【第94話】君
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
スピネル
ゾイ
アイカ
アクロ・アイト
イト
降臨魔法……特別な術式で組まれた物で、空想の生物などをその場に一定の時間のみ降臨させる魔法。召喚魔法とごっちゃになりそうだが、実際大した差はない。
メイトがいるのは、たまーに暇つぶしとして足を運んでいた図書室、異世界言語を読むのがめんどくさくてあまり好んでは来ていなかったが、一つ気になったことがあり、今日は重い足を無理やり前に出して来ていた。
して、現在メイトが読んでいるのは、昨日数日前アクロが言っていた、天使化したアイカの処置、それは降臨魔法らしい。
と言うことで調べてみたが。
なんだこれ、たったこれだけの説明か、後半適当じゃない? 後は、えーと……魔法の組み方くらいか……。
メイトはその分厚く重量感のある本を、棚に戻した。魔法で持っていたので重さに関して問題はない。
本当に有能な力である。
「しかし、アクロはいつ来るんだよ、あれからもう一週間経つぞ、なんか準備でもしてんのか……まぁいいんだけどさ」
こちらとしてもイトの情報が欲しいとは思っているし、そのために時間が必要なのも事実。それに校長とゲームするなら対策を練ることも必要だろう。
メイトは大きな文庫本が凛然と並ぶ巨大な棚を間をぶらぶら闊歩しながら考える。
アクロ目線、八階以降を立ち入り禁止にしたのは校長であり、イトはその助っ人でも考えているのだろう。だから狙いはイトではなく校長とした。
実際は校長が助っ人で、イトが主犯だ。
互いに狙いは違えど、校長を倒せは芋蔓式でイトも倒せるかもしれない。
なら、やはりアクロと一時的に結託して校長を倒すことは悪手ではない、か。
そこはいい、いいのだがやはり校長とならば些か奇想天外な魔法やゲームを使用又は要求してくるだろう、アクロが受けた事実を賭けた天秤ゲーム含め、そこら辺の対抗手段を用意しなければならない。
よって、俺がすべき最優先は情報収集。どうにかして校長と話せないものか。
結論、そのためにやはりアクロが必要になるのだが……。
メイトは大きな窓から外を眺める。残暑が続いているらしい今年の夏。斜陽が物静かな図書室に差し込み絵画のような美しさを醸し出している。
そんな様子を見て、メイトは気の抜けた息を鼻から出す。
未だ、アクロが俺の場所に来たことはない。
「学校のどこ探してもいないし……部屋にいるのかな」
アクロは不可解で不信頼における存在だ。イトと繋がっているとは考えにくいが、その可能性も考慮すべきだろう。
「あら、こんな時間に客人ですか」
と、その時話しかけられた。
「いえ、金払ってないから客ではありませんけど」
反射的に答えつつ、声の方向は顔を向ける。長い茶髪の女性、ローブは着ていない、生徒ではない。
この人、確か特異魔法科担任のミューゼ先生……偶然か、尭孝か……――。
猜疑心から疑いの目を絶やさずに、メイトは窓から先生へ向き直る。
「どうしたんですか? こんな時間に図書室に、今は授業中ですけど」
先生は腕に抱えるファイルや筆入れなどを所作慎ましく机に置き、椅子に腰掛ける。
「先生こそ、どうしたんですか」
「私はまとめておきたい仕事があるので、私、図書室で仕事するのが好きなんですよ、特にこの太陽が差し込む朝過ぎにね」
そう言って、暖かい陽光に包まれながら、先生はファイルを開き幾つかの書類を取り出し、書き込み始めた。
「そうなんですか」
メイトは誰もいなかった図書室に人が来て、若干不機嫌になり、無言の気まずさからその場を離れることにした。
本棚の裏、陰となる場所で立ち尽くす。
イトやアクロが特異魔法科なことは調べがついていた。いつかあの先生にこの二人について尋ねてみるもの手だと思っていた。
これは好奇なのか……。
しかし、メイトの疑心暗鬼っぷりはここ数日で急成長していた。
イト側に校長がいるなら先生の一人俺に差し向けることくらいできるかもしてしれない、ここで不用意に話せば先生傳で俺が探っていることがバレるかもしれない。
そこは最初からバレているとしても、変に嘯かれて誤情報を与えられるかもしれない。
変に吹き込まれるより、ここは動かないほうが正解かもしれない。
メイトはポケットに手を入れ、真顔で熟考を重ね、最大限のできることを模索する。
しかし、このまま停滞した雰囲気を続けていても何もない、それなら少しばかり手を出すもの間違っていない。
メイトはコクと小さく唾を飲み込んでから、本棚の後ろから出て、先生の向かいの席の横に立つ。
「ここ、いいですか?」
「え? あ、あぁもちろんいいですよ」
「どうも」
承認を取ってから、メイトは先生の真正面に腰を下ろした、答えた先生が仕事に戻る前に口を開く。
「あの先生、少し相談いいですか」
「相談ですか、いいですよ――どうぞ」
先生は万年筆を置き、メイトを見据える。凛とした雰囲気からやはり教師の貫禄が伺える。
「俺、この学校卒業したら地元に帰って、学校の先生になるんです……知り合いに学校を営んでいる人がいまして、手伝わないかと言われたので」
「先生に、ですか……いいと思いますよ」
全くの嘘、嘘に関しては口からでまかせである。
「それで、少し不安要素があって質問したいんです」
「なるほど、いいですよ、なにが不安ですか?」
「例えば生徒の男子と女子ってあんまり仲良くならないじゃないですか、そういうのってどうしますか?」
「それは男女間の友好関係の構築の話ですか、確かに難しい問題ですね。そうですね……ここの学校は放任主義なのでそういうのは考えませんが、以前勤めていた学校では、男女で差をできるだけ作らないとかグループワークをしたり、なるべく男女が関わる状況を作ってあげるとかしていましたね」
先生は顎に手を当てて、至極真っ当な回答をする。別に興味がないのでそんなに真剣に答えられると心苦しくなる。いや、なってないけどね。
「なるほど……ちなみに先生のクラスは男女差ってどれだけありましたっけ?」
「男女差ですか……"一人"ですね」
1、ゾイのデータによると特異魔法科の男14女15だった、間違っていない。
「あれ、確か男15で女14でしたよね、さすが特異魔法科、人が少ないですよね」
カマをかけるメイト、アクロが女だったらこっちが正しい。しかし先生は不審な様子なく首を振る。
「いえ? 男子が14で女子が15ですよ、勘違いではありませんか?」
「あれ、そうでしたか……」
じゃあ、アクロは最初っから男だったのか……なら、可能性は、『コーラルに例のゲームを持ち込んだ時だけ女だった』もしくは『コーラルの嘘』。
少なくともアクロの正常な状態は男。
「――あと、"学校に来ない人"とかはどうしますか?」
いきなり話を変えたメイト、先生は思い当たる節があり、一瞬無言で考えた後、手を机の上で組む。
「そうですね、強制はできないでしょう、本人が来ないならそれも人生ですから」
「……そうですか」
反応を見るに、おそらくイトの話だろう。この様子じゃ訪問やらはしていないんだろう、ならろくな情報は得られなそうだ。
「分かりました……色々参考になりました、ありがとうございました」
「もういいのですか? えぇ是非頑張ってくださいね」
椅子を引き、立ち上がろうとするメイトに先生は取り繕ったようなビジネススマイルを向ける。
と、その時。
「――ッ」
ぐらつく脳に耐えきれずメイトは額に片手を置いて、ダンと机に手をついた。
「ど、どうしました?」
戸惑う先生は、少し身を引きながら訊く。
「……、いえなんでもありません、すみません……ただのデジャヴです、少し頭が痛くて」
「デジャヴで頭痛ですか……」
面倒臭い頭痛を伴う既視感に、ギリと歯噛みするメイト。
「何か足りないんですよ、確かにここに俺がいて先生がいた、それは確かなんだ……――んで、確かに足りないモノは必ずあったはずだ……なのに、思い出せない」
足りない何かはずっと心にある。しかし、それを引き出すことが絶対にできない。
「まぁ、忘れるくらいなんだから、どうせ大したことでもないんでしょうね」
メイトは脳内に侵食する"違和感"を吐き捨てるように、無理やり笑いながら言う。
しかし、先生は違った。
「メイトさん、忘れていいことなんてこの世にありません」
変わったような、けど変わってないような釣り上がった目と、真剣な声音にメイトは言葉を詰まらす。
「メイトさん、『観測理論』を知っていますか?」
「観測、理論ですか……どこかで聞いた気がします」
前世、暇つぶしに量子力学の本を読んでいた時に目にした。確か、宇宙に存在する"波"は人間に観測されることにより収縮し、物質になる……的な話だったような。要するに"シュレディンガー"である。
「その理論でいけば、人は人に観測、つまり記憶されることによって人として在る、そういう話です」
「……」
極論、この世にたった独りならば"人"として在らず。
「少しズレましたが、要はその"何か"を思い出すことを放棄することは許されません、忘れてしまったのなら必ず思い出して、二度と忘れないようにしなさい」
久方ぶりの、説教にメイトの心はざわついていた。ただの説教ではない、ちゃんと届いていた、メイトの心に。
「それが貴方の運命を変えるかもしれません」
それは、教師という建前の言葉ではなく、"ミューゼ"としての――まるで母親のような慈愛に満ちた微笑みでメイトを見つめた。
「分かりました、ありがとうございます」
メイトは不本意ながら心に響いたメイトは、立ち上がりお礼を申し上げた。
礼儀ではなく、衷心からの敬意と感謝を込めて。
「いえ、いいですよ」
先生は瞑目しながら微笑み、仕事に戻った。それを見てメイトは終わりだと理解して椅子から横にズレる。
「じゃ、俺はこれで」
「はい、ご武運を」
短い別れを交わして、メイトはその場を後にした。
もう二度とどうでもいいなんて思わない、必ず思い出す、俺は絶対に――君を……―――。
「え?」
大きな扉を開け廊下に出たメイトは、自分の無意識に生まれた思考に疑問を抱く。
「"君"って……誰?」
ご精読ありがとうございました!
毎週平日の朝、投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!




