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第一章 誕生と目覚め

第一章 誕生と目覚め


     一


僕はタリタスという特殊な人種で、人型決戦兵器GM107ゴーストメーガのパイロットだ。機体にはパイロットを支援するAI(人工知能)や、操縦をアシストするBMIブレイン・マシン・インターフェイスが搭載されていて、操作が困難だと言われた人型の戦機を操作できるようになっている。

 タリタスというのは簡単に言うと、子供の姿のまま成長せず全く老化しない人間の名称だ。僕らタリタスには、EEEエリアス・エヴァンス・エネルギーという物質が体に流れていて、それが老化しない肉体を作り上げるのに一役買っている。なぜEEEと呼ばれているかというと、この物質を発見したのがアメリカの老化研究の第一人者エリアス・エヴァンス博士だったから、彼の名前の頭文字を取ってそういう名称になった。

 タリタスが搭乗するGM107という機体は、従来の戦闘機と戦車を併せ持ったような特性がある。だけどマッハ2.25という超高速で飛行する戦闘機Fー22Aのような爆発的な機動力はない。そもそもこの人型決戦兵器であるGM107は、従来の兵器とは違った原理で動いている。この機体を動かすためにはEEEが必要になる。そしてこれが、機体を動かすための起動エレメントになっている。さらに補助的な役割として、電力をエネルギーとして動く側面もある。だけど起動エレメントであるEEEという未知なる物質が大きなエネルギー源となりこの機体を動かしている。

 またそれにプラスして、ミサイルロケット発射機としての機能も搭載されていて超大型の多連装ロケットを配備し、弾丸直径600mm、全長8.2m、最大射程380km及び、四連装発射機が標準装備され、戦車としても機能もある。

 各先進国の主力戦闘機や戦車の開発ペースは、頭打ちになっていて、それを打破したのがGMシリーズという人型決戦兵器なのだ。そしてそれに搭乗できるのは起動エレメントEEEを持つタリタスだけ。同時にタリタスは老化しないから、戦闘員としてうってつけだったのだ。また、タリタスは世界中で数千人しか確認されていない希少な人種であるため、GMシリーズ以外の人型決戦兵器はあまり多くない。開発しても搭乗できるタリタスが少ないためだ。だから基本的に人型決戦兵器と言えばGMシリーズを指す。僕は何の因果か、十四歳の時にタリタスとして生まれ変わり、その後は全く老化しなくなった。それ以降、約十年GMシリーズのパイロットをやっている。つまり僕は人殺しの道具なのだ。それでもよかった。僕は人を殺すかもしれないけど、それでも守れる命があるのだから。

 GMシリーズの操縦は主にBMIを通じて行われる。これは脳波をはじめとする脳活動を利用して、機体を操作する操縦システムで、簡単に言えば脳と機械を繋ぐ存在だ。GMシリーズは、戦闘機や戦車のような操縦システムではなく、パイロットの脳活動に伴う信号を機体が検知し、解析することで起動を可能にする。

 BMIは情報の流れが一方通行の片方向インターフェイスと、相互疎通が可能な双方向インターフェイスの二つが存在していて、従来は技術的に片方向のインターフェイスしか実現できなかった。しかしGMシリーズが生まれ、それを起動できるEEEを持ったタリタスという人種が現れてから、一気に技術革新が進み、現在では双方向のインターフェイスが可能になっている。つまり脳と外部機器との間で、情報を交換したり共有したりできるようになっているのだ。だからタリタスがGMシリーズと一体化し敵と闘う。

 僕の所属する、陸上自衛隊第一空挺団GM特別攻撃隊(通称:特部隊)は主に、GM107で保安や警備にあたる小隊であり、場合によっては戦闘するケースもある。今回の任務は、広島に現れた日本の宗教団体「久遠優麗会」の過激派が引き起こした国際会議へのテロ行為の鎮圧だ。

 広島市にあるリバーサイドホテルでは、タリタスの軍事利用の重要性に関する国際会議が行われていた。各先進国のトップが集まり、EEEを宿すタリタスを軍事利用し、世界平和へ繋げようという取り組みである。しかし、これは矛盾を抱えていると僕は考えている。

 なぜなら、タリタスという存在の持つEEEというエネルギーに目をつけて、それを軍事利用するというのは、結局は戦争を肯定しているということであり、平和とは全く別の道を歩んでいると言っても過言ではないからだ。

 それに、EEEは本来、軍事利用のために発見された物質ではない。もっと人の役に立てるような使い方をされるように願われた物質でもあるのだ。しかし、人は愚かだ。トップに立つために戦争を始め、多くの血が流れている。いずれにしても、僕は戦闘兵器だし、その戦闘によって平和に生きている人たちを守らなければならないのだ。

 もちろんこの国際会議開催にあたり、広島県警と四十五都道府県から派遣された警察官たちが、最大限の警備にあたっていたけど、GMシリーズを模倣とした、新たな兵器MP101ヴィーンピーマを開発した久遠優麗会の過激派がテロを決行したのだ。

 戦闘機や戦車の機能を合わせ持つ新型の兵器であるMP101を前に、警察の警備部隊はなすすべもなく攻撃に遭い、千人以上の死者を出した。蟻が恐竜に挑むようなものだし、やはり人型決戦兵器には人型決戦兵器を当てて戦うしかない。日本政府は、陸上自衛隊第一空挺団GM特別攻撃部隊の派遣を要請。タリタスである僕が、戦闘に駆り出されることになった。

 敵の機体は二体。久遠優麗会という宗教団体が、どうしてこのような特殊な戦闘兵器を生み出せたのかは、今のところ判然としない。しかしこの宗教団体は久遠宗優麗寺という総本山を開基し、その中の過激派が人型決戦兵器を生み出し、残虐なテロ行為に及んでいる。

「ラグウィデス、ミサイルは後何発打てる?」

 と僕は言う。

 ラグウィデスというAIには最新のディープラーニング機能が装備されている。これは先ほど紹介したBMIとは違い、あくまでもパイロットが任務を遂行できるようにアシストしてくれる機能だ。パイロットと共に、それまでの戦闘を全体像から、細部まで粒度の概念を階層構造と関連させて学習し、パイロットに対し最適な作戦を指示する。基本的に男性のパイロットには女性型の支援システムが、女性パイロットには男性型の支援システムが採用されている。これは人が異性に向ける「愛」という特別な感情を元に考案されたシステムで、男女が共になって行動するという、設計者の愛情という感情への特別な想いが反映されているのだ。愛の力は偉大ということだろう。

通常のGM107には20mm機関砲、 地対空レーダーミサイル、地対空赤外線ミサイル、地対艦ミサイルなどの武装がされているけど、ここでそれらを使うのは難しいだろう。何より被害が多く出てしまう。未だにリバーサイドホテル内には、関係者が取り残されているし、近隣の一般人の避難もまだ完了していない。

 その間隙をつかれたという感じだ。敵機は自由に攻撃できるけど、こちらは自在に攻撃できない。というよりも、敵機にこれ以上攻撃させてはならない。敵機はすでにミサイルを数発撃ち、界隈を爆炎の海へと変えている。早く手を打たなければならない。

 もちろん攻撃を無力化する方法がないわけではない。本来GM107の元になっているGMシリーズという機体は戦争のために生み出された兵器ではない。タリタスの持つEEEを活用し、宇宙空間での作業、あるいは世界の環境保全のために作られたロボットだったのだ。それが製作者の意図とは裏腹に、戦争兵器として使われるようになってから十年と日が浅い。兵器となったGMシリーズは、戦闘機や戦車の遥か上を行く攻撃力を持つため戦場では王者だった。これを開発したのはアメリカの宇宙産業を担ってきた研究機関だったけど、この兵器が生み出されてからどの国も、国家予算を削りながら多額の兵器の導入を進めていった。

 日本の陸上自衛隊もこのGMシリーズの導入を決めていて、冒頭でも紹介した通り、場合によっては戦闘するケースもある。現在は次世代のGMシリーズであるGM107まで生み出されているけど、GM107同士、あるいは他のGMシリーズ同士の戦闘は如何に敵機を操作不能にさせるかが鍵になっている。

 簡単に言えば、動力源を絶てばいいのだ。GMシリーズの主な動力源は、電力とタリタスの持つEEEを元にしている。内蔵できる電力はそこまで多くないので、電力のみではこの機体を動かせない。そんな時登場したのがタリタスだけが持つ起動エレメントであるEEEをエネルギー化したものだ。これによりタリタスは、大量のエネルギーを消費するけど、そこは老化しないという特性が上手く作用し、エネルギーを大量に使っても生きていけるのだ。だからこそGM107を始めとするGMシリーズは、タリタスにしか起動できない。

 そしてこの動力源を断つ方法は、タリタスが持つEEEを強制的に不能状態にするしかないけど、現在のところ、都合よくEEEを遮断する兵器は開発されていない。したがって、物理的に、機体の心臓部であるEEEエンジンを破壊するしか方法がないのである。何しろGMシリーズの動力源は、そのほとんどをEEEに依存しているから、その動力源が断たれてしまうと、動けなくなってしまう。だからGMシリーズ同士の戦闘は、機関砲や機銃、そしてロケットミサイルなどの殺戮兵器が使われるケースが多い。


     二


「ミサイルはまだ十分に数があります。しかしここは市街地です。多用するのは難しいかもしれません」

 ラグウィデスの声が響く。

 咄嗟に上を確認する。敵機が一気に頭上に舞い、20mm機関砲を発射しようとしている。

「ここは交わしても地面に着弾するはずだ。被害は少ない。よし近接戦闘で行くぞ」

と僕。

 こちらはロケットや機関砲といった武器が使い辛い。そんな時有効なのが近接戦闘だ。GMシリーズは遠距離戦のようなミサイルなどを使った攻撃だけに頼るわけではない。近接戦では、サーベルやナイフなどを使って攻撃できるのだ。この機体にもGMシリーズ用のサーベルが内蔵されている。ガンダムなどでよく見られるビームサーベルような円錐状のフィールドを展開した光の剣というわけではなく、原始的なサーベルではあるけど、超硬度ナノチューブが搭載されているため、近接戦闘の際には大いに役に立つ。

 敵機の機関砲は地面に着弾し、僕は高速で間合いをつめる。まずは駆動部分である脚部を攻撃だ。動きさえ止めればサーベルで相手を切断できる。しかしこちらは一機。増援は来ない。タリタスは希少な人種だから、そう多くのパイロットを集められない。僕が所属する特部隊のタリタスは、僕を含めて二十名しかおらず、残りの隊員は基地で待機している。基本的に少数精鋭で闘うのである。つまり、僕だけでこの場を打開しろということだろう。

特部隊というのは、隊で動くケースもあれば希少なタリタス達を分けて動く場合もある。だから派遣された僕が、この街を守らなければならない。恐らく敵は、特部隊のGM107をあまり多用して出撃させないというのを見計らって、今回のテロに及んだのだろう。日本は治安がいいからテロなど起こらない。そんな楽観的な考えが、今回のテロを生んでしまったのかのもしれない。

 近接戦闘は割と得意だ。遠距離攻撃は、BMIを使っても高速で動く敵機を一撃で沈めるのは、歴戦のパイロットでも難しいからだ。しかし近接戦闘はかなり原始的な戦闘方法だし、機体の性能が命運を大きく分ける。恐らく敵MP101は、新型ではあるものの、正規のルートで作られた機体ではないはずだ。だから性能はGM107よりも劣るはず。それは僕も考えたし、ラグウィデスも過去の戦闘データからそう導き出した。

 敵機MP101の後ろに素早く回り込み、電流粒子サーベルを起動させ、敵の背中を一気に貫く。電流粒子サーベルはその名の通り、電流を粒子化し、超高度ナノチューブと融合させたサーベルである。GMシリーズは人型の戦闘兵器であるため、持てる武器の数に限りがある。ロケットや機関砲といった類の武器は強力である反面、巨大であるため数が持てないのだ。

 しかし、電流粒子サーベルは粒子をコントロールし、大きさを自在に調整ができる。だから近接戦闘には向いているし、携帯も非常に楽なのである。

「ズガガガガガ!」

 と、相手の機体を切り裂いていく音がこだましていく。先も言った通り、近接戦闘はパイロットのスキルが大きく左右される。僕はすでに初心者というパイロットではない。多くの場数を踏んできた歴戦のパイロットでもあるのだ。恐らく、敵機のパイロットはまだ経験が浅い。

 こちらに向かってくる動き方もどこかぎこちないし、武器に頼りすぎている気配がある。だからこそ、簡単に後ろを取られたし、あっさりと攻撃を許したのだ。GMシリーズは人型の戦闘兵器であるため、基本的な構造は人と同じである。武術をする際、後ろを取られると致命的なのは、人間には後ろに目がないからであるし、後ろを取られると防御の仕様がないからだ。

 それは、GMシリーズにも同じことが言える。この機体は人ではないので、例え後ろを取られたとしても、ラグウディスが何とかしてくれる。しかし完全ではないのだ。僕は戦闘で後ろを取られて戦死した人間を見てきた。特に、GMシリーズを操縦するパイロットであるタリタスは数が少ないため、死んでいった人間を色濃く覚えているのだ。

 貴重なタリタスであるため、僕らは徹底的に訓練を受ける。それに、簡単に後ろを取られないように、AIが上手くアシストしてくれる。タリタスになると、適性以前に強制的にGMシリーズのパイロットになるため、能力が低くても、ならざるを得ないのである。

「おかしいな…」

 と、僕は一人呟く。

 相手がどういうわけか弱すぎるのだ。僕は何度も戦闘を繰り返し、色々なGMシリーズのパイロット闘ってきたけど、今回の相手は文句なく一番弱い。人間を相手しているような気がしないのだ。強いて言えば…

 AIと闘っているような感じ。

 つまり、人間ではなくそれ以外の何か…

「危険、敵機内部に高エネルギー反応!パイロット支援システム発動!後方に退避します」

 ラグウィデスの声がコクピット内に響き渡る。

 瞬間、敵機が爆発した。つまり、自爆したのだ。

 僕はラグウィデスの支援システムにより、敵機の自爆攻撃の一瞬前に退避できたから、自爆攻撃の直撃は免れた。もしも、爆発に巻き込まれていたら、恐らく僕も多大なダメージを受けていただろう。

 もう一機の機体も自爆を行い、辺りは騒然となる。自爆攻撃は破壊力が凄まじい。界隈は自爆テロの攻撃を受け、地獄絵図と化した。僕の任務は失敗である。敵機を片付けたのは良いが、それよりもマイナスなのは、多大な人的被害を出したことだろう。


 帰還命令が出たため、僕はそれに従う。足が重い。今回の戦闘でタリタスの死傷者は出なかったが、尊い人間の犠牲が多く出てしまった。不幸中の幸いだったのは、広島リバーサイドホテルの周辺は、緊急避難命令が出ていたため、民間人の避難は大方完了していたということだろう。そのため、今回犠牲になった民間人は少ない。しかし、リバーサイドホテルには、数多くの関係者がおり、その人間たちは自爆テロの犠牲になってしまったのである。

 全てはタリタスである僕の責任。

 人を守るべき存在である僕が守りきれなかったから、今回のような犠牲が出てしまったのだ。しかし気になるのは、敵機のパイロットである。あれは人ではない。恐らく、自動操縦で動いていたのだろう。だとすると、それは大いなる脅威である。

 なぜなら、GMシリーズを始めとする人型兵器は、自動操縦ができない。つまり、人間がコクピットに搭乗し、操作する必要があるのだ。にもかかわらず、敵機はパイロットの存在が感じられなかった。それはきっと、敵機MP101が自動操縦で動いているからだろう。

 だからこそ、容易に自爆テロを行えたのである。タリタスをパイロットとする場合、そう簡単に自爆テロは行えない。なぜなら、タリタスは数が少ないからだ。希少な人種だからこそ、パイロットの素質があるのだろうし、簡単に自爆を許して貴重なタリタスという駒を失うわけにはいかない。

 今回のテロを引き起こしたのは、久遠優麗会という新興宗教団体である。この団体は、実はかなり古くから存在しているとされている。一説によると、流派の源流は紀元前まで遡るとさえ言われているのだ。

 そんな久遠優麗会は、キリスト教と仏教を掛け合わせたような独自の信仰を持っており、古代の宗教であるマニ教に近い側面がある。キリスト教の七つの大罪になぞらえた新しい解釈の七つの大罪を宿しており、さらに、仏教の教えのように生きることは苦であると説いている。そして悟りの重要性を説いているのだ。

 そんな久遠優麗会には、過激派と呼ばれる人種がおり、それらが暗躍して今回のテロを引き起こしたと言われている。恐ろしいのは、タリタスが必要される人型の戦闘兵器を、無人で操縦できる仕組みを構築したところだ。もしもこれが事実なら、脅威以外何者でもない。GM107を始めとする機体は、戦闘能力が高い兵器である。これが無人で操縦できるのなら、今後の戦争の流れを大きく変えるかもしれないのだから…


     三


 広島のリバーサイドホテルでのテロが起こり一週間が経つ。僕は、横須賀の特部隊基地へ戻り、そこで訓練の日々に明け暮れる。前のような被害を出したくない。思うのは、そればかりだった。タリタスの存在意義は、人を救うことだ。

 タリタスだけがどうして永遠に生きられるのか?そしてどうして子供の姿のままなのか?その謎は、たくさんの研究者たちが研究を行ってきたけど、いまだに答えは出ていない。

 だけど、僕は時折思うのだ。子供は純粋だ。同時に愛情を受ける資格がある。もちろん、大人だって愛情を受ける資格はあるのだろうけど、子供の頃受けた愛情というものは、そのまま成長の良し悪しにつながってくる。愛情を注がれて育った子供は、きっと健やかに育つ。もちろん、それが全てではないのだろうけど。

 タリタスは永遠に子供のままだ。それはきっと、神様が永遠に純粋な心を持ち、愛情を持って人に接する特殊な人間として生まれ変わって欲しかったからこそ、お創りになったのかもしれない。

 タリタスの存在意義。

 僕は、十四歳の少年のまま時が止まってしまった。タリタスとして生まれ変わったのだ。しかし、どうして僕がタリタスとなったのか?永遠の若さというものに、強い疑問があるのは事実である。

 どんな人間であっても、必ず歳をとる。今は若い人間でも七十年後は、皆老人なのだ。しかし、その当たり前がタリタスという人種には存在しない。同時に、永遠に生きるGMシリーズのパイロットとして訓練を受ける。

 タリタスになり、僕は自衛隊の特部隊への入隊が決まった。そこに僕の拒否権はなかった。タリタスになったら、自動的にGMシリーズのパイロットとなるのだ。それが宿命であり、タリタスの存在意義なのかもしれない。だけどそれは、ものすごく寂しいことだ。

 なぜなら、永遠に歳を取らず、GMシリーズのパイロットを続けるというのは、簡単なように思えて実はかなり難しい。人は死というゴールがあるから、目標を達成しようと頑張る。同時に、死があるからこそ、人間というのは尊いのだ。

 プラスチックの器は壊れない。だけど、本物で器は壊れる時がある。本物だからこそ、壊れて死ぬのだ。本物だから死ぬという。これが一つの論理なら、タリタスは偽物だから死なないということにならないか?

 僕は最近、自分の存在意義ばかり考えている。建前は人を救うこと。

 確かに、GMシリーズに乗って戦闘を繰り返せば、救える命もあるかもしれない。僕らが戦争をし、勝利を重ねれば、その先には、誰もが安心して暮らせる、豊かな未来が待っているかもしれない。

 そのために、僕らは闘うのだ。人を殺すのだ。

「AT―112オートバトラー。以後、広島テロに現れた敵機をそう呼称する」

 ある日の訓練終わり、僕は特部隊の神門ミカサ一佐にそう言われた。

 僕が広島のリバーサイドホテルで闘った、無人の戦闘兵器。その名前が決まったのである。敵機は自爆したため、詳しい調査ができず、いかにして久遠優麗会が無人の戦闘兵器を作り出せたのかは、いまだ判然としていない。

 しかし、自動操縦だった可能性は著しく高いのだ。不幸中の幸いなのは、自動操縦の技術がそれほど高くないということだろう。完全に人の手で操縦するGMシリーズと、今回改めて呼称されたオートバトラーという機体では、戦闘力に雲泥の差がある。

 前回の戦闘の際は、敵機が自爆する可能性を高く見積もっていなかったため、自爆テロを許してしまった。これは、タリタスが貴重な戦力だからこそ、簡単に自爆をしないという固定観念の裏側を突かれてしまったという感じである。

 今回の件で、自動操縦の機体は自爆する可能性が大いにあると判った。というよりも、操縦技術の未熟さを、自爆テロという大きな攻撃力で補っているという感じなのだ。だからこそ、次にオートバトラーが現れた時は、自爆にだけ気をつければいい。

 GMシリーズを始めとする人型の決戦兵器は、EEEがないと動かせない。理論的に、EEEという高エネルギーを使わないと、駆動させるためのパワーを維持できないのだ。つまり、敵オートバトラーもEEEを使い、自動操縦させているのだろう。

 恐るべきなのは、本来タリタスを使わなければ起動させられないGMシリーズを、自動操縦可能にしたことであろう。前述した通り、タリタスは数が少ない。それ故に、そんなに簡単に新しいパイロットを補充できるわけではないである。

 つまり、どの国のGMシリーズのパイロットも、慢性的に人手不足なのだ。タリタスは永遠に子供のまま、歳を取らない人間を指すが、歳を取らないだけであり、無敵というわけではない。

 簡単に言えば、ミサイルを生身の状態で直撃すれば、あっけなく死ぬのである。だからこそ


【すべてのタリタスは尊重され、永遠の命を全うする】


というタリタスを神格化した格言が生まれたのだ。

 そんな中、オート操縦が可能になれば、不足しているタリタスというパイロットを、十二分に補強できる。ただでさえ数が少ないタリタスが、戦闘に参戦しなくてもよくなれば、人の血が流れる戦争がなくなるかもしれない。

 一部の研究者の話では、EEEを人工的に培養し、タリタスを媒介するのではなく、直接的にエネルギーを供給できるようにすれば、必然的にタリタスがパイロットである必要がなくなる。すでに人類はEEEを活用し始めているのだから、理論上は、このEEEを使ってオート操縦の機体を作り出すことは可能らしい。

 しかし、それは机上の空論であり、まだ実験段階にすらなっていない。なぜなら、EEEエネルギーを発見したエリアス・エヴァンス博士はすでに亡くなっていると言われているからだ。そもそも、この研究者について謎めいた部分が多く、詳しい背景はほとんど判っていない。

 ただ、突如EEEの存在を公表し、その有益な使い方や、タリタスを活用したロボット工学などを発表していたのである。これは非常に大きな功績なのだが、人前に出るのを極度に嫌い、地下に作った研究室で、日々研究や実験に明け暮れていたらしい。天才というのは、往々にして変人が多いものだけど、このエリアス・エヴァンス博士も相当な変人だったのだろう。

 いずれにしても、オートバトラーの対策は立てられそうだ。自動操縦というのは、タリタスを始めとする、僕ら自衛隊の特部隊にとっては大いなる脅威だが、戦闘力が決して高くないのだから、ミサイルを始めとする長距離武器、そして電子粒子サーベルなどの近接戦闘武器を上手く使えば、自爆テロは防げる。

 次なる戦闘は、きっと犠牲者出さず、この国を守り抜いてみせる。

 僕はそう誓い、訓練に戻ったー


     四


 狭いコクピットの中。

 それはまるで母親の胎内を彷彿とさせる。

 すでに訓練は終わっている。あとはコクピットから降り、特部隊の本部のある基地まで戻ればいいだけだ。それに、僕ら特部隊の隊員には、専用の部屋が用意されており、基本的にはそこで暮らしている。もちろん、年に数回休暇という扱いで長期の休みもある。もちろん、任務があればそのような休暇はなくなるが、日本は安全な国なので、戦闘はそこまで多くない。

 現在脅威となっているのは、先日広島のリバーサイドホテルで自爆テロを行った久遠優麗会だろう。この教団は危ない。危険なのだ。今後もこの教団が自爆テロに近い攻撃を行ってくる可能性は高い。

 だから、僕はこの教団と闘うつもりである。久遠優麗会が如何なる理由でテロを企てているかは謎な面が多い。一説によると、日本社会への圧力、同時に、今の貧弱な日本政府に対する強力な脅しなのだろう。そして、自らが実権を取るために、動いているのかもしれない。つまり、今の日本を潰し、久遠優麗会が新しい日本を築くのだ。

 実際問題、凶悪なテロを引き起こす集団である。そんな集団に国が乗っ取られたら、日本は、戦前の軍国主義的な国になってしまうかもしれない。それはきっと平和とは無縁の世界になるだろう。

 それだけは避けなければならない。絶対に…

「ラグウィデス…僕はどうしたらいい?」

 僕だけのコクピットの中にはもう一人の存在がある。それは、パイロット支援システムであるラグウィデスだ。この機体の最も革新的な特徴は、BMIを通じて、直接的に機体と心を繋ぎ、思考だけで操縦できる技術だろう。そして、それを支援するのがラグウィデスという人工知能なのだ。

 タリタスは少数民族だが、男女による差はない。つまり、男性のタリタスもいれば女性のタリタスもいる。普通の人間と違うところは、タリタスとなると、女であっても強制的にGMシリーズのパイロットになってしまうことだろう。

 だから、僕の所属する自衛隊の特部隊にも女性パイロットがそれなりの数いるのだ。もちろん、皆、訓練を受けているため、それなりに腕の立つパイロットばかりである。

「あなたには、この国を守る義務があります。同時に、それがあなたの役目です」

 ラグウィデスの声が響き渡る。

 もちろん、それは判っている。この国を守るのが僕の仕事だ。だけど、本当にそれだけなのだろうか?僕の役目はそれしかないのだろうか?

「それは判ってる。なぁラグウィデス、タリタスって何だろうか?」

「タリタスはGMシリーズのパイロットとして適正のある人種です。同時に、永遠に子供の容姿であり、歳を取りません」

「それは死なないってことか?」

「いわゆる老化による死はタリタスには存在しません。タリタスはその性質上、老化することがないため、永遠の若さを保てるのです。しかし、例外もあります。それは戦闘による死です。爆撃に巻き込まれたり、高所から落下したりすれば、その衝撃でタリタスは死亡します。ですから、死ぬケースもあるわけです。つまり、永遠に生きられるかどうかは、戦闘によって大きく左右されます」

 判り切ったことを言う。

 しかしそうなのだ。タリタスだって、攻撃を受け、それが生命を脅かす程の重度なレベルならば、死ぬ可能性もあるのだ。つまり、タリタスにも一応普通の人間と同じで死というゴールがある。もちろん、その死というのは、普通ではないのだけど。

 僕もいつか戦闘で死ぬのだろうか?

死というものを考える。タリタスという存在は、最も死から遠いところにあるけど、戦争による攻撃は、タリタスの永遠の生命という呪縛を、最も簡単に破ってしまう。

 死ぬのが怖いか?それは判らない。もちろん、今はまだ死にたくない。僕は十四歳で時が止まって、まだ十年前後だ。だから普通の人間の二十四歳くらいなわけで、つまりそれはまだかなり若い。それ故に、まだまだ死は遥か遠い先にある。

 しかし、僕はタリタスだから永遠に十四歳のままだ。戦闘で死なない限り。もしも僕が、タリタス化してから300年とか経っている老齢な人間なら、もしかすると死を恐れないかもしれない。

 流石に300年も生きれば、生には執着しなくなるかもしれないからだ。もちろん、それは今の段階では全く判らないのだけど。

 人生というものは、凡人にとっては長すぎて、天才にとっては短すぎる。これは、ある意味当たっているかもしれない。例えば、アインシュタインがタリタスだったら、物理学の領域は、もっと進化していたかもしれないのだ。アインシュタインにとって、人生八十年というのは、短すぎるのだ。

 でも、普通の人間にとって八じ十年はとても長い。なにしろ一年を八十回繰り返すのだから、人生は長い。もちろん、人生はあっという間と考える人間もいるのだけど、確実に毎日毎日を積み重ね、その結果八十年の余命があるのだから、やはり人生は長いのだ。

 僕は天才だろうか?

 永遠に生きるという特権を与えられたのだから、それに適した人間でなければならない。なんの取り柄のない人間が、タリタスになったところで、僕は大した意味がないような気がするのだ。

 きっと、タリタスになったのには何か理由があるはずだろう。

 その理由―

 それは何か?

 僕はふと考えるのだ。なぜ僕がタリタスになったのか?そして、どうしてどんな人間もタリタスにはなれず、ごく少数の人間だけが、タリタスになれるのか?ただの神の悪戯なのだろうか?だとしたら、その悪戯は大層タチが悪い。

 僕に何か特殊な力がないのだとすると、タリタスでいる意味がない。僕の存在意義は、やはり人を救うことなのだ。この平和な時代を生きているすべての人を救う。すべての人の日常を守る。

 善人、悪人、どんな人間にも家族がいる。その人が死ねば泣いてくれる人がいる。なぜ人を殺してはいけないのかというか、その人を殺すことで悲しむ人がいるからだろう。人は死ぬから尊い。だからこそ、そんなに簡単に命を奪ってはいけないのだ。

 否、これは矛盾している。

 なぜなら、僕は戦闘兵器であり、人を殺す存在だから。

 矛盾に満ちた存在。

 なぜ戦う?

 なぜタリタスになった?

 僕はラグウィデスとの会話をしていて、なぜ自分がタリタスになったのか?その理由を深く考え始めるー

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