【第73話】壁とローブのパーソナルスペース
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
ハキマ・クォーツ
スピネル
ゾイ
アイカ
アリーテール
イト
「さぁ早いっ! 早いぃ!!」
現在、開会式が終了し最初の種目、『魔法障害物競争』が開催中である。
校舎や生徒寮を含めた校内コースにある、燃える床や凍る部屋、風が吹く山を超え、最も最初に開会式を開催した広場に到着した者が勝者となる、リレーである。
全校生徒中の、およそ百人ほどが参加する、実にビックなイベントで、ある。
今は一年の部である。
メイトはそんなゲームを、ゴール広場にある特設巨大モニター(魔法)にて、あぐらをかきながら見ていた。
こんな炎天下の中よく走るわ……。
熱を感じないメイトでさえ、暑いと錯覚するぐらい日差しが強い。
「えい」
ピタッと、頬に何かが当たる。
「冷たッ――あ、なにもぉ〜」
「ハハっごめんごめん、はい、飲み物」
「わぁありがとう、ひゃー冷たい〜」
「ねぇ、ここは暑いしあっち行かない?」
「行く〜!」
メイトの目線の先には、その炎天下の中イチャイチャする男女がいた。
……あー暑い暑い! あいつらがいなければ暑くなかったかなぁ?! 爆散しろ!
そんな、イライラするメイトの後ろに近寄る影がある。
「ん、よう、どした」
メイトは先に察知し振り返ると、ハキマとスピネルが立っていて、その手に瓶が持たれていた。
「ちゃ〜、バレちゃったか〜。はい、これ飲み物」
「お、おぉサンキュ」
メイトはありがたく受け取る。
「それめっちゃ温めといたから! 飲んでね」
ハキマはニヤニヤ笑いながらメイトの隣に腰を下ろす。
「どんな嫌がらせだよ、まぁ飲むけど」
メイトは蓋を開けると、湯気が見えた。
どんだけガチで温めてるんだよ……。
「……」
メイトは煙を眺めた後、静かに蓋を閉めた。
あとで飲もう……。
「それで、どうなってる?」
「俺たちのクラスのトップは今、15位くらいにいるな」
「確か私らって六人出てたよね? えぇ15位ならいいほうでしょ? もしかして勝てるんじゃない!?」
モニターには、うちのクラスメイトが回転する床を飛んでいく様子が映る。
あのギミック誰が作ったんだろう……。
「まぁ、全体で45人中の15だけどな」
「それなら可能性はあるよね……まぁねぇー」
「しかも、先頭集団と数百メートル離れてるけどな」
「んー……」
「てか六人中五人脱落してるし」
「脱落しちゃってるんだ!?」
「一位のやつとは周回遅れだし」
「一位の人早ッ! 絶対勝てないじゃん!!」
ハキマは「たは〜」と溜め息を吐いた後、暑い日差しから逃げるように立ち上がる。
「やっぱ強いなぁ……あ、私たちこれからコースに行って応援するけど来る?」
「今から行くんだ……てか行かない、めんどい」
「つれないなぁ……まぁいいや、ネルネル行こ〜」
ハキマは後ろに立っていたスピネルに近寄る。スピネルは「そうね」と言って振り返る。
「あ、あなた午後に出ることわかってるわよね」
ふと、思い出したようにスピネルが、メイトに訊く。
「へーへー、分かってますよー」
「それならいいわ、出る前に私たちの教室で集合するからね」
「はいー」
それだけ言うと、スピネルはハキマとどっかに歩いていった。メイトは暫しボーとしたあと、その場に寝っ転がる。
「あぁー……やべぇことしようとしてるなぁ、大丈夫かなぁ……」
心配するメイトの顔は、楽しそうに笑っていた。
――――――――――――――――――――
とある教室に、アイカが独り席に座っていた。開かれている窓から聞こえてくる微かなざわめきを聞きながら、俯いている。
ヤバッ、めちゃ緊張する。
『アルディア対抗魔法試合』本番は午後、まだ時間はある、が、そんなことはどうでもいい。
今日で、終わる。
私はクラスのみんなの期待を背負ったまま負けて、魔法が使えないとバレて、嫌われて――。
「うぅ……吐き気してきた……」
逃げちゃいたい、このままここにいたい、みんなの前に立ちたくない。
それでも。
逃げることは許させれない。私が逃げたら、人として終わる。
なら、まだ人として終わった方がいい。
「逃げちゃダメ……」
アイカは震える足や手を煩わしいと思いつつ、腕を組んで、顔を埋めた。
心を一瞬無にしたあと、顔を動かし、腕の隙間から窓を眺める。
……はぁ、誰か代わりに戦ってくれないかな……。
その瞬間、どこからともなく声が聞こえた。
――いいでしょう――。
微かに聞き取れたのはそれだけだった。アイカは顔を上げ、教室を見渡し、誰もいないことを確認する。
「……誰?」
聞こえた声は、聞き覚えがある、既視感のある声だった。
その時、誰もいない教室に、外から微かに聞こえる声援がなぜか怖く感じ、悪寒がした。
「……戻ろ」
夏だと言うのに寒さを感じる、その事実こそがさらに恐怖心を増す。
アイカは静かな部屋を、急足で出ていった。
――――――――――――――――――――
アイカが外に出ると、強い日差しで視界が白く染まり顔を手で隠す。
「……アッツ」
だんだん目が光に順応してくると、手を下ろす。
「はぁ、どこ行こう……クラスの人はどっか行ったし……」
すると悩むアイカの耳にざわめきが聞こえる。行く宛のないアイカは引き寄せされるように、音の方向に進んだ――。
「――な、なにこれ……」
音の発生源に到着すると、謎の大きな建物が"できていた"。
「ここって広場があった場所だよね……」
確かリレーのゴール地点となっていたはずの場所なのに、謎の建物ができている。高い壁で作られた円形の建物だ、おそらく操土魔法で作ったんだろう。
それにしても大きい。こんな大きな建物を、アイカが教室にいる間に作ったのならば、もはや天才とか大卒とか言われるほどの技術である。
「先生の誰かが作ったのかな、コンクリートでできてる」
アイカはその建物の周りを、なぞりながら回ると、入口らしき階段を見つける。
その周りに人がたむろしているしそうなのだろう。
アイカは土を越えて、コンクリートの階段を上がっていく。
「うわっ」
上がり切り、少し進むと全貌が見えた。
スタジアムだ。
中央下にゲーム会場があり、その周りを取り囲むように客席が埋め尽くされている。
揺れんばかりの歓声が轟く。アイカはその騒がしさに思わず呆然とした。
現在、『魔法綱引き』が行われて、どこかのクラスが優勝したようだ。
「うおぉぉぉぉぉぁッ!!!!!」
……うるさ……。
ふと、ある人が目に入る。
――メイト!
と、スピネル、その他ニ人。
『アルディア対抗魔法試合』に参加する面々である。
アイカは声をかけようと、人混みを避けて近寄る。
「ははは!! そりゃすげぇな!」
聞こえたそのメイトの笑い声に足が止まってしまった。その瞬間ギュと胸が痛くなる。
「おーい! お前ら! 頑張ってこいよー!!」
「頼んだわよスピネル!!」
「頑張ってネルネル〜!」
「透明人間もなぁ!」
すると後ろからメイトたちに声援が飛ぶ。メイトたちは振り返り、手を挙げる。
「おぉー! 俺はメイトだぞ! 期待しとけー!!」
四人の中で、メイトが叫んだ。まるで単純にこの状況を楽しんでいる弾んだ声で。
「………」
アイカは隠れた。
フードを被り、背を向けてメイトたちから逃げた。
人混みを無理矢理進んで、壁に触れる。
炎天下に晒されたコンクリート製の壁は熱を帯びていて火傷しそうだった。しかしアイカはそれに勝るほど、心が冷たくなっていた。
まるで喧騒から逃れるように、壁とローブで身体を隠し外から自分が見えないようにする。
――……なんで……。
アイカは自分とメイトを比べて落胆した。
なんで、楽しそうなのよ……!
メイトも同じはずだ。
魔法が使えなくて、強制的に参加させられて、プレッシャーの重圧に押しつぶされそうで、無責任な周りのことが嫌いで、『社会』に勝てなくて!
なのに!!
「なんで……笑っていられるのよぉ……――」
……メイトは、私と違う――それだけだ。
「はぁ……」
アイカは、なんだか変わってしまった、変わってしまう色々に、ため息が漏れた。
それだけだった。
ご精読ありがとうございました!
毎週平日の朝、投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!




