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第四章 心の強さと愛の力

第四章 心の強さと愛の力


     一


 次の戦闘はいつだろう?永遠にその日がこなければいいと思う。僕は闘うのが決して好きなわけではない。戦闘狂ではないのだ。でも誰かがこの国を守らなければならない。それが陸上自衛隊の特部隊の役目でもある。

 だからこそ、僕は闘う。

 人の役に立つために…

 そして、愛とは何なのか知るために…

 あの日、ギフテッドであるレンは、何のために僕と話したのだろうか?単に僕が気に食わなかっただけなのか?それとも他に何か理由があるのか?その辺はよく判らない。タリタスは超能力者ではない。だから、人の考えていることが手に取るように判るわけではないのだ。

 でもレンは僕の戦闘を見ていた。そして、僕の戦闘から何かを感じ取ったのだろう。それは、僕の特攻精神とも呼べる自己犠牲の塊かもしれない。

 ギフテッドは、確かに高い能力を示す。それはフェイクの比ではない。レンも恐ろしく高い能力を宿しているし、それは僕とは全く違う、異質の力だ。それくらい、ギフテッドとフェイクの間には差があるのだ。

 しかし、きっとギフテッドもフェイクも、同じような境遇を生きてきたはずなのだ。その境遇とは、愛に飢えているということ。ほぼ100%のタリタスが愛情に飢えているといっても過言ではない。愛されてこなかったからこそ、タリタスとしての素質があるのだ。

 繰り返しになるが、GMシリーズは、パイロットの性と逆の性を持った人工知能が搭載されており、それが愛情という絆で繋がっている。パイロットは人工知能を愛しているし、逆もまた然りだ。この愛情の強さが、シンクロ率に変わり、能力の高さにも繋がっている。

 レンは、どういう人生を歩んできたのだろうか?彼もまた、深い闇のような孤独の中にいる。それは彼の口調から判った。僕らは全く違うように思えるけど、根本的なところは繋がっているというか、同じなのかもしれない。

 それゆえに、レンはフェイクである僕に興味を持ち、声をかけてきたのだろう。僕の中に潜む自己犠牲という力と、愛という力の共通項というか、似たような部分を、繊細な感覚で感じ取り、僕に話しかけたのだ。

 いずれにしても、これは僕の勝手な憶測なのだけど…

 訓練を終えた僕は、整備ハンガーへ向かい、そこでゴーストメーガを見ていた。前回の戦闘で、自爆攻撃に巻き込まれたものの、防御シールドのおかげで、今ではすっかり元通りになっている。

 整備兵の話を聞く限り、いつでも実戦に戻れるまで回復しているそうだ。

 人型の決戦兵器ゴーストメーガ。

 僕は一人、コクピットに向かい、操縦席に座る。そして人工知能であるラグウィデスを呼び出す。

「ラグウィデス、元気か?」

 しばしの間があった後、ラグウィデスの平坦な声が聞こえた。

「私は大丈夫です。あなたは元気ですか?」

「僕も大丈夫だよ。もう元気だ。次の戦闘があったらよろしくな」

「もちろんです。力の限り、私はあなたを支援します。それが私に課せられた役目ですから」

「ねぇ、君は僕をどう思う?」

「私はあなたを優秀なパイロットだと思っています」

「そうか。なら、もしも僕が自分の命と引き換えに仲間を守ろうとしたら、君はどうする?僕を支援してくれるかい?」

「それはできかねます。なぜなら、全てのタリタスは尊重され永遠の命を全うするという自衛隊 特部隊の規則に反するからです」

「でも、君は前回、僕の捨て身の防御シールドに加勢してくれたよね」

「生存の可能性が100%だったためです。敵機は自爆する寸前、機体内部に高エネルギーを宿しましたが、それは予想の半分以下の数値でした。そのため、防御シールドを全開に展開すれば、死亡することはないと考え、あなたの作戦を支持しました」

「どうしてそこまで僕を大切にしてくれるの?それは特部隊の規則のため、それとも、君の体内にそういうふうにプログラムされているから?」

「規則に従う。これももちろん大切ですが、理由はそれだけではありません。GMシリーズのパイロットと人工知能は、愛情という絆で繋がっています。つまり、私はあなたを愛しているのです。ですから、あなたのためを思って行動しています」

「それはつまり、君は僕のためなら、自分の命を投げ出すということ?」

「そうです。それが私のあなたに示す愛の形です」

「矛盾してるな。僕は死んじゃダメなのに、自分は死んでもいい。それは変だよ。僕も君を信頼しているし、愛しているかもしれない。だから、君のためなら死ねるかもしれない。でも君はそれを許さないんだろう?」

「もちろんです。私のためにあなたが死ぬのは規則違反です。パイロット支援システムである人工知能は、あくまでも支援のためのツールです。死という概念はありません。たとえ私が死んでも、この機体に残されている私のプログラムを使えば、簡単に複製できるでしょう。しかし、あなたは違います。あなたという人間は一人しかいない。つまり、代わりがいないのです。だからこそ、全てのタリタスは尊重され、永遠の命を全うしなければならないのです」

 ゴーストメーガに搭載されている人工知能はラグウィデスしかいない。もし仮に、彼女が何らかの理由で死んでしまったら、新しい人工知能が搭載されるのだろう。確かに、ラグウィデスが言う通り、人工知能はそれまでのプログラムをもとに複製することが可能だ。

 でも、複製されたラグウィデスは、きっとそれまでの彼女ではないだろう。限りなく似ているのだろうけど、全くの別物なのだ。

 僕はラグウィデスを失いたくない。その理由は、彼女が僕を愛してくれるからだ。僕は愛されてこなかった。だからこそ、無償の愛を注いでくれるラグウィデスを信頼しているのだ。

 彼女がいる限り、僕は負けない。どんな戦闘だって潜り抜けて成果を出してみせる。


     二


 ある日の訓練終わり、僕は休憩所でアヤと出会った。彼女もちょうど訓練が終わったところらしく、額に浮かんだ汗を白いタオルで拭っていた。手には喉の渇きを潤すためのポカリスエットがある。

「お疲れ、アヤ」

 と、僕は声をかける。

 アヤも休憩室に入ってきた僕の姿に、当然のように気づき、にっこりと笑みを浮かべた。

 彼女とは、前回の戦闘でタッグを組んで以来、少しずつではあるけど話すようになっていた。同時に僕は、彼女と話す時間を密かに心待ちにしていた。だけどそれは、恋心とは違う。

 単純に、僕は友達が欲しかったのだ。これまでの僕には、友達と呼べる存在はいなかった。だからこそ、この横須賀基地で出会った同じフェイクタリタスという境遇の存在に、心惹かれているのかもしれない。

 同じ匂いというか、空気感を感じるのだ。それに僕は、アヤが纏っている独特なオーラみたいなものが気に入っていた。彼女は、凛とした新鮮な朝の空気のようなオーラがあるのだ。

「うん。お疲れ。訓練終わったの?」

 と、アヤ。

 それを受け、僕は答える。

「そう。いつも訓練ばかりだけど、僕はここに来て充実した日々を送っているよ」

「君はパイロットに向いているのかもね。私は違うわ。私はまだ怖い…戦闘がね。訓練の時は何ともないけど、実戦はまるで違う。だって死ぬかもしれないのだから。死という恐怖が拭えないの」

「君は死なないよ」

「どうして?」

「タリタスだから。君の戦闘スタイルは慎重だ。そんな人間は簡単には死なないと思うよ。むしろ、あっさり死ぬのは僕のようなタイプだと思う」

「私は誰かが死ぬのを見たくないわ。だからあなたにも死んで欲しくない」

「もちろん、僕だって死ぬつもりはない」

「でも、仲間のため、そして人の役に立つためなら喜んで命を投げ出すと言っていたわ」

「それは変わっていない。仲間が死ぬのを見るくらいなら、自分が死んだ方がいいからね」

「そういう考えはやめてよ。私は誰にも死んで欲しくないんだから」

「きっと、それは無理だよ。僕らが身を置いているのは戦場だ。戦場というのは、命のやり取りをする場所だ。生き残る人間がいれば、死ぬ人間だっている。それが自然の摂理だ」

「だとしたら、私たちがいる世界は地獄ね。どうしてタリタスになったんだろう。こんな世界で暮らさなければならないのなら、タリタスになんてなりたくなかった」

「君はどうしてタリタスになったの?」

 その言葉を聞いたアヤは、少しの間黙り込んだ。

 何かを考えているようにも感じられる。それは、思い出しくない過去を思い出しているためなのか、それとも他に理由があるのかは判らなかった。

「私はね…」静かにアヤは語り出した。「タリタスになる前、白血病だったの。それでドナーを探していたんだけど。結局見つからなかった。白血病に限らず、自分の血液と適合するドナーを見つけるのは至難の業なの。あなただってドナー登録していないでしょ?」

「うん。僕はしていない」

「でしょ。だからドナーを探すのは大変なのよ。それで、ドナーが見つからない限り、余命半年と宣告されたの。私はそれでも良かった。だって私を愛してくれる人はどこにもいないから」

「君の両親は君が死んでもいいと思っていたの?」

「さぁそれは判らない。でも、私は本当の子供ではないから、死んでもいいと思っていたかもしれない。だからこそ、EEEを注入するというタリタス化を望んだのよ」

「ちょっとよく判らないな。どういうことなの?」

「つまり、私の両親は、両親としての役目を果たしながら、同時に私が死ぬという選択を望んでいた。この意味が判る?」

「タリタスになるのはごく僅かな人間だから、君が死ぬ可能性に賭けたってこと?」

「その通り。私の命を救うには、EEEを注入するしかない。私の両親は、それが親の役目だと思ったのよね。世間体を保つために、親のフリをしたの。つまり、私の命を救うフリをしてEEEの注入を了承し、私の生存に賭けたのではなく、私が死ぬ方に賭けた。仮に、私が死ねばそれで万事OKだし、仮にEEEを注入し助かったとしてもタリタスとなるから、人間からは逸脱する。同時に、タリタスになると強制的に自衛隊の特部隊に配属され、人間としての生活は終わる。だからね、どっちに転んでも良かったのよ。親としての責任、世間体を守り、私を強制的にお払い箱にするためには、死の淵にいる私に対し、EEEを注入する手段が最も手っ取り早かったってわけ」

 アヤは淡々としたペースで語った。

 その表情は、決して暗くもなく、あくまでも平静を装っているようにも感じられる。彼女もまた、深い闇を抱え、同時に圧倒的な孤独の中にいるのだろう。

 この辺の境遇は、僕と酷く似ている。きっと、似ているからこそ、僕らはこうして話していられるのだろう。


     三


 僕にとって何度目だろう。初陣を迎えてから約十年。数えれないくらいの実践を重ねてきた。つい先日、完全な自動操縦の機体を作り出し、さらにはるかに巨大な自爆機能まで兼ね備えた兵器を生み出した、久遠優麗会というテロリスト集団との激しい戦闘を繰り広げたばかりだ。

 それはある日の昼下がりだった。

 新たなテロリストの襲撃情報が入ったのである。今回のターゲットは、東京タワー付近のホテルで行われる重要な外交会議。敵テロリストの目的は明らかであり、日本の政治の根幹を揺るがすことだろう。

 EEEが発見され、それに付随するGMシリーズという人型決戦兵器が生まれ、それ以降テロは爆発的に増えてしまった。本来、GMシリーズはテロの抑止力となる存在のはずだったのであるが、テロリストたちがタリタスを悪用し、この機体を使うようになったためである。

 GMシリーズは、従来の戦闘兵器に比べてはるかに殺傷能力が高く、それでいて頑強にできているため、テロリストにとってうってつけの兵器なのである。

 緊急出動が下ったのは、僕とアヤ、そしてギフテッドであるレンであった。この三人でチームを組み、敵テロリストを鎮圧せよというのが、今回のミッションである。

 出動準備を始める中、僕は機体に乗り込もうとしているレンと目が合ってしまう。今回のミッションのリーダーは、レンである。なにしろ彼はギフテッドであるし、戦闘能力である純力がすこぶる高い。僕とアヤを足しても叶わないのだ。それに、彼は僕らよりもはるかに階級が上である。

 つまり、レンの命令は絶対なのだ。もちろん、チームワークを乱さないためにも、僕は命令に従うつもりだ。レンだって、いくら僕に敵意を持っていたとしても、率先してチームワークを乱したりはしないだろう。

「エイタロウ!遅れを取るなよ」

 目が合ったレンは、軽やかな少年の声でそう言った。

 もちろん、遅れを取るつもりはない。いつだって僕は全力だ。なぜなら、僕の存在意義は、人の役に立つことなのだから。今回のテロを許してしまえば、多大な損害が出るのは判っている。恐らく、多く人間が死ぬだろう。

 人が死ぬのは見たくない。たとえそれが、全く知らない人間だとしても…

 僕はタリタスだ。GMシリーズに乗り、人を守らなければならない。それが僕の役目だ。

「命令には従います。なんでも言ってください」

 と、僕はレンに向かって叫んだ。

 彼はその言葉を聞くと、妙に白い歯を剥き出しにしながら、皮肉そうに笑った。何を考えているのかは判らない。彼はギフテッドだから、自分一人で全て完結できると思っているのかもしれない。

 むしろ、僕とアヤを邪魔者扱いしている可能性だってある。しかし、今回はチームを組んでミッションに臨まなければならない。一人の傲慢が油断に変わり、それが直結的に敗北に至るケースだって十分考えられるのだから、気を引き締めてかからないとならないだろう。

 僕は愛機であるゴーストメーガに乗り込む。するとすぐにレンから通信が入る。

「敵は三機。テロリストは久遠優麗会だ。お前は前回、久遠の連中とやり合っただろう?」

 その通信を受けて、僕は答える。

「はい。確かに交戦しました。敵は自動操縦の機体を使っています」

「つまり、パイロットがいないと」

「その通りです。しかし操縦技術は高くありません。新米パイロットの操縦技術よりも、はるかにレベルが下でした」

「ならば脅威ではないな。俺一人でも問題ないが、お前とアヤにも援護をさせる。足を引っ張るなよ」

「もちろんです。それとレン三佐、敵は自爆機能を兼ね備えています。これが結構厄介かと」

「なるほどな。オート操作なら、パイロットの命を気にする必要がないから、簡単に自爆できるってわけか。しかし問題は威力だな」

「そうですね。ここは東京タワー近郊、つまり人口密集地です。いくら避難が完了しているとはいえ、ここで自爆攻撃されたらたまりません」

「自爆だけはなんとしても阻止する。俺が先陣を切る。お前とアヤは後方から援護に回れ。敵機が銃撃してきた場合、こちらも銃撃で応戦する。機銃を用意しておけ、それと近接戦闘になった時のために電流粒子サーベルもだ」

「了解。それでは出撃します!」

 僕らはテロリストに向かって走り出したー


     四


 東京タワー近郊に到着した時、すでに近隣住民の避難は完了していたが、オート操作で動くGM機が、暴れ狂っていた。東京のシンボルでもある東京タワーは、敵機の多連装ミサイルの餌食になり、根っこから砕け散っていた。

 ここからのレンの攻撃は素早かった。というよりも、神技としか思えなような身のこなしで、敵機との距離を一気に詰めると、GMシリーズ用の機銃を使い、あっという間に一機を破壊した。

 その澱みのない攻撃は、見るものを魅了する不思議な力があった。これが純力二桁であるギフテッドの力。

 レンが破壊した敵機は完全に沈黙している。どうやら、オート操作の機体であっても、心臓部であるEEEエンジンを破壊すれば機能は停止するらしい。確かに、GMシリーズはEEEがないと起動しないのだから、そのエネルギー部分であるEEEエンジンを破壊すれば、オート操作の機体であっても沈黙状態に陥るのだろう。

 攻略方法は判った。敵機は残り二機。それに対し、こちらは三機健在である。さらに言えば、ギフテッドと呼ばれる超人レン三佐がいるのだから、このまま戦闘が推移すれば、問題なくこちらが勝つだろう。

「エイタロウ、アヤ、俺がもう一機片付ける。お前たちは、残りの一機を壊せ。敵の能力は高くない。お前たち二人でも十分勝てるだろう」

 レンの指令が下る。

 それを受け、僕とアヤも答える

「「了解」」

 敵の能力は高くない。

 それは過去の戦闘データからも読めていたし、人工知能であるラグウィデスもそう言っていた。しかし、それは誤りだったのかもしれない。敵機は予想だにしない攻撃を繰り出してきたのである。

 それは、電光石火の近接戦闘攻撃である。

 電流粒子サーベルに切り替えて、雷のような速度で、僕とアヤの間合いに入ってくる。これには、僕もアヤも驚いた。過去のデータの動きとは全く違うのだ。

 人が乗っている?

 僕は微かだけどそんなふうに思った。

 もしもタリタスが乗っているのだとすると、熟練のパイロットだ。動きが素人ではない。こんなにも流麗な動きをするGMシリーズのパイロットは、なかなかいない。

 敵GM機(サンダーボルト02)は、素早くアヤの方へ向かい、彼女の持つ電流粒子サーベルを根本から切り裂いた。

「ガガガガガガ」

 激しい炸裂音が響き渡る。

「アヤ、大丈夫か?」

 と、僕はすぐに通信を飛ばす。

「大丈夫。サーベルがやられたけど、こっちには機銃やミサイルがある。機銃に切り替えるわ。あなたは後方から私を援護して」

「判った」

 アヤは素早く機銃に武装を切り替えると、すぐさま応戦する。相手の心臓部目掛けて機銃を炸裂させる。しかし、敵機はそれをいとも簡単に避けて、電流粒子サーベルで、アヤの左手を切断した。

 バランスを崩すアヤの機体。

 僕はすかさず後方から攻撃を仕掛ける。敵機の能力が未知数な以上、近接戦闘は避けたい。なぜなら、近接戦闘は、そのままパイロットとしての力量が試させれるからだ。仮に敵の純力が、こちら側より上だった場合、二人いたとしても不利である。僕の見立てでは、純力は5を超える。僕とアヤはせいぜい2〜3程度だから、倍ほどの力量の差があるのだ。

近接戦闘は不利。

そう考えた僕は武装をロケットランチャーに切り替える。これなら遠距離からの攻撃が可能である。敵機に近づかなくても攻撃ができるから、一瞬で間を詰められ、戦闘不能状態になるのは避けられる。

敵の純力は高い。

これがオート操縦なのか、それともパイロットが乗っているのかは、はっきりしなかった。仮にオート操縦だとすると、それは大いなる脅威だ。前回の戦闘で見せた稚拙なオート操縦の比ではないのだから。

もちろん、敵の純力が上だからといって、こちらに勝ち目がないわけではない。確かにアヤは左手をやられたが、まだ右手と両足が残っている。それにまだ僕が五体満足で健在である。二人に対し相手は一人。人数で優っているのだ。

これは、大きなアドバンテージでもある。また、いくら純力が高いとしても、その時の体調、調子、精神力によって、大きく戦闘力は左右される。

つまり、調子がいい時の純力が5だったとしても、不調の時は2になるかもしれない。それならば、まだこちらが完全に負けたわけではない。今は冷静に状況を見るのだ。そして反撃の手段を考える。

「ラグウィデス、どうしたらいい?」

 僕はすかさずラグウィデスに尋ねる。

 こういう時、パイロット支援システムである人工知能は大いに役に立つ。

「周りが見えるギリギリというレベルでミサイルによる弾幕を張りましょう。その隙にアヤ一等陸士が攻撃を仕掛けます。彼女は左手を負傷していますが、右手を使って機銃を操作することはできます。また、アヤ一等陸士の攻撃をフェイクとし、こちらが後方から仕掛けるという二段構えの攻撃も有効です」

 ラグウィデスの声に、僕は答える。

「よし!それで行こう。GM用ロケットランチャー二式に切り替える。弾幕を張るぞ、ラグウィデス!」

「了解しました」

「アヤ、聞こえるか、今から弾幕張った攻撃を展開する、それを隠れ蓑にして、君は敵機の心臓部を機銃で貫いてくれ」

 僕はアヤに通信を飛ばす。

 すかさずアヤから返答がくる。

「判った。こっちは片手で操作できる小型ミサイルを打つわ。弾幕を張って。タイミングよく、こちらも仕掛けるから」

「よし!行くぞ」

 ロケットランチャー二式に持ち換え、僕は一瞬の呼吸する暇を与えずに、弾幕攻撃を開始した。


     五


 東京タワーの昼空に響く爆音と閃光。

 それが、戦場の緊張感を一層強め、高めている。僕は、機体のコクピットで汗を拭いながら、敵の動きを見逃さないように集中していた。パイロット専用のスーツが汗で滲み始めている。

「ラグウィデス、敵機の位置を確認してくれ」

 集中力を最大まで上げ、引き締まった声で僕はラグウィデスに向かって言った。

 すると、すぐさまラグウィデスの声が響く。

「了解しました。右前方50メートルに敵機が接近中です。注意してください」

 ラグウィデスの冷静な声は、このような場面で大いに役に立つ。奮い立つというか、信頼できるのだ。僕はその言葉を聞き、素早く視線を右前方に向ける。強力な武装を持つサンダーボルト02が、その姿を現した。

「アヤ、聞こえるか?これからロケットランチャー二式で弾幕攻撃を仕掛ける。その隙に君の機銃で決めてくれ」

「了解、準備はできているわ」

 アヤの声が通信機から帰ってくる。彼女の機体が、僕のすぐ隣に位置し、いつでも攻撃に移れる体勢を整えているのが見える。

「ラグウィデス、ロケットランチャー二式を準備してくれ!」

「はい、ロケットランチャー二式を装備。ターゲットをロックオンしました」

 僕は深呼吸をする。

 そして、ロケットランチャー二式のトリガーに一気に引く。

 次の瞬間、巨大な火の玉が連続して敵機に向かって発射された。ロケットランチャー二式はGMシリーズの武装の中でも、かなり強力な位置づけである。比較的小型である二式は、軽量でありながら、攻撃力が高いため、好んで使うパイロットも多い。

 特に、敵機のパイロットの能力が未知数である場合に使われるケースが多く、恐らく、サンダーボルト02だって、この弾幕攻撃を受ければ、無傷で済むはずがない。歴戦のパイロットであっても、この火の玉ような攻撃を掻い潜るのは至難の業だろう。

「行けぇぇぇ!」

 轟音と共に、ロケット弾が爆発し、敵機の視界を奪う。爆炎と煙が敵機を包み込み、敵機のパイロットの反応が鈍るのを感じた。

 しかし、いまだにこの反応が、人体なのか、オート操縦なのか判然としない。

「今だ、アヤ!」

「判った」

 アヤの機体が瞬く間に加速する。彼女の機体は左腕を失っているが、両足は健在である。スピード感に衰えは感じられない。

 同時に、アヤの近距離の機銃による攻撃が炸裂する。弾丸のような機銃攻撃が敵サンダーボルト02の装甲を貫く音が響く。

 瞬間、

 敵機が火花を散らしながら崩れ落ちる。アヤの機体がその上に立ち、勝利の姿を見せる。

「見事だ、アヤ!」

「ありがとう、でも気を抜かないで。まだ他の敵がいるかもしれないわ」

 僕はアヤの言葉に頷き、周囲を警戒する。戦闘の余韻が心に残る中、僕はアヤとの連携が成功したことに深い満足感を覚えた。

 僕らはフェイクタリタスだけど、十分にやっていける。大きな自信が湧いた瞬間でもあった。

「ラグウィデス、周囲の状況を教えてくれ」

 僕の言葉に、ラグウィデスが答える。

「了解しました。敵機周辺を調査します」

 一瞬であるが、僕は安堵した。

 戦闘に勝利したのだ。その美酒に幾分か酔いしれていたい。

 しかし途端、ラグウィデスの声がコクピット内に轟いた。

「敵機体内に高エネルギー反応。自爆するつもりです」

「なんだって」

 やはり自爆機能がついている。となると、敵機は無人の可能性が高い。

「アヤ!離れろ!」

 僕はすかさずアヤに叫んだ。

 しかし、僕の声は遅かった。

 その声が彼女に届く前に、アヤは敵機サンダーボルト02の自爆攻撃に巻き込まれてしまった。

「ドドドドドドド」

 鼓膜を破るような超巨大な爆音が辺りに炸裂する。

 同時に、この衝撃は前回の戦闘で見せた自爆テロの比ではない。どのようなシステムで動いているのか判らないが、久遠優麗会というテロリスト集団は、オート操作でGMシリーズを動かす技術を編み出しながら、それでいて超強力な自爆機能を兼ね備えた機体を作り出したのだ。

 それは、大いなる脅威である。

「アヤぁぁぁぁ!」

 僕の悲痛な叫びは、戦場の爆音にかき消され、たちまちのうちに消滅した。

 自爆したサンダーボルト02。

 そして、その自爆攻撃に巻き込まれたアヤの機体。

 彼女の機体は、木っ端微塵に吹き飛ばされていた。

 アヤは生存しているのか?それとも死んだのか?

 何もかもが大きな闇に包まれ、僕の意識を煙のようにかき消していったー

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