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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

それは結局闇の中

作者: 広野狼



 暗い夜道。まばらな街灯は、時折切れかけているように、ちらちらと瞬いているようだった。

一本逸れれば住宅街の明かりが見えるが、ぐっと街灯が減って、逆に闇が濃くなる。

歩き慣れている道とはいえ、こんな夜更けに一人で歩くのは、やはりぞっとしない。

とはいえ、自宅に帰るというのに、道連れが居るはずもなく、この道を一人歩く意外に帰る道もない。

 「うー。やっぱりお金貯めて、もうちょっと大通りに引っ越すかな」

もしくは、もう少し大通りを通る道のある場所であれば良いのだが。

いや、最大は、この残業続きの所為であるのは確かだ。

変な噂は聞かないものの、夜道、しかも、深夜深けきった一時過ぎ、夜道を女一人で歩くのは、やはり不用心に思える。

出来れば定時に帰りたいのはやまやまだったが、今は、色々と立て込んで、一人で定時に帰るわけにも行かず、かといって、ここまで遅くなるのもどうかと思う。

 「明日は、もうちょっと早く帰らせてもらおう」

なんだか闇になにかが紛れているように感じて、ついつい独り言が多くなる。

いっそ誰かと通話をしたいくらいだが、こんな時間にかけて出て貰えるような、不規則な生活の友人はいない。

今にもヒタリと、足音が聞こえてきそうで、振り向きたいような。振り向きたくないような。そんな、何とも言えない気分になってくる。

明日はいっそ、インターネットカフェにでも泊まろうか。着替えは、朝持って行けば良いだけだし、今やシャワーのないところも珍しい。

いや、もういっそ、ネットで安い宿でも探して、週末まで泊まったらどうだろう。

そんな風に、この道を通らずにすむ方法を模索し始めた。


 ぱきっ


自分の踏み出した足よりも遅く、なにかを踏みしめる音がした。

真っ暗ではないお陰で、余計に怖い。見通しきれない闇の中に、なにかが隠れているのではと、そんな妄想に浸りそうになりながら、きっと猫かなにかだろうと、自分に言い聞かせた。

だって、ぱきっと音がしただけで、何一つ足音がしていないのだ。

足音がしないようなのは、人間であることは少ないはず。犬なら犬で、怖い。この辺りに野犬は出ないだろうが、野良犬はいるかも知れない。まして、大型犬だったりして、それが気の荒い犬だったりしたら、どう考えても抵抗できない。

そんな恐ろしいことを想像するくらいなら、野良猫だと思った方がマシだ。

 「……」

なにかを言いたい。声を出したい。そうして、この何とも言えない雰囲気を誤魔化したい。

けれども、ちらっと頭によぎった恐怖が、言葉を奪い声が出ない。震えそうになる唇を動かしては見たものの、何を言えば良いのか。

何でも良い、とにかく声を出してみよう。

そう思い、口を開けた時。

 「あ゛ぁ」

まるで自分の口を借りたかのように、濁った妙な音が響いた。

声と言うには、濁っていて、音と言うには、何だか人間味を感じる。人ではない。動物でもない。なら何かと問われても、なになんて言えるはずもない。

ほんの瞬き一つの瞬間で、ぞっと鳥肌が立った。

一瞬もここに居たくない。けれども走り出すことも出来ず、その時自分の出来る最大の早足で、自宅に戻った。

玄関の鍵を閉めると、一気に緊張が切れて、ガクガクと足が震えているのに気が付く。

呼吸が浅くなっていたみたいで、どっと汗が噴き出し、ずるりとその場にへたり込んだ。

 「こ、怖かったぁ」

もしかして、なんて、ちらりと思ったが、それは考えないことにする。

少なくとも人ではないと思う。人だったらもっと怖い。そうなら、もしかしたら、ここまで付いてこられてるかも知れない。

いやもうたらればは考えないことにしよう。

明日は、流石に日付が変わる前には帰らせてもらおう。

こんな気持ちで毎日過ごしたら、精神的にもたない。いや、こんな時間になるのが毎日なんてなったら、体力的にももたないけど。

明日は早く帰って、しっかりと眠ろう。もしかしたら、疲れたせいで、幻覚とか幻聴とか、そういうのを見たか聞いた貸したのかも知れない。

 「よし、明日は早く帰ろう。その前にお風呂にちゃちゃっと入って眠らなきゃ」

その日は、手早くシャワーだけ浴びて、すぐさま就寝した。




 翌日、夜通った道を歩けば、やはりなんてことない普通の道で、やっぱり昨日のことは気のせいだったんだなと思う。

とはいえ、気のせいじゃなかったことを確かめたくはないので、今日は早く帰ろう。


 半日仕事が終わって、ぐったりとしながら、昼食を取るため立ち上がる。

 「お昼一緒しよ」

たまにお昼を一緒に採ってる子が声を掛けてきた。

あまりこうして声を掛けてくる子じゃなくて、どっちかと言えば、私が声を掛けて誘っていることが多かった。

なんで突然声を掛けてきたんだろうと思いながらも、別に断る理由もなくて。

 「良いよ。どこで食べる?」

 「近くのカラオケボックスでやってるランチ気になってたんだ。でも、一人だとちょっと気後れして」

彼女の言葉に、納得をする。さすがにあの空間で一人は寂しい。

 「確かにそれは気後れするわ。他の人は誘わなくても良いの?」

 「誘えるほど仲のいい人は、もうランチ行っちゃったり、お弁当だったりして、誘えなかったんだ」

その言葉に、ふっと時計を見れば、昼の時間は既に十五分ほど経っていた。

 「これは、私たちも急がないと」

件のカラオケは、会社の入っているビルの向かい側にある。便利の良いことに、地下でビルが繋がっているので、雨の日も安心だ。

彼女は、降りるエレベーターの中で、予約を入れてくれている。ランチは、二種類しかないらしいので、二人で別の物を頼む。

準備が良いと感心しながら、正味五分ほどでカラオケボックスに入れた。

 「ここは地下で繋がってるから楽でいいね」

出ていたおしぼりで手を拭きながら、彼女に言えば。

 「ホント、このビル、飲食店とかいっぱい入ってて助かる」

ニコニコしながら、返事が返ってきた。

程なく運ばれてきたランチは、どうやらこのビルに入っている飲食店が作ってくれているらしい。

 「ここのカラオケボックスで作ってんのかと思ったら」

カトラリーに付いていたペーパーナプキンに、しっかりと店の名前が入っていて、ちょっと笑ってしまう。

 「ある意味味の保証がある上に、待ち時間なくて楽だね」

彼女はさっさと食べ始めながら、そう言った。

確かに、あらかじめ決めた料理を何食か作り置いて貰っているのか、提供は凄く早い。

ランチにあぶれそうになったら、ここに来るのもありかなと、そんなことを考えていると。

 「そう言えば、昨日凄く遅かったみたいだけど、帰り道、大丈夫だった?」

思い出したというように、彼女はそんなことを言った。

 「そうなんだよ。終電間近で駅に着いたときには、日付変わっててさ。しんと静まり返った夜道が不気味で不気味で」

あの夜道の不気味さを思い出して、ちょっと肩をすくめた。

 「深夜だもんね。なんか、変なものが追いかけてきそうで怖いよね」

彼女の言葉に、なんだか引っかかるものを感じながら、「そうそう」と、相槌を打つ。

 「そう言えば、帰り道って、暗いの?」

 「住宅街だからね。街灯はあるけど、人通りもないし、車も余り通らない道だから、さすがに昨日は本当に怖かったよ」

そう返事を返すと、彼女はちょっと迷うような仕種をする。

なんとなく、彼女がここに誘ったのは、人に聞かれたくない話をするためなんじゃないかと、今更ながらに気が付いた。

 「ねえ、なんか、言いたいことあるんじゃない?」

長引かせるのもどうかと思い、スパッと切り出せば、彼女はちょっとだけ迷った仕種をしてから、観念したように口を開いた。

 「別にね。霊感あるとか、霊が見えるとかはないんだよ。ただ、嫌な予感って外れたことなくってさ。あなたを見たとき、凄く嫌な予感がしたの。それって、もしかして、昨日夜遅かったせいなのかなって思って。まあ、ほら、ただの勘だから、絶対当たるって決まってるわけでもないし。ただでも、頭の片隅に残ってたら、何かの足しになるかな、程度なんだ」

自分でもおかしな事を言っていると思ってるのだろう。話し出した彼女は、まくし立てるように、言葉を紡ぐ。

 「ごめん。変なこと言ってるよね」

私の表情をみて、落ち着いたのか、落ち込んだのか、彼女は、力なく謝罪の言葉を口にした。

 「いや、まあ、良い気分じゃないけど、昨日のことは、私もちょっと気になってて。

忠告ありがとう。また何かあったら、引っ越しも考えるよ。昨日も、せめて大通り沿いにした方がいいかなって思ってた所だったしね」 

 「本当ごめんね。言って、何かの足しになればって思ったら。

ううん。自己満足だね。言わないで何かあったら後悔しそうで。でも、こんな勘なんて不確かなこと言われても困るよね」

ここに来ても、彼女が逡巡してたのは分かってた。それでも言葉にしたのは、おそらく今言ったことが全部なんだろう。

 「心配してくれたってのは分かってるから、もう、いいよ」

謝られても対処に困るというのが本心だけど、それを言う必要も無い。聞いてしまった以上、どうしたって、それが頭に残るし、謝られたところで、それが消えるわけじゃない。

こういうのが呪詛なのかな。言霊とか、まあ、言い方は色々あるんだろうけど。

何とも気持ちの悪い気分になりながら、早々に引っ越そうと、心に決める。




 その後、あの忙しさの合間を縫って、引っ越しを強行した。

なぜか上手い具合に、自分の理想とした部屋が空いていたからだ。

なんでも、子供さんと一緒に暮らすのに出て行ったとのことで、事故物件とかではないらしい。タイミングも場所も良すぎて、瑕疵ありかとドキドキとしてしまったが、そうではなくて良かった。

少しばかり家賃も上がってしまったが、その分部屋も広くなり、小動物なら飼っても良いらしいと、良いこと尽くめだ。

引っ越しして一年ほど経った、すっかりとあの恐怖も忘れた頃だ。

私が以前住んでいた、そう、彼女が嫌な感じがすると言ったあのアパートへの通り道。あそこで深夜、事件があったらしい。

女性が通り魔に襲われたとのこと。命は助かったらしいが、たいそうな怪我をしたと、ニュースにもなった。

それを聞いて、なぜか、私が住んでいたあの部屋の住人だったんじゃないか、なんて思ったけれど、それを確かめる術はない。

彼女に嫌な予感がすると言われたときの、あの、何とも言えない嫌な気分を思い出し、一つ溜息を吐いた。

あれは、彼女に言われたことに感じたのか、それとも、あの部屋に対してのことなのか、今となっては定かではない。

ただ、彼女の言葉を聞き入れて、引っ越しをしたお陰で、少なくとも通り魔に遭わずにはすんだのは確かだ。

一抹の罪悪感を感じるのを誤魔化すように、一年経って、果たして彼女に礼を言うべきなのかなんて、そんなどうでも良いことを考えた。

でも、私が感じたのは、人じゃなかったはずだ。果たして、これが偶然だったのか、それとも、始まりなのか。

それを詳らかにしたいとも思わないし、出来るはずもない。

 「やっぱり、しばらくは彼女に声は掛けないでおこう」

決定的ななにかを言われてしまいたくなくて、私は消極的にこの事実から目を逸らすことにした。


とりあえず、自分が怖いなって思うものを誇張して、怪談というか、なんとも言えない、はっきりとしないラストになりました。

いや、ある意味形にならないのが、一番怖いかな。


とかもっともらしいことを言っておく。


とりあえず、通り魔とか、怪我の具合の話とかをちょろっとしているので、R15にして、残酷描写有りにしてるけど、言うほどのものはないとは思っている。

ただ、規定を見ると、R15にちょっと引っかかるっぽいので、付けないでだめって言われるよりつけとこって感じです。

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