【第96話】失態
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
スピネル
ゾイ
アイカ
アクロ・アイト
イト
「お前ら、協力してくれ」
メイトは三人を前にして、大した気持ちも込めずに頭を下げた。三人はいきなり告げられた助力の申し出に顔を見合わせる。
「な、なんのこと?」
アイカが問う。
「……イトと戦う……それに、協力して欲しい」
切願するような微かに震えた声音に、三人は理解する、本気なのだと。
「いいよ、メイトの為になるなら」
「もともと私はあなたのそのお願いに付き合わされてるんですけど……今更すぎないですか」
「おねぇちゃん強がりはいいから、手伝いたいんでしょ? もちろん、片足突っ込んだのは私だからね、手伝うよ」
ゾイは不敵に笑う。スピネルもアイカも、メイトに助けられたのは事実、その恩返しと言ったところだろう。
「助かる」
メイトは、猜疑心に満たされる、感謝の気持ちなんてない脳内を、深々と下げた。
――――――――――――――――――――
アクロは作戦通り、翌日にメイトの元へ足を運んでいた、校長との戦いを示す為に。
「確かメイトを見たと言う奴が言ってた場所は……この辺りか」
と、そいつはアクロの視線の先にいた。
図書室で、木製の豪華な椅子に、足を投げ出し座面の前面の部分に腰をつき、背もたれに肩をかけ頭を後ろに倒す姿は、まるで事切れた人形のようであった。
「おぅアクロ、やっと来やがったな」
「悪い、色々情報を集めていたら遅れてしまったんだ」
「いやその情報をどうやって集めるかを話すんじゃなかったのかよ、せっかちだな、まぁ助かるけど」
「ハハ、すまないね――じゃ始めようか」
アクロは軽くあしらいながら苦笑する。メイトの向こう側の席に座ろうと手をかける。
「あ、その席校則で座ったら退学になるようになってるぜ」
「――ッ」
その言葉で、ほぼ椅子に腰を落としていたアクロは残り数センチのところで瞬時に片手で椅子をどかした。
どけられた椅子はすごい勢いで飛んでいき壁に当たった。アクロはバランスを崩したが、なんとか転ばずに立つ。
「……あ、危なかった……」
こんな所でヘマを犯すわけにはいかないな――。
「悪い、嘘だ」
メイトのそれは冗談を言うような声ではなく、まるで機械のように抑揚のない声だった。
アクロは不覚にも真顔で沈黙しいつもの爽やかな顔を瓦解させた、そしてほんの少し、怒りを覚えた。
「……悪い冗談だな」
アクロは先ほど吹っ飛ばした椅子を魔法で手繰り寄せ、元々の位置に置き直す。
若干の躊躇を挟み、椅子の座面に尻をつける。
――退学しない、やはり、ただの嘘。
アクロは少しばかりの怒りと困惑が沸々を湧き上がるのを抑え、冷静な瞳でメイトを見据える。
「じゃあ、さっそく始めようか」
「の、前に」
始めようとしたアクロを、メイトは右上を一瞥してから遮る。
まだ何かするのかと、アクロは口を閉じる。
「俺はまだお前を信用していない、心とか建前とかそんなことじゃないんだ、ただお前が本当に一位たる力と知を持ってると信じていない」
「あぁ、まぁ当然のことだ、俺がメイトの立場でもそう思うだろう……じゃ俺はどうすればいい? 信頼してもらうには」
遠回るな……と、内心ため息を吐くアクロは務めて妥当で間違っていない回答をする。
「だから、俺に付き合ってゲームしてくれ……あくまでも俺が信頼したいから」
初めて、メイトの声に色が灯った。
「いいよ、ゲームくらい、なんのゲーム?」
どうせいらない信頼だ、なんとか誤魔化せばいいだろう。
「ありがとう……なんのゲームか……そうだな、題して……題して……」
メイトは適当に命題しようと思ったが、思いつかない。
あれ、昔はスラスラ思いついたんだけどな。
メイトは腕を組んで首を傾げる。が、まぁいいやと、腕を下ろす。
「まぁそれはいいだろ、出てこいー」
メイトが本棚の裏に向かって声を出す。それにアクロが振り返ると、そこから三人の人間が出てきた。
――なッ……。
一人は小紫色の肩ほどまでの髪の女の子、その顔にはまるでこちらを読んだかのように、誰とも似ても似つかない人間の仮面が付けられている。
もう一人は、まごうごとなきアイカであった。そして謙遜するように控えめに呟いた。
「ど、どうも、"アイカ・トイナ"です……」
――そして、最後に出てきた人物は全く知らない女の子だった。
「やっほー、私キアナ・ローゼ! よろしくね!」
き、キア……誰だ?
「あ、あぁどうも」
「じゃあ始めるぞ、ゲーム」
メイトは立ち上がり、女の子たちの隣に立った。
「こいつらの中の、『今日トイレに行っていない人間』を当ててみろ」
もはや命令のようにゲームを説明したメイトは、上からアクロを見下す。
それを把握して、アクロは目を細めてこっそり冷や汗をかく。
マズいな、間違いなく私を狙っている。
まず最初の問題、スピネルが仮面をつけていること。私の『ラプラスの悪魔』の使用可能条件である『相手の顔と名前』が必要なことを調べているのだろう。
二つ、三人目のキアナとかいう知らない女の過去未来を読もうとしても読むことができないこと。変装魔法の感知もしないし、おそらく偽名だろう。名前が不明で未来が読めるのかどうか、か……。
メイトが示したこのゲーム、目的は私が『ラプラスの悪魔』つまり『通信相手』であることを確認しようとしている。アイカもフルネームを名乗ったのもそういうことだろう。
スピネル、顔×名前×。
キアナ、顔◯名前×。
アイカ、顔◯名前◯。
この構図、私が過去を読めるのはアイカのみ。仮にアイカの過去未来を見てトイレに行ってないことを知って、それを言えば、メイトは私への疑いが深まるだろう。
同時に、未来を読める条件として『顔と名前』であることもバレてしまう。
後者はそこまで問題ないが、私が『ラプラスの悪魔』とバレることはなんとしても避けなければならない。
「さぁ、誰だと思う?」
メイトは抑揚のない声音で軽く手を三人に向けて、アクロに回答を求める。
「これは……ただの運か?」
「違う、勝手に魔法でもなんでも使ってくれ」
……参ったな……たった今アイカの過去を見た、結果、アイカはトイレに行っていた。
つまり、正解はアイカだ。しかしそれを簡単に言い当てることはメイトに大きな疑問を抱いてしまうだろう。
そこまで考えて、アクロは根幹の疑問を浮かばせる。
だが、それでどうなる? 疑いが大きくなって大して問題あるか? 確かにメイトからの信頼は無くなるだろうが、だからと言って協力しないとは言ってない。
ここは適当に外して……いや、逆に当てて……ふむ。
余裕の笑みを内心浮かべながら、アクロは顎に手をやる。と、その時メイトが「あ」と思い出したように付け加える。
「もし、これを外したら二度とお前に従わないし、俺の言うことを聞いてもらう」
……簡単に言ってのけるなメイト……。
そのペナルティーは、アクロの余裕を酷く簡単に潰した。
困るな、メイトが私に従わなくなるのは大いに困る。なら、勝たないといけない。
アイカ……。
アクロはジロッとアイカに視線を向ける。と、その時、真顔で固まる。
なんだ、この未来は。
アイカの向かう絶対の未来は、私がアイカを指名した未来が見えた。
――未来を見ることはまるで"自分"すら否定するような神の所業で恐れ多く、過去を見ることだけに力を使っていた――。
そして、目を疑ったのはその一寸先の未来。
……苦しそうに歪んだ顔で、私の腹を、隠し持っていた剣で刺す未来。私は上手く捌いたようだ。
なんだ、これもメイトが想定したことなんだろうが……なんだこれ? なんの意味がある?
しかし、私がアイカを指定することは確定したこと、私が覗いた未来が変わることは絶対にない、どれだけ時間をかけても私は最後には必ずアイカを指定するのだ。
なら、と。
「じゃー、アイカで」
アクロはさも適当です感を出しながら答えた。それにメイトは一瞬沈黙し"一考"した後、アイカの方向にチラッと視線を配る。
と、その時。
アイカはローブによって隠されていた短剣を、背中のポケットから取り出して、アクロに向かって振り上げた。
風貌と殺気からして、間違いなく殺す気だろう。おかしい話だ、意味も不明だ、それでも今この瞬間目の前の事態は事実なのだ。
なら。
アクロは深沈たる隙のない洗練された動きで、アイカの振り下ろされる腕を掴んだ。
その瞬間、アクロにゾワッと悪寒が駆け巡る。刹那、視線を巡らし周りを確認する。
アイカと同じように、殺傷能力高めの刀を自分に向けるスピネルとキアナ、アイカよりも早く、息のあった動きだ。
「――ッ」
咄嗟に、アクロは防御魔法を使い二人の刃を防ぐ。魔法に当たった反動で刀は二人の手元を離れ、飛んでいき金属音を立てながら回転し止まる。
「危なかった……」
アクロが未だ刺そうとカチカチと震えるアイカの腕を掴んだまま呟く。
メイトがアイカの肩に触れて、作戦の終了を示す。するとアイカはゆっくり力を抜き、刀を下ろす。
「……ふぅ」
先ほどまでの激烈の殺意の籠った顔はどこへいったのやら、演技に疲れたように顔を下げてため息を吐く。
刀が吹っ飛んでいった二人は、チラッと目配せし合った後、移動してメイトの横に立つ。
自然に、場の中心に立つのはメイトになる。
「――……やはりお前とは協力しない、今、お前は俺の敵だと認識した、全面的に対立する、もう変わらない」
やられた……――!
アクロは自分の犯した失態に、柄にもなく本気で後悔の念が浮かび、顔を歪ませた。それを表に出さないことはできずに、顔を俯かせていた。
ご精読ありがとうございました!
毎週平日の朝、投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!




