【第28話】透明人間
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト 主人公。透明人間。
メアリー・フォレスト・レンズ 家庭教師。
シャル・マルマロン メアリーの教え子。
ハル・マルマロン シャルの母親。
ライカ 元山賊。
家の裏を暫し歩いた地点にある一本の木。そこが俺たちの決闘の場となったのはいつからだろう。
別に話し合って決めた訳でなく、ただなんとなく毎日やってる流れでそこが定位置となっただけだ。
「じゃ、ルールをおさらいしとくか」
俺は前を歩くメアリーを見ながら話しかける。
「そうですね」
メアリーは振り返らず答える。
「勝敗は勝ち負けで決める。勝ちは相手を戦闘不能にすることか、『参った』と言わせること、それだけ」
「はい、他は紳士ルールですね」
殺害はダメ、相手を洗脳してはダメ、反則級の魔法の使用禁止などなど、ほとんどメアリーの縛りである。
「あぁ……」
それを最後に会話はなくなり、俺たちはまだ日が昇っていない空を仰ぎながら、決闘の場へ向かった。
さて……やりますか。
――――――――――――――――――――
「では始めますか」
メアリーは木の下に到着し、振り返り声を出す。俺は何も言わずに腕を構える。
次の瞬間、草が動いた。
「……!?」
メアリーが驚いたのは草が動いた位置。そこはメイトが立っている位置だった。透明人間の強みは位置を悟られず攻撃できるということ、それを無視して動いたことは初めてだった。
すると、顔に拳が当たる感覚がした。メアリーは顔を逸らして避ける。
メイトの動かす魔法による打撃、ここは変わらな――。
メアリーはすぐに異変に気づく。
つ、強い……早い。これはライカの動き?
「――っ!」
それはメイトが三ヶ月でライカから教わった、ライカの動き。
これほどまでに再現度が高いとは……流石にこれは魔法だけじゃカバーしきれない……!
それは今までとは比にならないほど速い。
ライカは近接最強、メアリーが魔法で心底身体強化しまくったとしても近接戦闘ではライカに劣る。
あのライカの動きをここまで習得できた時点で万々歳、だかメアリーとてプライドはある。負けられない。
しかし、今は避けられているが、いつか当たるだろう、結構まずい状況だ。
土魔法でこの前みたいに視界を塞ぐ? しかしそれは強すぎる……――――。
「――――!」
次の瞬間、恐怖。抗えない暗闇が深奥から湧き出てくるような恐怖感。
同時、体の二箇所に右拳が当たる感覚。
メアリーは体を捻ってなんとか避けるがまたすぐに次の攻撃が来る。それも二箇所。
二人になった……。
メアリーは驚愕した、このライカの動きを脳内だけで再現しているのは聞いているが、それを二体同時になんて、化け物じみている。
訳が分からない。
メイトは走り回りながら攻撃する、ライカの偽物は二体同時に操作する。
なぜ走り回っている?ライカを再現するだけで相当疲れているはずだ、なぜわざわざ位置がバレるようなことをする?
メアリーは思考を巡られながら攻撃を避ける。
と言ってもこちらとしても危ない状況、気を抜けば殴られる。二体となると尚更。
ひとまず、メイト本人さえ叩ければ私の勝ち。もうなりふり構ってられない。
次の瞬間、メアリーは爆ぜた。これで視界は塞げる。
メアリーの予想通り、二体のライカ人形は消えた。もともと透明だが、攻撃は止んだ。
「これなら隙はある」
メアリーは走り出そうとする。この爆炎が消える前にメイトに打つ!
が、メアリーの予想外の出来事が起こる。炎が割れた。
メアリーはそれを視界で認識した後、感覚でそれはメイト本人であると理解する。
捨て身の特攻! メイトは温度を感じないからこの灼熱を突っ切ってきた!
メイトは飛びながら現れた。その手はメアリーを掴もうとしている。
メアリーは即座に後ろに身を引きながら手を前に出す。
衝撃魔法!!
メアリーの手の光りが大きくなる。大きくなった後光は圧縮され、細長くなる。
「不意を突こうとしたこと、悪くないです。しかし届きませんでした……『ショックノック』!!」
メアリーが叫んだ後、その魔法は放たれメイトに直撃した。メイトはそのまま魔法で後方に吹っ飛んでいった。
爆炎は魔法の風圧により消える。メアリーが前を見ると、遠くで倒れたままのメイトを見つける。
透明だから分かんないけど、草の倒れ方で位置は分かる。
「完全に当たった、もう動けないでしょう、はぁ……」
メアリーは安堵のため息を漏らす。
今回は過去最高に危なかった。ライカの戦術をあそこまで活かせるならもはや近接最強では?
メアリーはそんなことを思いながら、最後が終わってしまったことに対する喪失感を抱きながら歩き出そうとする。
これでメイトとの戦いも終わり、一瞬だった。メイトは結局私に勝てなかった……そうでしょうね、私に勝てる人なんてこの世のどこにも……だからみんな私を利用しようと……。
「はぁ……」
メアリーは落胆のため息を吐いた。どうせこの世は私以下、だから分からないのだろう。
「勝ち続けるのも、楽しくない」
メアリーはどうしようもない気持ちを、もうすぐ明けるであろう空に向かって漏らした。
――――――――――――――――――――
よし、今しかない。今なんだよメイト! 大丈夫だ!
俺は飛び降りた。頭を下にして、手を伸ばす。
そして、掴む。
「おらぁっ!!」
「きゃっ!!??」
メアリーの肩を掴み、そのまま落下する。よし、防御魔法はない! これなら……いける!
俺はメアリーは地面に倒す、そしてメアリーの両腕を背中に回して手首を掴む。足を片足で抑える。それはライカがメイトにした固め方とおんなじである。
「よっしゃ!!」
メイトはメアリーが動けないようにがっしり拘束した。
「こ、これは……!」
メアリーは理解不能の声を出す。
だってさっきメイトは吹っ飛ばして……。
「フッ、説明しよう。メアリーが最初から戦っていたのは俺じゃない、ただの丸太だ」
メアリーが前を見るとメイトが倒れているはずの場所に丸太が一本あった。
「丸太……」
「俺が一度持ったのもは透明になる、それは動かす魔法で浮かせ続けても透明のまま、だから俺はこの木の上から丸太を動かしてたんだ、と同時に地面の草を倒して、あたかも俺が動いているように見せていた」
わざと走り回っているように見せたのは、そこにいるという誤解を植えつけるため。
「いつから……?」
「ここに来る途中、最後のルール確認の時。あそこで俺自身は立ち止まった、あとは魔法で歩いてる風に見せた。それで俺は先回りしてこの木の上で待っていた、お前が必ずここに立つって分かってたから」
……全く気が付かなかった。
「じゃあメイトは、あのライカ二体を想像しながら、走り回る自分を想像してたんですか?」
「あぁ」
「あなたの位置から丸太まで三十メートルは離れてますけど……」
メアリーはメイトに顔は向けずに聞く。
「だから特訓してたんだよ、遠く離れてても使えるように」
遠くって、この距離であの草が倒れる感じを再現していたの言うのか。それはもはや私より……。
「凄いですね」
「メアリーにはこうやって勝ちたいって、最初から思ってたから、ライカはわざと二体にした」
「……え?」
メアリーは予想外の言葉を聞き、聞き返す。
「俺今最大で六体くらいは作れるんだよライカの透明人間。でもメアリーは殴りたくないから、まぁそれに、これを避けられた時の保険にしてたしな」
これとは、メアリーを拘束すること。
「そんなにも、上達していたんですね」
「あぁ、だから『参った』?」
この状況なら、メアリーは完全に負けている。しかしまだ『参って』いない。
「……私はあなたの拘束を解くぐらい、容易ですが」
「知ってるよ、でも――――」
俺は優しい声音で言う。
「それでメアリーは本当に勝ったと思う?」
「……」
「メアリーは油断した、だからこうなった。もし俺が本当に殺意があったらメアリーはもう死んでるよ」
メアリーは図星を突かれて沈黙する。些か嫌な言い方であると自分でも理解していた。
「で? どう思う?」
それでも、メイトはメアリーに再度質問する。
「……」
メアリーは考える。
この状況なら、負けは確実。でもこれは殺し合いじゃなくてあくまでルールがある戦い。負け方は指定がある。
私はまだ戦闘できるし「参った」も言ってない。よって負けてない。
なら、最後まで――――。
メアリーは魔法を放とうと手を魔力を集める――。
私は負けられないのだから――――――。
「メアリー、メアリーは負けたくないの?」
そのメイトの言葉に、魔力を止める。
負けたくない……違う。私は、怖いんだ。
最強の私が負けたら、一体私はどうなるのだろう。誰からも相手にされないのではないか、もう私に価値なんてなくなるのではないか、その思考がよぎるのだ。
愛されたことなんてろくにない、見られなくなることが一番怖い。
「わ、私が、もし負けたら、誰も私なんか見ない、無愛想で可愛げもない、魔法だけが取り柄の私なんて……」
メアリーは初めて、本心を吐き出した。その目には涙が溜まっていた。
「なに言ってんだ、俺なんかずっと見られないぞ」
メイトは軽く笑いながら言う。
「……え?」
「俺は透明人間だからな、社会体もなにもないんだよ、なぜなら俺はこの世にいない人間だから。だからさ、負けてもいいんだよ、メアリーが俺に負けたと言う事実は、残らないから」
メイトはもともとこの世界の住民ではない。よってメイトのことを知るのはこの村の人たちだけ。ならばそもそも歴史に残らない、残るのは俺とメアリーの記憶にだけ。
「だから、俺を信じてくれ」
「わ、私っ……」
メアリーは涙ながら言葉を発する。
『メアリーは最高傑作』『メアリーは負けない』『メアリーが当家の誇り』『メアリーがいれば問題ない』。数々の人間の言葉全てが、彼女のプレッシャーとなっていたのだ。
そして今、その枷がメイトにより、闇を照らす太陽のように温かく溶かした――――。
「私がっ……負けていいですか…...?」
メアリーは泣きながら言った。メイトは拘束を解き、メアリーの前に移動する。
「……あぁ、いいよ」
メイトはポンとメアリーの頭を撫でた。メアリーは体を起こし、手を伸ばした。
そして、俺の頬を優しく包んだ。
俺は前を見れば、目尻に美しい涙を溜めたメアリーが微笑んでいた。そしてその綺麗な口は開かれた――。
「『参りました』」
メアリーがそう呟いた瞬間、輝く朝日が、俺とメアリーを綺麗に照らした。
ご精読ありがとうございました!
不定期で投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!




