【第16話】初手
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト 主人公。透明人間。
メアリー・フォレスト・レンズ 家庭教師。
シャル・マルマロン メアリーの教え子。
ハル・マルマロン シャルの母親。
ライカ 元山賊。
夕日がメアリーの横顔を照らす。白髪は優美に輝き靡く。ほんのり染まった頬、いつもより優しい瞼。
「では始めますか、もう暗くなってきていますし」
「んだな」
メアリーはいつも通り、原っぱに生える一本の木の下から戦う。
俺は十メートルほど距離を取り、手をかざす。
俺とメアリーの間に風が通り抜け草が靡く。
次の瞬間、メアリーはスッと流れるように左肩を引いた。もちろんメイトがそこを狙って魔法を放ったからである。
メアリーは神経伝達速度を格段に上げるバフを自分にかけていた。ので、たとえどこから攻撃されてもそれが皮膚に当たった瞬間避けられる。身体能力向上のバフもかけてある。
今まで通りの戦い方……特に変化はない?
メアリーは少し落胆する。
メイトならすぐできると思ったんですが、やはりまだ未熟。まだ一度も当たっていない動かす魔法のみでまだ挑んでくるか。
今、メイトはどんな顔をしてるのか分からない。分からないんです、メイトがどんな気持ちで戦っているのかが。
勝てずに悔しいのか、それとも意地を張っているのか、本当にこれでいつか勝てると思っているのか。
メアリーはそこに立っているメイトに不安の目を向けた。
「――勝負ってのは、最初が一番大事なんだよ。相手も知らない初めての行動されたら反応できない」
「それで反応してきたらそいつは化け物だ」
「だから、『初手』だ。初手で全部決めろ」
――ありがとうライカ。
ライカが初めてメイトにしたアドバイスらしい言葉。メイトは探っていた。その初めてをいつ使うか。
メアリーはいつも通り透明人間の攻撃を避けて捌き、隙を作る。
――ここ、このポーズの時メイトは私の左側に攻撃できない。多分脳内でちゃんと想像できないポーズの時は弱いんだ。だからあえて変で滑稽なポーズを取れば、そこは攻撃できない。
メアリーは振り向き脇の下から右手を出してメイトに向ける。そこからその左手を軸に飛びながら高速で回転してメイトの方向を向いて右手を伸ばす。手は衝撃魔法を放つため光った。
これで終わりです――。
きたっ! 今がそうだ!!
メイトは咄嗟に今まで使っていなかった左手を向ける。
すると、メアリーに突然の異常事態。
え?
困惑するメアリー。二箇所同時感知、伸ばした右腕と左足付け根に同時に触られる感覚。
おし! これで地面に抑えれば――!
俺は腕を引っ張り地面につけようとする――が、次の瞬間メアリーの右手の色は赤色に変わった。
――魔法が変わった、なにをする気だ? 関係ない、このまま拘束すれば!
次の瞬間、メアリーは右手に力を入れて、下から上に手を振る。手から赤い残光が見えた。
すると、俺の前の地面が急に盛り出し始め、俺が理解する前に爆発した。爆音と共に飛び散る石や土に俺は反射的に顔を守る。
やがて、土埃や小石が地面に落ち切ると視界が晴れていく。
俺は顔を守っていた腕の隙間から前を見る。
メアリーは俺を的確に睨んで、俺に銃の形を作った左手を俺に向けていた。その指先は白く光っていた。
そしてメアリーはその魔法を放つと、空を駆け抜け、俺の額に一瞬で到達する。
あ、やべ。
俺はもはやどうすることもできず、目を瞑った。
バキン! っと額からしちゃいけない音が鳴り響く。
「いってええええええぁ!!!!」
俺は地面に転がり額を抑える。過去最高に痛かった。
「す、すみません!」
メアリーが慌てた様子で駆け寄ってきた。
「痛すぎるよこれ!! なんでこんなに痛いの!?」
「今回は一点集中型の魔法を打ったので痛いんでしょうね、今癒します」
するとメアリーは俺の額に手を当てる。すると光が出てくる。そして痛みが引けてくる。
「あ痛ったかったぁー、てか今回すごいことしてきたね! 地面が爆発したんだけど?」
「それはあなたが新しいことしてきたので……びっくりして、ちょっと本気を……」
メアリーは手で頬を隠しながら言う。隙間から見た頬は少し赤く染まっていた。
「そう? で、どうだった? 俺の二体同時操作、まだ早く動かしたりできないけど結構よかっただろ」
「まぁ、確かに二体となれば格段に強くなりますね。私も避けられなかったので」
「お前でも避けられないのか!」
ライカは普通に避けてたんですが。あの人やっぱりホントに凄い人なのか。
俺は立ち上がり、メアリーに手を差し伸べる。
「まぁとりあえず帰ろうぜ、暗くなってきたし。今日も負けってことで」
メアリーは一人で立ち上がる。
あぁ透明だから分かんないか……無視されたと思って傷ついたぞ一瞬。衝撃すぎて固まっちゃったぞ。
「あ、てかこの土直さないと……」
「あぁそうでしたね」
メアリーは今思い出したように呟くと軽く手を払う。すると土は一人でにモゾモゾ動き、完全に直る。
えぇぇぇ……。
「お前すごすぎじゃね? なんで今の直るの? どういう魔法?」
「逆行魔法です、時間を巻き戻しました」
いやいやいや、それはチートすぎませんか? それ俺が持ってるような魔法だろ、なんでメアリーが使えるんだよ……さてはお前主人公か?
「強すぎんだろ、それみんな使えんの?」
俺は歩き出すメアリーに話しかける。
「まさか、こんなのできるの私ぐらいです」
「さすが天才……」
「あなたも相当だと思いますけどね」
「いやいや、俺は凡人だよ」
「いえいえ、謙遜を」
そんな感じで喋りながら俺とメアリーは家に帰った。
――――――――――――――――――――
俺がライカに戦術を教えてもらい始めてから一週間ほど経った。
「……」
視線の先には俺の魔法を簡単に避けるライカがいる。今もこうして授業をしてもらっている。
つってもただライカの動きを見続けるだけなんだけどな、そのおかげでだいぶライカの動きが見えるようになってきた気がする。まぁ当たらないけど。
「はぁ……今日はこれくらいにしとくか……」
ライカが突然言った。俺はそれを聞いて魔法を止める。
「そうだな……もう夕方か、汗かいたから風呂入っていいか?」
魔法には精神力を使う。意外と疲れるのである。
「俺も入ろうと思ってたし、入りたけりゃ勝手に来い」
「そうさせて貰うわ」
そしてライカは歩き出した。俺はその後ろを勝手についていく。
歩くこと数分、病院を出て道なりに進んだ先にあった建物、その前でライカは立ち止まった。
「……ここは?」
「銭湯だな」
「銭湯だな、うん知ってる。そうじゃなくてなんでここ? いつもは病院の風呂勝手に使ってるじゃん」
「たまにはいいだろ、病院にはシャワーしかないし。湯船に浸かりたい」
ライカはいつも通り見下すように銭湯を見る。がなんだか楽しそうに見える。
「あっそ……てかお前湯船に浸かったことあるの?」
「ないから入りたいんだ」
「……ふむ」
俺は顎に手をやり考える。
そうか、ライカは俺には想像できないほどの壮絶な人生を歩んできたんだ。よし……。
「まぁ入るか、俺も久しぶりに風呂入りたいし」
俺も風呂は異世界に来てからシャワーだけだったので、内心楽しみである。
「なんで俺と一緒みたいな言い方なんだよ、勝手にいけよ」
俺とライカは結局二人同時にスライド式のドアを開けた。
ライカは迷うことなくそのまま男湯に入ろうとする。それを番台でダラダラしていたお姉さんが止める。
「ちょ、ちょっと、お金お金!!」
身を乗り出してライカの肩を掴む。ライカはピクっと反応して、腕を振る。
次の瞬間、ライカの爪はお姉さんの首元にあった。――はずだった。
「何してんだお前、いきなり攻撃しようとすんな」
「……」
俺は咄嗟に魔法でライカの手を止めていた。お姉さんはライカの掴んで肩から手を離す。
「こいつが肩掴んできやがったからな、反射的にな」
「だからって……ここにお前を攻撃しようとするやつはいねぇよ」
「知ってるわ、けどこれは俺の癖だ」
余裕ないなぁ……。
「あ、サランさん、久しぶりです」
俺はライカは一旦置いといて番台のお姉さん基サランさんに話しかける。
「あ! メイトくん? おひさ、この前は手伝ってくれてありがとね」
サランさんはなんとなくで俺の場所を見ながら言う。正確にはそこじゃないが別に慣れた。
「いいよ、またなんかあったら言ってくれ」
「うん、で何しにきたの? あ、お風呂か」
俺はこの前ここの銭湯の風呂掃除を手伝ったことがある。そこで一応この人とは仲良くなっていたのが吉と出た。人脈最高。
「うん、てことで入るね」
「分かった、えーと……まぁこの前手伝ってくらたしメイトだからサービスで五十テスでいいよ」
「……うん、ありがと」
「……え?」
「つけといて」
「は?」
「つけといて」
「えぇ……」
「頼む、俺よく考えたら一円、いや一『テス』も持ってなかった」
『テス』とはこの世界の通貨である。俺は透明だから分からんだろうが手を合わせてお願いする
「よくそんなんで来たね、びっくり。まぁメイトならいいかぁ……この前バイトしてくれたし……つけもなしでいいよ」
「サンクス、恩に着るぜ」
これこそ人脈の力。コミュ障ながら頑張ってよかった。まーメアリーに指示されたからやったんだけど。
「あ、こいつもいいかな? 俺の連れなんだが」
俺はライカを指しながら言う。するとサランさんは眉を寄せて唸る。
「え〜それは流石に……」
「頼む」
俺はお姉さんの手を握る、魔法で。サランさんはビクッと驚く。
「え、えいやちょっと……」
「頼む、俺の一生のお願いだ」
嘘も方便、情に訴えかける。
「でも流石に、二人分は……」
「お願い、サランにしか頼れないんだ!」
「え、えと――――――」
カッポーーん。
と、擬音がなりそうな温泉である。実に日本を思い出す。
まぁ銭湯とか行ったことほとんどないけど。てか人結構いるな、まぁホールの時点でいたけど。
結局サランは折れて、ライカと俺の入浴を許可してくれた。
俺とライカはテキトーに体をシャプーで洗った後、湯船の前に立っていた。
「これが、全部お湯だと……」
ライカは今まで見たことのない光景に驚嘆の声をこぼす。当然のことながら、裸である。
「そうだ、これが『世界』だ」
「? ……まぁいい、行くぜ」
するとライカは足を引いて、タイルの床に手をつける。
「お、お前まさか!」
俺が止める前にライカは足を出して飛んだ。そしてそのまま着水。
どっパーン! と水面が揺れる。隣のおっさんから凄い形相で睨まれた。
「おい! ここ飛び込み禁止! このバカっ!!」
と、言いつつも俺も飛んだ。俺夢だったんだよ、こうやってルールを破るの。
「いやっほーーい!!!」
どっパーン!
「プハッ! サイコー! おらライカ、ウエーい↑!!」
役二ヶ月ぶりの風呂、テンション上がってしまう。
「お前ガキかよ、はしゃいでんじゃねぇよ」
「ええ……意外と冷静で自分がよく見えてきて恥ずかしいー……」
俺は恥ずかしさで体温が上がりながら肩までゆっくり浸かる。ちなみに温度はない。ので、液体が触れているという感覚のみが全身にあるだけだ。冷水でもおんなじことになる。
「……」
チラッとライカを見ると、ポケーと上を見ながら口を開けていた。
フッ、と俺はいつも通り笑ってから、俺もゆっくりする。
「悪かったな、俺を入れてくれて」
数分後、ライカがいきなりつぶやいた。その内容に本当にライカが言ったのか疑問だったがどうやらライカらしい。
「いや、お前がこれまで色々あったらしいしな、風呂ぐらいタダで入る権利はあるだろうと思ったから」
「キモい同情しやがって」
「てか疑問なんだが、お前なんであんなに力ずくに拘るんだ?」
「別に、自分の願いは自分の力で叶える。それが俺の生き方だったからな」
「ほーん、野生の生き方ね……でももうその心配もないな」
「あ? なんだと?」
ライカは俺を睨む。俺は首を捻りながら言う。
「え? だってお前もう山賊やめんじゃないの?」
俺が言うと、ライカは目を見開いて固まる。その後俺から視線を外して前を見る。
「……山賊はやめねぇ、多分」
「え? な、なんで」
「俺が言うのもなんだが、俺には人間とうまく関わる技能がない、だから山賊で一人ダラダラ生きてた方がいい」
「そんなことないだろ、お前は普通に俺と話せてるし」
「お前は別だ」
何その特別扱い……意識しちゃう!
俺は無性に恥ずかしくなり話題を逸らす。
「……山賊ってみんな野蛮人なのか」
俺が呟くとライカは訂正する。
「いや山賊でも普通に市街地入ったりするぞ、俺はほとんど森から出なかったが、大抵の山賊は一般人と関わる」
「ほーん、意外と壁ないんだな」
「まぁ俺は絶対王都には近づかないがな」
「王都?」
初めて聞いたしなにその異世界っぽい都市行きたすぎるんですけど。
「なんで」
「生まれた時から"持ってる"やつが、それはまるで自分の力のように振る舞っているからだ。何もしていない奴が血統だけに縋り地位を手に入れる。それが許せない」
ライカは怒りに燃える激情の炎と言うよりも、心内に秘める葵く冷たい憎悪の炎を誰にもバレずよう、微細ながら、それでいて強大に燃やし続けているようだった。
「確かにそう言う奴は俺も嫌いだけど、そこまで嫌悪するか?」
「俺は最初から何も持っていなかったからな」
ライカはぶっきらぼうに言う。
ライカは生まれて、名も与えてもらえずにすぐ親に捨てられて、それから独りで生きてきた。自分が生きるため、他の誰かが不幸になっても構わない。それが先ほど述べたような奴らなら尚更。
「お前は他人に迷惑かけるやつを嫌うかもしれないが、これが俺なんだ……今更変える気はない――」
「いや、嫌わない」
俺が言うと、ライカは予想外の反応で固まる。
「お前がどんな人生を歩んできたか知らないけど、ライカのそのスタンス嫌いじゃないし、他人に迷惑でもいいから生きていてほしい、こういうの、憧れてたんだ」
誰かのためじゃない、自身だけのために生きる。前世じゃ糾弾される間違った生き方だ。
世のため人のため死力を尽くして励む、それも素晴らしい考え方だ。だが俺の好みじゃない。
「みんな自分が幸せならよくて、それでもみんなが幸せであってほしいと願う。そんな夢のような世界は、史上最高に最高だろ?」
俺はそういいながら笑った。
「だからライカにも幸せになってほしいし、そう願ってほしい」
ライカは目を瞑った。それを見ながら俺はまだ言葉を綴る。
「ライカには、周りの人が幸せなら良いと、そう思ってほしい。それが俺の幸せだから」
湯煙で視界が霞む中、ライカはゆっくり目を開けた。その顔は変わらず怖い顔してたが、その瞳には優しい光が灯っていた。
「まぁ考えてやる」
「……フッ、おう!」
ライカと俺はそのままいつもより長湯をすることにした。
「あ、せっかくだから女湯とか行く?」
提案してみた。
「……あー、まず『せっかく』の意味が分からないんだけど、どういうこと?」
ライカは首を捻りながら聞いてくる。チラッと周りのおっさんたちも聞き耳を立てる。
「俺夢だったんだよ、透明人間で風呂覗くの」
「夢が最低すぎるだろ、死……う"う"ん! やめとけよ」
ライカは癖で死ねよと言いそうになるの堪える。
「なに問題はない。下心はないから、あるのは好奇心、やってみたいという感情は何者にも止められないものだよ」
「いや性欲だろ」
「フッ、俺レベルになるとその辺りの線引きはちゃんとしている。大丈夫だってちょっと覗くぐらいだから」
「ちょっとも結構も変わんねぇよ覗いたんなら」
「いや思えば、俺こっちきてから癒しがほとんどなかったんだよ、まぁメアリーと同室なのは嬉しかったしシャルとかとも仲良くなれて良かったけど、そう! まだ透明人間を生かしたことをしていないんだよ! 今こそその時! 時は満ちた! 俺はやる! 俺、メイトは今から女子風呂を覗きます!!」
俺は高らかに宣言した、周りのおっさんからは「おお〜」と言う声と拍手が送られてくる。
なにこれ謎の優越感、楽しコレ……。
「もう勝手にしろよ……」
ライカは呆れ気味に肩をすくめて湯船に浸かる。
「じゃ、行くぜ……!!」
俺は風呂から上がり入口に向かおうとする。
「あの聞こえてますからね」
ふと、聞き覚えのある声が銭湯に響いた。パッと上を見ると壁が途中で終わっていた。つまり女子風呂と男湯は繋がっていたらしい。
「あ〜……」
「来たら殺しますから」
「あ〜……」(掠れ声)
俺は後ろ歩きで戻り、湯船に浸かった。
「弱っ」
ライカが驚いたように言った。俺はただ急激な羞恥心で死にたくなっていた。
ご精読ありがとうございました!
不定期で投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!