【第15話】力ずく
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト 主人公。透明人間。
メアリー・フォレスト・レンズ 家庭教師。
シャル・マルマロン メアリーの教え子。
ハル・マルマロン シャルの母親。
ライカ 元山賊。
朝起きると、メアリーが鏡の前で髪を整えていた。
いつも通りの白く綺麗な太もも、細く綺麗な二の腕。
いつも通りなんだが、なんかいつもより可愛い。いやなんか見るとこキモいな……でも透明人間だから問題はなーい!
「おはよ」
「あ、お、おはようございます」
「お前なんか可愛いな、よく見ると」
「いきなり酷いですね……」
「え?」
なんで怒られたんだろう……あ、もしかして「よく見ると」ってのが、よく見ないと可愛くないとか思われたか?
「いや、可愛いからな? お前はずっと可愛いぞ?」
「は!?」
メアリーは櫛を落としそうになる。赤面して俺を見る。
「な、……んんん……そうでしょうか? 朝っぱらから変なこと言いますね……」
メアリーは可愛く咳払いした後、拳を手にやりながら言う。
「うんうん、だから頑張れよ」
「……? え? 何をですか?」
「……フッ、お前自身で考えな――――」
俺はそう言いながらベットから降り、メアリーの肩に手をポンと叩きカッコつける。
「は?」
メアリーは完全に真顔で言った。
「あ、カッコつけてすみません」
「……全く……早くご飯食べましょう」
「え? あぁそうだな……」
なんか今日は軽いな……いつもはもっと辛辣なこと言うと思うんだが、寝起きだからか? てかなんかすごい頬赤いし、照れてる?
メアリーは椅子から立ち上がり、スタスタ扉へ歩いていく。その頬は体温が自分で分かるくらい赤く染まっている。
まずい……今までなんともなかった彼の軽口も、なんだか……『カッコいい』と思ってしまった……。
メアリーは自分の口に手を当てて、動揺しながら深呼吸する。
落ち着いて……メイトはなんとも思ってないただのジョーク……いちいち反応するのはダメ……。
メアリーはチラッとメイトの方を見る。
でも昨日、遠回しにも「好き」みたいなことを言ってくれて、そのままなんだけど……私たちは一体どういう関係なのだろう。
メアリーは扉の前に立ち止まり、考える。
彼氏彼女? でもそれにしては変化がないいつも通りの会話……昨日の夜は緊張で寝れなかったけど、それ以上なにかあった訳でもない……。てっきりなんかするのは思ってたら一瞬で寝ててびっくりした。
ていうかそもそも、私って本当に「好き」って言われた? あれからメイト、なんとなく変なこと言ってるような気がするし……もしかして勘違い?
メイトは急に立ち止まったメアリーに戸惑いながら首を捻る。
「なに? どかした?」
「いえ……もしかしてなにか誤解してるんじゃないかと思いまして……」
「誤解?」
なんだ?
するとふと、扉を見ると少し隙間が空いているのに気がついた。
「あ? なんかドア開いてね?」
「え?」
メアリーが振り返ると、確かに開いてるのに気づき、ドアを開ける。
廊下には、逃げ腰で固まったハルさんが誤魔化し笑いを浮かべながら俺たちに微笑んだ。
「な、何してるんですか……」
「い、いやーちょっと気になっちゃって……あはは」
ハルさんは髪を手で纏めながら言う。
「気になったって、何にですか?」
メアリーが聞くと、ハルさんは深刻そうな顔をしながらメアリーの肩に手を置いた。
「ちゃんと避妊した?」
「――――――してないです――」
メアリーは完全に真っ白になりながら答えた。
「してないの!? ダメだよちゃんとしなきゃ!」
ここは男の俺が説明しなければ……!
「あー待ってください、そもそもしてませんから。避妊しなけりゃいけないそういう行為をしてませんから」
この人、ホントに天然なんだな……そういうことはさりげなく聞くもんだろうよ……。
「え? してないの?」
「してません!」
俺は胸を張って答える。メアリーは照れた顔で俺を見る。
「俺はメアリーの気持ちを尊重しますから! 俺のことはどうでもいい、俺の欲求なんて関係ない。メアリーが望むことをするまで!! メアリーがしたいならしてやらんこともない! と思う」(小声)
俺はビシッと上を指しながら宣言する。メアリーはみるみる赤くなっていく。
まー本当は性欲ないから手出さないだけだがな、ここはカッコつけさせてもらおう。
メイトはそう思うが、ただヘタレなだけであった。
「そ、そうなんだ……メアリーちゃん?」
メアリーは考えていた。
なるほど、どうやら誤解はなかったらしい……メイトはあくまでも私に従うと……確かに昨日は私からは何も言わなかった……だから手を出さなかった。そういうことか。
「あ、あぁ……はい」
メアリーはテキトーに返事しながらさらに考える。
でもこういうのって女からするものなの? でもメイトは私が言わないとやらないそうだし、私からするべき? でも私どうしたらいいか分かんないし……。
メアリーは少し思考を放棄した後、ため息を吐いた。
やめた……今日はシャルの授業もあるし、こういうことは後で考えよう。
「いえ、なんともないです。早くご飯食べましょうか」
メアリーはそう言いながらハルさんの横を通って部屋を出て行った。
「え、えぇそうね」
それについでハルさんも部屋を出ていく。残った俺は欠伸をして、体をほぐす。日課って訳でもないが、ストレッチは毎朝やっている。
「さて……今日も一日頑張ります、か」
と、誰もいないにも関わらずカッコつけながら呟いた。カッコよくはない。
――――――――――――――――――――
朝食の後、シャルと授業のメアリーを他所に病院に来たメイト。
「すいません、ライカの病室まで行っていいですか?」
受付のナースに話しかけると、ナースはビクッと驚いた後慌てて言う。
「メイトさん!? あなた出禁ですよ! 勝手に入らないでください!」
「え? それまだ生きてたの?」
「まだって昨日のことでしょ! 早く出てってください!」
俺はナースの勢いに負け、トボトボ病院を後にした。
「はぁー、そういや俺出禁だったわ……」
俺は病院の玄関で振り返る。
「……仕方ね、裏から入ろ」
俺は道を逸れて病院の横道から草をかけ分けて裏庭に入る。裏には勝手口があるから入ることができる。
「悪いが、こんなとこで躓くわけにはいかねぇんだよ」
俺は無駄に捨て台詞を残しながら、勝手口の扉を開けた。
さてさて、ライカの病室はどこだったけかな?
俺は記憶でテキトーに病室の木製の扉をノックする。数秒後、「はーい」と可愛い聞き覚えのある声が聞こえた。
扉は開けられ、中から赤髪のナースが出てきた。
「はい、あれ? 誰かノックしなかった?」
ナースはキョロキョロ廊下を見渡す。俺は目の前に立っている。
ふむ、病室はここで合ってたらしい。
「昨日はありがとうございました」
「――え?」
ナースは突然聞こえた声にバッと前を見る。そこで俺の存在に気がついた。
「あ、あぁメイトか……驚かせないでよ、てか出禁でしょ?」
「すみません、ちょっとライカに話があって」
「この二人自由すぎでしょ……」
「すぐ終わらせますので」
俺は手刀を切りながらナースの横を通る。病室の中には変わらずベットやカーテン小物置きなどが置いてあり、一般的な病室である。
「おす、昨日はアドバイスありがとな」
綺麗に整えられたベットには、灰髪を窓からのそよ風で揺らすライカが呑気に寝ていた。
「おいこの起きろ」
俺はライカの腹を魔法で殴る。ライカはビクッと反応しながら目を開ける。
「あ? あ〜お前か……なんだ、殺されにきたか」
ライカは眠そうに喋りながら体を起こす。腹にダメージはなさそうだ。
「あぁ、殺されにきた」
「…………」
ライカは俺を下からジッと睨む。どうしてこいつが俺の目の位置が分かるのか不明だが、なぜか俺の目を的確に見てくる。
異世界に来てから誰とも目が合わないので少々戸惑ってしまう。
「あそ、じゃさっさと外出ろ」
ライカはノソノソベットから降りると、裸足のままペタペタ歩く。
「ちょ! ちょっと待った!」
その前にナースが立ち塞がる。
「行かせないから! この前みたいに庭がめちゃくちゃにされたら困るし騒音の文句とかすごかったんだから!」
ここは普通の病院、普通に入院している人も当たり前にいる。
確かに音はしょうがないなぁ……寝てる人もいるだろし。
だがライカはナースには目もくれず横を通り抜ける。
「ちょ――」
「なんだよ、やりたいことがあるなら力ずくでやれよ。俺はお前の言うことには従わない。お前の力だけでやってみろよ」
その高圧的な低い口調にナースは黙ってしまう。
「俺はお前が嫌いじゃないが、お前の下につく訳じゃない」
ライカはそういうと、そのまま扉から出ていった。
「……」
ナースは驚きと恐怖で固まる。
さすが元山賊……足は洗ったとは言え、言うことは酷いな……。
「ナースさん、気にしなくていいですよ。多分あいつはちゃんとした人との関わり方が分からないんですよ」
「はぁ……仲良くなれたと思ってたんだけどな」
「まぁ、あいつの人間関係の中なら、いい方なんじゃないですか?」
「……ん」
ナースは納得いかない微妙そうな顔で頷く。
「じゃ俺も行きますね」
俺はナースを一人にすることに罪悪感はありつつも、ライカの後を追った。
――――――――――――――――――――
「てかそもそもなんで病院の裏庭でやんの?」
昨日と同じように、病院の裏庭で授業をしてもらえることになった。俺は離れた場所で裸足のままのライカに言う。
「いちいちどっか行くのめんどいだろ、俺は基本的に動きたくないんだ」
「打って変わって、元山賊だったとは思えない言動だな……」
「だから言ってんだろ、山賊なんてホントはやりたくねぇんだよ」
ライカは少し怒りながら言った。
あの若者は誰と話しているんだろう……そしてこの声は誰?
そこにいたのは、裏庭のベンチで優雅に黄昏ていた老人だった。杖をついて震えながらライカを見ていた。
「でもやっぱり移動しようぜ、お爺さんもいるしさ」
「あ? しらねぇよ」
ライカは老人を見ながら言う。
「お前も無理矢理やればいいだろ、力で俺を従わせてみろよ」
ライカが言った瞬間、ライカの足元の地面が音を立てて抉れる。
「……」
ライカはパラパラ舞う土を睨み沈黙する。
「ん、行こうぜ」
?、!? なにが起こったんじゃあやつの地面に。
俺は硬い土を十センチほど抉った。人間の力ではできないが魔法ならば容易にできてしまう。
これこそ魔法の強味……やはり魔法はカッコいい。
「……勘違いしているな」
するとライカは俺の理解不能のスピードで地面を蹴った。
バン!! と、俺よりも大きな爆音と共に土煙が舞う。やがて晴れると、この地面には俺よりも深く大きい"穴"が開いていた。
「俺は『力ずくで』って話をしている。脅しにも従わない」
……なにしてんのあの小僧は本当に……。
「あっそう、なら次はマジで腹狙うからな」
「いいっていいって言わなくて、分かっから」
ライカは嫌味に舌を出しながら俺を見下す。その姿はすごくかっこよかった。
あの小僧はなにを一人でやっているんだ? 急に地面は抉れるし、と思ったら小僧が地面を蹴ったらさらに大きな穴ができるし。せっかくの庭を汚さないでほしいな。
老人はライカを見ながら文句を言う。
ここは私が注意の一つを――――。
老人はベンチから立ち上がる。そしてライカを見てさらに困惑する。
ライカはくねくね腰や腕を動かしていた。踊りともいえない動きだ。それは透明な何かを避けているようだ。
……こわ〜、もう関わらんとこ……。
老人は触らぬ神に祟りなしということで無視という結論に至った――――。
――――――――――――――――――――
気がつけば青空は霧のようになくなり、今はすっかり夕日が世界を紅色に照らしている。
「今日の授業はこれくらいにしますか」
汗をかいて息切れをするシャルに魔法で生み出した水を渡しながら言う。
手のひらサイズの水の塊、それはフワフワ浮いたままシャルの手元に移動する。
「わ、分かりました」
シャルはそれを優しく手で受け止めて口をつける。そしてスススーと吸い込んでいく。
「ぷはっ……そういえばメイトは? 朝からいないですけど……」
「さぁ? 多分ライカのとこいってるんじゃないですか?」
「ライカって誰ですか?」
あー、そういえばシャルはライカの名前知らないのか……どうしよう、あの山賊と言えば嫌なこと思い出してしまうかな。
「まぁ、知り合いですよ。メイトはその人から戦い方を学んでいます」
「ふーん、メイトと一緒に授業やりたかったな……」
シャルは少し落ち込む。シャルは結構メイトに懐いているらしい。
「では驚かせましょう。きっとシャルが今やってるのが完成したら、メイトは驚きますよ」
「……それいいですね! いやーメイトの驚く顔楽しみだなぁ見えないけど」
シャルは子供ながらに単純というか純粋というか、そこが可愛い。
「楽しみですね」
そしてメイトの反応が楽しみな自分がいること気がつく。
……メイト、早く帰ってこないかな……。
メアリーは哀しそうに夕空を仰いだ。
「メアリーちょっといいか」
「うひゃぁ!!」
メアリーは突然の声に変な声を出す。それを恥じて口を覆う。
「――急に声かけないでください」
「わり、んで今から戦ってくれない?」
「……え? 今からですか?」
「うん、大丈夫。すぐ終わるから」
「まぁ、いいですけど……」
「え? なになに? メアリー先生とメイトどっか行くの?」
「あぁ、ちとな。シャルは家戻ってていいぞ」
「分かった、早く帰ってきてね」
そういうとシャルは裏庭の扉から家の中へ入って行った。
メアリーは二人きりになり緊張する。
「で、では行きますか」
「おう」
俺とメアリーは今まで通り、決闘する時の場所に歩き出した。
ご精読ありがとうございました!
不定期で投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!