終章
「へ、へへ、こんなのもたまにはいいもんなのかもしんねぇなぁ」
「ねーよ」
城砦都市ラスベルグの地下には存在しないはずの場所がある。
危険度Aクラス以上の罪人が収容される――牢獄だ。
そこで俺とデルは両手を鎖に繋がれて、壁に繋がれていた。
あの事件の後、力を使い果たして俺とデルブライトは意識を失った。
気づけばこんなところで罪人の扱い。不服でしかない。
状況は理解できるが――でもなぁ。
「結局、見れなかったのか。デル――お前は見れたか?」
「かすかに翻ったタオルの隙間から太股は見えた。が、陰というのは恐ろしいものだな。肝心なものは常に闇の中だ」
「そうか――」
考える。
俺のしたことは間違っていたのか、と。
繋がれて三日経ち、その間ずっと考えていた。
俺は間違っていない、と思う。
間違っているのは俺のような良い男を放っておく女たちだ。何故街頭では仲良くしている男女が多いんだ。何故俺に来ない。俺の方が強い。俺の方が格好良い。俺の方が金がある。
何が劣っていると言うんだ――?
「だから、言っただろう。カシム。世の中の女は見る目がないんだよ」
デルブライトはそう言う。
「だから、言っただろう。カシム。俺と一緒に魔族の女の子を召喚しよう、と。そして契約をするんだ。あいつらは契約した主を裏切らない」
それもいいのかもしれない、と考えてしまう。
でも、それでも――。
「人間の女の子とイチャつきたい――って考えはダメなのかなぁ」
涙が出る。
「俺――頑張ったんだ。裸を覗くためだけど、その前には健気に頑張ったんだ」
思い出すだけで号泣しそうだ。
仲良くなるために女の子が好きそうな話題を勉強したことだってある。服装だって気にした。髪型だって――。
強くない男は嫌い、って言われて最強の戦士になった。
金のない男に興味はない、と言われて金持ちになった。
ダサイ男は論外、と言われて一応格好良くはなった――はずだよな?
それなのに、何故俺は報われない。
想いは伝わらず、柄にもなく弱気になる。
「誰も俺を見てくれない。楽しそうに笑っている。俺を見て――きっと見下している奴だっているかもしれない。この童貞ってな。そうさ。抱いたことなんてない。キスだってない。諦めたくないけど、どこかで諦めてしまった俺もいる」
だから、覗こうとしたんだろう?
つい、自虐が心の中に浮かぶ。
表情はきっと――嘲笑。自分を嗤っているんだ。
「けど、覗くことすら無理だった。俺はどうすればいい」
「どうもしないだろ」
デルブライトは俺を見て、言った。
「諦めるな。諦めたら先はない。陳腐な言葉だが、頑張れ。それしかないだろう。今まで俺やお前は運がなかった。縁がなかった。それだけのことだろう?」
そう言うデルブライトはとても格好良く見えた。
まだ、チャンスはあるのかな――。
「あるだろう。諦めない限り、ずっとな」
牢獄の中で見上げれるのは苔の生えた暗い天井。
だが、デルブライトの言葉で天井から先にある空が見えた気がした。
太陽が見たい、と急に思った。
「外、出るか」
俺の装備は全て剥ぎ取られ、デルブライトの装備も全て剥ぎ取られている。
それでも、この程度の鎖なら問題ない。
力を込めて腕を振る。それだけで鎖は引き千切れる。
「相変わらずの馬鹿力だな」
デルブライトは呆れている。ついでにコイツの鎖も千切ってやり、自由になった身体で屈伸をする。
「さて、外に出てどうするんだ?俺たちは罪人だぞ?」
「別に。どうもしないだろ。俺たちに勝てる奴がいんのか?」
いないな、とお互いに笑う。
「魔剣よ。来い」
「魔杖よ。来い」
お互いに武器を呼び寄せて、牢を破壊して廊下に出る。
看守がこちらを見て驚いている。仲間を呼んでいるのか。どんどんと床を踏みしめる鉄底の靴を履いているであろう足音が聞こえる。
見えてくるのは完全武装の重装兵。手には剣を持ち、やる気満々だ。
「さて、喧嘩をしようか。喧嘩をよぉッ!」
「やるなら派手に。とことん愉快にやろうか」
細道にひしめく人波は俺たちの邪魔をしようとするが、突破できる。
簡単だ。
俺とデルブライトがいるんだぜ?
「いくぜっ!」
「あぁ」
こうして今日も――俺は健気に生きていく。
完
ども、作者のビビです。
いやはや、なんとか書き終えました。
一応これのテーマですが、財宝を求めて命懸けで戦う男とかは賛美されるが、女体を求めて命懸けで戦う男はどうなんだろう、と思った試験的な作品です。
主人公は――まぁ見てくれた人はわかりますが、熱く、馬鹿で、童貞です。
そんな彼の物語いかがでしたでしょうか。
私としては結構楽しんで書けたので結構満足しています。
まだまだ技術的に足りない点があるので、これから三人称視点で改稿していきますが、よろしければそちらもお付き合いください。
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こちらです~




