【第19話】斬り合い
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト 主人公。透明人間。
メアリー・フォレスト・レンズ 家庭教師。
シャル・マルマロン メアリーの教え子。
ハル・マルマロン シャルの母親。
ライカ 元山賊。
シロツメ・クローバー ライカを殺したい貴族
まだライカが山賊をやっていた時代。およそ五年前の出来事である。
ライカ、当時十六歳。まだあのチビとデブとも出会う前、独りで森の中で、森に入ってきた人間から食料や物資を奪い生きていた。
彼の武器は腰につけていた小刀のみだった。今までライカを捕えようと数多くの退治屋やら便利屋などがライカに近づいたが、誰一人ライカに太刀打ちできる者はいなかった。
しかし彼は自分を生け取り、または殺害しようとしてきたものは一人も殺さなかった。そもそも普段襲撃する際も人は誰一人殺さなかった。
それはただ彼が殺すことにそこまで意味を感じていなかったからである。
そんなある日、また新しい奴らがきた。
ある夜、ライカが野生で捕まえた生物を食らっている時に、奴らは来た。
「その灰髪、血のような朱殷の瞳……お前がライカだな?」
草の中から急に現れた若い男、その後ろには同じ歳ぐらいの女、そしてその脇に幼い子供。
三人とも同じ雰囲気がしたので、夫婦とその子供だと理解する。
前に立つのが父親だろう、父親の腰には細長い剣が携えられていた。
ライカの使っている刀は三十センチほどの刃長で、圧倒的にリーチは不利。
ライカは食事を邪魔されて不快になりながら、冷静に刀を掴み立ち上がる。
「私は『カーフ・クローバー』と言う者だ。この辺りでライカという山賊が暴れているので始末しろとの依頼で馳せ参じた訳だ。投降するのなら命は助けてやる」
カーフは微笑みながらベラベラ毎回言うことを流れ作業のように言う。
しかしライカはそんな話聞いていなかった。
カーフの服装、貴族が着る縫い目の丁寧なものだ。暗がりで顔はよく見えないが、身なりだけで裕福だと言うことが分かる。後ろにいる女も色鮮やかなドレスのような物を身に纏い、森に入るときのような格好ではない。
「お前ら……ただの退治屋じゃない……」
「ん? ……あぁ、まぁ教えてやる。俺たちはお前みたいな山賊や蛮族を退治する『貴族』だ」
「……貴族?」
「貴族の中でも珍しくてね、私たちの家系は代々その仕事をして上り詰めたのだよ。完璧に研鑽された技、これこそクローバーの真価だ」
カーフは身振り手振りを交えながら語る。ライカの心臓が跳ねる。
貴族……優秀な血筋、研鑽された技……。
「お、お前……生まれた時からそうなのか?」
ライカは震える声で質問した。カーフは眉を寄せながら答える。
「そうとは?」
「生まれた時から、全部持ってたのか?」
カーフはピコーんと察する。
「違うさ、これは私が幼少期の頃から培った努力で得た結晶だ」
努力……結晶……。
「お前はそれを誰から学んだんだ」
「叔父様から」
「じゃぁそいつは誰から学んだんだ」
「……さぁ? 確か父上からとか言っていたような。そうやって技を代々受け継いでいったのだよ、お前のような山賊には分からないものだ」
ライカは戦慄した。
最初から持っているではないか、最初から用意されていたではないか。剣技も場所も恩師も土地も金も地位も。全て生まれた時から持ってたではないか。
憎い。最初から持っていたやつが、努力など語るな、憎い。
「そろそろこの世にお別れをする前の最後の話は終わりでいいかな?」
カーフはそういうと、腰に携えている刀に手をかける。
「ソフィ、援護魔法をいつも通り」
「えぇ、分かっているわ」
カーフは後ろにいた女に声をかけた。すると女はカーフに手をかざし魔法をかける。
基礎身体能力上昇、感覚神経上昇、暗視魔法、防御力上昇――――そのほかにもたくさんのバフがカーフにかけられる。
女は魔法をかけ終えるとしゃがみ、スカートの裾を握っていた子供の肩を掴み、カーフの背中を見せる。
「いいシロツメ、シロツメもお父さんみたいになるのよ。そのためにしっかり見ておきなさい、お父さんの背中を」
子供、シロツメはライカなど目もくれずカーフの大きな背中をキラキラした目で見た。
「はい!」
「さぁライカ!今まで迷惑をかけた人々に懺悔しながら成敗され――――!」
次、シロツメが見たのはライカの自分を見下す顔だった。月明かりが逆光となり、顔に影ができる。
「……え?」
すると、ライカの後ろ、つまり空中に何かが飛んでいた。月に被さりシルエットが見えた。それは楕円形で、回転しながら地面に落ちてくる。
それを無意識で目で追っていくと、地面に落ちた。
バヂャと液体と個体が混ざるような着地音が耳に入る。そしてそれが落ちた横には、父の背中がある。
首はない。落ちてきたのは父の生首だ。
シロツメは思考が止まる。
ライカはカーフが反応できないほどの速さで首を刈り取った。カーフは刀を抜くことなく勝負はついた。
カーフは力無くその場に倒れた。ドクドク首から血が流れて出てくるのが見えた。
死んだ、生物的に完全に死んだ。齢十二歳にて、シロツメは自身の父親の死亡をその目で見た。
「――っ! 逃げて!!」
次の瞬間母親が声を上げ、ライカに手を向けた。しかしシロツメは衝撃で体が動かない。
母親はライカに向かって風魔法を放つ、地面が切れる。人間にあたれば細切れになる。ライカはまた予測不可能の速さで避けた。
「逃げなさい!」
シロツメは叫ばれ、ハッと我に帰る。
「で、でもお母様は――――」
「私は大丈夫だから……!」
「――――」
「行きなさい!!」
母親は迫真の顔で怒鳴る。シロツメは決心し、走り出す。死んだ父と戦う母を置いて。
後ろから母の魔法の音が耳に聞こえる。それは母が生きている証拠だった。
シロツメは全力で森の中を駆けた。
数分走って、シロツメは自分たちが乗ってきた馬車に着いた。振り返り、母を探す。
そこは闇で、人の気配もない。
「――あ、ぁ……お母様……」
シロツメは恐怖で地面に膝をつく。吐き気がする。目眩がひどい。脳が現実に対処しきれていない。
「ど、どうしたら……――――」
その時。
「シロツメ」
声が聞こえた、シロツメは顔を上げる。そこには身体中傷だらけ、土だらけの母の姿があった。
「お、お母様!!!!」
シロツメはすぐに母に駆け寄る。
「大丈夫、大丈夫だからすぐここから逃げましょう。さぁ、早く乗って」
母はよろめきながら馬車のドアを開ける。シロツメは急いで乗り込み手を伸ばす。
「早く! お母様も――――!」
しかし、その手は取られることはなく、バン!とドアが閉められた。
「――――! お母様!」
シロツメはすぐにドアを開けようとする。が、ドアは開かない。
「せ、施錠魔法をかけました……シロツメ、あなたには開けれません」
馬車の外から震える力ない母の声が聞こえる。
「な、なんで! お母様! 早く逃げましょう!」
「ライカはまだ倒してません、捕縛しました」
「ほ、ほばく...?」
「はい、拘束しただけです、私がライカから離れれば魔法は解かれます」
「……」
シロツメの体全身に悪寒が駆ける。
「私はここから離れません、シロツメ一人で逃げなさい」
「嫌だ!! お母様!!」
シロツメは扉を叩く、しかし当たり前のように扉は一切動かない。
「…………ごめんねシロツメ、どうか生き延びて……――」
すると馬車は動き出した、シロツメは振動で倒れる。
「イッ!! え、お母様!! お母様!!! 待ってください! くそっ止まれ! 止まれ止まれ!!」
シロツメは壁を叩いて止めようとする。しかし内側からは止めることはできない。馬車は進み続ける。
「お母様!!!!」
――――――――――――――――――――――――
受けた傷が深い、血が止まらない。拘束魔法を使ったまま治癒魔法は使えない。
ソフィは森の中を歩きながら考える。ポタポタ血が垂れる。
「はぁはぁ……」
立ち止まり、顔を上げる。そこには木に十字に捕えられたライカがソフィのことを見下していた。
「よう、ガキは逃したかよ」
「えぇ……あなたに殺される前にね……」
「俺は全部持っていたお前たちが嫌いだ。だから殺した。だが先にお前たちが殺そうとしてこなきゃこうはなっていなかった」
「それを言うなら、あなたが山賊をしなければこうはならなかった」
ソフィは木にもたれかかり、そのままズルズル地面に座る。上を見上げると、変わらずライカが自分を見ていた。
「俺は生きるために山賊になった、それだけだ。お前らは生きるのに俺を殺す必要あったか?」
「なぜそこまで自由にこだわる? あなた一人が捕まっただけで、救われる人はいるのよ……」
「……捕まった時点でどうせ最後は俺を殺すだろ」
「……そうね……」
ソフィはぐったり上を仰いだ。最後の力を振り絞り、声を出した。
「でも、あなたの人生は、人を二人殺してでも、繋ぐものかしら?」
それを言い終えると、ソフィの目の光は消え、頭が下に力無く垂れる。
最後、ソフィの脳裏に浮かんだのはカーフの笑う姿だった。
あぁ……死なないで欲しかった……。
ライカの拘束魔法は解かれ、地面に着地する。ライカは手首を解しながら死んだソフィを見る。
「……」
ライカはソフィの最後の言葉の答えを見出せないまま、その場を立ち去った。
――――――――――――――――――――――――
「はい、っつーのが俺とこいつの間にあった過去」
ライカは床に這いつくばるシロツメを見ながら言う。
なるほど……。
「そうか……シロツメと言うのか」
「あぁ、そして親の仇で俺を殺そうとここにきた訳だ」
俺は仇という言葉にムッとする。
「仇ね……」
そんなめんどいこと考えて生きてて楽しいのか?
「ライカ、お前はその後のことを知らないだろ」
ふと、シロツメが切られた脇腹を抑えながらつぶやいた。顔は背中で見えない。
「あ? まぁそうだな。てかお前喋んな、死ぬぞ――」
「俺は独りになった後、叔父様と一緒に暮すことになった。しばらく退治屋の仕事も辞めた。一年間で、この流儀を完全に習得した」
一年、これまで歴代の人間が継いできた"技"をたったの一年で習得したことは、クローバー家でも異質だった。
「その後、何をしたか分かるか……?」
その時、若干シロツメが笑ったような気がした。ライカはシロツメを睨む。
「なんだ?」
「弟子入りしたんだよ……『フォレスト・レンズ』に!!」
いきなり出てきた知ってる名に固まる。
フォレスト……ってメアリーの家、だよな……。
「俺はお母様の子供だぞ、当然あるんだよ、魔法の才能も!!」
「魔法……」
「俺は復讐に使える魔法を、正義を執行する為の魔法を習得するために、世界最高峰の魔法一家のフォレストに弟子入りしたんだ! だから透明魔法もバフ魔法も使えるんだ! つまりな、こんな傷、致命傷でもなんでもないんだよ!」
シロツメは笑いながら立ち上がった。その姿は貴族とは思えない、醜く汚い、復讐に駆られる男の姿だった。
「俺はもう! お前に遠慮はしない...全力でお前を殺す。これは両親の復讐だ……」
シロツメはバッと手を広げ、天井を仰ぐ。ボロボロで血まみれの病室の真ん中で笑うシロツメは、怒りが溢れ出ていた。
「禁忌魔法……『逆行』」
シロツメは手を広げたままそう呟いた。するとシロツメは淡い光に包まれる。
逆行……って。
「これは俺がフォレストにいた時、禁書庫で見た古代の指導者に載っていた魔法だ、現代では学ぶことも許されない禁忌の魔法……『時を巻き戻す魔法』……」
すると、シロツメの切られた脇腹はいつのまにか繋がっていて血も止まった。乱れた服は勝手に直る。
「これは任意の時間に時を戻す魔法だ。これを使えばどれだけ傷ついても治る、使った体力も元に戻る。つまりこれで無限に戦えるんだ、片腕のないお前の負けは確定だ」
えぇ……その禁忌魔法、最近ふっつーに使っていた女の子がいたんですがー……。メアリーはなんの気もなく使ってたけどそんなヤバい魔法なのか?
「さぁ、続けようかライカ...お前の命が切れる瞬間まで、斬り合おうじゃないか――――」
シロツメは刀を構えた。ライカは少し考えた後、振り返り俺を見た。
「……ふむ……」
そしてシロツメを向き直り、腰を落とし、小刀を構える。いつもの構え方だ。
俺は目を見開く。ライカはこう言ったはずだ。「よく見てろ」と。
なら俺は従おう。俺は俺にできることをする。大丈夫。ライカは勝てる。なんせ、俺が勝てないんだから。
ご精読ありがとうございました!
不定期で投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!