序章
これはとある公募の投稿予定の作品です。
オカシイところがあるぞ、ここはこうしたほうがいい、などなどのアドバイスをいただけたら幸いです。
重箱の隅をつつくような酷評お待ちしております。
「カシム――お前本気か?正気か?」
背後からデルブライトは俺にそう問いかけてくる。
もちろん正気に決まっているだろう。
「ブルッシュリウムの秘湯に行くなんて狂気の沙汰だ。やめておけ!死ぬぞ!」
死ぬ?俺が?そんなことは百も承知だ。
マントをたなびかせながら俺はキリッとした表情を作り上げて意味深に言う。
「デル――お前はわかっていない。なんで俺がブルッシュリウムに行くのかを理解していない」
「理解?理解だと?できるわけがないだろう!あそこの防御を知っているか?完全に男子禁制なんだぞ!周囲は隔絶された掘りに覆われている。その掘りの深さは実に百メートルを超える!何よりだ!その掘りの周囲にすらAクラスの魔獣ばかりが生息しているんだぞ!成功した奴は一人もいないんだぞ!」
あぁ、そうだな。掘りは確かに百メートルという情報がある。先に旅立った勇者たちの遺言だから間違いないだろう。もろもろの情報は既に出払っている。魔獣大百科のブルッシュリウムの秘湯に生息する魔獣を見るととても凶悪な魔獣ばかりだ。ケルベロス、ミノタウロス、オーガ、メフィズスウィッチィetcといった伝説級の魔獣ばかりだ。
だが、それがどうしたというのだろうか?
成功した奴がいない?なら俺が初めの一人になればいい。俺こそが成功者になればいい!
「デル――お前はわかっていない!俺が何故そこに行くのかを全くと言っていいほど理解していない!」
だからこそ、この愚かにも愛すべき友人に俺は言わなければならないのだろう。
「目の前に秘湯があれば覗く。なんとしても――なんとしてもだ!まさにそこは美女の聖域。命を懸ける価値がある」
美人になることが生まれたときから確定されているエルフたちの肉体、貴族たちの貞淑にもたわわに育った魅力的な肉体、天使たちのけしからんまでに神々しい肉体、悪魔たちの男を魅了するために生まれたかのような肉体――想像しただけで鼻血が出る。命を懸けるには十二分だ!
「お前――それほどの覚悟だったのか」
デルブライトはよほど感銘を受けたのだろう。俺の肩を強く強く掴むと涙ながらに俺を見た。
「お前の覚悟は確かに理解した。受け取れ」
そう言ってデルブライトは詠唱する。『我と契約を交した魔剣よ。今こそ顕現せよっ!』と。
空間に突如出現したのは禍々しいオーラを放つ一振りの大剣。俺の持つ鋼の剣とは雲泥の差であることが見ただけで理解することができる。
「偉大なる我が父の残した一振り――【魔剣カイゼル・フォルヴァー】だ。銘入りの魔剣。必ずお前の役に立とう」
【魔剣カイゼル・フォルヴァー】――銘入りの魔剣。世界中の剣士たちが涎を垂らして欲しがるものの一つだ。この剣のためなら命すら払うという者など腐るほどいる。
「だが、これは形見だろう?」
そんな奴らの中にデルブライトの父がいた。命を支払ってまで契約した魔剣。結局は魔法使いであるデルブライトに渡ったわけだが――。
「俺とお前の仲だろ……?お前の進む道には男の浪漫がある。俺に止められるものかよ。止めてなるものかよ。お前はお前の道を貫け」
デルブライト――ッ!
「――すまんっ!」
「あぁ、行けよ。決して立ち止まるんじゃねぇぞ。その先にはきっと栄光がある」
鋼の剣を空高く放り上げる。
そして今手に入れたばかりの魔剣を腰溜めに構えて――振り上げる。
振り上げた先にあった鋼の剣は叩き斬られた。さらば相棒、ようこそ相棒。さぁ、険しい旅の始まりだ。
ザッ、と砂を鳴らして前を向く。友の意志は確かに受け取った。
「任せておけ。我が道を阻む者は須らく踏み潰す!」
目の前に広がる森はまさに魔界。その先にある秘湯はまさに天界。必ずや辿り着いて見せよう。
「行くぜ、親友」
「あぁ、行ってこい」
サムズアップ――これが男の別れに相応しい。