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1.田代陽菜への試練

ep1.trial for Hina.


僕は朝、銃撃の音で目が覚めた。それは、僕の目覚まし時計として毎朝役に立ってくれているかもしれない。いや、役になんか立っていない。朝は小鳥のさえずりを聴き、薄オレンジ色の朝日を浴びて、のびのびと背伸びをできるような起床をし、そのあと温かいハーブティーで心安らぐ朝を迎えるのが切なる願いだ。しかし、そんな僕の願いは叶うことなく、姉は銃を乱射する。2度寝なんて到底許されないような轟音に仕方なく1階に向かう。階段を降りると、外の的に向かってリボルバーを撃っている姉がいる。姉はこちらの存在に気付くとゆっくりとこちらに向かってくる。


「おはよ、葵。朝ごはんそこにあるから、好きに食べて。」


姉はそう言って、自分の部屋に戻る。姉の名前は田代陽菜(たしろひな)、私立朝比奈学園に通う高校三年生の優等生だ。私立朝比奈学園はこれからの世界を担う、強力な人材を育成する組織ワールドガンプロフェッショナル、略してWGPに入団することができる高校だ。

僕の姉は成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗と国の宝のような存在なので、特待生として入団できることはほとんど確実だろう。そんな姉の紹介はこの辺にしておいて、朝ごはんを頂くとしよう。今日の朝食は姉が作ってくれた、フレンチトーストだった。正直にいうと、僕は姉の料理が世界一大好きだ。シスコンとかそういうものではないが、この世のどんな食べ物にも負けないおいしさをしている。そんな幸せな感情を噛みしめて、朝食を食べ終わるとそろそろ出発の時間になっていた。

実は僕、田代葵(たしろあおい)も朝比奈学園に通う高校1年生だ。姉ほど成績優秀とは言えないが、そこそこであると自分では思っている。ここまで話していると寝起きに銃撃戦??と疑問に思うだろう。そう、僕らが暮らすこの世界はテロ組織に立ち向かうために銃の使用が完全に許可された世界である。そんな中でも、僕、田代葵と姉の田代陽菜は最強のコンビとして名を挙げている。ちなみに僕はスナイパーを使った遠距離型、姉はピストルやコンバットナイフを使った近距離型で、これまでいくつもののテロ組織を壊滅させてきた。そんなこんなで真っ白な制服を着て、護身用のピストルを入れて玄関を出る。ドアを開けた先には少し怒ったような顔をした姉が腕組をして待っている。


「おそーい!遅刻しちゃうでしょ」


「ごめんごめん、弾薬の確認してたら遅くなっちゃった」


「まあ、いいわ。今日は歩きじゃ間に合わないから、車で行くわよ。怜~!」


姉は名前を呼びながら、手を2回たたくと瞬間移動したかのように素早く少女が登場した。その見た目は思わず頭を優しく撫でてやりたくような感じだ。うん、決して僕はロリコンではないぞ。断じて違うと思う。たぶん...。彼女の名前は姉の専属メイドの怜。本名は姉しか知らない。いわゆる不思議ちゃんってやつだ。


「すでに手配しております、陽菜様。弟さんもどうぞ。」


そういうと真っ黒ないかにも高そうな車のドアを開け深くお辞儀をしている。姉と僕は車に乗り、学校へと出発した。学校には15分ほどでついた。車を降りると、大きな噴水が堂々と出迎えてくれた。すると、姉が


「帰りも車宜しくね」


と怜に告げ、それと同時に怜も深々と頭を下げた。僕も怜に軽く手を振ると、怜もにこっと笑みを浮かべた。笑ったほうがかわいいのに...。そう心の中で思った。少し歩くと校舎の玄関が見えてきた。姉は3年生なので、ここで別れた。上履きに履き替えて教室に向かっていると、1人の少女に声を掛けられた。


「おはよう。葵くん。」


白い制服に赤色のリボンでピンク色の髪が特徴的な同級生の胡桃沢瑠璃が挨拶をしてきた。


「おはよ~、るり」


僕は彼女とは結構仲がいいほうだった。なぜなら、瑠璃は僕と同じ、遠距離型のスナイパーだからだ。そして今日はるりと一緒に校外活動をすることになっている。いわゆる、実戦演習というやつだ。学校の周りには、いくつものテロ組織がありそれぞれがこの学校を潰そうと日々戦闘を仕掛けてくるのだ。普段は先生やプロの人が狙撃や交戦を行って対処しているが、今日は僕たちがそれを担当する。


「よしじゃあ、いつも通り頼むな!るり」


そういうと瑠璃は少し頬を膨らませ、不満そうな顔でこちらを見つめてくる


「いわれなくてもそうするし!」


僕はにこっと笑ってるりの頭を撫でた。瑠璃はやめろおおって言ってくるけど、僕にとってはこれが癒しだ。僕がそんなことをしていると瑠璃が困惑した顔でこちらを見てきた。


「どうした?またなんか不満か?」


と聞いてみると、瑠璃の口から意外なことがでた。


「いや、不満とかじゃなくて...瑠璃なんかが葵くんの実力と釣り合うのかなって思ってさ。普段は陽菜さんと組んでるから。」


確かに姉はほぼ最強みたい存在であり、るりが適うとは冗談でも言えないだろう。でも、必ずしも姉の実力が必要かと言われたらそうでもない。

るりとは、同じ攻撃スタイルだからこそ相性の合う行動ができる。姉と組んでいると確かに敗北を心配はないけど、僕と共同で戦っているというより姉が単独で動いているのを眺めている風に感じていた。


「僕、正直瑠璃と組んでいる方がをいいよ!だから、心配しないで。」


そう言い残して、僕は教室に向かった。

 授業を終えて、るりと待ち合わせしていた屋上へと向かった。屋上に着くとるりの姿はまだなかった。静寂に明け暮れた屋上にただ一人立って待つこと30分、るりは来ないまま実戦の時が来た。

相手の数はおよそ30人前後だろうか、正直僕一人では無理だろう。学校の玄関がしまり、学校の防衛システムが作動した。その時、一人のテロリストが声を上げているのが聞こえた。次の瞬間、とんでもない光景が僕の目を焼き付けた。瑠璃が拘束されていたのだ。口はロープで縛られ、涙を流しながらこちらを見つめいている。


「るり.....!」


僕が名前を叫ぶと、一人のテロリストがこちらを発砲してきた。その弾丸は僕の頬を擦れ、血が流れている。


「黙れ、そこのスナイパー。次しゃべったら、殺すぞ。」


テロリストはそう言うと瑠璃の頭に銃口を突き付けた。これ以上、瑠璃に痛い思いをさせたくないので抵抗することをやめた。僕は屋上から飛び降り、テロリストのほうへ手を挙げながら近づいた。


「何が目的だ。」


僕は怒り口調で、聞くと。テロリストは冷静な声色で答えた。


「この学園で一番強いやつを呼んで来い。そしたら、こいつを解放してやる。」


嫌な笑みを浮かべながら、こちらを見てきたテロリストを前に僕は考えた。この学校で一番強いやつ?僕の姉の陽菜しかいない。けど、僕は実の姉をテロリストとの交渉に使いたくはなかった。あたりまえだ。そんなことを思っていると、脳裏に一つの記憶が蘇ってきた。


「葵。お姉ちゃんはいつでも葵の味方だからね。自分が困っていたり、自分の大切な人が困っていたりしたらいつでも私を頼っていいんだからね。私は強いから心配はいらないよ!」


小学校低学年の記憶だろう。姉は本当にいつでも僕の味方だった。いじめられた時も、犬に噛まれた時も、ミスをしてしまった時も...。そんな姉を僕は


「信じるよ。」


「この学園で一番強いのは、僕の姉の田代陽菜だ。連れてくるから待っていろ。」


そういって、姉のいる教室に向かった。姉は友達と一緒に仲良くおしゃべりをしていた。ごめんね、姉さん...。


「姉さん、ちょっと。」


姉はニコニコしながらこちらに向かってきた。そして全ての事情を話すと、理解してくれたのかこちらを向いて頭を撫でてきた。


「ありがとう。頼ってくれて、私なら大丈夫。」


僕は姉と一緒に外に出て、テロリストのところに向かった。姉は相手をにらみつけている。


「この学園で一番強い、僕の姉を連れてきたぞ。さあ、るりを解放しろ。」


「この女が?笑わせるのも大概にしろよ。こんな奴のどこが....」


テロリストが言葉を言う前に仲間であろう20人前後を姉が一瞬で射殺した。


「これで分かった?だから早く解放して。」


テロリストはおびえたように、瑠璃のことを解放した。

瑠璃は僕に抱き着いて号泣した。よほど怖かったのだろう、僕は瑠璃の頭を撫でた。


「ということで、私に何の用?」


そう姉が言うと、テロリストはビビりながら


「一緒に来てもらう。ついてこい。」


といった。僕は止めようとしたが、姉を信じて止めなかった。僕はこの時、これが優しかった姉と会う最後の日になるとは思いもしなかった。

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