1/1
あの日の夜
目を覚ますと、そこには誰もいなかった。
それはまるで、全部夢だったのかのように。
部屋に残る微かな香水の匂いだけが、あれは現実なんだと教えてくれた。
***
微かな香水の匂い。
ほんのり香るシャンプーのように、ナチュラルで清潔感のある優しい香りだった。
あの香りが街中でするたびに、あの香りと同じような匂いがするごとに、
僕はいつも振り向いてしまう。
あの人が帰ってきたのではないかと。
あの匂いがするたびに、今日もまた、あの日のことを思い出す。
君が突然いなくなったあの日のこと。あの寒かった夜のことを。