表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/36

質問

「剣を向けられている理由をお聞きしたいのだけれどいいかしら」


 あたしはできる限り冷静さを装って男の子に質問した。


「どうやら調査不足のようだから教えてやるがラパン様は左利きだ。右手でドアノブを握ったりはしない」


 そりゃそうでしょう。あたしは今さっきここに堕ちてきたばかりなのだから。


「それにあの御方は部下に感謝の言葉など決して口にはしない。自分に尽くすのは当たり前の事だと思っているからだ。次に化ける機会があるなら気をつけることだな」


 まあそれは酷い。たとえ事前に聞いていてもそれは真似できなかったかも。さすがは地獄に墜ちるような悪女ね。


「改めて問うがキサマはいったい何者だ。人間社会に紛れ込もうとしている魔族か。だとしたら人選を間違えているがな」


「あたしは魔族ではないわ」


 無駄にでかい胸で男を誑かす悪女と呼ばれたことはあるけど魔族ではないと思う。たぶん。


「あなたは彼女のこの遺書を読んだかしら?」

「読んだから慌てて捜索に出かけたのだ」

「だったら話が早いわ。ここに書かれている『次のあたし』っていうのがあたしのことだと思うわ。たぶんね」


 男の子の顔には動揺が見て取れた。

 当然か。あたしが彼の立場でもにわかには信じられない。


「……その話は真実か?」

「わからない。でもそうとしか思えないってだけよ。気づいたら彼女の顔で消えゆく彼女の近くにいた。それ以上のことは何もわからない」

「こちらを向け。おれの目を見て話せ」


 言われた通りにすると男の子があたしの顔を真正面から見つめてくる。


「君の本当の名は?」

「蒲生咲希。友達からはウサキって呼ばれてるわ」


 ちょ、ちょ、ちょっと顔が近いわよ。

 こんな状況だっていうのにな、なんだか胸がドキドキしちゃうじゃない……!


「きれいな瞳だな」


 男の子に褒められるとあたしの心臓はまるでウサギみたいにピョンと跳ねた。


「どうやらウソはついていないようだ。君のことを信じよう。おれの名はリシェス、ラパン親衛隊1番隊隊長を務めている」


 リシェスは微笑み剣を納めた。どうやら誤解が解けたみたいだ。

 あたしのほうは内心のドキドキを絶対に表に出すまいと歯を食いしばって必死にしかめっ面をしていた。


「あたしの言うこと簡単に信じてくれるのね」

「これでも人を見る目はあるほうだ。君は人を騙すのに向いていないな。しかし君がラパン様の代役だとしたら本人はもう……」


 主の死を理解したリシェスは顔を曇らせる。


「この地獄からようやく抜け出せて良かった……と思うことにしよう」


 リシェスの言葉にあたしも同意する。

 彼女は後悔の念を口にしていたけれど、それでも神は彼女を哀れみ救ってくれたと、そう信じるしかない。


「ねえリシェスさん、あたしはこれからどうすればいい?」


 あたしの質問にリシェスは考え込む素振りをみせる。


「……ひとまずはラパン様を演じてもらうしかあるまい。あの御方が逝去されたとあらば我々の士気に影響がでる。できれば最後まで隠し通したい」


 その提案にあたしはわずかに眉をひそめた。

 沸騰していた頭の中がようやく冷える。


「……確かにそうよね。何より大事なのは部隊の士気だわ。正論ね」

「聞き分けがよくて助かる。一緒にこの窮地を切り抜けよう」


 あなたたちの事情はさっぱりわからないけど、こんな森の中で籠城してるのだから何かしらの窮地に陥っていることぐらいは予想できる。

 そんな中でたぶん上役のお嬢様が死んだとなれば後で重い責任が発生する。この窮地を脱しても報償ではなく罰が待っているとなればバカバカしいってことで離脱する者も当然現れる。部隊壊滅の危機を免れるにはひとまず代役を立てるしかない。


「ただひとつだけ。あなたデリカシーがないってよく言われない?」

「なんだ藪から棒に」


 でもね、あなたの言う通りあたしは詐欺師には向いてない。他人を騙すのはどうしても気が引けるから。

 そんなあたしに何の躊躇もなく身代わりを提案するなんて……その無神経にはちょっとガッカリよ。

 人を見る目があるそうだけど、結局あなたはあたしのことを何もわかっていない。ラパン様もあなたのそんなところに失望して自殺を決意したのかもしれないわね。

いつもご愛読ありがとうございます

☆☆☆☆☆を押して評価していただけると執筆活動の励みになります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ