【第14話】両想い
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理やりすぎだろ」など思うかも知れませんが、それはご愛嬌ということで!
メイト 主人公。透明人間。
メアリー・フォレスト・レンズ 家庭教師。
シャル・マルマロン メアリーの教え子。
ハル・マルマロン シャルの母親。
ライカ 元山賊。
ガロおじさん メイトの知り合い。
「でね? そしたらいきなりその男告ってきたのよ!」
「へ、へ〜……それはまた無謀な……」
マルマロン家のリビングでは、ソファーでメアリーとハルさんによって恋バナが繰り広げられていた。
と言っても、メアリーはほぼ聞き専に徹していた。
「でしょ? だから私がこう、そいつの頬をパチーン!! ってやったげたのよ!」
「へ、へー……」
こんな感じな会話が一時間ぐらいずっと続いていた。メアリーはもはやほとんど聞き流していた。
しかしなんでいきなりこんな話を……。
「お母さん、夜ご飯は?」
すると、扉からシャルが入ってきた。今日は魔法の授業は休みだったのだが、この時間まで自主練していた。
「え? あらもうこんな時間!? 今作るわね」
ハルさんは話を切り上げてソファーから立ち上がり、エプロンをつけてキッチンへ向かう。メアリーは小さくため息を吐いた。
はぁ……疲れた…々。
「メイトー? ……あれ、メイトは?」
シャルはメイトの名前を呼びながら部屋を見渡す。
「メイト君は絶賛家出中だから、いないわよ」
ハルさんは夜ご飯の準備をしながら軽く答える。
「えー? メイト家出したの? なんで?」
「ちょっとあってね、もしかしたら今日は帰ってこないかもねぇー」
「そんな軽い感じでいいの? 家出って相当のことじゃない?」
「メイト君なら大丈夫でしょ」
メアリーはソファーから立ち上がり、食卓に座り囁く。
「ホントに大丈夫でしょうか……やっぱり私から謝りに行ったほうが……」
メアリーが俯きながら言うと、ハルさんは笑う。
「大丈夫よ! メアリーちゃんは悪くない、メイト君も分かってくれるわ。だからここは待ちましょ?」
「……はい」
メアリーはその優しさに感動しながら、返事をした。シャルはそんな二人を横目に自分の席に座る。
「ねぇねぇ、メアリー先生。私、雷魔法が得意かも知れません」
シャルはいきなり身を乗り出して話しかけてきた。
「雷魔法……なぜいきなり?」
「私最近、発生魔法? をやってるんですけど、雷魔法だけはすごくうまくできるんです!」
「なるほど……シャルがそう思うなら得意なのでしょう。おそらく潜在的に雷に対する耐性があったのようですし、得意ならそれを伸ばすべきです。次回の授業は雷魔法を扱いますか」
「やったーー!」
なんて幸せな会話なのだろう。今まで依頼人や生徒とこんなに仲良くなったことはなかった。
「メイトはいつ帰ってくるでしょうか……」
シャルとハルさんは揃って唸る。
「うーん、メイトって意外とズレてるからなぁ……逆に帰ってこないとかありそうですよね」
「確かにズレてるけど、それが転じて明日にはひょっこり帰ってくるしれないわよ?」
確かにメイトはいつも、ふざけているのか訳の分からないことをよく言う。
「でもたまにはいいんじゃない? いつもメアリーちゃんメイトとおんなじ部屋で疲れてるでしょ。たまには一人でゆっくりしたら?」
別にメイトと同室は嫌ではないのだけれど……。
「えぇ、そうします」
なんでだろう、なんでメイトとは一緒にいても辛くないのだろう。
なんでメイトだけにこんなに執着しているのだろう。
なんでメイトのとこを考えると、こんなにモヤモヤするだろう。
あぁ、もしかして私――――。
それは、誰もが気づかずうちに落ちるもので、抗えない衝動である。
メアリーは、人と仲良くなったことがなかった。皆『フォレスト』の名前を出せば近寄りがたく、よそよそしくなるからである。
それは王都に住む人が一番その傾向が高い。なのでメアリーは家庭教師というお題目で、王都から逃げ続けて、今このような田舎に来たのである。
『フォレスト・レンズ』とは、王家直属の専属魔法使いを代々任せれ続けた家系である。つまり、メアリーの本来の職種は『王直属魔法使い』である。
そして、メアリーはその家系の中でも『史上最高』と言われ、その家系でも類を見ないほどの、最強の魔法使いだった。
ただ、メアリーはそれを拒み、自分の責任から逃れようと、家出をして、今のように家庭教師をやってコソコソ生きてきたのだ。
もちろん家系の者は追跡したが、メアリーの魔法を使えば、追手から逃れるぐらい、造作もないことであった。
とはいえ、有金も家もなければどうしようもない。よってメアリーは屋敷から勝手に金と衣類、ファラウマなどを盗み出し、とある田舎に自分だけの家を借りたり移動したりなどを繰り返していた。
それが今から三年前、メアリーが十五の話である。それから時は流れ、現在、マルマロン家に向かう時にメイトと出会ったのである。
初めて会った透明という不可思議な人間。さらに『フォレスト』のことも知らず、魔法についても全くの無知。メアリーは相当田舎の生まれなのだろうと勝手に解釈していた。
そしてさらに奇怪なのはメイトの行動である。今までよそよそしく扱われてきた自分に、本当にくだらないことでも話してくる人は、生まれて初めてだったからである。
――だから多分、この感情は、その彼への特別性からくるもので、決して彼のことを本当にそうだと思ってるわけじゃない。そのはずなのに、こんなにも――。
「あの…………もしかしたら私――――」
メアリーは気がつくと頬を赤く染めて、呟いていた。シャルとハルさんがメアリーを見て小首を捻る。
「わ、私、メイトのことが――――」
メアリーは震える声で、緊張で跳ねる心を感じながら、言う。
「す、好きなのかもっ……知れません――――」
メアリーは目を瞑り俯く。しかしいつまで経っても二人から返事がない。メアリーは不審に思い顔をゆっくり上げる。
シャルは呆然と、ハルさんは料理の手を止めて、メアリーを――いや、その後ろを見ていた。
メアリーは突如果てしない鳥肌が全身をかけて行き渡る。メアリーはバッと振り返る。
リビングのドアが開いていた。
メアリーはそれで全てを察し、さらに顔を紅潮させる。体温が熱く、汗が出てくる。
「……フッ、たでーま」
――――――――――――――――――――
「たでーま」(ただいま)
俺は軽くそう言いながらリビングの扉を閉めて、スタスタメアリーの隣の席に座る。
メアリーは顔だけ動かしてメイトを追う。
「メアリー」
俺が呼ぶと、メアリーが肩を跳ねさせた。
「あ、あのあ、コレはっ、その――」
「悪かった、俺が間違ってた」
俺は頭を下げて謝罪する。メアリーは目をぱちぱちさせて固まる。
「あの後、いろんな人と話して気がついた。俺が間違ってた。俺やっぱりライカから教わることにしたよ」
「――――あ、そ、そうなんですか――」
「うん、あとありがとう。俺のために色々やってくれて、コレまでも今回も」
「い、いえ……それくらい――」
メアリーは純白の毛先をいじりながら答える。頬はすごい紅い。
「俺も賛成する」
「へ? な、何にですか?」
「メアリーと戦えるのはあと、三ヶ月間だけだ。そっちの方が展開的に燃える」
俺はメアリーの手を掴んで握る。メアリーはさらに固まる。
「は!? え、はぁ……いいですけど……」
「うん、ありがとう……それから、ホントに悪かった」
俺は最後に握った手をさらに強く握りつつ、頭を下げた。
「……あ、わ、私も……あのすみませんでした、勝手に怒っちゃって……」
「いいよ全然、怒ってくれるのは見てくれている証拠だ、『失敗するな』と『成功しろ』は全然違うしな」
「はぁ……え? 後半のそれ関係ありました?」
「まぁ、雰囲気だよ雰囲気。こういうときはそれっぽいこと言えば『確かに』とか思えるんだよ」
「……はは、相変わらずですね……」
メアリーは安堵した。良かった、最初のアレは聞いてなかったようだ。それに謝ってくれて、すごく嬉しかった。
「ふぇぇぇお腹空いたよぉ、夜ご飯てもう食べた?」
俺は机に突っ伏しながらメアリーに聞く。
「いえ、これから食べようとなって、ハルさんが作ってくれています」
「うん、あとちょっとでできるからね」
キッチンに立つハルさんが料理しながら答える。
「ゆっくりでいいですよ……ふぅ」
俺はやっとひと段落つき、ため息を吐いた――――。
さっき『好き』って言わなかった?
俺は部屋に入った時のことを思い出す。
まずドアを開けると、俯いて喋るメアリーがまず目に入った。その後、シャルとハルさんに俺が帰ってきたことバレて、見られたよな? んでその後――。
「す、好きなのかも知れません……か……」
「は!?」
俺が呟くとメアリーが声を出した。聞いたことない声だった。
「え? ああ、メアリー、さっきなんか言ってなかった?」
「い、いや〜なんのことだか……」
メアリーはぽしょぽしょ小声で囁く。なに言ってんだか聞こえないが、なにやらあまり触れてほしくなさそうだ。
「あぁそう、ならいいけども」
好きかも知れない……好きかも……好き……。
俺は先ほど、メアリーの手を掴んだ時を思い出す。メアリーはひどく赤面して、動揺していた。
…………まさかな……いやいやないって、思い上がりだって、気にすんなって。
「フッ、フッ、フッ、フッ、フッ――――」
俺は癖の鼻で笑うやつで平常心を取り戻しながら心を落ち着かせる。シャルからはその変な音に変な目で見られた。
め、め、め、めメアリーもしかして俺のこと……い、いや待てよ? まず『かも知れない』ってなんだ? なんで自分のことなのに疑問形なんだ?
俺は顎に手をやり考える。
……そうかわかったゾ!! 『メアリーが』じゃなくて、『誰か』がなんだ!!
俺は指をピーんと立てる。
つまり、『自分』が『誰か』を好きかも知れないじゃなくて、『誰か』が『自分を』好きなのかも知れない、そういう話なんだ!!
俺は完全に理解したことに達成感を感じながら微笑む。
なるほど〜、そういうことか〜……しかしそうなると誰かとは誰なんだ? 俺の知ってる人?
俺は今まで会ってきた人を思い出す。と、心当たりがある人物が浮かぶ。
そういやあいつ、メアリーに褒められた時随分照れてたなぁ……それこそ好きの現れなのでは!?
「ライカか……」
病院にて――。
「……なんか知らんがメイトを心底殺したくなってきた……」
ライカは寝ながらつぶやいた。隣にはウトウトする赤髪のナースが座っている。
「あ、そっ……あんた早く寝てくんない? 私も寝たいんだけど……」
ナースは欠伸をする。ライカはそれを見て――。
「じゃ出てけよ」
「そこは『ここ使えば?』とか言いながらベットの半分開けて私が『トゥンク……』のギャップ萌え狙うとこでしょ? しかも鈍感で素でやってるみたいな! それやってたら私うっかり惚れてるとこだったわよ!! 何言ってんの私は!!」
「なに言ってんだお前、もう寝ろよ……」
「うっさい!!」
場面は戻り、マルマロン家――。
そんな会話がダラダラ続いていたとは知らないメイトは勝手に納得していた。腕を組み頷く。
そうかそうか……ライカはメアリーのことが好きなのか……意外だ……。
チラッと隣に座るメアリーを見る。メアリーはいじいじ前髪をいじりながら何か考えているようだ。
なんだ? なんか雰囲気違うよな、てか俺が部屋入った時からめっちゃ慌ててたし、なんかあるな。
「なぁメアリー、もしかして好きなの?」
「は!?」
「へ!?」
「――――」
俺が聞くとハルさんとシャルが同時に声を出した。メアリーは完全に固まる。
「好きなの?」
俺がもう一度質問すると、メアリーはハッと我に帰る。俺から顔を背けた後、深呼吸して、俺を見る。
「ま、まぁ――――」
メアリーは心底恥ずかしく頬を染めて囁くように、かつ力強く言った。
「ま、マジで〜〜?」
俺は背もたれに寄りかかる。
まさかの両思いとは……これまたさらに意外だ。しかし別に嫉妬とかないし、なんならめでたいことだし、応援するしな……うん。
「良かったな、両想いで」
「へっ!?」
メアリーは驚きのあまり変な声を出す。
「そ、それってどういう……」
「どういうこーとだ?」
俺はからかうように笑いながら言った。
ライカの気持ちを俺が勝手に言ってしまうのもアレだしな、ここは茶を濁そう、手遅れ感はあるがしないよりかはいいだろう。
「ヘヘッ、ハルさんご飯できた?」
「……え? あ、あぁ! うん、できたけど……」
ハルさんはそう言っておぼつかない動きで食卓にご飯を並べていく。
「ありがとうございます」
俺はパクパク食べる。メアリーは未だ硬直したまま俺を眺める。
「こ、これどうなったの?」
シャルが小声でハルさんに話しかける。ハルさんは「さ、さぁ?」と呟く。
フッ、そうかそうか……メアリーとライカが、かぁ……人生、何が起きるか分かんないなぁ……。
俺はただ笑った。
メアリーはハッと我に帰り、やっとメイトが言った言葉を理解した。
「り、両想いでってことは、もしかして……」
メイトは私のことが、好き……?
「――」
メアリーは平常心を保とうと、精神攻撃耐性魔法、精神安定魔法、体温調節魔法などを自分にかけながら無心でご飯を食べ始める。その顔は朱色に染まっていて、視線も定まらない。
「でも意外だ、まさかメアリーがそういうこと考えるとは」
「は!? い、いえ……それは私のセリフです。あなたがそういうこと考える人とは思いませんでした」
「あん?」
あの短い言葉でここまで考えを巡らせることができたことを褒めているのか?
「それは俺の鈍感さを揶揄しているのかい? 確かに俺は感情を読むのが苦手だが、言葉があればちゃんと分かるよ」
「は、はぁ……?」
どういうことだろう? いや、好きって言葉があれば分かるってことか。
「そ、そうなんですか」
「そういえばメイト、メアリーと喧嘩したってね、なんで?」
ふと、ご飯を食べていたシャルが話しかけてきた。
「……まぁ、俺がアホだったからな……シャルは気にしなくていい」
「『気にする』んじゃなくて『気になる』んだけど」
「まぁしょうもないことさ」
俺はシャルをテキトーにあしらいつつ、ご飯を食べた。
――――――――――――――――――――
村の近くの森、その中に人影があった。
「……このあたりか……」
暗闇の中を歩く人物は、月明かりも届かない漆黒の夜の闇の中、迷わず足を進める。
その足には、粘り気のある血が、べっとりとついており、歩くたびにぴちゃぴちゃ音を立てていた。
「チッ……あのグサギのせいだ、この靴高いんだぞ?」
その人物の後ろには、頭が飛散したウサギが、メイトを襲ったウサギ――正しい名称を『グサギ』――が、見苦しい姿で倒れていた。
「この俺様を襲おうとしやがって……生物として立場を理解できねぇかな? 俺はお前らみたいなカスとは格が違うんだよ」
そう言いながら靴についた血をハンカチで拭く。しかし手は使わず、ハンカチは一人でに動く。
「必ず殺してやる……ライカ――」
人物はそう言いながら、森の闇に紛れ消えていった。その方角は、メイトがいる村に向けられていた。
ご精読ありがとうございました!
不定期で投稿してくので次回もぜひ読んでください!
シャス!