【第92話】『事実』の喪失
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
スピネル
ゾイ
アイカ
アクロ・アイト
イト
「ねぇ、メイトこの後暇? 暇なら、まぁ一緒に遊んであげてもいいけど……」
アイスを食べ終わったメイトとアイカは食堂の入り口で話す。
「なんで上からなんだよ、女王様か。まぁ俺はやることがあるから」
「そ、そう……ちなみになんの用?」
興味なさげに聞くアイカの耳の意識はしっかりメイトを意識していた。
「――……アクロに用がある、喧嘩売りに行く」
喧嘩なんてものじゃないけどな。
「アクロって……あの学年一位の? なんで、本当に一位になる気なの?」
「一位なんてモンじゃねぇ、俺はもっとやるべきことがあるんだよ」
アクロに勝って一位になる。
ロリ校長を倒す。
イトを倒す。
イトが通信相手であること証拠を得る。
それでやっと、"本当に"イトに勝てる。
「そうなんだ、本当に勝てるの?」
単純な疑問をメイトに投げかけた。
すると、廊下の先から男子と女子が二人並んで、スタスタと雑談しながらこっちに向かってきた。
「……」
メイトはスッと横に退けるが、アイカは動かなかった。二人は自然にアイカを避けて食堂へ入って行った。
避けないのかい。
アイカは鋭い視線で、しかし柔い表情で、メイトを見つめていた。その視線には、男女を避けたメイトが質問から逃げたように見えていた。
メイトはその痛い視線を受けながら歩き出した。
"確証のないことは返答できない"。
「……ちょっと待って、メイト」
拒絶したような背中だが、それでもアイカはメイトの肩を掴んだ。逃がさないように少し自分側へ引く。
「……俺は――」
振り返らず答えるメイトに、言わなくていいと伝えるように被せて喋る。
「――私は……私もできることをするから頼ってよね」
……。
既視感は、なかった。
「……ありがとな、元気ついたよ」
メイトが握ってくれた手に驚いた。熱もないただの圧力だったのだ。人ではない、何かに触られている、そんな不気味な感覚により身体中に鳥肌が駆け巡る。
「――あ、それは良かった……」
アイカはハッと我に返り、誤魔化すように呟いた。すると、メイトはアイカの手を肩から離し、歩き出した。
アイカは握られた手を、ずっと眺めていた。
――――――――――――――――――――
またやってしまった。
「なんで俺は……はぁ憂鬱の連鎖だなぁ」
最近、自分の不機嫌さが増しているのは分かっているが、どうにも対処することができない。
精神は楽しいこと、嬉しいことをやりたい、それは事実なのに、理性が追いつかない。
「どいつもこいつも、誰のせいだ?」
メイトは漸増する苛立ちにより、口に低い声が上ってしまう。
視線の先には、メイトの姿を見つけて、刹那、嫌味のようにニヤと笑った後――見間違いかと疑うほどの聖人のように優しく微笑んでこちらに歩み寄るアクロ。
「やぁ……――こうやって話すのは初めてかな?」
「あぁ、なんだかんだ話したことなかったな」
優しく同時に重い声音に感じる。よってメイトも重く低い声音で返す。
「良かったらどこかで話さないか?」
アクロは顎を引いて下からメイトを見上げる。それが舐められているように見えて、メイトは顔を僻めつつ、横を見る。
「いいぜ、ならそこのソファで話すか、ちょうどあるし」
メイトが指した場所は、生徒が行き交う廊下の壁沿いにある、三人ほど座れるソファであった。
「今の雰囲気でそこを指定するのか……いいよそこで」
てっきり静かな場所で話すかと思っていた。
「……」
メイトはアクロの返事を聞く前にソファに座っていた。アクロもハハと苦笑いしながらメイトの隣に座ろうとする。
と、そこで。
「えい」
と、手をアクロの"股間"と"胸"に当てた。
「……」
「……」
ムニ、と左手には柔らかい感覚、右手は硬い胸筋の厚みを感じる。アクロはポカーンと口を開けてメイトを見つめる。
「な、なんだ?」
耐えかねたアクロは苦笑しながら訊く。メイトは何も言わずに手を離し、アクロの顔を見つめる。
「男同士の挨拶だ。ジョークジョーク」
顔を逸らしながら答えるメイトに、アクロは苦笑から一瞬真顔に戻り、フッと微笑む。
「じゃ俺も、はい」
すると、メイトはアクロに股間と胸を触られる。メイトは不覚にも固まる。
満足したアクロは手を離し、メイトにもう一度フッと笑ってから椅子に座る。
「――お前、順応能力高いんだな、ノリの良さにうっかり惚れちまいそうだったぜ」
「ハハそれは嬉しいな」
何わろてんねん。
「嘘だぞ」
一切表情を崩さないよう、努めて笑顔でいながらアクロは考える。
探ったなメイト、てことはコーラルから私が女であったことは聞いていたのか……流石に不意すぎて驚いた。
よくやったよコーラル。
私が女であって今は男、混乱しているな、わざわざこんな方法で確認してきたなら、"アレ"にはまだ気がついていないのだろう……。
アクロは心内で余裕の笑みを浮かべた、その時。
「なぁアクロ知っているか? ――魔法を使わず学校の校則も利用せず、女が男に変わる方法を……――知っているか?」
段々と低くなっていく声音をバレないよう殊更に"いつも通り"を意識して、核心をつく質問を投げかける。
……まさか聞いてくるとは……"読めて"いるのか?
「どういうことだ?」
「――……いや、ただの疑問だ、気にしなくていい」
ということは。
こんな質問をされれば、理解できる。
メイトは私をイトとは思っていないし繋がっているとも理解していない、もしそうならこんな質問する意味はない。確信がないからこそこういうブラフをかけているのだ。
だが疑心感を持っているのは確定だろう。
すると、ふとメイトが口を開く。
「ある奴が、アクロとゲームしたと言っていた、アクロは女だったそうだ。お前だよお前、男のお前のことをそいつは『女だった』と本能が告げていたそうだ、癪だがそいつを信じるならば、お前はなんらかの方法を使って男になっている、もしくは女になっていたはずだ」
全て隠すことなく説明したメイトは、少し体の向きをアクロに向ける。アクロはそれで説明を求められていると理解した、チラッと視線を向けてから腕を組む。
「ふむ、そいつはどうなったんだ?」
「お前に負けて、退学した……でも、そのゲームに負けた校則も存在しなかった」
「……それは不可解だな」
「お前はどう思う?」
相談にかまけて私の解答で判断しようとしているのか……。
「そうだな……――そいつが言う『アクロ』とは本当に俺のことか? 同性別性、なんで可能性もあるんじゃないかな? それか、単なるそいつの妄言、なんてのもあるかも……」
妥当で平凡、取り止めのない意味のない解答だ。これなら疑う箇所はないだろう。
「んなの俺もわかってるよ、それで納得できないからお前に聞いてんだよ」
高圧的だな、私のストレスを溜めさせているのか、わかりやすい。
「と言われてもな……俺はそんな人知らないし。なんなら俺が色々調べてみようか、アクロっていう名前の人も探そう」
一切疑う余地のない完璧な解答に、メイトは真顔で前を見て、黙る。
アクロはそんな閉口するメイトを見て、今だ、とタイミングを掴み話を切り出す。
「それの代わりと言ってはなんだけど、一つ、助けてくれないかな?」
言われたメイトは「あ?」とアクロに視線を移した、ローブの動きでそれを理解したアクロは、神妙な顔つきで話し出す。
「俺が校長を倒すのを、手伝ってくれないか」
予想外なお願いに、メイトは声には出さないが心底驚いていた。
「校長……なんで俺に……つか何を手伝うんだよ、お前一人でやれよ」
「いやぁすまない……実は今俺は――"詰んでいるんだ"」
「は?」
堂々と意味不明なことを言うアクロに、メイトは顔をめんどくさそうに歪ませる。
「メイトには信じて欲しいな……俺はこの前、八階に上がった」
「まぁ一位だから上がれるな」
『八階に上がれるのは学年一位だけ』、当初にイトと校長が作った校則であろう。
「そこで俺は校長と出会い、ゲームをする流れになった」
なんだそれ、そんな酒飲んだ男女が流れでヤるみたいに……。
「そして、そのゲームに負けた俺は……」
刹那、過去を思い出すように口を一の字に噤んだアクロは、とん、と自分のこめかみに手を当てる。
「俺は、『事実』を失った」
澱みない瞳で言ったアクロに、メイトは一瞬放心した後、詰まる喉は無意識に開いて、声が漏らした。
「はぁ?」
ご精読ありがとうございました!
毎週平日の朝、投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!




