【第91話】間接キスは違和感の味
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
スピネル
ゾイ
アイカ
アクロ・アイト
イト
「さて、確かここらにいたはずだけど……名前なんだっけ?」
さ、サン・クレア……まぁいいや。
「おーい精霊ー、姿を見せておくれー、透明人間が来たぜー」
口に手を当てて叫ぶメイト。昔出会ったあの傲慢お嬢様精霊と話をしようと校舎と寮を繋ぐ例の道へと足を運んでいた。
――返事がない、無視を決め込むようだ。
「精霊さん頭を下げるから話しましょーよ〜……」
しかし、いや当たり前ように返事がない。メイトははぁとため息を吐いてから、近場の石段に座る。
「じゃー返事はいいから聞いてくださいよ……」
メイトは自分にチラチラ「例のあいつだ」という粘っこい視線を向けてくる歩行者を瞳だけで追いながら小さく喋る。
「例えば、全く自覚がない女がいきなり翼が生えて輪っか出てきて、言っちゃ天使みたいになる現象になんか心当たりない?」
いきなり核心をつく質問を投げかける。メイトは目を細めて、手をついたところに静かに咲き誇る一輪の花を見る。
風が吹き、ただ靡くだけ。
「……じゃあ、角が生えてデカくて黒いマントのおっさんは?」
あの時の、突然現れた例の悪魔のことである。
「……んー」
相変わらずの無視にメイトはなんとも言えない気持ちで唸る。
「収穫無し……まぁいいけど、じゃあ帰るわ、聞いてくれてありがとうな、まぁ聞いてるか知らんけど」
メイトは諦めて立ち上がり周りを見る。相変わらずそよ風が吹いている。
……帰ろ、あの性格だ、もともと会話してくれることも期待してなかったし、そもそも俺はアリーテールがいたからあいつと話せたわけだし、アリーテールが不在ならば普通に交流できないのではと思っていた。
メイトは寮へと歩き出す。この時何故かズルズルと引き摺るローブの裾が重く感じた。ただ地面との摩擦だろうが、誰かが引っ張るような感覚である。
メイトはムッと眉を寄せて、暫し足を止めて沈黙と共に、巡考した後、気まぐれに口を開く。
「……ふとした時に浮かんできて気がついた時に忘れて……――大切な何かがあった気がするんだけど……――いや、ただの気のせいか」
――忘れてしまうくらいなんだから、それくらいのことなんだろう。
メイトは、入学してからスピネルと出会った時、ゾイとゲームした時、アイカとゲームした時、運動会のいざこざの時、常にふと浮かぶ違和感に苛ままれ続けていた。
その時風が止んだ。喧騒が割れ、時間が消え、空間が止む。
メイトは振り返り、花を見る。
なんだか、誰かが愉悦そうに微笑を浮かべているような気がした。
「……」
暫しの沈黙の後、ハッと我に返ると歩行者から依然として痛い視線で見られていることに気がつく。
気のせい、か……。
メイトは踵を返し、スピネルとゾイ、アイカもろもろ思い出す。
一人で何やってんだ――。
――――――――――――――――――――
謎の憂鬱に囚われながらメイトは鳴る腹を摩りながら、食堂へと足を運んでいた。
さて、アクロ撃破、か……どうしようか。
簡単ではない、むしろ過去最高に難しいだろう。
ひとまず接触しようと、なんとなく食堂にいないかなと、食堂を見渡す。
昼前だからか人はあまりいなかった。ざっと二十人ほどがペラペラ喋りながらアイスなどを間食していた。
いねぇ。
一瞬で結果を得たメイトは真顔で立ち尽くした後、無駄足をかいたことにため息を吐き、チラッと食堂のおばちゃんを見る。
なんか買うか、朝から食ってねぇし。
「すみません。あーチョコソフト一つ」
「はいよ」
「私はバニラお願いします」
「はいよ」
いきなり横から入ってきた人に、メイトはジロッと視線を向ける。
そこには、肩ほどまでのアクア色の髪を揺らし同じくアクア色のサファイアのような瞳をパチクリと瞬く女の子。
「アイカ……何勝手に割り込んでんだよ……」
「別にいいでしょ? 文句ある?」
「いやないけどよ……てか大丈夫なのか? コーラルにアレやられてから男が怖かったんじゃなかったか?」
以前会した時、随分と落ち込んでいた気がする。
「私、気がついたんだ……だ――」
「はいよ」
アイカの言葉を遮り、メイトとアイカの間にソフトクリームが差し込まれた、驚いてアイカとメイトは一歩離れる。
チョコ……。
「あ、どうも」
メイトは透明にならないように『動かす魔法』でアイスを受け取る。
続けて差し出されたバニラアイスをアイカが邪魔されたことにムッとしそうになるが、顔には出さず受け取る。
「どうも」
受け取ったメイトとアイカは、受け取り口から離れる。
メイトはポッケの中で手を握る。自分の不甲斐なさに無性に苛立ってしまう。
空中をスイーと滑るように移動するソフトクリームと、その後ろをドボドボ歩くメイト、それをアイカは――触ろうとして、やめて、声をかけた。
「なんか元気ないわねー、いつものことだけど……なんかあった?」
「え、あいや……別に大丈夫……」
自覚している、ふとした時感じる正体不明の既視感と、咄咄怪事の出来事であるイトからアクロに関する全てが曖昧模糊で心が蟠っているのだ。よってメイトは、解が得られない事実に心が荒立っていた。
同時に、これじゃダメだという生半可な反骨精神が裏をかき、中途半端な態度で人と接していた。
「んー……まぁいいけどさ、あ、さっきの続き――」
「あ、あぁ、男苦手だったんじゃなかっけ? っていう質問ね」
メイトは一応繰り返しつつ、適当な席に座る。アイカは隣に足を下ろし、メイトを覗き込むようにテーブルに身を乗り出し、見えないだろうに俺を愛でるように細められた瞳で、
「だって、メイトが助けてくれるんでしょ?」
可愛らしく小首を傾けてフッと微笑んだ。優しい斜陽が背後の窓から差し込み、アイカを包み込む。アクア色の髪が煌めき、頬はほんのり赤く火照っていた。
以前のアイカとは思えないほどの優しい笑顔。演技には思えない。
「……それは責任重大だな」
壁の支柱により影になる場所に"たまたま"座っていたメイトは、そう呟いた。
「うん、しっかりやってよね!」
アイカはメイトから視線を外し、ソフトクリームをペロペロ舐め始める。
それを横目にメイトは、既にほんのり溶けたアイスを食べた。
「おぉ、甘くてうまいな」
「だねー、私もチョコにすればよかったな〜……」
アイカはメイトのチョコアイスを羨ましそうにジローと見る。
メイトは気にせずにまた食べようと口に近づけ――。
パクっ。
「あ、おい!」
「んー! おいし〜」
アイカが身を乗り出しメイトのチョコアイスを食べた。
――は、半分持ってかれた……的確にコーンを食わないように食べやがって……。
残ったものは、主役の登場しなくなった漫画やアニメの物足りなさに似た寂しさを醸し出す、もはや『アイス』ではなく『アイスが詰まったコーン』だけであった。
「フフ……いやーおいし〜、どしたの? メイトも食べたら?」
ニヤニヤと、メイトの反応を伺うアイカ。メイトはその声だけ聞いて考える。
俺に惚れたから励ましたいのか? 何かをしてあげたい貢ぎたい捧げたい、そんなとこだろうか……? こんな性格ではないであろうに……――いや。
メイトはチラッとアイカの顔を見る。
ニヤニヤ。
ただ単に遊びたいからか。
「……まったく」
メイトは微笑を浮かべながらコーンを齧る。アイカはバッと顔を赤くした。
食べた……本当に食べた!! わた、私と間接……――。
期待してたわけではない、ただメイトの気休めになってくれればと思ってしたことだったが、予想外でメイトは気にすることなく食べた。
「――」
チラチラとメイトの反応を伺うアイカ、ペロリペロリと舐めるメイトはやっとその視線と火照った頬によって、自分が何をしたか気がつく。
あー間接キスか。
「………」
また一瞬世界が灰色になり、既視感に襲われる。
――俺がここに座っていて隣にアイカがいる、今と同じだ……でも、それだけじゃなかった。
その時、サラッと"桃色"が見えた気がした――――。
「――ッ」
「――メイト? どうかしたの?」
そこで既視感は消えて、いつも通りのカラフルな世界に戻る。
「い、いや……なんでもない」
「……そう? 疲れてるなら寝れば? 休むことも大切なんじゃない? そのうちぶっ倒れそうだよ」
「あぁそうだな」
照れる様子もないメイトに呆れたアイカは、ペロペロ食べながら忠告する。
――まただ、ふとしたら忘れる、なにが見えたのか。
メイトは暫し瞑目して思い出そうとするがやはり忘却の彼方に消えていった"何か"を思い出すことはできない。
そこで、ふと思い出したことを口にする。
「うまいな」
不意に言われたアイカは、食べようとしてぽっかり開けた口を放置して固まる。
「悪い、じゃ俺もう行くわ」
そんなアイカを残して、メイトは残ったアイスを全部口に突っ込んでから食堂を後にした。
残ったアイカは、少し溶けたアイスを眺める。
「――」
ただ片手を赤く染まる頬に触れさせて冷めそうとすることしかできなかった。
きっとメイトは、あんたの言動全てに救われていることを知らないんだろうな――。
アイカはすぐ立ち上がり、メイトの背を追った。
ご精読ありがとうございました!
毎週平日の朝、投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!




