【第62話】精霊ちゃん
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
ハキマ・クォーツ
スピネル
ゾイ
アイカ
イト
「全く、野蛮な人たちだ……まぁ、触らぬ神に祟りなしだよね……」
変なやつに絡まれ、メイトが割り込み助けられた、自信なさげの少年。
長いマッシュルームの黒髪に隠れた瞳は、深く沈んでいる。
……別に助けてくれなくていいのにな……僕なんか、疎まれても仕方ない人なんだから。
少年は、幼少期から人には見えない"モノ"が見えた。そして、それと話すことがなにより楽しいと感じていた。
「どうせ誰も見えないんだ、親にすら『現実を見ろ』と言われる始末、ここに入ればそんなことも無くなると思って"彼女たち"の力で入ったけど、なにも変わんないや」
男の瞳は、疎まれることに慣れてしまった、現実を見ることを諦めた、死んだような半眼であった。
にしても、透明人間ってほんとにいるんだな……実際目の前に現れると不可思議なものを見た感じ……。
男は適当に廊下を歩く、行き先はどこにあるわけでもなく、ただあそこから離れたかった。
その時。
「おいこら逃げんな」
「ウワッ!」
突然、肩を掴まれた。瞬時に振り返ると、そこには浮くローブ。つまり透明人間。
そして、その後ろに学年九位の座に座るゾイ。
うわ〜めんどくさ〜。
「な、なんですか」
「悪い、別に逃げてもいいけど、ちょっと用があってな? 少し手伝ってくれ」
「……手伝う?」
なんだろう、というか逃げたことに関しては問い詰めないのか。
「あんた"精霊"見えてるだろ?」
いきなり本質を突かれ、男は目を開いて戸惑う。
「な、なぜそれを...…」
「簡単、俺も見えるから、若干ね」
「あ、あなたも見える?」
彼女たちが見える人なんて、初めて会った……。
「そ、まぁ淡い光がぽわーと見えるだけだけどね、それにそれはあんたがいるところじゃないと見えない」
「そ、そうなんだ……いや初めてだよ、"見える人"なんて」
「やっぱりそうか。……テキトーに言った精霊あってたんか……」
メイトはボソボソ横を見ながら一人でツッコむ。
一人でボソボソ呟く、その場所はいつも花壇の近く、なら精霊? と疑うのは必然。
メイトのブラフであった。
「でもごめん、僕は忙しくて……」
……本当はただ、人となるべく関わりたくないだけだけど。
少年のめんどくさそうなことからの逃げ癖は、少年期のいじめによる世界に糾弾されたような感覚が、関わらないことが正解だと、本能的に悟ってしまったことによる障害であった。
「ちょ、ちょっと待って! なにが見えるって?」
すると、後ろのゾイが前に割り込んできた。男は「うっ」と反射的に顔を逸らす。
「あん? 精霊だって、分からん? 『精霊』」
「いやそれは知ってるけど、そんなのファンタジーの世界の生き物だよ? この世にいるわけないよ」
「ファンタジー……ね」
メイトは、異世界人が言うと、なんともこの世界を棚に上げて何言ってんだこいつと思ってしまう。
「……」
「あ、どした?」
「あ、い、いえ……すみません」
メイトは、前髪を触り、顔を隠す男に声をかける。男はさらに顔を逸らしながら答える。
「あの、僕女の人が苦手で……すみません……」
昔、クラスメイトの女子に辛気臭いやらキモいやらでいじめられ、それ以降女性不信となってしまった。
「……そうなんだ、ごめんね」
ゾイは一瞬真顔で考えた後、意外と早く理解して、少年から離れる。少年は離れたのを確認した後、ゆっくり手を下ろした。
その瞬間、ゾイが少年の手を掴んだ。
「――ッ!」
瞬時に少年はゾイの手を引き剥がそうとする。
『――なんでいつも独りでブツブツ言ってんの? キモイよ?』
その瞬間、昔誰かの言葉を思い出した。
あぁ、そうだ……どうせこの世は僕を否定するのが好きなんだ――だから希望なんて……。
「あら、意外とかっこいいじゃない?」
少年はその言葉に驚き、目を開けた。
目の前には、ニヤーと不敵に可愛く笑う女の子が、確かに自分の手を触れていた。
その暖かさの優しさに、思わず息を呑んだ。
「嫌いじゃないわよ、あなた」
ゾイは少年の瞳をしっかり見つめながら囁いた。少年はそれだけで、自分の全てが認められたような気がした。
「……」
頬を紅潮させ硬直する少年に、最後に「フッ」と優しく笑った後、手を離す。
「さ、これでもう大丈夫でしょ? だからほらお願い、メイトのこと手伝ってくれない?」
ゾイは手を合わせ、小首を可愛く傾げながらお願いした。
「……うん、分かった……」
少年は、初めて見た、精霊以外の"色"に、戸惑いながら、頷いた。
メイトはそれを、黙ってみていた。
――――――――――――――――――――
「三日前の、ハキマさんとスピネルさんですか?」
廊下を歩きながら、少し前を行く少年と話す。
「そ、どっかでゲームをしたはずなんだけどねー」
三日前、ハキマとスピネルがああなった原因のゲームが行われたはずだ。
過去を見る方法はない。どんなゲームだったのか、それを知る人は全員記憶をなくした。
よって、それを知る方法はこの世に存在しない。
ならば、諦めるしかない。
――しかし、それは誰も目撃者がいなければの話に限って、だ。
ここは異世界だ、精霊がいる。そして、ここに精霊と話せる人がいる。
大丈夫、この世は必ず道がある。問題はそれを見つけられるか、辿れるかの話だ。
「分かりました、探して見ます」
「おう、とりあえず俺のクラスの奴らは誰も見てなかったから教室じゃないのはわかってる」
「……まぁ地道にやりますか」
「だな」
そして、それ以降会話はなくなり、少年は一人で精霊と聞き込みしているようだ。
その瞳に、影はない。
……変な目で見られることは自覚してる。きっと今だって、誰かが嫌な目で僕を見てる。
でも、今は一人じゃない、求められている。僕の力を初めて誰かのために使っている。
過去の自分なら、こんなことやらなかったはずだ、安全だから……――いや、きっと、違ったんだろう。
ただ僕は、僕が傷ついているのが、あの子たちのせいだと、確定させたくなかったんだ。
だから、僕は、嫌われてでも、あの子たちと関わり続けたんだ。
あの子たちと関わるのをやめて、僕が幸せになれば、あの子たちが、僕を不幸せにしてたんだと、確定させたくなかったんだ――。
――それでも、今はこれで良かったんだと、心から、思えられる。
少年は、いつからか消えてしまった虹彩の、光が灯り、いつからか暗く深く沈んでいた声を、跳ね飛ばす。
「ちょっと、話をいいかな」
――――――――――――――――――――
前で精霊と話す少年を横目に、メイトは、真顔で少年を見つめるゾイにこっそり話しかける。
「なんださっきの、悪女か?」
「え、なに急に……」
「お前あんなこと思ってないだろ、かっこいいとか……心にもないことをよくペラペラ言えるな」
「あ〜……ハッ、優しさって言って欲しいな〜、まぁ私はメイトの役に立ちたいからやっただけだし〜」
ゾイは誤魔化すように微笑みながら、少年を見る。
しかし、その目はそれが本心ではないと、なんとなく察することができた。
「……まぁ、あれだな……そんなことしなくていい、俺のために嘘で誰かを利用なんて、考えなくていい」
メイトは深く追求するのをやめて、ゾイと同じように前を見る。
「……そ、まぁ半分嘘だけどね」
「なんなんだよ……」
ゾイは、楽しそうに話す少年を眺めながら、安堵する。
「あの人がああなったのは誰かのせい、でもその誰かは今幸せに生きているかもしれない、なら不公平じゃない?」
「不公平……」
「そ、報われるべきじゃない、人間嫌なことがあったなら、その分の幸せを受ける義務があるはずなのよ、だから、まぁ……ただの私の自己満足なのかもね」
ゾイはニヤっと嫌みたらしく笑った後、自分の頬にぷにっと手を当てる。
「メイトはこういうの嫌い?」
そのからかいはメイトにはどうでも良かったが、実際ゾイの通念には共感していた。
「報われるべき、たとえ嘘でも……ね」
メイトは嘘は苦手だった、無理して嘘で合わせるとか、一番嫌うことだった。
だが、それで現状あの人は救われた、なら、きっと悪いことではないのだろう。
そう思えて、メイトはゾイを、"ちゃんと"見た。
小紫色で深みのある髪色と、それと同じく輝く瞳とその中に潜む紅の虹彩。
真面目な顔は大人びて、お茶ける顔は子供染みて、その移り変わりがとても美しくて。
その可愛く小首を傾げる動作も、その鬱陶しさも、今では彼女の愛嬌であり、強がりであり、本気であると、理解できた。
「ああ、嫌いじゃない」
「でしょ?」
ゾイはほっぺから手を離し、前を見る。すると口角は下がり、優しい顔になる。
「お前、なんか変わったな」
「え?」
気がつくと、メイトはそんなことを呟いていた。ゾイはパッとメイトを見る。意外と言うように、目を開いて固まるが、すぐにいつもの嫌味な顔になる。
「……そうかな〜? そんなことないよ、私は変わってない…今も、過去も、"適当"に生きてるよ?」
"適当"、それがゾイの通念の本格であった。
メイトは、その言葉で、ゾイの評価を下した。
――ゾイは、良い人だ――。
「――そうか」
「あ、ほんと? ありがと……ねぇ二人とも」
メイトがゾイの言葉に返答した時、少年が振り返り、近寄ってくる。
「さっきそこの精霊が、ハキマさんとスピネルさんを見たらしいよ、正確には他の精霊が見たのを知ってる、だけど」
「マジか! おし、なら今すぐその精霊とやらに会いに行こう」
「分かった、案内するよ」
――移動すること数分。
そこは少年が最初ちょっかいかけられた場所の近くだった。
「んで、どこにいんのその精霊は」
「え、と……あ、あの子かな……」
少年は辺りを見渡した後、道の隅に咲く花を指し、しゃがむ。
「ごめん、少しいいかな…………あぁそうだね……うん……そう、あの人が話したいらしいんだ」
少年は精霊と話をつけ、メイトを振り返る。
「さっき、ぼんやりとは見えるんだって言ってたよね? 会話はできるの?」
「いや、なんとなく光が浮かんでいるだけだから会話とかはな……」
「そっか……そうらしいけど、なんとかできないかな……え、ほんと?」
少年は嬉々としてバッと振り返り、メイトとゾイを見る。
「この子が見えるようにできるらしいよ」
「ほんとか、良かった」
「うん、じゃさっそく……え、いや、そこをなんとか、いやでも……うわっごめんごめんごめんなさいはいすみません、お願いいやお願いします」
なんかすごい勢いで花に向かって土下座し始めた少年。
大丈夫かこの人…。
「……ほんと!? ありがとう!」
話はついたのか、少年は頭を上げて振り返る。
忙しいなこいつ。
「してくれるらしいよ!」
「そうか、ありがとう」
まぁこいつの努力のおかげでやっと、精霊と話せる。ここだ、精霊がちゃんと"ゲームの勝利条件さえ"見てれば、勝てる。
「ほら、ジーッとここら辺見てて」
メイトは少年が指差すところを、透明の瞼をカッ開いて凝視する。後ろからゾイも覗く。
「――く――しがこんなこと……」
すると、その姿が無からゆらゆら生まれてくる。
「なに気安く見ている雑種、この高貴な『サン・クレア・ライト様』がわざわざ下等種族の為に姿を顕現させたのだ、もっと崇めよ」
「…………」
「…………」
その、手に乗るサイズの小さな女の子は、体に見合わない大きな傲慢な態度で、メイトとゾイを睨む。
メイトとゾイは同じように絶句する。
こ、これが精霊系のあるある……『なんかお嬢様』か……。
「さ、アレクちゃんに質問――」
「黙れ下僕、気安く余の名を呼ぶな、お前は今から『不快害虫』だ」
少年が口を開いた瞬間、精霊が言葉を遮り少年を罵る。
『不快害虫』って……こんなの相手に話してたのか……そりゃ土下座するわ……かわいそうに、よりにもよってこんなやつなんて……。
メイトが少年に慈悲の向けるが、少年は気にしないようだ。それより。
「あ、ごごめんアレクちゃん……へへへ」
口角を薄気味悪く上げて、微笑んだ少年。
「キモイ笑みを浮かべるな害虫」
「ごごごめんへへへ……」
あぁ、そうか。
メイトは納得した、そして自分の不甲斐なさにため息か、何かに対する呆れからか苦笑が漏れた。
この人はドMだったらしい。
ゾイは花の上で、膝を組んで寝転ぶ精霊と、へえへえ笑う少年を見て、ドン引きしていた。
メイトは、頭の後ろで腕を組み、見下すように二人を見る精霊に一考。
完全に予想外。だ。
ご精読ありがとうございました!
毎週平日の朝、投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!




