表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お転婆少女の幼馴染は宿敵の魔族で苦労人

作者: 鏡菜





サラサラの黒髪が風に吹かれて、間から燃えるような赤の瞳が覗いて女子の黄色い悲鳴があちこちから聞こえてくる。

剣を交えてここまで女を惹きつける男はなかなかいないだろうと密かに思いながら私は、まだまだ続く剣術大会を眺めた。


剣術大会は国を上げて行われている祭りの行事の一つで、今は決勝戦。

普通なら男が盛り上がっていかつい歓声しか上がらないのに、今や男どもの声はかき消され、少女達の悲鳴だけが響き渡っている。

壇上に上がっているひとりは国のひとつの隊を任されている隊長で、もうひとりが問題のヤツである。


珍しい東洋の漆黒の髪を靡かせて、涼しい顔をしながら攻撃を繰り返す少年。まだ顔に幼さが残る若さだというのに、圧倒的な強さを持つ天才でおまけに私の隣の家に住む幼馴染のリオンだ。


顔がすこぶる良くて、ニコッと笑えばあまりの美しさと可愛さ。そしてかっこよさに目が眩み、気絶する女子が後をたたないトラブルメーカー。

おまけにやらせれば文句は言うものの何でも軽々とこなすので、さらにモテる。



わあああと喝采が鳴り響いて、彼らの方に視線を向けるとリオンの剣が隊長の首筋へ突きつけられていた。

勝負がついたようだ。


無事に怪我なく勝利を手にした彼は、景品をもらって手を振りながらこちらへ近づいてくる。


「見てたか?俺強かっただろ?」


「別に、見てないから知らないもん。私のところじゃなくてあっちの可愛い女の子の方へ行けばいいよ」


不満そうな顔をして、ぷいっとそっぽを向く私にリオンは驚いたように目を大きく見開いた。


「お前、拗ねてんの?俺が女にモテてるから」


「そ、そんなわけないじゃん。拗ねてなんかない」


嘘。本当は拗ねっぱなしの私。

だっていっつも私のそばにいてくれるリオンが、キラキラした可愛い女の子達にキャーキャー言われて、もしその中で好きな人ができちゃったらリオンは離れていっちゃう。

そんなの嫌。見てるだけで心がキュッと掴まれたように痛くなる。


きっとこれは恋だって私は知っていた。


「お前の機嫌が良くなるようになんか欲しいもの買ってやるよ。金は今、賞金で十分に貰ったしな」


私には告白する勇気がないから、いっその事、諦めがつく今のうちにリオンに好きな人ができたらいいのにと思う。

そしたら大人になった時よりは、気持ちの切り替えができるのに。


でも


「それじゃあ、うーんと高いのにしちゃお」


「お、お手柔らかに」


まだそばにいたいから、やっぱり好きな人が出来ていないことにホッとしてる自分がいた。






**.**.**





「リオン。これなんてどう、可愛い?似合ってる?」


青と白のストライプ柄のリボンを手に取り、髪に合わせてみる。

最近、髪が肩よりも長くなり、邪魔になってきていたので髪をまとめられるものをリオンに買ってもらうことにした。


リオンは私の髪を見つめると、赤いリボンを手に取った。


「おや兄ちゃんいい目を持ってるね。それは最近西の国から輸入したもんで、品質の良い布と染料を使ってんだ」


店の人に言われて確かに見てみると、他のとは違って美しい艶が目立つリボンだ。


リオンに「良くいい物だってわかったね」と感心の眼差しを向けると、彼はふっと笑う。


「そりぁ勿論‥‥」


「‥‥勿論?」


「やっぱ何でもねぇよ」


「ええ!?そんなこと言われたら気になるじゃん」


私は話の続きを聞き出そうとリオンのシャツの裾を握って引っ張るが、彼は澄ました顔をしてあの赤のリボンを買っていた。


「え?」


お金はリオン持ちなので高いのを買ってやろうと意気込みをしていた私だが、他のリボンより3倍ほど高かったお会計を盗み見みして、少し後ろめたさを感じる。


「後ろ向いてみろ」


リオンから買ってもらったリボンを受け取ろうと手を広げると体を回されて、後ろを向かされた。

彼が何をするのかわくわくしていると、ふと首が涼しくなって髪を結われていることに気づく。普段乱暴な言い草のリオンだが、私の髪をふんわりと優しく触れてあっという間に綺麗なポニーテールになっていた。


店にある鏡を覗くと自分の新鮮な姿が写り、嬉しくてゆらゆら揺れる髪を揺らしてみた。


自分の頭から赤いリボンがゆらゆら見えてクスリと笑う。


お礼を言おうとリオンの方を向こうとすると


「綺麗なお前の銀髪には赤が似合ってるよ」


そう、耳元で囁いて、私に見えるように結った髪に唇を落とす美男子が瞳に写った。


「へ?」


「それじゃあ、次行くか」


ほんの一瞬のことで、最初は何をされたかわからなかったけどゆっくり思い出してみて、途端に理解する。


「か、髪にキス‥?」


みるみるうちに赤くなっていく私をみて、ケラケラと笑う彼だかリオンも耳がほのかに赤いことに私は気づいている。


リオンも恥ずかしくなることがあって、それをわざわざ私にしてくれたことがただただ嬉しくて、こちらも笑ってしまった。




**.**.**





久しぶりにリオンと買い物をして、はしゃぎすぎてしまったのか飴を買おうとリオンの側を少し離れただけで迷子になってしまった。


リオンの好物は可愛らしいことに飴である。なので自分なりに彼の大会の勝利を祝う為、サプライズで好きな物をあげようと思っていた末の末路であった。


目的の飴屋も見失い、知らない人にたくさんぶつかって、人の邪魔にならないよう人通りの少ない路地へと移動する。


きっと過保護のリオンのことだ。

すぐに私のことを見つけてくれるだろう。


どこからともなく颯爽と現れると黒髪の少年の姿を想像してゆっくり微笑んだ。


 私は心に安らぎを覚えたのか突然強い睡魔に襲われて、道の端っこに縮こまって座り込んだまま眠ってしまった。




それが悪い奴らの作戦の一部だったとは気が付かずに。






**.**.**





北の国の帝国に少女は連れていかれていた。

薬が強かったせいか、ぐっすり夢の世界へ飛び立っている。


その様子をじっと見ていた大柄な男は、王座から立ち上がり少女を四角い檻から引っ張り出した。


その扱いは酷く荒々しく、幼い少女に対する行動とは思えない。


ずるずると引っ張って部屋の真ん中へ連れてゆくと、仰向けに転がした。

これでも彼女は目覚めない。

それどころか、寝言ながらもある少年の名を口にした。


男は不平そうに顔を歪めると王座にどかりと再び座った。


「お前如きがあのお方の名を口にするとはなんとおぞましい。ましてや陛下のお命さえ脅かすとはやはりこいつは処分しておくべきか」


声は低く、怒りが収まりきれないことがよくわかる。


男の名はシューラリアル・ル・ビュリア。

ここ、北の帝国の王である。


そして人間の敵、魔族である。


男の頭には魔族であることを表す、漆黒のきらりと光るツノがふたつ、生えていた。




「んん、りお、ん」


「ッッ!!おのれ!!」


もう我慢ならないと、男は少女の無防備な体にのしかかかり首に手をかける。


これで彼女は死ぬ。


人間などと言う低俗な輩と比べるのも烏滸がましい、高貴なる魔族が直々に手を下すのだ。

ありがたく思うがいい。


ゆっくりと男の爪が少女の柔らかい首の肉を切り裂いていく。


紅の血が一雫、首筋を流れた。





「な、にを」









それは自分の血。



男の首には白銀の光を宿す剣が突きつけられており、少しだけ首を切られて血が流れていた。


「どう、して貴方様が、止めに入るのですか。こいつは殿下だけでなく陛下さえのお命も危険に晒される、要注意人物です。念には念を入れて殺すのが妥当でしょう」



「別にこいつに俺の命を狙われたことはない。だから大丈夫だ。‥‥しかし驚いたな、お前だけでここまでの行動力があったのは知らなかった」


可笑しそうな笑いながらも、ものすごい勢いで殺気を飛ばすその声の持ち主は紛れもなく少女の思い人であるリオンだった。


剣はさらに男の首を切り裂いてゆく。

じっくりと痛みを味わせるように。



「しかし、殺気を隠していたのかもしれませぬ!!こいつは貴方様をいつでも殺せるのですよ。()()()()を秘めたこの女にはッ」


リオンはこんな状況でも、にゅもにゅと口を動かしてのほほんと眠っている少女をさぞ愛おしそうに見つめた。


男はその様子に歯を噛み締める。


「どうして、どうして止めるのですッ!!貴方様は魔王であらせられる陛下のお子で、次世代の()()でいらっしゃるというのにどうして人間の、ましてや強敵である聖女を殺さないのですか!!!」




リオンはその言葉に冷たく微笑した。


彼の父は現魔王をしている。

魔族王をして、魔王城で勇者と戦うことが仕事の父。

そんな父は魔王としては立派なんだろうが、一児の父としては失格だった。リオンは国に飽き、人間のしかも、父の宿敵だという少女のへ会いに行った。


つまんないなら腹の足しにしてしまえばいい。



軽い気持ちで会いに行った少女はそれはそれは幸せそうな家庭だった。

貧乏で平民ながらも、家族想いの父、優しい母に恵まれて。

本当に憎かった。


母は生まれながらにしていない彼にとって優しさなど、受けたこともない。

なのに自分の真逆の子はそんな宝のような美しい物を、生まれながらにして授かっているという。

これを恨まずにしていられるだろうか。


居ても立っても居られずに、少女がひとりなのを見計らって虐めようとした。


だがとっくに彼女は虐められていた。


明らかに貴族の血を受け継いでいる綺麗な銀の髪。

母は貴族で、騎士の父と駆け落ちをしたんだとか。


石を投げられて、痛そうだった。

貴族でも平民でも受け入れられない異形の子。

でも彼女はいつでも優しく嬉しそうに微笑んで笑っていた。それはリオンを見つけた時もそう。


酷く嬉しそうに「私と話す人がいなかったの」と魔族のリオンを見て、優しく微笑んだ。




「彼女は俺にとっての光だ。それはまるで名前の通り、たった一つしかない輝く光。敵だろうが、俺を殺そうが関係ない。あいつが俺を拒絶しても俺はあいつを手放さない。手放してやるもんか」



そう言い残すとリオンは剣を鞘に戻して少女を大事そうに抱き抱えた。



「この事は父に報告させてもらう。勝手な行動は慎むべきだったな、シューラリアル」


後に残るは、男と流れた血のふたつ。


そして少年の遠ざかる足音だけだった。






**.**.**







私が目を覚ますとそこは広場だった。

噴水の水滴がが頬にかかって、ひんやり冷たい。


「よお、やっと起きたのかよ寝坊助」


空を見上げるともう、茜色に色づいていた。

路地裏で寝過ごしてしまったらしい。でも、わざわざ起こさなかったのは彼なりの優しさだろう。


「見つけてくれたんだね。ありがとう」


そういうと、リオンは嬉しそうに口に弧を描いた。



「そういや。ハイ」


手渡されたのは棒に刺さったまん丸の飴だった。

夕焼けに照らされて、琥珀色の飴がキラキラと反射する。


「何でこれを私に?」と聞くと、「お前が飴を欲しそうな顔をしてたから」と答えられた。


そういえばと、自分がリオンのために飴を買うつもりで迷子になってしまったことを思い出した。リオンに少しだけ待っててと伝えて、飴屋へ走り、ひとつ飴を買った。


「ハイ。優勝おめでとう」


体力はそこまでなかったのでぜいはあ言いながら、赤に色づいた飴を渡す。


「これを俺に?」


「うん。一応これでも優勝祝い」


リオンに貰った飴を立ったままペロリと舐めた。

ほんのり甘くて美味しい味だ。


リオンは私に差し出された飴を眺めると、それじゃあと私をぐいっと引き寄せる。

いきなりのことにびっくりして、リオンの膝に乗った姿勢になる。


「俺はこの色がいい」



彼は、私が舐めた琥珀の飴を美味しそうに口の中で味わっていた。

琥珀の色をあえて選ぶ理由は一つしか見当たらない。


私の瞳の色だから。



「〜〜〜ッッ!!もう!揶揄わないで」


間接キスとか、私の色をあえて選ぶとか恥ずかしくて、顔を手で隠した。

きっと今の私の顔は緩み切ってくることだろう。嬉しくて恥ずかしくて真っ赤なのは当たり前。

リオンは多分可笑しそうに笑ってるんだと思う。


「でも私、飴みたいに綺麗な瞳じゃないもん」



恥ずかしさを紛らわそうと、話を逸らすとリオンに顔を隠してた手を下ろされた。

真っ赤な瞳は何の汚れもなく私を映し出した。


やっぱり好き。

再度、彼に対する気持ちが溢れそうになる。


でも私は知ってる。


彼が魔族で、私の宿敵という者なのだと。


リオンが私に隠れて、私について悩んでいたことも。

リオンは魔族の国では結構偉い方らしい。ならば聖女の力を持つ私を殺せる立場にいるのなら殺せといろんな魔族から言われて責められて、殺したくないと嘆いているのを見てしまった。


ならば私の気持ちを押し付ければさらに、リオンは私を殺せなくなり、彼の立場が悪くなることだろう。


そんなの私は望んでない。


だから私は告白なんてしない。


彼を守るため、そして自分を守るため。


早く彼が私を殺せばいいと何度思ったことか。

それなら私は好きな人に殺してもらえるのだから本望だ。






ルーシー()は綺麗だよ。名前の通り俺を勇気付ける光のように」



そして、もう一言。


「好きな人に自分の瞳の色の物を送る風習が隣国ではあるんだってさ。俺がそれを知ってお前にこれをあげたとしたらお前、どう思う?」


リオンは優しく真っ赤なリボンに触れて甘く囁いた。

まるで飴のように甘く、そっと。


だから、そんな優しく言わないでよ。

決意が崩れそうになる。


でも、彼といられる幸せが少しでも続くなら、その先に何があったとしても私はその道を選ぶだろう。


私は彼が差し出した手を強く握りしめた。





このお話が少しでも良かったんじゃない?と思った方は評価、ブックマークをして下さると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ