巨大な夕陽
絵莉姉が島を出ていって2ヶ月が経ち、俺は時々あの日約束をした海岸に放課後、足を運ぶようになっていた。
「きゅーちゃん、行くよ」いつもみたいに言うと
『はやく、いこういこう。』と声が返ってくる。
声が聞こえるようになったのはきゅーちゃんと出会ってからすぐだった。他の人は当然そのことを言じてくれなかった。
でも唯一バカにしないですごい、と言ってくれたのは絵莉姉だったんだ。
そんなことを思い出しながら歩いているといつの間にか砂浜についていた。
「キューちゃん。海綺麗だね」
『きれい、ね。ほんとに。」
俺にとってそんな何気ない会話をしていると、背後から砂の踏まれる音がした。
振り向くと後ろには、どこかの学校のヤンキー6.7人がいた。
「おいお前だーれと話してんだあ??」
先頭に立っていたのヤンキーが喋りながらおれの膝の上を見る。
しまった、と思った瞬間ヤンキーが吹き出す。
「おーーーいこいつぬいぐるみ抱えてるぞー!」
周りのやつらも同時に笑い出す。
「きもすぎーW」
その言葉に頭の中で何かが切れた音がした。
気づいたときには体が動いていた。
「おい、今なんだって?」
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この人数差で俺が勝てるわけがなかった。
殴られ蹴られ、でもあきらめなかった。
きゅーちゃんのためだったらなんでもできる自信があったんだ。
周りを見るといつもより大きな夕陽が傾いていた。少しの間気絶していたらしい。
なんだか妙に頭が軽い気がする。
「い、たい」
突然声が聞こえた。
キューちゃんを助けないと!
そう思い体を起き上がらせようと手を見ると、俺手がふわふわの毛で覆われていた。
『う、うわああああ!?』
自分の声が脳内に響く。
『なんだ、この体!?』
全身ふわふわの茶色の毛で覆われていた。まるでキューちゃんみたいにーー
隣を見ると、巨大な”俺”が倒れていた。