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勉強会

 生まれ変わって初めての夜が明けた。

 蒲生咲希改めラパン・ヴィラール公爵令嬢の生存のための戦いの幕が開く。


 まず何より大事なのは知識の吸収だ。

 あたしはこの世界について何ひとつ知らない。リシェスの説明も半分以上はチンプンカンプンだった。このザマではとうてい生き残れない。

 でも幸いなことにこの部屋には元の持ち主が向学のために持ち込んだたくさんの書物がある。

 そしてあたしはその本をすべて読むことができる。この世界の言葉と文字は前世と変わらない。つまり勉強したい放題なのだ。これは本当にありがたい。


「まさか勉強できることに心から感謝する日が来るとはね」


 香菜子ちゃんに付き合って進学校に通っていたけど成績は下から数えた方が断然早いアホの子だったあたしが机にかじりつき必死にノートにペンを走らせている。

 学校でやってる暗記大会には興味なくても生存のための知識ならいくらでもどん欲になれるって母さんに教えてあげたいわ。


「今日中に本棚にある本すべて頭に叩き込む!」


 下段の本の重要箇所をすべてノートに書き写した。

 次は中段だけどあたしは転生前も後も背が低いからこの高さでも背伸びしないといけない。

 脚立を出すほどでもない微妙な高さというのがまた厄介だわ。でもこうやってがんばればもしかしたら背が伸びるかも。


「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃっ!!!」


 うおおおおおおおおおっ! 届けあたしの腕ええええええええええぇぇっ! ゴムゴムのおおおぉぉぉぉぉっ!!


「何をやっているんですか」


 あたしが体をゴムのように伸ばす努力をしていると来客用テーブルで静かに読書をしていたリシェスが代わりに本を取ってくれた。


「言ってくだされば本ぐらい取りますよ」

「ありがとう。でも余計なお世話よ。あなたにはあなたの仕事があるでしょう」

「おれの仕事はあなたの護衛です。先日失態を犯したばかりでまたすぐ隊に戻ればむしろ怪しまれます」

「確かにそれはその通りね。精一杯がんばってあたしを監視しなさい」


 イヤミを言ったつもりだったけどリシェスは心底もうしわけなさそうに俯いた。

 嫌ね、これじゃまるであたしが悪役みたいじゃない。そういえば今のあたしは悪役令嬢だったわ。だったらまあいいか……。


「わからないことがあれば何でも質問してください。できる限り答えられるよう努力します。それとこの砦には書庫があります。ご要望とあれば取りにいきますが」

「この砦って魔物討伐の前線基地だったのよね。なんでそんなモノがあるのよ」

「砦の主は任務遂行後にここを別荘として使うつもりだったのかもしれませんね。結局のところそれは甘い見積もりだったわけですが」


 この砦はラパン様が建てたものではない。

 森に逃げ込んだ際にたまたま見つけたものらしい。

 けっこう新しめの建物なのに無人だったってことは、まあ……お察しよね。

 戦った形跡があまりないから部隊壊滅とまではいってないでしょうけど、あたしたちはここを失ったらお終いだからしっかり守らないと。そのためにもまずは知識よ。


「あたしにはとにかく時間がない。本日は魔物に襲われて傷心だという名目で引きこもって勉強しまくるからあなたも付き合うなら覚悟することね。とりま書庫の本はあるだけ全部運んできなさい」

「御意」


 リシェスは頭を下げるとすぐに部屋を出て書庫から本を山ほど持ってきた。


「さすがにすべて読破は無理ですので私から見てタメになると思うものを厳選して持ってきました」

「助かるわ。質問があれば呼ぶから後は好きにしてていいわよ」


 あたしはリシェスに労いの言葉をかけてから再び机にかじりついた。


 結局この日は一日中外に出ることなく勉強に明け暮れた。前世における一生分ぐらいの勉強をしたけれど、ぜんぜん辛いとは感じなかった。

 頭の中に入ってきた知識がすべて自分の血肉になるこの感覚――学びがこんなにも楽しいことだって生まれて初めて知ったのよ。


 あっ、あと最後まで付き合ってくれたリシェスにも少しだけ感謝してあげる。

 くだらない質問にも嫌な顔ひとつせず答えてくれてありがとうね。あなたはあたしにとって人生はじめての、本当の意味での教師かもしれないわ。

いつもご愛読ありがとうございます

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