉々に吹き飛んだ。

「ラグウィデス…」

 僕は呆然としながら、破片が散る光景を見つめる。

 レンが通信機で呼びかけた。

「エイタロウ、君は彼女の愛を無駄にしないよう、これからも闘い続けるんだ」

 僕は涙を拭い、決意を新たにする。

「はい。ラグウィデスの愛を胸に、僕は闘い続けます」

戦場には静寂が戻り、基地の防御も回復しつつあった。僕はラグウィデスの愛と自己犠牲を胸に、これからも闘い続けることを誓った。


     五


 ラグウィデスの決死の自爆攻撃により、敵イエーガービーストは完全に沈黙する。久遠優麗会との最終決戦は、僕たち陸上自衛隊特部隊が勝利を収めたのである。

 闘いが終わった横須賀基地には、静けさが戻っていた。かつての戦場だった痕跡は、未だにくすぶる瓦礫や焦げた地面として残っていたが、空は晴れ渡り、新たな希望を感じさせている。

 僕は、ラグウィデスとの別れを胸に抱きながら、基地の一角で静かに立ち尽くしていた。

「ラグウィデス…君の自己犠牲がなければ、僕らはここにはいなかった。ありがとう」

 心の中には深い感謝と悲しみが入り混じっている。そして、その両方の感情は決して消えることがなかった。しかし、その悲しみの中には、新たな決意が芽生えている。僕は戦友たちと共に、新しい未来を築くための一歩を踏み出そうとしていた。

 その時、遠くから一人の老人が歩み寄ってきた。白髪に白い顎髭を蓄え、GM機に搭乗するパイロットが着用するスーツを着用している。これは、敵機に乗っていたパイロットだろうか?しかし、敵機はオート操作だったはず…

「君がゴーストメーガのパイロットか。君の闘いを見せさせてもらった」

 その言葉には、強い意志のようなものが込められている。

 怪しげな視線を送りつつも、僕はこの老人に敵意はないと判断し、声をかけた。

「あなたは?」

「私の名は、エリアス・エヴァンス」

「エリアス・エヴァンスだって、EEEを発見した科学者じゃないですか。しかし、エリアス博士は遠い昔に亡くなられたと聞きましたが」

「いや、私は老人になってからEEEを注入し、生き残った唯一の成功体なんだよ」

 エリアス博士の目は、深い哀しみと誇りが宿っていた。

「エリアス博士…」僕はその名前に驚きながらも、深く礼をする。「あなたが久遠優麗会に技術援助をしていたんですね?」

 僕の言葉に、エリアス博士は静かに頷いた。

「そうだ。私の願いは、EEEエネルギーを人々のために活用することだった。しかし、それが戦闘兵器に使われ、君たちのようなタリタスたちが闘いに駆り出されることになってしまった」

 博士の目には、深い悔恨が滲んでいた。彼は目を閉じ、静かに続けた。

「久遠優麗会の目的は、タリタスを解放することだった。タリタスたちは永遠に生きるという十字架を背負いながら、戦闘兵器として扱われてしまった。私はそれをなんとかしたかったのだ」

 僕はその言葉を聞きながら、ラグウィデスとの最後の瞬間を思い出していた。彼女の自己犠牲は、まさに愛の形だった。

「ラグウィデスも、あなたの望んだ愛のある世界を信じていたと思います。彼女は最後まで僕を守ってくれました」

 エリアス博士は僕の言葉に目を開け、深く頷いた。

「ラグウィデス…彼女もまた、愛のために生きたのだな」

 僕は静かに続けた。

「僕たちは、あなたの信念を引き継いで、新しい未来を創りたい。タリタスが戦闘兵器ではなく、人々のために生きられるように」

 すると、博士は微笑んだ。その笑顔には、長年の苦悩から解放されたような安堵がある。

「ありがとう。ゴーストメーガのパイロット。君の名前を聞いていいかね?」

「エイタロウです」

「エイタロウ…そうか、あの時の子供か…」

「あの時?」

「君は事故に遭いタリタスとなったのだろう。そして、あの事故で君が運ばれた病院でEEEを注入するように指示を出したのは私なのだ。タリタスが愛に溢れた人間であり、多くの人に愛されるように。そして、君を救いたかったのだよ」

「そうだったんですか…」

 その時、霧島レンが歩み寄ってきた。彼の顔には、かつての冷淡さはなく、深い友情と信頼が感じられた。

「エイタロウ」レンは言う。「博士の言葉を忘れずに、俺たちで新しい未来を創ろう」

 その言葉を受け、僕は頷く。

「はい。僕らの手で必ず」

 エリアス博士は、僕らを見つめ、再び口を開いた。

「タリタスの未来は、君たちの手に委ねられている。私の夢は、EEEを人々のために活用し、全ての人が幸せに生きることだ。君たちがその夢を実現してくれることを、私は信じている」

 僕とレンは、エリアス博士の言葉を胸に刻み、共に新たな一歩を踏み出した。


 基地の復興が始まり、タリタスたちは再び、自分たちの役割を見つけ出していたー

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