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リアトリス  作者: 高速処女膜
第一章 誘いの仮面編
21/25

18 光と影の狂騒①


 「おいおい、誰が耐えられないって?」


 

 「なっ!?」

 様子のおかしいユーリを注視していた電子の仮面(ディスプレイ)は突然聞こえてきた声に対して罅の入った仮面が動揺を表すかのように激しく明滅する。

 「なぜ……君は……」

 先ほどまで倒れていたクロウがふらふらと立ち上がっていた。

 「九郎……君?」

 「はっは、ユーリちゃん。もしかして泣いてんの?」

 「九郎君!!」

 そこでユーリは異変に気付く。

 クロウを中心に周囲の地面に黒い何かが集まっている。

 徐々により濃く、そして深く色を増しつつ蠢くのはクロウの影だ。

 「これは……まさか」

 濃密な影は不吉に揺れながら広げた鳥類の両翼を象り、そのままクロウを包み込むように足元から体に絡みついていく。

 

 「……〈影の魔王〉」

 

 その様子を見ていたイリーヤがぼそりと呟いた。

 影は形を成してクロウの体に薄い鎧のように張り付く。

 「さっきの攻撃が引き金だったのか――いや、彼がユーリ君(光の王)と出会ったことが〈魔王〉を呼び起こしたのか……」

 「ご主人様ぁ、〈魔王〉の出現は想定外よ。撤退した方が……」

 一人呟く電子の仮面(ディスプレイ)にイリーヤがかけ寄りながら告げる。

 クロウが纏う影。〈光の王〉である電子の仮面(ディスプレイ)にとってはこうして目にするだけで本能が最大級の警鐘を鳴らしている。

 (彼が〈魔王〉なら僕のアドバンテージは搔き消える。〈影の魔王〉は〈光の王〉を喰らい世界を滅ぼす厄災。あの影に攻撃を受ければ僕はただ呑まれるだけだ)

 しかし、電子の仮面(ディスプレイ)は不利を悟りながらも踏みとどまった。

 (〈魔王〉の討伐は騎士の役目だが、ここは僕がやるしかないようだね。ここまできて失敗は出来ない)


 「本来、〈魔王〉は出現が確認されれば公爵(デューク)クラスの〈鏡の騎士〉が総出で抹殺する。だけど覚醒したての今なら僕らだけでも始末可能だろう。()()を用意してくれるか」

 「ならアタシがやるわぁ。悪魔のアタシなら奴の影に邪魔されずに戦えるしぃ」

 「相性はマシだろうが君には荷が重い。身を隠して隙を伺え」

 「ですが、アレはご主人様の天敵ーー」

 

 「作戦会議は終わったか?」

 

 食い下がるイリーヤにクロウが割り込んだ。

 「こっちはまーた間抜けにも殺されかけてイライラしてんのよ」

 影の動きは落ち着きクロウの手足を鎧のように覆っている。

 (何が何だか分からねーが、どうやらまだ戦えそうだな)

 クロウにもこの影が何なのかはよく分かっていない。しかし、電子の仮面(ディスプレイ)達の様子から自身にとって優位な状況であると嗅ぎ取っていた。


 「で、いつまで抱えてんだ?」

 言葉と同時にクロウが踏み込む。

 即座に反応した電子の仮面(ディスプレイ)がユーリを抱えたままもう片方の手にナイフを出現させカウンター気味に振り抜いたのに対し、クロウは前腕を覆う影を盾にする。

 「――!!」

 ナイフは影の鎧を纏ったクロウの腕に触れた瞬間、飲み込まれるように削れていく。

 (やはり、間違いないか)

 そのままクロウの放った前蹴りで吹き飛ぶ電子の仮面(ディスプレイ)

 ユーリは電子の仮面(ディスプレイ)が吹き飛び様に手から離れて再びクロウに抱えられた。

 「おかえり~」

 こちらを見てヘラヘラと笑うクロウにユーリは少しだけ"声"の存在を忘れた。

 「あ、ありがとう九郎君」

 「だからクロウだって」

 そうしてお互いに笑う。

 

 『チッ。殺セ。殺セ。サァ、全部殺シテ壊シテシマエ!』

 

 "声"が二人の様子に苛立つように捲し立てる。"声"から伝わる負の感情はユーリの精神に影響を及ぼし、普段のユーリからは考えられないほど興奮状態にあった。

 「九郎君……どうしよう。頭の中で声が聞こえるの……。いつもの私じゃなくなってる。イライラして暴れたくて仕方がないの……誰かを傷つけちゃいそうで怖い」

 体の内側から強い衝動が溢れ出てくる。理性の枷を弾き飛ばし、感情のままに壊し、奪い、蹂躙の限りを尽くそうとする。耐えるユーリだが自分の意思に反して唇の端が暴力の喜悦に歪む。

 (これが悪魔召喚の影響なのか? 随分と荒っぽい野郎が居やがるんだな)

 歪んだ表情を浮かべるユーリにクロウが問いかけた。

 

 「お前はどうしたいんだ?」

 

 (どうしたい……? 私を苦しめるアイツらが嫌だ。九郎君を巻き込んでしまったのも許せない。他にも犠牲者がいるのも許せない…………だから、私は……)

 

 「私は……あの人たちのことが許せないよ」

 「――だったら思いっきり暴れれば良い」

 クロウはニヤリと笑った。

 「でもな、その"声"って奴に従って仕方なく暴れるんじゃないんだぜ。ユーリちゃんがアイツらをぶっ潰してやりたいから暴れるんだ」

 「私が……」

 少々直情的な性格とはいえ、誰かに暴力を振るったことなんてユーリにはなかった。

 (暴れる?)

 「まだ胸に大穴開けられた借りが返せてねぇからな。俺はあの仮面を潰す。女の方は任せるよ。全力でやってやれ」

 そう言うとクロウは仮面の男に向かっていく。

 「私は……」

 

 『殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ』

 

 (九郎君は私のためにずっと戦ってくれてる。何度傷ついても立ち上がって支えてくれている)

 クロウはきっと自分の生き方に従っているだけなのだろう。必要だと思えば危険にためらいなく飛び込む。何でここまでユーリを助けに来てくれたのか、ユーリにはクロウの考えは分からない。

 (私に出来ることがあるなら……やるべきだ)


 『殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ』


 (私も九郎君の力になろう)

 ユーリは今まで戦い方なんて習ったことはないし、命がけの戦いなんて当然初めてだ。

 しかし今ユーリを激しく突き動かす"声"は戦いに怯える心すら破壊と殺戮の興奮で塗りつぶそうとし、ユーリの中に不本意ながらも手に入れた力が今にも飛び出そうと暴れくるっている。


 『殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ。殺セ』


 「あなたは暴れて、殺して、全部無茶苦茶にしたいんだよね」

 ユーリが"声"に問いかけた。

 『――――ソウダ。アタシハコノ世界ノ全テガ憎イ』

 「なら、手伝いなさい」

 『オ前ガアタシニ命令スルツモリカ? 何ノ力モナイガキガ』

 「あなたに任せると九郎君も襲っちゃうでしょう?」

 『全テ壊テ殺シテ……ソウスレバ、満タサレル。苦シマナクテイイ』

 (詳しくは分からないけど、きっとそれほどまでに辛いことがあったのね)

 ユーリには先ほどから怒りや憎しみ以外にも悲しみや絶望の感情も流れ込んでいる。

 

 「分かったわ。なら私がいつか好きなだけ暴れていい機会をあげる。だから、今は従いなさい」

 

 ユーリが強気に命令する。

 『オ前ガ? 笑ワセル』

 ユーリの言葉を嘲る"声"。

 しかし、言葉とは裏腹に少しだけ流れ込んでいた感情が緩やかになる。

 

 『マァ、イイダロウ。フフ、フフフフフフ。溺レナイヨウニ使ッテミナ』

 

 "声"が笑うと同時に凄まじい衝動と力が流れ込んでくる。

 「あああああ、あああぁ!!」

 "声"の強烈な意識にたまらず喘ぐユーリ。

 (――まだ、なにもしてない! しっかりしなさい由有莉!!)

 ユーリは自身に活を入れ、フラフラと立ち上がる。


 「ふぅん。やっぱり召喚はちゃんと成功していたのかしら? といっても暴走気味みたいね」

 何とか立ち上がったユーリを少し離れたところでイリーヤが眺めていた。

 「予定ならアイツの力は完全に縛り上げるはず。どうみても漏れてるわよね~」

 「あなたは……」

 「アンタを殺すわけにはいかないのよね。じっとしてれば何もしないけど?」

 イリーヤはニコリと笑ってユーリに提案する。

 しかしこの場は電子の仮面(ディスプレイ)とイリーヤの二人をどうにかしないことにはクロウと逃げることなどできないだろう。

 ユーリは流れ込む意識と力に朦朧としながらもイリーヤに向け無意識のままに構えた。

 それを見たイリーヤが嗤う。

 

 「アンタもアイツも一度嬲ってやりたかったのよね。じゃ、手足の二・三本なくなっても文句言わないでね!!」

 

 イリーヤが腕を振り下ろすと同時にユーリの上空の空間が引き裂きながら数本の巨大な爪が襲い掛かる。

 本来のユーリなら反応すらできない一撃。

 しかし"声"の力が流れ込んだユーリは僅かな気配に即座に反応した。


 ガッッ!!

 

 軽く上げた手で爪の一本を鷲掴みにして受け止める。

 手の平が裂け鮮血が舞うがユーリのか細い手はしっかりとイリーヤの攻撃を止めていた。

 

 「――っな!?」


 イリーヤが驚愕する。


 ミシミシ――バキッ!!

 

 そのまま嫌な音を立てて爪を握りつぶし、引きちぎる。


 「ァァァァァアアアア!!!!」


 イリーヤが自身の指を押さえて悲鳴を上げる。

 その指からはポタ、ポタと血が流れ落ちている。


 「格下ノ雑魚ガ、何ヲ呑気ナ攻撃ヲシテイル?」


 ユーリの口から普段のユーリとは異なるややハスキーな女の声がこぼれ出た。


 「この、イラつく声……クソ女。どいつもこいつも……コロス」


 先ほどまでの妖艶な表情から怒気を漲らせた表情に変わったイリーヤが爪を一振りして姿を隠す。


 (これじゃどこから――)

 『サァ、モットモット壊セ。ソノタメノ”力”ヲクレテヤル』


 "声"が姿を消したイリーヤに戸惑うユーリに更に力を送り込んでくる。

 

 (うぅ……意識が……)

 

 激情に流されそうになるのをこらえるユーリ。その両手の前腕部分からズルりと皮膚を切り裂いて赤黒い刃が現れる。

 薄く鋭利なその刃はドクドクと脈打つように蠢いていた。

 

 『使イ方ハ、分カルナ?』

 

 "声"の語りかけにユーリが頷く。流れ込む力と同時に思考や感覚も"声"とユーリと混同していっているような気がしていた。

 その気持ち悪さと同時に、冴えわたる感覚がやるべきことを導いてくれる。

 ユーリは地を蹴り命令を待って周囲に控えていた悪魔に近づいた。

 そして悪魔が反応する前に刃を突き刺す。

 

 「ギギギギ」

 

 唸る悪魔がどんどんとしぼんでいく。

 

 「キキ……」

 

 かすかな断末魔が聞こえる頃には悪魔はミイラのように渇いていた。


 『アアアァ!!! 不味イッ!!』


 "声"が苛立っているのが伝わってくるがユーリは次々と悪魔を刃で引き裂き、啜る。


 「チッ! 失せろ!!」


 イリーヤが残っている悪魔を撤退させるが、ユーリは既に十分な量を吸い上げていた。

 細腕から伸びる刃は厚みを増し、禍々しい気配を放っている。

 ユーリはダランと両の刃を垂らして周囲の気配に集中した。


 「さぁ、どっからでも来なさい。返り討ちにしてあげるから」


 (小娘が!! 舐め腐りやがって)

 ユーリの背後にイリーヤが現れ巨大な爪を突き入れるが、ユーリは反応が遅れるものの跳ね上がった身体能力だけで身を捩って躱す。そしてそのまま両の刃で爪の生えた手を無作為に切り刻んだ。

 「ぐぅぅ!!」

 「不意打チバカリダナ。芸ガナイ」

 痛みに呻くイリーヤをユーリの中の悪魔が嘲笑った。


 (やっぱりあの女相手に真っ向勝負じゃキツイわねぇ……ユーリちゃんも能力は不明だけど〈光の王〉。力を使いこなされれば悪魔の私は不利……仕方ないわね)

 イリーヤが片手を上げる。

 「〈血の暴動(レッドスローター)〉、今までアンタとはやり合ったことはなかったわよねぇ?」

 そのまま片手を振り下ろすと爪が空間を引き裂いて再度イリーヤの姿を隠す。


 (何をする気?)


 シュガ!!

 

 ユーリが身構えた瞬間左右から爪が迫る。

 (この程度なら!)


 ユーリは爪を真っ向から受け止める。

 『マダダ!!』

 「えっ!?」

 "声"がユーリに呼びかけるが遅く、真上でガバりと開く大顎が見えた。

 ユーリの周囲を吸い上げた血液が渦巻き大顎の牙から身を守ろうと構える。

 その時、大顎の内側――デロンと伸びた下の先が変化しイリーヤの上半身の姿を取る。

 

 「ウフフ、いらっしゃいユーリちゃん。招待してあげるわ……」


 イリーヤは両手を広げ抱擁するようにユーリに両腕を伸ばしその頬を撫でる。

 (な、何なの?)

 戸惑うユーリ。

 そのまま大顎はパックリとその腔内にユーリを吞み込んだ。


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