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屍従王  作者: シギ
第三章 魔法封印事変編
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081 六聖剣

 外から喧騒が聞こえて来たので外へ出てみると、広場の方で人集りができていた。


「カダベル様!」


「ビギッタ。何事だい? これは…」


「それが…」


「さっさと本国に戻るぞ! いつまでこんな村で燻ってろと言うのか!」


 荒い息遣いと、くぐもった唸り声の混じった怒声が聞こえる。


「待って下さい! まだ巫女様とサトゥーザ団長が話しをしている最中で…」


 どうやらジョシュアが相対している様だ。


 彼が向かい合っているのは随分と大きい。大盾を背負い、背丈だけならゴライぐらいはありそうな鎧姿の大男だった。


「そのサトゥーザはどこだ!? こんな事態になって、お喋りに興じているなど聖騎士の名折れだろうが!!」 


「まあまあ、その辺で…」


「フェルトマン! 手前(テメェ)がついていながら、まだカダベルとかいうジジイひとり満足に連れて来れンのか! グダグダ言うなら脚の1本でも斬り落として…」


「俺がどうかしたかい?」


 人混みを掻き分けて行くと、ジョシュアとフェルトマンが俺を見やった。


「カダベル様…」


 ロリー?


 んん? なんでロリーまでいるんだ?


 しかもジョシュアたちと一緒に…?


 なにがどうなって…


「アァン! 手前がカダベル・ソリテールか!!」


 振り返った大男…その顔は人間のものじゃない。


 狼…? いや、なんか違うな。これは…   


「あ。シベリアンハスキーだ」


 青い瞳に、立ち耳と白い毛…あまり犬には詳しくはないが、たぶん狼じゃない。


「“しべりあ…”? なに?」


 犬が怪訝そうにする。眉根が寄るところは柴犬っぽい。


「いや、失礼した。種族は…待て。言い当ててやろう」


「アァン?」


 元カダベルの知識に、犬の亜人についての知識はない。クルシァンには存在しないか、これは希少種だってことだな。よしよし。


「ワーウルフ…いや、そりゃぁ、いかにもだな」


 エルフがウサギ。ドワーフが亀。リザードマンがトカゲな世界だ。きっと、もう一捻りあるはずだ。


 当ててやる。当ててやるぞ。


「コボルト…。いや、それも犬だな。そうだ。それならノッカーだ! どうだ? お前はノッカーだろう?」


「なにを言っている? 己様(おれさま)はリュカオンだ」


「リュカオン?」


 ギリシア神話かなんかの狼に変身する王様の名前じゃなかったっけ?


 なんだそりゃ。


 まんま狼男やん。


 まあ、見た目はシベリアンハスキーなんだから厳密には狼男ではないんだが…なんか納得いかん。


「己様は…」


「あー。いい。見りゃわかる。その鎧からして聖騎士だろ。ヒューマン以外がなれるとは知らなんだが、それも時代の流れかね」


 なんかどーでもよくなっちゃったな。


「…なんか手前はムカツクやつだな」


「よく言われるよ」


「手前…」


「カダベル! この人は…」


「出しゃばるな! ジョシュア! 己様は自分で名乗れるわ!」


 へー。ジョシュアより、このワンコロの方が立場は上なのか?


「己様は“六聖剣(ろくせいけん)“、“義盾”の団長ライゲイス・シルバだ」


「団長? 聖騎士団の? サトゥーザ以外にもいたの?」


「まさか、此奴(コイツ)、“八翼六剣(はちよくろっけん)”も知らねぇのか?」


 ライゲイスとやらは、若干小馬鹿にした様子で俺を指差しつつジョシュアに問いかける。


「六聖剣…ってことは、団長は他にもいるってことかい?」


「クルシァンの公爵って話じゃねぇのかよ?」


「何十年も前の話だ。その時は団長の下に部隊長が何人かいたと思ったが…。組織の内情まで詳しいわけじゃない」


「アァン? なんとも大昔の話だな」


「だからそう言っているんだよ」


「今じゃ己様を含む“義盾”、“義兜”、“義鎧”、“義剣”、“義光”、“義炎”の字を持つ6つの団長がいて、その上に“大義聖”の総団長がいンだ」


 “義炎”…は、確かサトゥーザだったかな。確かにそう名乗ってたのを聞いたような、聞かなかったような…そんな気がする。

 

 八翼神官といい、本当に宗教ってのは権威付けのためかなんか知らんが変な名前をつけたがるな。

 

「ご説明どうもありがとう。…となると、巫女様の護衛には団長が2人もついて来たってことかい?」


「アァン?」


 外にいた聖騎士の気配はコイツで間違いないだろう。まさか団長クラスだとは思わなかったが。


 巫女のため? いいや、違うな。それだけ、屍従王って存在を…


「ピキャッ!」


「ん?」


 このライゲイスという男の持つ槍と斧が合体したような…槍斧(ハルバード)とか言ったか、それが鳴き声を上げた。


「チッ。まだしぶとく生きてやがったか」


「ゴブリンか?」


 ライゲイスが槍斧を横に回すと、そこにはロープに数珠つなぎになったゴブリンがぶら下がっており、その殆どが額を貫かれて絶命していたが、血塗れの1体が手足をジタバタとさせていた。


 生きているのは初めて見たが、動いていると実に醜悪だな。可愛さの欠片もなく、妖怪の子泣きジジイみたいだ。これなら赤鬼の方がまだ愛嬌がある。


 ライゲイスは腰からショートソードを引き抜くと、無造作にその首を掻き斬った。

 ロリーは顔を背け、ジョシュアも眉をひそめる。


「これは…」


「村の周囲にいたのを駆除した。なんか問題あるか? アァン?」


「いや、害意があるなら対処せねばならんとは思ってはいたが…」


「対処せねばァ? 手前もサトゥーザもチンタラしてンな!!」


 ライゲイスはゴブリンの死体を俺の前に放る。


「こんな雑魚が幾ら湧こうが己様たちからすりゃ敵でもねぇ! だがな、“アズラザード”は別だ!」


「“アズラザード”?」


 うーん。知らん単語ばかりだなぁ。


「アルアラービの大帝だ! あの“魔女殺し”のアズラザード! それが宣戦布告してきたからにゃ、クルシァンの総力を持って当たる必要がある!!」


「宣戦布告だ?」


 ならもう戦争に突入ってことじゃんか…


「ライゲイスッ! 貴様は村の中にまで入って来てなんのつもりだ!! セイラー様からは外で待機しろと言われていただろう!!」


 サトゥーザがやって来た。ジョシュアの方を見て一瞬だけ眼を細めたが、すぐにライゲイスと睨み合う。


「アァン!? それにいつまでかかっていやがるって話だ!! 己様たちはさっさと、この“魔女殺し”を引きずって戻らにゃならンだろう! サトゥーザ! 手前の手に余るってンなら、己様が代わりにやってやるよ!」


「“魔女殺し”? 俺のことか?」


「さっきからなンなんだ! いちいち疑問を挟むンじゃぇよ! そうなンだろが!!」


「いや、俺はジュエルを殺してないんだが…」


「そんなことはどうだっていい! 聖教皇王陛下は手前をご所望だ! 同じ魔女殺し同士をぶつけて向こうの戦力を削ぐ! それが今回の作戦だ!」


 気まずそうにサトゥーザが額に手を当て、ジョシュアは眼を背ける。


「ジョシュ。これはどういうこと…?」


「それは…」


 ロリーが低い声を出し、ジョシュアはたじろいだ顔を浮かべる。


「まあまあ、なにやら不穏な雰囲気ですが、ここは当方に任せ…」


「「黙っていろ!」」


 サトゥーザとライゲイスに同時に一喝され、フェルトマンは「あんが!」と腰を抜かす。


 あーあ、どう見ても関係性は最悪だな。このふたりを御するための八翼神官じゃないのかよ。役立ってねぇじゃん。


「セイラーもサトゥーザも、手前にクルシァンが戦争状態にあることは話してなかったか?」


「ああ。そこまでとは聞いてないね」


「あなたたちはどこまでカダベル様を…」


「誤解だ! ロリー! せっかく仲直りできたのに、こんなの酷い誤解だよ!」


 仲直り?


 ロリーとジョシュアが?


 それはめでた…


「外野がうるせぇ! 姉弟喧嘩は村の外でやれ!

いまは己様が此奴と話をしている!」


 本当にコイツは自己中なヤツだなぁ。サトゥーザ以上に好きになれん。


 ロリーはライゲイスに飛び掛かりそうな勢いだが、ジョシュアがそれを押さえ込む。


「こっちも仕事なンだ。どう見ても弱そうなジイサンだがな、引きずっても連れて…」


「行くよ」


 俺がそう答えると、ライゲイスだけでなく、ロリーも眼を丸くした。


「カダベル様…」


「なにィ?」


「クルシァンに行くと言ったんだ。そこの男に借りもあることだしな」


 俺はフェルトマンを指差す。


「…どういうことだ? この男の説得は難しいって言ったのは手前だぞ、サトゥーザ」


「さっきの話し合いでそうなった」


「聞いてねぇぞ」


「伝える前に貴様が短気を起こしたんだろうが…。

 元々、敵対していたのだ。そう簡単に話が進むとは思ってはいなかったということだ」


 サトゥーザよ。簡単じゃないと思ってるなら、最初からもっと謙虚な態度を取るべきだったろうに。交渉人としてはダメダメだなぁ。


「……気に入らねェな」


 ワンコロが鼻をスンスン鳴らして言う。


「なにがよ?」


「手前は、地没刑の魔女を倒し、そしてこのサトゥーザまでも退けた男なンだろう?」


「退けたって…。だからさぁ。俺が直接倒したわけじゃないよ」


 明らかにサトゥーザがムッとしているのに、俺がフォローを入れる。なんで俺が気を遣わなきゃいけないのよ。


「関係ねぇ! 使える手段を全部使っただけならそれも“力”だ。己様たち聖騎士団は敗けた。その事実には変わりはねぇ」


 サトゥーザもジョシュアも険しい顔をする。


「……それで?」


「そんな勝った方の男が『はい。行きます』と軽々言うのが気に入らねぇってンだ!」


「はい?」


 なに言ってんだ? コイツ…


「意味がわからん。俺は行くったんだし、お前はさっき仕事だから引きずっても連れてくっただろう?」


「関係ねぇ! それに聖騎士団は負けたが、己様は負けてねぇ! 気持ちよく連れて行くにゃ、手前をコテンパンにのして引きずって行くのが一番だ!」


 そう言って俺に槍先を突きつけて来る。


 ロリーは烈火の如く怒り、ジョシュアは飛んでくる裏拳をかわすのに必死だ。


「話にならんな。なんなんだ、聖騎士団ってのはこんなヤツしかいないのかよ? 二言には『戦え』ってさ」


「いやはや、止めて下さいよ。総団長に怒られますぞ」


 フェルトマンが間に入ろうとしたが、ライゲイスに吼えられてハンケチで額の汗を拭う。


「サトゥーザ団長。ライゲイス団長を止めて下さいよ」


「無理だろう。口で言って聞く男じゃない」


 なんだそりゃ! 諦めんなよ!


 ライゲイスは口元を笑わせる…たぶん。笑ったんだと思う。ワンコロの表情はイマイチわからん。


「当然だ! 己様たち聖騎士は、屍従王の力を疑っている! わざわざギアナードに迎えに来る必要があるのか、あの大帝と戦わせるだけの力があるのか甚だ疑問だ!」


 ライゲイスは目の端で、フェルトマンを睨みつけて言う。


「なんとも勝手な話だな…」


「そうだ! 強い者だからその勝手が許される! 勝つ者が常に上に立つ! “勝上”こそ世の常だ!」


「……ほーう。なら俺が勝ったら、お前は俺の言うことに従うんだな?」

 

 ライゲイスは一瞬だけポカンとした後、ゲラゲラと腹を抱えて笑い出した。


「おもしれぇ! いいだろう! 従ってやるよ! 勝てればな!」


 サトゥーザやジョシュアより短絡的すぎる。これで団長がよく務まるよなぁ。


「……なあ、ビギッタくん」


「え?」


 俺はライゲイスを見て真っ青な顔をしているビギッタに声を掛ける。


「俺の代わりに戦ってみる気ない?」


「絶対にムリっす!」


 んだよ。


 若いのに根性ねぇなー。

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