【第95話】始動
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
スピネル
ゾイ
アイカ
アクロ・アイト
イト
誰だ、誰なんだ……『君』って誰なんだ……――。
メイトは忘れてしまった、消えてしまった記憶に"その人"がいることは思い出した。
だが誰なのか、どんな人なのかは、遠く昔見た白昼夢のように掠れていて思い出せない。
「ぬー……」
少しばかり不快感が解消されたメイトは、声にならない唸り声をあげ、雨音を聞く。
「うわー、降ってるねー」
「そうだな、こっちおいで」
「うん」
学習棟を出た玄関にて、メイトは厚黒い雨雲と土砂降りの外を眺めて立ち尽くしていた。
生徒寮までの数分の道のりくらい走ってもいいのだが、なんとなく濡れたくないし思いふけたい気分だったので、雨が小降りになるのを待っていた。
隣のカップルの快談を耳から耳に流しながら茫然と濡れて真っ黒になった地面を見る。
あー来そう来そう……デジャヴだ、また来る――。
「――あら誰かと思ったらメイトじゃない、何してるの」
その声に、向かってきていたデジャヴはフッと踵を返して消えた。メイトはジロッと忌々しげな視線を背後に向ける。
「あ、スピネル……いや、ちょっと、な」
彼女は肩甲骨ほどまでの小紫色の髪を揺らしながらこちらに歩いてきていた。これから帰るのか肩にカバンを掛けている。
「意外と降ってるわね」
するとスピネルは指を振って魔法を使う。すると自分の頭上に円形の魔法陣が生まれる。
「いいなぁお前は雨が防げる手段があって」
「むしろこれくらいのことできないほうがおかしいんだけれどね、一体何をしてきたんですかこれまで」
「俺の場合は一点集中型なんだよ」
「へぇそうですか凄いですね、私は逆にいろんなのを習得しました、結果今こうして濡れずに帰れるんですけどね」
まったく、この女は変わらないな。
「お前の皮肉口直したらどうだ? だいぶ酷いぞ、特に俺に対して」
「あら、事実を述べたまでなんですけど」
「このアマ……」
とまぁ、大抵俺が言い負けるのが定番となっている。別に苛立ちもないし不快感もないから構わないけどな。
と、その時、隣のカップルが目に入る。
小さな彼女さんが高身長で随分チャラそうな男の傍らにひっつくように並び、男の魔法の下で雨に濡れないように歩いていた。
いわゆる『相合傘』というやつである。
それにしてもパッと目測、145と185くらいだろう、これが『身長差萌え』ってか。別に羨ましくないし興味もないが、自分の性でああいうの見ると嫌悪感を抱いてしまうのだ。実に情けない限りである。
「じゃ行きましょうか」
「そうだな」
俺はスピネルがもう一つ作った魔法の下に入る。カップルの声が耳に入り、チラッと見る。
「大丈夫? 濡れてない?」
「ううん、大丈夫だよありがと。あ、肩濡れてるよ、ほらもっとこっち寄って」
「ごめんありがとう、でも君のためなら肩が濡れるくらいどうってことないよ」
「――もう、バカ……」
「……はっ」
普通に単純に純粋にキモくて嘲笑してしまった。すると男がスッと振り返ってきた。
ヤベ、聞かれたか。
そして男が状況を理解する、透明人間は隣の女の魔法の下にいると。
つまり、男は女にやらせていると。それは"男"として恥であると考える。
ニヤニヤとメイトに嘲笑を向けた後、前に向き直る。
「んだあいつ……」
なんか知らんが笑われたメイトは、怒りではなく本当にあんな気色悪いやつが存在することに困惑していた。
「……」
存在するなら仕方ない、それはそれとして笑った仕返しはする――――。
「っわっ!」
「あ!」
メイトは魔法で男に足をかけて転ばせた、男の服は泥まみれである。女は可哀想なので転ばせなかった。
まぁひっついてて男と一緒に転びそうになったのを俺が助けたんだけどな。
「いてて……」
「だ、大丈夫?」
「ごめんありがとう……」
男は女の手を握りながら立ち上がる、その時横目で彼女の後ろを通って行ったメイトとスピネルにキッと邪険の視線を向けた。
メイトは事故後の反応対応を気にすることなく、転ばれたことに満足して、そのまま歩いて行く。
「さっきの人、メイトですか?」
「ん? まぁな」
「……サラッと酷いことしますね」
「悪いとは思ってねぇよ、どうせこの出来事もあいつらの話の話題になんだろ、むしろ平凡な生活にスパイスを加えてあげたことに感謝してほしいな」
「暴論すぎるでしょ」
この淡白さ、やはりスピネルは話していて不快感がない。
しかし、もし仮に足りない"誰か"がいれば、俺はどうしたのだろうか……――。
黒い雲を見つめて、メイトは考えた。
――考えても無駄か、そもそもそんな人実際にいないのだから。どこまでいっても、結局は少し不思議なデジャヴなだけなんだから。
――――――――――――――――――――
「では、"対象"は接触してきたんですか………」
八階のある一室、イトと校長が自室としている部屋である。イトは必要最低限の物資で生活してきたが、校長は他の部屋から毛布やベット、クッションなどを勝手に運び込み、部屋はまるで引き篭もりの部屋と化していた。
「うむ、昨日連絡が来た、ミューゼの元にメイトが接触したそうだ、図書館でね」
メイトの予想通り、イトの指示で校長から指示を出させていた。『透明人間に近づき、他の生徒に関する質問を聞いたら報告せよ』と。
「そうですか、詳しい会話をお願いします」
自分より一回り大きいフードを着てフードを被るイト。静かで揺らぎのない声音で問う。
「よかろう――」
校長は瞑目し、ミューゼから聞いた会話を一寸違わず思い出し、口に出していく。
――ここ、いいですか――――。
校長はロボットのように語り出したのに対し、イトは目を丸くして、集中して聞く。
「――クラスの男女差ってどれだけありましたっけ?」
「男女差ですか……"1"です」
男女差……1……。
イトは机を指で叩く。
「あれ、確か男15で女14でしたよね、さすが特異魔法科、人が少ないですよね」
……逆……男の数が多い……疑心。
イトは更に、机を中指で叩いた。
まずアクロの性転換が疑われているのは事実として、"対象"から見れば『例のゲームを挑んだ時だけ女だった』もしくは『コーラルの嘘』と解釈するか。
「――あと、"学校に来ない人"とかはどうしますか?」
……来ない人……私のこと……詮索……八階立ち入り禁止者を詮索するのは違和感はない……アクロが私と校長は仲間のことを言ったしそもそも校長が仲間になったのは"対象"が言い出したこと、それを考慮すれば遠回しに訊くのもそこまで……。
……"対象"の次することは校長を倒すこと、校長について問わないのは何故。
アクロとの約束の時に知ればいいと思っているのか、舐められている……?
それとも校長を倒す予定はない? そもそも"対象"が校長を狙う必然性はない。なら、アクロは見限られている……。
もし"対象"の狙いがあくまで私だけなら……。
イトは、ごくっと固唾を飲もうとしたが喉に詰まり飲むことはしない。
いや、問題はないか。
私だけが目的でも校長諸共倒すのでも、私の計画は変わらない。予定調和をすればいい、世界は常に望む方へ進む。
そして、イトは薬指で机を叩く。
"対象だけ"をゲーム相手としここで例のゲームをする。取り巻きの女たちには校長が刺し向けばいい、アクロもいい感じに動いてくれればそれでいい。
なにも不都合はない。世界は"必ずの事実"を辿れば"必ずの未来"へと進む、これが絶対不変の真実。
イトは変わらず真顔のまま、確信していた。それに校長は聞いてるのか? と疑う瞳にを向けつつ、話を続ける。
「もういいのですか? えぇ是非頑張ってくださいね――……以上が報告にあった会話の一部始終だ」
「把握しました」
校長のミスではなくミューゼの解釈により、『透明人間に近づき、他の生徒に関する質問を聞いたら報告せよ』の命令に適さないと判断し、割愛したデジャヴの件。
勿論、それをイトが知る由もない。
「では始めましょう……明日から作戦を決行します」
イトはそう、静かで揺らぎのない、確固たる信念と覚悟が含まれた声音で、言い切った。
ご精読ありがとうございました!
毎週平日の朝、投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!




