【第153話】昔話
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理矢理すぎだろ」など思うかもしれませんが、そこはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
アクロ・アイト
オリビエ・ペル
メアリー・フォレスト・レンズ
ライカ
現在から三千余年前、人間と魔獣の均衡が保たれ始めて数百年経過したあたりである。創造神であるヨイは、人間の感情である好奇心に冒され、人間になることを決意したのだ。
魂と精神の分離。今まで通り観測だけを続ける存在のを魂。人間となるものを精神とした。
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降り立った場所は人間たちの都、今のアルディアがある場所だった。
当然、今と比べれば全然文明は発達していない。石や木造建築の家々、舗装されていない土道だが、当時じゃありふれた街並みだった。
「……」
ヨイは辺りをキョロキョロ見渡す。道ゆく人は誰も自分に気づかない。ヨイは自分の体が透明なことに気がついた。まずは体の生成からだろう。
ヨイは近くを歩く人間を観察する。生物はメスとオスに別れている。ヨイに性別はないが、汎用性を鑑みてオスの体を選ぶ。
適度な筋肉量や不自然のない骨格、衣服も適当に作ることにした。路地裏で、ある程度作り終えた後道に出る。
黒髪黒目、十代後半、服も無難でパッとしない平々凡々の青年。しかしよく見れば呼吸も瞬きもなく、心臓も動いていなかった。
「……」
体を手に入れたヨイは、とりあえずニンゲンになるために街を歩くこととした。実態のある体は初めてなので歩くのに苦労したが、十秒ほどで適応した。
町を歩けば見えてくる本物。この街が所属する国は、現在隣国と紛争状態にある。紛争はこちらが劣勢。食糧も、配給に足りなくなるのも時間の問題であった。
「そっちいったぞ!」
「いけいけ!」
「…………」
道の真ん中で何かをする少年たち。布を詰め込んだ塊を蹴り合い、互いの指定範囲内に入れた方の一点。ニンゲン特有を征服欲の発散のための、いわば娯楽、遊戯、そういうものだ。
しかし、道のど真ん中、通行の邪魔になるだろうが、咎める人はいない。皆、無意味だと分かっているのだろう。
ヨイはまた歩き出した。
歩き始めて数時間、だんだん空が暗くなってきて、出歩く人も少なくなってた。生物は睡眠を取る必要があるが、ヨイはもちろん要らない。おそらく人間は眠るために棲家に戻るのだろう。安心する目的に。
食事も空気も睡眠も必要のない生物ははたしてニンゲンと呼べるのか疑問だが、当時のヨイは『心』を持ちたかっただけなので必要ないとしていた。
「おいにぃちゃん、ちょっと待ちな」
と、その時横から話しかけられた。ヨイは体は向けずに顔だけ横にやると、路地の中から大きな男が出てきた。
「俺たち金ねンだわ、有金全部だしな」
巨体の男の後ろを見れば、部下らしき人間が三人いる。全員ダガーを所持していた。
「…………」
ヨイにかかればこいつらなんて歴史上から存在ごと抹消することなんて朝飯前だが、それはあまりにニンゲンの力を超えるから却下した。
「おら早くしろよ、あんまり人に見られたくねンだよ……それともなんだ? 痛い目見なきゃわかんねぇか?」
男はヨイの肩に腕をかけ、暗がりの路地に引っ張っていく。痛い目、痛いというのには興味があった。
「……」
ヨイは無反応を選択、痛い目というものを経験することとした。
「ボス、どうやらそいつやられねぇとわかんねぇみたいですぜ?」
「そうだな、仕方ねぇ」
すると男はグッと拳を握り、振り被った。
「……ん? あっおい!!!!」
ヨイの後ろから叫ばれた言葉が聞こえたのと同じタイミングで、ヨイは顔面を殴られた。勢いに身を任せ地面に叩きつけられる。
これが痛み……何も感じない。
「お前らッ……何回言えば分かるんだ!!!!」
すると、先ほど後ろから叫んだニンゲンがヨイの前に立った。夜月のような純白の髪の青年。
「またお前かゼレン……今日という今日はぶっ殺してやる」
「お前らはもっと他人を思いやれ!! お前たちの独占的な考え方は糾弾されているんだ!!」
「ごちゃごちゃうるせぇ!! 死ねやー!!」
「そうだ! やっちまえボス――」
その瞬間、ゼレンは目にも止まらぬ速さで男を圧倒した。男はなす術なく腹や顎、膝を殴られ蹴られ、ついには地に腰をつけた。
「はぁ、はぁ……なんだその出鱈目な強さは……まだ十五とかだろ!?」
「俺は日々を生きている! ただ快楽のために生きるだけの、死んでるようなお前たちとは違うんだ! 日々精進するんだ! そんな俺にお前たちが勝てるわけない!!」
ゼレンは自信に満ち溢れた態度で男に迫る。確かにその体つきは年齢にそぐわず筋肉質で健康的、バランスの取れた良い体だ。
「て、てめぇ……お、覚えておきやがれ!!」
敗北を悟った男は、そんな捨て台詞を吐いた後、一目散に逃げた。その後に部下たちが焦った様子でついていった。
「…………ふぅ」
いなくなったことを確認したゼレンは小さく息を吐き、胸を撫で下ろした。
「大丈夫か? この辺はあいつらの縄張りなんだよ、夜に出歩かないほうがいいぜ。それより顔見せてごらん、俺は一応回復魔法使えるから治せるかも……――」
ゼレンの言う縄張りはもちろん単なるあいつらの主張にすぎず公的な権利はないが、ヨイにとっては生物は自分の領地を作るのが目的であると考えているため、納得していた。なんなら勝手に入ったことを反省していた。
「……」
しかし、それはそうと痛みというのは感じれなかった。おそらく痛みを味わったことがないから再現できなかったらしい。と、考えているとゼレンが自分の前で唖然としていることに気がつく。
「お、お前、怪我は……?」
困惑した様子でそう言う。そうか怪我していないことに驚いているのか。
「お前まさか、回復魔法を使えるのか?」
「……」
使えなかった。今更ながら、当時のヨイに意思表示能力はなかった。
「……お前、どこに住んでるんだ? この辺りじゃ見ない顔だが」
「……」
「もしかして分かんないのか?」
「……」
「記憶喪失ってやつか、たまにいるんだよそういうやつ、なんでも精神的ショック? みたいなやつでもなるとか……うーん」
ゼレンは一人で勝手に解釈し話を進める。腕を組み考えた後、確かめるようにゆっくり口を開く。
「あのさ? お前さえ良ければ話なんだけど、俺ん家に来ないか? 記憶がないなら大変だろうし、ここよりかは安全だよ、どうだ」
家、好奇心が疼く。
「……」
「ホントか! よし、じゃあ行こう! 早くしないと妹が怒っちまうからな」
ヨイの沈黙を肯定と受け取ったゼレンはヨイの手を取り、立たせる。
「こっちだぜ」
ヨイは歩き出したゼレンの後をついていく。ゼレンはムッ? と不思議がるように自分の手を見つめ、呟いた。
「おかしいな……すげぇ冷たかった」
――――――――――――――――――――
「お前名前とか覚えてないの?」
「……」
ゼレンの家に向かう途中、ゼレンはよくヨイに話しかけた。全てに沈黙を返すヨイに一切疑問を抱かず、勝手に解釈する。
「覚えてないのか? んー、そうなると呼ぶ時不便だな。なんて呼ばれたいとかあるか?」
「……」
「ないか……じゃあ俺が名付けようか……ふむふむ、お前はなんかアレだな、夜みたいに静かだからヨイにしよう! 我ながらナイスセンス……グッとくるぜ」
この時初めて、神の存在にヨイという名前が付けられたのだ。神の名は三秒で決まった。
「っと、あれが俺の家、ぼろっちぃけど我慢してくれ」
と言いつつ指差したのは、壁は木材、屋根はトタンで造られた、なんとも言い難い家だった。家というより古屋。
「おいなんだその顔は、不満そうだな! だが驚くなよ? 隣も俺の家なんだ! つまり実質敷地は二倍! そこらへんに住んでる奴らより広い家に住んでるんだぜ?」
いや敷地の範囲ではなく家の素材について言いたいが、それを言う能力はヨイにはない。
「……」
「そうだよなぁ! よし入ろう、あ、妹いるけどいいよな? 大丈夫、良いやつだから」
なんてにっこり笑いながら言うゼレンは、ガタガタの扉に手をかけ、引く。するとギィぃイィなんて音を立てながら開いた。
「おっそい! ご飯冷めちゃうでしょ!?」
扉開けて最初に見えるのがリビングだった。
「ごめん遅れた! だが遅れたのには非常に非常に深い訳があるんだ………どりぁぁぁ!! 今日からこの家に住むヨイ君でーす!!」
「……」
「……」
大袈裟に披露したゼレン、ヨイは相変わらず真顔で沈黙を返す。ゼレンの妹は目を二、三度パチパチしたあと、盛大にドン引いていた。
「こいつは妹のリメア、生意気だがよろしく頼む」
兄であるゼレンと同じく、純白の髪の妹。容姿端麗でまだ幼い、十代だろう。
「……はぁ、ほらさっさと入って、開けっぱなしにしない」
リメアはあからさまにため息を吐いた後、怪訝そうに指をちょいちょいとやってヨイを招く。隣のゼレンは朗らかに微笑み、腕を広げた。
「ようこそ、フォレスト・レンズ家へ!」
こうして、ヨイの人生は始まったのだ。
ご精読ありがとうございました。
毎週平日の朝に投稿してくので次回もぜひ読んでください。
シャス。




