082 笑われるペテン師
道の通り、崖下に面した少し開けたところでライゲイスと向かい合う。
予想はしていたが、村中の人々が集まる。
聖騎士も数人…初めて見る顔も並んでいた。外で待機していたヤツらだろう。
なんか少し前にジョシュアと同じことしたばかりだなぁ。なんで聖騎士ってのはこうもバトルが好きなんだ。
しかも、こちとら齢100歳以上のミイラだ。こんなのに勝ったってなんの自慢にもならんだろうに。
「本気では…」
「本気でやれや」
「魔法を使わないから、そちらも聖技とかは…」
「魔法を使え。使えるンだろが?」
「いや、残念ながら魔法を封印されてしまい…ゴホゴホ」
「つまンねぇーウソをつくンじゃねぇーよ」
チッ。めんどくせーな。
「他の連中は知らンが、手前は使えると聞いたぞ。なにを使ってもいい。こっちも出し惜しみはしねぇかんよ」
駄目だこりゃ。ヤル気まんまんじゃん。
体育会系って昔から苦手なんだよな〜。
「ルールは?」
「なんでもありだ。瀕死に……いンや、手前は死者だったか。地面に倒されて攻撃も防御もできなくなった時点で其奴の負けだ」
「なんでも、ねぇ…」
後ろのはそういうことか。
「おい。ライゲイス。その男は小賢しいぞ。思わぬ手を打ってくる」
サトゥーザさぁーん。味方だからって、そんなアドバイスしないで下さいよー。
「その仮面越しにどんな企みを抱いているか…」
そう言って、サトゥーザは村の門の方を見やる。バリスタとかを隠し持っていたのをまだ根に持っているのかよ。
「カダベル様…」
「大丈夫だよ。ロリー」
最近、ロリーにはずっと浮かない顔をさせてしまっているな。ジョシュアの件もそうだが、そろそろちゃんとフォローをしなくちゃな。
「知ってンだろ? 己様も“なんでもあり”の方が得意なんだよ。此奴の意表を突く戦法とやらには興味がある。そして、それを踏まえても己様のが上だ」
「くれぐれも聖騎士の名を穢すような真似は…」
「聖騎士? 負けたら単なる“負け犬”だぜ」
「“犬”だしな。…それはジョークなのかい?」
俺がそう言うと、ライゲイスは鼻を鳴らす。
「いい度胸だ。吠え面かかせてやる」
「それも“犬”だな」
開始の合図もなく、ライゲイスが槍斧を横薙ぎに振って襲いかかってきた。
「【破響・倍】」
俺は迫るライゲイスの鼻先目掛けて魔法を放つ。
大きな風船を爆発させた様な音が響き、サトゥーザ以外の者たちは思わず身を竦ませた。
「クッ!」
眼の前でそれを喰らったライゲイスは一瞬だけ止まったが…
「ッハハハ! おもしれぇ魔法だ! 猫騙しか!」
「“犬”騙しなのだが…って、これ効かないのかよ」
耳のいい動物には効果的だと思ったんだがね。
屈むと、俺の頭の先を槍斧が勢いよく通過した。
「犬! 犬! うるせぇ! 己様は犬じゃねぇ!!」
この世界にも犬はいるが、チワワとサルを合体させたみたいな小型犬ばかりだ。
そりゃシベリアンハスキーはいないだろうしな。否定するのもわかる。
「オラァ!」
見た目通り、攻撃的だな。杖でいなして反撃を試みるが、リーチは向こうの方がある。
それに背中に背負った大盾からしても防御には自信があるんだろう。生半可な攻撃は通用しなさそうだ。
「どうしたぁ!? お得意の魔法はもう品切れか!?」
品切れってか、魔法を使う暇がないんだよね。
サトゥーザみたいに見えない程の攻撃速度ではないが、打突の合間に魔法を絡ませられない。絡ませたとしてダメージにはならない。空打ちに終わるから、やるだけ無駄だ。
それにコイツ…。上がムキムキの巨体の癖に重心が低い。やたらと前傾姿勢なんだよな。
「足下がおぼつかねぇな! ジイサンよ!」
単なる足払いだが、あの太い腕から繰り出される一撃は骨折だけじゃすまなそうだ。下手をしたら腿の付け根から持ってかれる。
うーん。やりづらい戦闘スタイルだなぁ。今はまだ距離をとれているが、向こうがその気になれば一気に間合いを詰められるし、内側に潜り込んだとして力の差は歴然だから押し込まれる。地面に倒されて、上からのしかかれでもしたら抵抗できない。
…と、まあ、普通ならそう思うわな。
「攻めるなら一気に…としたら、この辺かな」
足払いを避けるため、【牽引】を木の枝に引っ掛けて高く跳躍した。
隙だらけだ。わざと誘っているというのには気づくだろう。
通常、空中だと逃げれないが、それでもライゲイスの間合いからは遠い。これなら近づかれる前に対処はできてしまう。
それでもライゲイスは深く屈み、大きく前方に跳躍する。ギリギリ届くかどうか。これなら…
「ダメ元で来るか。なら、【牽引】…」
そう。俺は【牽引】で空中で方向転換することができる。いざとなれば地面にある岩に向かって即座に着地することもわけない。物理法則を無視した挙動なら、いくら百戦錬磨の聖騎士団長といえど…
「なにをしようと、その策ごと押し潰しちまえばいいのさァ!!」
「ん?」
飛び上がったライゲイスの背中から、なにが小さな物が飛び出した。
「ジャシィー! 其奴の首を掻っ切ったれや!!」
俺の目の前に、猫耳なターバンを巻いた小柄な女の子が飛び込んて来る。
「アイアイサー!!」
そのクルンと宙で回転し、ライゲイスの肩当てを蹴ってその反動で俺に急接近する。その手にはナタみたいな刃の厚い武器が握られていた。
「ゴライーッ!」
「デッセェッー!!」
崖の繁みからゴライがサーフィンボードを持ったまま飛び降りて来る。
「ゲェッ!?」「んだとッ!?」
猫耳と犬耳は突如として振って来たゾンビに驚愕している。
「な、なんだよぉ! オマエ!!」
「ゴライ、デッセ!!」
破れかぶれに振り下ろしてきたナタをボードで受け止め、強く押し払う。背中から落ちるところを、ライゲイスが受け止めた。
俺は【牽引】でゴライの肩に着地する。
「なんだこれは! 補佐官を使うとは何事だ! 1対1の戦いじゃなかったのか! ライゲイス! ジャシィー!」
サトゥーザが怒る。補佐官って、確か地位的に副団長みたいなヤツか。犬の団長に、猫の補佐官とはなんともはや。
「己様はなにも独りでやるとは一言も言ってねぇぜ」
「貴様! 団長の矜持というものが…」
「向こうだって伏兵を隠してたッスよ!」
ジャシィーという猫耳が不服そうに俺を指差す。
「俺もタイマンでやるって言ってないしな」
サトゥーザが睨みつけてくるが、そもそも俺は騎士でもなんでもない。正々堂々と戦うつもりもない。そもそも支援型の魔法士なんだから、それとタイマン張るってのがおかしな話だよ。
「アァン? 読んでたのか? 俺様が独りで戦うつもりがねぇことを?」
「さぁてねぇ」
読んでたってか、俺には【集音】があるしな。あの猫娘がコソコソ隠れていたのは知っていたというのが本当のところだ。もちろん、わざわざ教えてやる必要もない。
「で、どうする? このまま2体2でやるかね? 俺は……と、その前にだ」
俺は杖先をジャシィーとやらに向ける。
「お前の種族名は…」
「は? オレの種族? そんなの見て…」
「あ。待て。言うな。言うなよ。今度は当ててやるから」
イヌコロがリュカオンだったな。
ならネッコロは…いや、待て。猫と思ったが、なんかよく見たら模様とかは豹とかサーバルっぽいそわ。
「ワータイガー…いや、シンプルにタイガーもしくは、タイガーウーマン! どうだ?!」
「オレはニャッシャーだよ」
「ニャッシャー? ニャッシャーのジャシィー?」
「そうだけど、馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇーよ」
それっぽい。けど、なんかやっぱり釈然としない。
「なーンか調子狂う奴だなぁ。戦いへの緊張感がなさすぎるぜ」
ライゲイスはチェッと舌打つ。サトゥーザが「それがヤツの作戦だ」とか言って、ジョシュアが頷いてるけれども、俺は本当に素直に疑問に思ったから聞いただけたんだけどな。
「ならやめるかね?」
「冗談はよせや。…ジャシィー退け」
「え? でもよォ、団長…」
「そのジジイはともかく、あっちのデカブツは手前の手に負える相手じゃねぇぞ」
へえ。ゴライの強さを見ただけで理解したか。
サトゥーザも睨んでるのはゴライだし、最も脅威と感じるか。
それは正しい。さすがは団長クラスだな。
ジョシュアが睨んでるのは別の意味だろうがね。
「ゴライも下がってていいよ。ありがとう」
「デッセ?」
俺はゴライの肩から降りる。
「別にそっちは2人同時でいいぜ。手前はその方が本気が出せンだろ?」
「まあね。でも、君みたいなのを相手に必要ないよ」
「そうかい」
お。安い挑発には乗らないか。サトゥーザやジョシュアなら顔を真っ赤にしそうだし、現に歯ぎしりしてるしな。
「【射準】、【流水】、【空圧】!」
俺は左手の指先をすぼめて、ライゲイスに向かって【流水】を飛ばす。【空圧】を使ったのは水圧を高めるためだが…
「火炎が来ます!」
ジョシュアが叫ぶ。
「なに?」
そういや、ジョシュアにはコイツを【油変】させて【火種】を着けた火炎放射を浴びせたんだっけか。
「アァン! 己様が毛の塊だから炎が通用すると思ったか!!」
「……」
当然、俺は【油変】も【火種】も使わない。
「ど、どうして…」
ジョシュアの戸惑った声が聞こえる。
俺が放った【流水】はそのままライゲイスの首元に当たると、貫通して…と言いたいところだが、所詮は水鉄砲がホースから勢いよく出す水に変わった程度に過ぎない。
理想としては水圧カッターによる首チョンパなんだが、仮に【倍加】を使ってもそんなことにはならない。
「……オイ」
毛をしどどに濡らしたライゲイスが鼻の頭にシワを寄せている。
「馬鹿にしてンのか? まさかこれで終わりじゃねぇよな?」
「【射準】、【流水】、【空圧】!」
俺は再び【流水】を放つ。
「……ゴラ。手前、いい加減にしろよ。水浴びしてぇ気分じゃねぇんだよ」
「【射準】、【流水】、【空圧】! 【射準】、【流水】、【空圧】!」
俺は杖先と左手から同時に水を放出させる。気分は放水車だ。水はライゲイスを濡らすだけでなく、周囲に大きな水溜りを作っていく。
「……泥濘か? まさか、これで足元を奪ったとか言わねぇよな?」
「……いや、随分と汚いワンコだから洗ってやっただけだよ」
「……そうかい」
安い挑発には乗らない。
額面通りには受け取らない。
だがな。どんなモノにも急所ってもんがある。
“戦いを愉しむようなヤツ”は、“戦いを穢されるのを怒る”もんなんだよ。
サトゥーザやジョシュアのように怒りを爆発させたりはしないが、ライゲイスの中では徐々に憤懣が溜まりつつある。
そう。ライゲイスは怒らないんじゃない。怒りを溜め込むタイプなんだ。
「……フー。よし、じゃあ戦法を変えっか」
俺の【流水】を受けながら、ライゲイスは空を見上げて深く息を吐く。
「戦法?」
「ああ。このまま攻めてもよ、逃げるのが上手い奴を倒すには時間が掛かっちまう。それにどうやら己様を怒らせて、懐に入れて罠に嵌めるつもりなんだろ?」
「……」
サトゥーザが片眉を動かし、ジョシュアが「おお」とか感嘆の声を上げてる。
「なんてこったい! まさか俺の作戦を見破られるとは…!」
「やめろや。その下手な演技。つまンねぇよ。小手先、誤魔化し、その場凌ぎ……馬鹿正直に戦う他の騎士共は知らねぇが、こちとら路上でのケンカがベースで、なんでもありでやってきてンだよ。そういうのは見慣れている。そしてそういうヤツに限って、顔面に一発入れてやると泣いて謝りやがる。ダセェったらねぇ」
「やってみるかい? 殴るだけでそうなるなら楽な話だよね」
「強がりはよせ。ビビってンのが丸わかりだ」
ライゲイスは槍斧を自身の背中側に回す。カチンという金属音がして、どうやら鎧のアタッチメントに固定されたみたいだ。
「武器をしまってどう…ん?」
元々から前傾姿勢だったライゲイスは両腕を地面に付けた。
四脚状態だと本当にシベリアアンハスキーだ。だが、大きさは俺が知るものの倍以上はある。
「ケンタウロスと逆か? まさか、そっちが本当のバトルフォームかよ…」
「もうお喋りしている暇はねぇぜ」
「!」
ライゲイスは大きく吼えたかと思うと、俺が考えていたよりも速く飛び掛かって来た。足元が泥濘んでいてもまったく関係ないらしい。
「クソ。【牽引】じゃ間に合わない!」
俺は杖を後方に構え直し、脚を前後に拡げた防御姿勢をとる。
正面から体当たりされた時に転ばされないよう、横に逃げるためにイグニストが考案してくれた流し受けの構えだ。
衝撃が加わった瞬間、地面に差した杖で自身を支えつつ、右か左に転がる。ゴライとの練習では、10回中6回は成功する。
向こうが投げ技を組み込んでいたらどうにもならないが、体重が軽く、関節を極められても痛みを感じない俺にはあまり有効な手段じゃないから使ってこないだろうとイグニストは言っていた。
「それでも力ずくで押さえ込まれたら弱いけどね」
ケンタウロスよりは少しはマシだろうと思って構えていると、なぜかライゲイスは俺のすぐ横を通り抜けて…
「え?」
通り抜ける瞬間、ライゲイスの後ろ脚が背中に掛けた槍斧を蹴り上げるのが見えた。
「おおおッ!」
慌てて屈んだ俺の頭のスレスレを、勢いよく斧の先端が掠める。
「へ、ヘリコプターかよ!」
ライゲイスはドリフトしつつ方向転換すると、再び槍斧を蹴ってこっちに向かってくる。背中では凶悪兵器が大回転している。
「四足歩行じゃ確かに武器は持てないが、こんな解決の仕方って…んん!?」
なんとか二撃目も避けたが、ライゲイスが立って武器を構えて……
そうか。忘れていた。こいつはケンタウロスと違って形態変化しているわけじゃない。ただ四つん這いになっただけだから……
「オラァッ!!!」
「ンガァッ?!」
横薙ぎに大きく払われ、俺の身体が宙を舞う。
「カダベル様!!」
俺は自分が作った泥濘の中に派手に転げ落ちる。
「ゴライ! カダベル様を助けて!」
「で、デッセ!」
「助太刀すんならオレも入るよ!」
ロリー、ゴライ、ジャシィーが揉めている声がする。
「どうやら洗い流さなきゃなンねぇのは手前の方だったみてぇだな。ジーサンよ」
上手く立ち上がれず、俺は何度も尻餅をつく。
「ニャッハッ! こうなったらもう終わりだね!」
ロリーとゴライを阻むジャシィーは楽しそうに笑う。
「く、来るな。【掘削・倍】!」
「おっと。落とし穴なんて意味ねぇよ」
俺が放った魔法につまずくこともなく、ライゲイスは二足歩行に戻って近付いてくる。逃げることができないと看破しているのだろう。
悠々と近付いてくるライゲイスに、対照的にハイハイで逃げ惑い、挙げ句の果てには投石を始めたので騎士たちが失笑しているのが聞こえる。
「なにが可笑しいのッ!!!」
ロリーが怒るが、笑っていない聖騎士はサトゥーザとジョシュアだけだ。
「そりゃ笑うだろうよ。誉れある聖騎士団が、この屍従王とかいうペテン師ひとりにコケにされてたンだ。なあ、サトゥーザ。ネタが尽きたらこんなもンだぜ」
サトゥーザは何を考えているのか、腕を組んで俺を見やる。
セイラーもフェルトマンも神妙な顔つきをしていた。
ライゲイスは俺の目の前に立ち、石突で仮面をコンと突く。
「……俺は戦うのが苦手なんだよ」
構図は上から見下ろす勝者と、地べたに這いつくばる敗者だ。
「惨めな言い訳だな。…まあいい。ケジメはつけさせて貰……」
そこまで言ったライゲイスがピタッと固まる。
「? ライゲイス団長?」
不審に思ったジャシィーが声を掛けるが、ライゲイスは答えずそのまま汚泥の中に頭から突っ伏して倒れた。
「はぁ!?」
「……やれやれ」
周囲がどよめく中、俺はゆっくりと立ち上がる。
「カダベル様!!」
「ロリー。こっちに来ないように。他の者もだ」
俺はジャシィーや聖騎士たちにもそう指示する。
「て、テメェ! なにやった! なんで団長が倒れた!?」
「だから近づくなって。お前も“感電”するぞ」
水溜りの中に入ろうとするのを、俺は杖を投げて牽制する。
「感電だと?」
「そうだよ」
俺は【掘削・倍】で作った水溜りの中から、“仕掛け”を取り出す。
「それは…」
セイラーがそれを見て声を上げた。俺が川で魚を獲るのに使った魔蓄石が連結した装置だ。
「【通電】っていう魔法があってね。……うーん。ま、説明してもわからんよ」
「は? て、テメェ! オレのことをバカにしてんな!」
「いや、そうじゃなくてね。俺も上手く説明できん。電気は難しいのよ」
「ふざけんな! 説明しなきゃ納得できねぇだろ!」
まあ、確かにな。
「なら説明するけど、【通電】、【蓄積】、【放散】って魔法は知ってる?」
「知るわきゃねぇだろう!!」
「……これ、それの【通電】の増幅装置。それ使って彼は感電したの」
俺は数珠繋ぎの魔蓄石を持ち上げて見せる。放電し切ったから回転はしていない。
もう少し小型化できれば持ち運びできるんだけどな。今んとこ“罠”としての運用しか思いつかん。
「さっぱり意味がわかんねぇゾ!!」
「……うーん。もういいや」
「ちっともよくねぇ!!」
俺は【流水】と【洗浄】、【乾燥】で手早く自分を綺麗にする。
「死んでるのですか?」
セイラーが尋ねてくる。
「まさかだよ。気絶させただけさ。スタンガンと同じ」
「スタンガン…?」
「魚獲る時に威力を確認していたんだ。殺すだけならこんな手間はかけん。ゴライ。手伝ってくれ」
「オイ! 感電するんだろ!?」
「もう放電は終わっている。それにゴライなら俺と同じで感電しても害はない」
ゴライを呼び寄せ、ライゲイスを仰向けにする。このままじゃ泥水で窒息するからな。
心臓は…鎧越しだと動いてるかはわからんが、口から息と水を勢いよく噴き出したから大丈夫だろ。
んー、念の為、【手当】しといてやるか。
「……罠か? いつの間にそんなものを仕掛けていた?」
サトゥーザに聞かれ、俺は肩をすくめる。
「この村は俺が防衛計画を立ててるんだぞ。そこかしこに色々とあるさ」
俺は入口や木の上を指差して見せる。サトゥーザとジョシュアは険しい顔つきで周囲を見回す。
「……全部、貴様の手の内か?」
「まさか。たまたま良い位置にいただけだよ」
そう言っても信じないだろうけどな。
「ライゲイス団長は負けてない! こんな! 聖技も聖撃も使ってない状態で! まだ本気じゃなかったんだぞ!!」
「そうか。なら使う前に倒せてよかった。殺さないで済んだんだからな」
「な、なに…?」
「ま、彼が起きたら聞いてみなよ。そんな“ダセェ言い訳”はしないと思うよ」
聖騎士たちを見やる。もはや誰も笑っていない。
団長の仇討ちとか出てきたら面倒だしな。
「……俺の勝ちだ。さ、これで文句はないでしょ?」




