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リアトリス  作者: 高速処女膜
第一章 誘いの仮面編
6/25

6 再会


 ベルシュカ市の東部では青果や鮮魚などを取り扱う複数の市場が開かれており、特に未明から昼にかけて各地から運ばれてきた品物で賑わいを見せている。

 

 それらの市場の周りには活気に当てられた客達が一休みできるよう休憩所代わりのカフェが点在しており、そんなカフェの一つ、オープンテラスの座席にて一組の男女がコーヒーを楽しんでいた。


 スーツ姿の男は身長が高く、日避けのパラソルで顔が隠れてしまっている。女の方は少女と言っていい年頃の顔立ちで、足が腰掛けたイスから地面に届いていない。幼さには似合わない露出が多めなドレスが扇情的な魅力を醸していた。


 少女は足をプラプラと揺らしながら男に問いかける。

 「どーするのぉ、ご主人様ぁ? これだけ人が多くて見つけられるのかしら?」

 あどけない少女から飛び出した()()()()という言葉に隣席の商人らしき男性が少しぎょっとしている。

 ()()()()と呼ばれた男性は少しため息をついて少女に言葉を返した。

 「……はぁ、君も顔は見てるだろう? なら、アレで行こう」

 「はぁ〜い、ご主人様ぁ」

 甘ったるく返事をすると少女はイスからピョンと飛び降りて、通りがかったウェイトレスの前に移動した。

 「どうされましたか? お客様」

 少女はウェイトレスの顔を覗き込むと大きく唇の端を吊り上げ禍々しく嗤う。

 「あ……」

 ウェイトレスは三日月のように唇の端を吊り上げた少女の笑みを見た途端、()()が自分の思考を犯していくのを感じた。が、すぐに違和感は消え、目の前には少女が優しく微笑んでいる。

 「ミルクをもう一杯をお願い出来るかしらぁ。たぁ〜っぷり甘くしてね」

 「は、はい。承りました」

 ウエイトレスはつい先ほどの出来事を少しばかり訝しみながらもすぐに仕事に戻る。

 「おーい。こっちも頼む」

 「はい、伺いますね」

 注文をする客に唇の両端を吊り上げて笑いかけながら……。

 

 「これでよろしいですか? ご主人様ぁ」

 「ああ。どれくらいかかりそうかな?」

 「広い街ですしねぇ、恐らく一週間ほどで探し人に到達できるかと」

 少女の答えに男は頷く。

 「なら、その間に術式(コード)の構築を見直さないとね」

 男はそこで一度言葉を切ると、少し言いづらそうに続ける。 

 「あと、できれば人の多いところでご主人様とか呼ぶのやめてくれるかな? ほら、目立つし怪しまれるしさ……」

 男の問いかけに少女はにっこり笑った後、顔を背けた。


 「ム・リー♡」



   *  *  *



 「あれ!? 九郎君?」


 カイリが薦めた店は大通りから離れた人通りの落ち着いた場所にあるカフェ併設のパン屋だった。しばらく街を巡った後にそのお店で焼きたてのパンを堪能したのだが、どうやら従業員を募集しており、この世界での働き先の紹介を兼ねていたらしい。

 お店を経営している亜人の店主は気さくな人物で、ユーリも好感が持てた。

 クロウを見つけたのはその帰り道だった。

 昨日に着ていた黒づくめの格好ではなく、ややダブついた白シャツにサスペンダーを引っ掛けて、通りの露店で買い物をしているようだ。


 「あっ、あの!!」

 

 くいっくいっとカイリの袖を引っ張り、何事かと見やるカイリに指を指して伝える。

 カイリは少し首を傾げたが、ユーリが指さす人物を見てすぐにピンと来たようだ。


 「もしかして彼が?」

 

 頷くユーリ。

 「では、挨拶に行きましょうか」

 カイリそう言ってユーリを誘ってクロウに歩み寄る。


 「こんにちは」

 商品を眺めていたクロウは声を掛けられた方を見やる。

 「おーう。美人なねーちゃん! 逆ナンですか?」

 

 いきなり飛び出した軽い発言ににこやかに笑っていたカイリの表情が少し崩れた。

 (九郎君……)

 ユーリもやはりクロウは少しダメなところがあるのかも知れないと再認識する。

 

 「あっあの、昨日はありがとうございました!」

 

 少しカイリに隠れるようにしながらユーリが感謝を伝える。


 「んー? ユーリちゃんじゃん。案内所にはちゃんと行った?」

 「はい。今こちらのカイリさんに働けるところを紹介してもらったところです」

 「あー、案内所の人なんだ。こーむいんさんだね。真面目そうだしお似合いかも」

 

 ユーリはハハっと笑うクロウにカイリの怒気が増した気がした。


 「クロウさんですね。ユーリさんの案内ありがとうございます。定期的に騎士の巡回があるとはいえここは外境ですから、この世界に来たばかりの方が獣や悪魔に襲われてしまう事があります。ユーリさんが無事ここまで来られたのは貴方のおかげでしょう。感謝致します」

 「あーいいよいいよ。たまたま悪魔の臭いがしたから行ってみただけだしね。ユーリちゃんはラッキーだったんだよ」

 「悪魔の臭い? ……あなたは」

 

 ボソリと呟き何かを言おうとしたカイリだったが、それを遮るようにユーリが少し興奮気味にクロウに話しかける。


 「九郎君、さっき案内所に騎士の人が来てたよ。九郎君を捕まえるって!」

 「騎士?」

 怪訝な表情のクロウにカイリが説明する。

 「私はどちらかと言えばあなたの捕縛に協力する義務があるのですが……まぁユーリちゃんを助けて頂きましたし、情報だけでもお伝えしましょう。マギクラッド導国の騎士があなたを追ってこの街にいます。ベルシュカ市は広いですが、本格的に騎士を動員して捜索が始まればすぐに見つかるでしょう」

 「あんた優しいんだな。しかし俺を追ってる騎士ね……エウレカおじさんかな?」

 「九郎君……」

 「安心してよユーリちゃん。あの人多分俺を捕まえる気なんてないと思うんだよね。結構長い間追われてるんだけど捕まってないし、やる気なさそうだもんねあの人」

 

(確かにあまり熱心そうには見えなかったけど)

 クロウの言葉にユーリは案内所に来ていたエウレカの様子を思い出す。

 

 「クロウさん。あなたは各地で騎士団で揉め事を起こしていると聞きましたが、本当なのですか?」

 

 カイリが真面目な顔で尋ねる。

 その質問に対してクロウはニヤリと笑った。

 

 「さーてね。俺は俺のやりたいように生きてるだけだからな」

 「…………」

 「大丈夫だよユーリちゃん。俺、そんなに悪いことはしてないからさ。多分」

 

 笑顔を浮かべながらユーリに向かってそう言うクロウ。


 「九郎君は良い人だと思いますけど……正直ちょっと不審です」

 「……不審って」

 ガクッと肩を落とすクロウ。


 「先ほども申しましたが、私は本来エウレカ卿にあなたのことを報告すべき立場です。今お会いしたことも騎士団に報告させて頂きます。あと……」

 

 少し厳しい表情を浮かべたカイリがそこまで言った後にやや言い渋る。


 「……今回は私たちから声を掛けましたが、今後はなるべくユーリさんには近づかないようお願い致します。指名手配の身の上であるあなたに近づけばどんな不幸が起こるか分かりませんので」

 「か、カイリさん!」

 「ハッ、その美人さんの言ってることは正しいよ。大丈夫さ。ちょいと野暮用を片付けたらすぐにこの街を離れるつもりだから。じゃあな、ユーリちゃんと美人さん。元気でな」


 慌てるユーリ。それを遮るようにクロウは別れを告げると、そのまま後手に手を振りながら雑踏の中に消えて行った。


 「すみません、ユーリちゃん。余計な事でしたね」


 ユーリもカイリが自分を気遣っているからこその事だとは分かっている。


 「ううん。ありがとうカイリさん……。多分、またどこかで会えると思います」

 「そうですね。私もユーリちゃんのことは精一杯サポートさせて頂きます!」


 そう言ってカイリはユーリの手を引く。


 「では案内所に帰りましょうか」

 「はい!」


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