27 鑑定の合間に
ギルドに入り、ローラさんに軽く手を上げ挨拶をしてから直接解体所に行く。
素材を出した後、解体係のおじさんに番号札を貰ってから何組か待ちが生じている受付に並び、5分ぐらい待っていると順番が回ってきた。
「ローラさん、20階層突破しました」
「えっ!おめでとう!これでB級名乗ってもいいね!解体所から確認がきたらカード更新しておくね!」
そう言って笑顔を見せるローラさん。
「あっ、もちろん疑ってるわけじゃないよ?決まりだから…」
「はい。分かってます。それよりカタリナとクローリーで20階層ボスを倒して、宝箱から弓と槍が出たので見て貰えますか?」
「えっ?2人で?あっイテイオくんは、そっか。じゃあ確認するね」
僕の過去の経緯を知っているローラさんは、2人でボス戦を行った意味を理解し、少し気まずそうにしたが、カウンターに置かれた弓と槍を見て鑑定係のいつもの女性を呼んでいた。
僕はもう一度願った。高くあれ!
僕たちの背後には誰もいなかったためとりあえずその場で待った。
暫くすると鑑定作業が終わったようで、メモを手渡されたローラさんが僕たちに向き直った。
◆◇◆◇◆
あの日はいつもの様に先輩たちと別れて歩いていた。
駅のホームでいつもの電車を待つと定時に電車は入ってくる。
「おいおい!危ないだろ!」
後ろの方が何やら騒がしい。少し離れた場所でおじさん2人が言い争いからの取っ組み合いをしているようだ。いいです!もっとやれです!心の中でエールを送っておく。
「迷惑な大人たちです!危険でーす!」
口ではそう言っておく。対面は大事。
そんなことをつぶやきながら、そろそろホームに入って来るだろう何時もの電車が、遠くの方に見えたのを確認していた。
次の瞬間、背後から「ああ」とおじいちゃんのような声が聞こえ、また振り向いた。
おそらく喧嘩しているおじさんたちに押されたであろうおじいちゃんが、こちらに向かってヨロヨロと倒れ込んできたようだ。私はそれを何とか支えようと身構えた。
…が、支えきれずホームから落ち、お尻を打って「うぐっ」と呻いた。
「痛いです!でもじいちゃんは無事です!私凄いです!」
そう言って助けたおじいちゃんを見ると、かなり慌てふためいていた。
横からは『プワー』とかいう危険な音が聞こえてくる。
「これ、死んだでーす!」
私の最後の言葉だった。
けれど死ぬほどの痛みが引いて目を開けると、目の前には神様を名乗る不審な男が立っていて「チートなライフはいかが?」と言われ、拳を高くつき上げ「聖女がいいでーす!」と宣言してしまった。
自称神様は軽いテンションで「オッケー!」と言ってそこで一旦記憶が途切れているので、その時に私はこの世界へと飛ばされたのだろう。
私の要望通り正教国という国でも『聖女』を多数輩出している名門、クタミシェワ家の6女となって生まれた。って言う事を神託の儀が始まる直後、10才になって思い出す。
その時は頭の中がパニックになって、思わず何か出ちゃうかと思った。
それでも無事に『聖女』と認定された私は、早速『聖教会』という組織に囲われた。多少自由のない生活になる様だがまあ良いだろう。
そう思いながらも聖女になるための教育として近隣の国々や儀式に関する基礎知識などを詰め込まれる。
さっきまで現役高校生だった気分の私は、古い知識はポイッと忘却の彼方にして新しい知識をドンドン暗記できてしまった。
教育係の先輩の神官は貴族出身でうざいけど『聖女』である私の方が立場が上の様で、こめかみをいつもヒクつかせて私のご機嫌取をしていた。
そんな私に隣国である帝国、そしてさらに東の王国の街へと施しを授けるよう聖教会のトップ、教皇に命じられる。
「ボスに言われたらしかたないでーす!それにしても、何人聖女がいるですかー!」
なんて愚痴ってみるがそのぐらいは勘弁してほしい。
聖女となって喜んだものの、私にそう命じた教皇もまた聖女。次世代教皇候補として集められた聖女は私を入れて8名。それぞれが聖女教育を受け、4年に一度の神官たちによる投票でその教皇を決めるのそうだ。
「4年に一度とかまるでなんたーらカップのようでーす!」
馬車の中でぼやいてみるが、お付きのメイドには伝わらなかったようで、表情を一切崩さない。愛想のないメイドで道中が苦痛だった。
そして無事帝都で役目を終え、王国へ向かってすぐに馬車が急に止まり、なんだろう?と思ったらメイドがドアを開け、思いっきり突き飛ばされた。
慌てて護衛に助けを求めたがどうやら護衛も敵側だったようで、こちらをニヤニヤ見ならが剣を抜いていた。後は必死に馬車の中のメイドの袖をつかんで入れ替わるように這い上がったのだ。
「ざまあみろでーす!」
泣きそうな顔になったメイドに力いっぱいそう叫んだあと、馬車のドアを全力で閉め、馬車に設置されている結界装置を発動し、それに私も魔力を注ぎ続けて助けをまったのだ。
途中で馬車がひっくり返され戸惑っていたが、それでも必死に願った。
「また死ぬのは嫌なのでーす!」
そんな出来事もあったが、今は優しい2人に助けられ、中々楽しい異世界ライフを送っている。
2人を見ているとまるで先輩たちのように見える。
きっとこの2人もラブラブな仲なのだろう。いずれエッチな彼是だってしちゃうんだろう。私はそれを偶然を装って覗いてしまうんだ。いわゆるラッキースケベと言うやつだ。ちょっと違うかな?
前世ではそれなりに楽しみつつも、いずれくっ付いたであろう先輩たちを見守っていたけど、ここは異世界だ。愛人でも妾でもなんでも良いから、私も勇気を出してみようかな?
鑑定待ちで笑いながら見つめ合っている2人を見て、そう思った。
「どうなるか楽しみでーす!」
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