【第71話】チェック
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
ハキマ・クォーツ
スピネル
ゾイ
アイカ
アリーテール
イト
ヤバい奴がいる。
そんな噂が広まるのに、大した時間は掛からなかった。
たった一撃で、校庭の三分の一程を火炎で包んだ男の名は、アリーテール。
大した功績もなく、知名度もない。名前は広まっておらず、学年全員の名前を覚えたと言うある人物に聞いても、「アリーテール? 誰?」と聞き返させるレベルほどに影が薄い人間である。
昨日までは。
昨日の放課後、誰もが見たであろう、学校中を閃光に包んだ男の一撃を。
剣を一振りしたたけで辺り一面を火の海、遠くの山でさえ小規模の火事を起こさせた。さらに、気がつくとその火炎は消えていて、蟻ほどの焦げすら残さずに鎮火した。
この噂、いや、もはや逸話とも言える話は、校内で数日の間この話題で持ちきりなる程、盛んに飛び交った。
故に、情報が渡るときに生まれる機微たる変換、脚色、誇張が大きな差異を生む。
結論、アリーテールは学年一位とされた。
――――――――――――――――――――
「はぁ……どうしよ……」
昨日騒ぎがあった校庭ほどではない広さの中庭にて。
アイカと、そのクラスメイト三人がいた。
「アイカちゃーん早く早く!」
「はいはい……」
呼ばれたアイカは、なんとかしないといけない、しかしどうにもならない問題に悩みながら、ドボドボ三人の元に寄る。
「よし! じゃあまずは互いの得意な魔法を伝え合おう!」
爽やかな雰囲気が醸し出る赤髪の青年が、並ぶ三人の前で手を広げる。
「俺の名はリバルトだ、主に火炎魔法と剣技を合わせた攻撃が得意だ」
「となると……『自然魔法:生物系統植物類』の魔法使いには対抗できるな……温度はどれくらいまで上がるんだ?」
「最近は『オーバーライン』は超えるようになってきた、多分『自然魔法:水系統』全般には対応できると思う、あと氷が心配だけど……そこは臨機応変に対応しよう」
ヤバい、この人たち意外と本気で作戦立ててる。このままじゃ――!
「失礼、僕はレン。剣技はできないけど魔法は人並みには使えるよ、遠距離からの衝撃魔法とか斬撃魔法とかなら得意と言えるかな」
「てことは、相手は近距離型の剣士って感じか……距離詰められたらどうなる?」
「一応、纏わせる型の自動反撃魔法は雷水火とかは全部会得しといたから、その点は問題ないかな。まぁ僕自身も少しなら近距離攻撃の手段はあるし」
「そう、なら安心ね。あ、私はサラン、得意な魔法は――」
それからも、四人の会議は続いた――アイカは終始頷いてるだけだった。
「アイカちゃんは、得意な魔法とかある?」
ふと、一人の女の子、サランが、冷や汗をかいていたアイカに振る。
「え? いや、私は……」
正直、この三人に並べるほどの魔法なんて持ち合わせていない。
「別にない、わよ……」
アイカは三人を窺うように上目遣いで言う。三人は一瞬の沈黙の後、理解する。
「アイカちゃんなら全部いけるってことか! すごい!」
違うんだよなぁー。
「さすが五位、僕が人生で習得したものを軽く凌駕するとは、感服します」
「あ、あぁ、魔法だけかと思ってたけど、まさか剣技に関しても問題ないとは……」
誰もそんな話してないけど……なにを勘違いしてるんだこの人たちは。
どれもこれも、アイカが入学してからこれまでで築いた、『アイカは強い』という像による偏見による物だ。
「これなら、例の学年一位のやつにも勝てるんじゃないか?」
リバルトが腕を組みながら、可能性に瞳を輝かせる。
「かもしれないな、よし、俺たちは全力でアイカさんをサポートしよう」
「うん!」
なんか私が一番強いことになってるし……。
「そ、そんなことないわよ、私よりあなたたちのほうが強いわ」
「うぅ、強い上に謙虚な方だ……なんて凄い人なんだ……」
「尊敬しますアイカさん……」
「うん、ありがとうねアイカちゃん、全力でサポートするから……」
だめだこいつら全然伝わってない。
「はぁ……そう……ちょっと疲れたから、あっちで休んでるわね」
「どうぞ! 存分に休んでください!」
アイカは三人の期待から逃げるように、中庭の隅にある、日陰のベンチに腰を下ろす。
遠くで三人が魔法を見せ合っている。火や水、氷なんて生成している。
「ついていけないわ……」
路頭に迷ったアイカは、自分の手のひらを見る。
なんで私は……ここに入ったんだろう……てかなんで『五位』なんだろう。
私は、そんな凄い人じゃないのに……。
「あら、あらあらあら……アイカさんじゃないですかー♡」
「……」
その口調だけでも、後ろに立つのが誰か分かる。
「なんの用よ」
「用なんてないよ、でも――なんだか寂しそうにしてたからさぁ……」
その人は、アイカの肩に手を置き、耳元で囁く。それにアイカはピキッの血管を鳴らして立ち上がる。
「いちいちめんどくさいのよあんた! 耳元で!」
振り返ると、そこにはベンチの背もたれに手をつく、ゾイがいる。
「こめんなさいね……私、自分より弱い人がいると虐めたくなっちゃうの」
「とんだ悪女ね、私のことを性悪女と言ったことを撤回してほしいわね。どこ口が言ってるのかしら」
アイカはジリと、砂利を鳴らしながら距離を取る。
「あなたが性悪だったのは事実でしょう?」
ゾイはおもちゃで遊ぶような、色がない瞳で、アイカを見つめながらベンチに座る。
「……チッ、用がないならもう行くわ、あなたといたら肺が死ぬわ、あなた常に毒素放ってるみたいな雰囲気あるし」
アイカは眉間に皺寄せしながら、それだけ言い残し、去ろうと振り返る。
「あっ、待って、話をしましょ? それにそんな怒らないで」
それを、ゾイが留める。ゾイに言われると断れない、そんな力がゾイの声音にはある。
伊達に九位名乗ってるだけではない。
「なによ」
「あなた、『魔法勝負トーナメント』……『アルディア対抗魔法試合』に出るんだね……」
「それ正式名称とかあったんだ」
「あるんだよ実は」
そんなこと初めて聞いたけど、まぁいい。
「それで……出るけどなにか?」
アイカは本心が悟られないよう、上から見下す。それに、対抗するように、ゾイは下から舐めるように見上げる。
「あなた、魔法使えないよね?」
「……だからぁ、そんなことないって何回言えばわかるの? 私は五位なのよ?」
「はは、私も適当言ってるわけじゃないよ、ちゃんと考えてる」
ゾイは指一本立てて、アイカに見せる。
「だってさ、私たちにゲームを挑んできた理由は、『威厳を強くするため』って言ってたよね」
「……そうね」
「そこはいいんだよ、ならなんで私の時みたいに中継せず、内密に、しかも単純な魔法勝負にしなかったのかなぁ?」
「はっ、そんなの私の得意分野で戦うと、どうしても客は邪魔になるからよ」
「ううん、得意分野じゃないよね、消去法の方法だよね」
「……なに?」
アイカは組んでいた腕を下げて、ゾイを睨む。
「あなたは魔法が使えない、でも『九位を負かした男』に勝てばより威厳は高まって今の地位は安心になる、だから攻めてでもあんなまどろっこしいゲームにしたんでしょ」
――ただ、勝ったという事実だけが必要だから。
アイカは夏だと言うのに、背中に冷や汗をかく。本当に、伊達に九位ではない。
「……それで? 確かにあんたの言う通りだわ、でもそれがなに? 私が魔法使えないのに試合に出ることを茶化しにしたの?」
アイカは奥歯を噛み締めて、悔しさを紛らわせる。しかしゾイはお構いなしに言う。
「私さぁ、結構根に持つタイプなんだよねぇー……例えば、"勝ち逃げ"されると結構さぁー」
ゾイは、アイカを試す蠱惑的な瞳で、腕を前に出す。
その手元の動作は、何かを摘み、移動させ、置いた。
「チェック……頑張って逃げてみてね♡」
それは、"チェス"だと、幼少期からプレイし続けてきたアイカだからこそ、すぐに察した。チェスと言えば、いつだかゾイをチェスで負かしたことがあった。
「私も『アルディア対抗魔法試合』にエントリーするから……それに、あなたと当たるようにね」
ゾイは立ち上がり、アイカの前に立つ。
「お互い、ベストを尽くしましょうね……――」
ゾイはアイカの肩に手を置いて、また耳元で囁いた。しかし、それを咎める気力は、アイカにはなかった。
「じゃあね〜」
そして、ゾイは去っていった。
残ったアイカは、誰もいなくなったベンチを見つめて、ただ――。
「………」
沈黙と共に、歯噛みすることしかできなかった。
ご精読ありがとうございました!
毎週平日の朝、投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!




