3 続・新しい仲間と特別な空
ニーナと別れたユリウスたちはいつもの教室である、教会の小部屋に入った。やはり他の子供はまだ来ておらず、ユリウスとシスターの二人だけだ。
「シスター、昨日はごめんなさい」
「え?」
「調子に乗って言い過ぎた。どこもかしこもボロボロなのはシスターが一番知ってるはずなのに。どこかに掛け合ってくれてるのも、それが応えてもらえてないのも俺も皆も知ってる。それなのに、ごめんなさい」
シスターの顔を見て話していたはずが、最後にはユリウスの目には歪んだ木の床が映っていた。身体中が強ばり、手の先が冷たくて震える。
きぃ、と木板が唸った。
「貴方は優しい子ですね」
温かな手がユリウスの頭を撫でた。
「自分が悪いと思ったことを素直に謝れるのは良いことです。ただ私は気分を害していませんので、貴方にするお返事はございません」
そっと顔を上げると、いつもの微笑みを称えたシスターがユリウスを見ていた。窓から差し込む光が優しくシスターに降り注いでいる。
「シスターって忌み子?」
「あら。なんですか、唐突に」
シスターは目を丸くしていたが、すぐにいつも笑顔に戻った。
「私は忌み子様ではありませんよ。ですが、貴方がこの催しを知っているとは驚きました」
「催し?」
次に目を丸くしたのはユリウスの方だ。
ええ、と応えたシスターは窓の外へ視線を向ける。そこには美しい青空と白い雲がある。
「今日のように珍しい空の日は、忌み子様が見回りをなさっているという言伝えがあります。それに基づき、この土地では忌み子様を探すというお祭りが開催されるのですよ」
「でも忌み子様なんていないだろ。探すだけ無駄じゃん」
「そうでもありません。大人たちがこの空の日ごとに交代で、忌み子様役を請け負って外を歩いているのです」
「へー」
「一番最初に忌み子様を見つけた子のお願いを聞く約束になっているので、忌み子様役の大人は見つからないように必死だと聞きます」
「お願いって」
ユリウスの視界が開けるような話だった。シスターにぶつかりそうな勢いで近づくと、爪先立ちをしてシスターの目を覗き込む。
「お願いって、なんでもいいの!?」
目を細めたシスターが頷くと、ユリウスは次いで尋ねた。
「じゃあ、新しい教本がほしいとか、窓枠の修理とかもいいの!?」
「そうですね、きっと大丈夫でしょう」
「俺、探してくる!」
「ニーナのこともよろしく頼みますよ」
「わかってるって!」
鼻息を荒くして部屋を出ていったユリウスを、シスターは微笑みを崩さずに見送った。