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リアトリス  作者: 高速処女膜
第一章 誘いの仮面編
12/25

11 光の王


 どこかも分からぬ廃墟と化した街の中心。かつては露店が集い多くの人々が憩っていたであろう朽ちた広場の近くに、不自然に小綺麗な建物があった。

 その一室にて、向かいに座るユーリに対して教鞭でも取るような口振りでコツコツとテーブルを指で叩きながら仮面の男が話し始める。


 「〈光の王〉はこの世界を導くためにやってくると言われている。異なる世界からここに来て、皆自然と組織を率い、国を持つ」

 そう言って電子の仮面(ディスプレイ)はユーリに仮面を向ける。


 「ときにユーリちゃん。この世界は何でできていると思う?」


 「何って……原子とか?」

 ユーリも原子だの素粒子だのとなんとなく聞き覚えはあるが詳しく理解はしていない。


 「そうだね。鏡の国の住人は色々な世界から来ているようだし例外もあるのだろうけど、大抵は極小の物質が集まって世界を成しているのだろうね」

 電子の仮面(ディスプレイ)は勿体ぶるように少し間をおいた。


 「でもね、ここは――鏡の国は()でできているんだよ」


 (光? どういうこと??)

 ユーリには電子の仮面(ディスプレイ)が何を言っているのか分からず頭の中に疑問符が浮かぶ。


 電子の仮面(ディスプレイ)は訝しげなユーリの様子を見ながら、ユーリの前に置かれた空のカップを手に取った。


 「これは鏡の国で作られたカップだけど、〈光の王〉であれば簡単にこれを純金に変えることができる。つまり光が物質を形作っていて、その光そのものを司る〈光の王〉は、この世界においては万物を生み出すも減らすも、変えてしまうことも思いのまま……ということだね」


 なるほどと理解はするもののユーリには話が大き過ぎて少しピンと来なかった。


 カップをテーブルに戻した電子の仮面(ディスプレイ)はそこに蓋をするように手を置く。

 「つまり、こういうことも出来るわけだ」

 一瞬、電子の仮面(ディスプレイ)の仮面の表示が切り替わり、文字列が高速で流れた。

 手をどかすと空だったカップには並々と水が入っている。


 「異なる世界から鏡の国に来た者には様々な異能者がいるけど、これは鏡の国独自の術で燦術(さんじゅつ)と呼ぶ。これくらいはその辺の(さん)術士でも可能だけど、彼らは〈光の王〉から光の力(フラグメント)を与えられることで燦術(さんじゅつ)が使えるようになる代わりに国家にその存在を厳しく管理される」


 そこで電子の仮面(ディスプレイ)はチッチと指を振った。

 「でもね、この力はバッテリーの中の電力みたいなもので、あくまで有限。なくなれば補充が必要になる。しかし、〈光の王〉当人であれば使える力は無制限だ。それこそ瞬きする間に巨大な城塞を築くこともできれば、山や川を創造することもできる。そして、術の最奥に至ればこの世界の法則にすら干渉できる」


 (何でも生み出せるなら便利そうだけど……ん?)

 ユーリは電子の仮面(ディスプレイ)の言葉にそんなことを考えていたがそこで思い出す。


 「それが私ってこと?」


 「フフ、まぁ練度は必要だよ。大抵の王はそこまで力を伸ばす前に滅ぼされる。そして今回はその神にも等しい権能を持つ者が僕には必要なのさ」

 そう言って電子の仮面(ディスプレイ)は立ち上がった。


 「おしゃべりはここまでにしよう。僕は少々用事があるからね」


 そう言い残して立ち去ろうとする電子の仮面(ディスプレイ)


 (分かんないことだらけだけど……)


 「あの、私、この国に来て色んな人に親切にしてもらったから。だから、この世界は結構気に入っているんです」

 「うん?」

 「私に出来ることなんてないかも知れないけど、その人達に迷惑掛けるくらいなら、ここで舌噛み切って死ぬつもりです!」


 「……………………」


 ユーリの啖呵に電子の仮面(ディスプレイ)は少しポカンとしているようだった。イリーアも紅茶を啜りながらバカにしたような目をユーリに向けている。


 (いや、間抜けなことを言っているのは自分でも分かるけど……)


 「クク、フハハハハハ」

 突如大笑いを上げる電子の仮面(ディスプレイ)


 「な、何ですか!」

 「いや失礼。まぁせいぜい頑張ってくれ。自死は無駄だと思うけどね。即死しない限り死なせやしないよ」

 ひとしきり笑うと電子の仮面(ディスプレイ)はイリーヤに指示を出した。


 「ユーリちゃんが勝手に死なないようにお目付け役よろしく。日が暮れるまでには戻ってくるよ」

 そう言い部屋から立ち去っていく。


 (思いっきり馬鹿にされたかな? でもただ言いなりになるのも悔しいし)


 「フフッ、そういうおバカな無謀さ私も嫌いじゃあないけどね。でも、余計なことはしないでね。面倒臭いし」

 イリーヤにも制止を喰らう。


 (まぁ、自殺は無理そうね。痛そうだし……)



 * * *



 「ったく。何で僕がこんな目に……」

 そうぼやきながらもそもそと昼食を食べているのはスクエアの黒縁眼鏡を掛けた無精髭の中年男、エウレカである。

 クロウに面会した後、上司への報告や仮面の男捜索の為の打ち合わせに捜査範囲の絞り込みなど、彼にしては珍しいことに忙しく働いていた。

 今食事をしている騎士団支部内の食堂に来ることができたのも昼下がりになってのことであった。

 

 仕事嫌いなエウレカがこの激務に追われる身になった理由は一週間ほど前に遡る。

 

 ソル=ソレイユ煌国辺境、豊かな緑と湖の景色が有名なシェスタという村に一軒だけ存在する宿酒場でエウレカはのんびりと過ごしていた。

 といっても手配犯を追う任務は課せられてはいるのだが、今追っている相手は騎士団相手に少々トラブルを起こしているだけで、民間人に手を出すタイプではないとエウレカはみていた。


 そんなわけで捜査の名目であちこちを観光しながら過ごしている。

 もちろん上司からの評価は下がりっぱなしではあるが……。


 (もうこの世界でやりたい事もやるべき事もないしね。クビになれたらのんびり隠居できるんだけどねぇ)


 そうぼんやり考えながらコーヒーを啜っていたエウレカの端末が震える。取り出した端末に表示された名前を見たエウレカは顔を顰めた。

 (やれやれ、また小言かな?)

 そう考えつつ端末のボタンを押す。

 「はい、こちらエウレカ・オーツ。如何されましたか、課長殿?」

 『ああ、エウレカ君。良かったすぐに出てくれて』

 電話の相手は少し慌てている様子で、どうやらいつもの小言ではなさそうである。

 『ソル=ソレイユ煌国のベルシュカ市は知っているか? ”例の件”でベルシュカ市に派遣していた騎士が消息を絶った。まだ状況は掴めていないが、当たりを引いた可能性がある』

 課長の話にエウレカの表情も堅くなった。

 『ベルシュカ市方面に一番近いのは君だ。こちらにバレるリスクを取っても騎士を始末したとすれば、事態は差し迫っている可能性がある。早急にベルシュカ市へ向かってくれないか?』

 「あー、こちらはもう少しでホシの位置を掴めそうでして、数日中には捕まえられるかと考えているのですが……」

 それを聞いた課長は深々とため息をついた。

 『エウレカ君、元の君の立場を考えるとこんな部署に左遷させられた境遇には同情するけどね。仕事は仕事だ。私が庇いきれなくなる前にもう少し働かないとね』

 「いや、左遷させられたわけでは……」

 研究者を辞めて騎士団に来たのはエウレカ自身の希望ではあるが、今更詳しく説明する気力はエウレカにはなかった。

 「……分かりました。こちらの捜査は切り上げてベルシュカ市に向かいます」

 『よろしく頼む。〈黒の教典〉が関連するなら君は適任だろうしね。ただ、君の実力は信用しているがあまり先走らずにこちらに応援を要請してくれ。私もベルシュカ市の騎士団に協力を仰いでおく』

 そう告げられ通信を切ったエウレカはげんなりとした顔で残っていたコーヒーを一気に飲み干した。

 (どの道、今追ってる彼はこのままだとベルシュカ市方面に向かうだろうし、丁度いいと言えなくもないけど……)

 そうしてエウレカはベルシュカ市までやって来たのだが。


 (〈黒の教典〉関連の案件、下手すれば王の側近、〈公爵〉(デューク)クラスが出張ってくるな……ま、なるようになるしかないのか)

 食事を終えたエウレカはそう考えて深くため息を付く。

 マギクラッド導国の騎士団は〈黒の教典〉が奪われた事件に関して犯人が向かう可能性のある各所に捜査員を派遣していた。今回連絡が取れなくなった捜査員は不用意に踏み込み過ぎたのだろう。

 (馬鹿野郎が。死んじまったら何の意味もなくなるんだよ……)

 ベルシュカ市に派遣されていた騎士に面識があるわけではない。仲間が死ぬのだって数多く経験して来た。もっと大切な人も。


 (……気に入らない。か)

 エウレカの脳裏に今朝のクロウの言葉が蘇る。

 (僕も少しだけ自分に素直にならないといけないかな)

 ほんの僅かであるがエウレカは自身の心に火が灯るのを感じる。


 「ともかく、まずは()()についてスケッチ少佐と再度確認をしておくべきだな」

 エウレカはそう呟くと勢いよく席から立ち上がり、司令室に向かうために彼にしては早足で歩み始めた。





 「おい、アンタ。ちゃんと食器は返却口に戻さないと!」

 

 「あー、はい。すみません……」

 

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