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屍従王  作者: シギ
第三章 魔法封印事変編
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078 源神による託宣(1)

 知るべきこと、知るべきじゃないこと。



 これは見えない駆け引きだ。


 

 向こうも“情報”が勝敗に直結すると理解している。



 だから、“耳をそばだてて聞いている者”がいるわけだ。



 それ故、本当の事はありのままには話さない。



 “死者の本心”は棺の中。



 口数が多い死者には気をつけた方がいい。



 それに気づかぬ者が墓を掘る時まで──



 忠告は以上だ。



 それでは、話はロッジモンドやゾドルと語り合う前にと遡る──




──




「さて、ではこれからのことを話し合うとしようか…」


 ルフェルニにミューン。セイラー、サトゥーザ、フェルトマンといった識者が集った中で俺は言う。


「その前にじゃ」


 ミューンが手を挙げた。


「今回の魔法が使えない現象に名前が必要だと思うぞ」


「そうだな。呼び名がないと確かに不便だ。なにかいいのはあるか?」


 誰もなにも発しない。魔法に関したことだから、俺に主導権があると思っているのかもしれない。


「なら、俺が決めよう。今回の件は…“ギアナード魔法封印事変”でどうだ? まあ、魔法封印がギアナードだけに及んでるって前提の呼称だが」


 魔法封印の範囲がギアナードだけってのは、ルフェルニから聞いているが、コウモリっていう情報収集手段をわざわざ晒す必要はないんでそう言った。


「これに異議があれば申し出てくれ」


 俺の予想通り誰からも反対意見は出なかった。魔法が使えない以上、聖騎士たちも情報的に孤立しているんだから当然だろう。正しいも間違っているも判断する材料すらない。


「よし。決まったな。なら、“ギアナード魔法封印事変”に対し、今後の方針を……」


 俺がそこまで言ったところでセイラーが急に席から立ち上がり、なにやら天井を見上げる。


「セイラー様? どうされたので?」


 サトゥーザが尋ねるが、セイラーは視線を一点に向けてて微動だにしない。


「なんじゃ?」


「……来られます」


 セイラーがそう小さく、うわ言のように呟いた。


「来ます? なにが来るって言うんだ?」


 それを聞き逃さなかった俺が疑問を口にした瞬間、セイラーの身体がビクンッと大きく跳ねた。


「これは…託宣? いけませんな。皆様、少し離れて」


「フェルトマン?」


「はいはい。巫女様の護衛もそんなに近付かなくたっていいでしょうね」


 フェルトマンが、セイラーの座っていた椅子を蹴り飛ばし、サトゥーザの腕を掴んで距離を取る。


 皆がセイラーから距離を取った次の瞬間に信じられないことが起きた。不自然に仰け反った姿勢のまま、彼女の身体がふわりと中空に浮かんだのだ。


「……エム…ダナ」


「なんだ?」


「エサハプ…ダナ …エクオトロプス…エニアルブ…グニディブ…エト…マ……」


 セイラーは妙な呪文のような言葉を口走る。


 やがて、彼女の身体が淡い光に包まれた。フェルトマンが片膝をついてなにやら祈りらしきものを唱え始める。


 そしてセイラーの身体が痙攣した様に数回跳ねたかと思うと、顔だけが俺の方にグリンと向いた。あの真っ黒な瞳が、煌々と翠色に光っている。


「……『神意を告げる』」


 セイラーの声だけじゃない。彼女の声に重なって、二重音声のように聞こえた。


 これは神がかり…つまり、トランス状態になっているのか?


「神意ということは、お前が源神オーヴァスなのか?」


 ルフェルニもミューンも状況に驚きながらも、どこかしらか眉唾なものでも見るような顔つきになった。


「『世の変異は我が予言の如くに訪れ、刻一刻と終わりは近づく。これらは“東方の砂の王者”、“西方の鋼の女王”らの企てによるもの。その邪なる芽を摘まぬ限り、聖心は根も葉も腐り果てることであろう…』」


 こちらの質問には答えない…か。


「『我が導きに従え、理外者よ。神域クルシァンの安寧こそが、世界に平定をもたらす』」


「平定…だと?」


「『賢者(ワイズマン)どもが創り、魔女どもが世を乱さんがために使う魔法…これらを悉く排斥せしめ、神による秩序と理なる世を取り戻す。これぞ神理なり!』」


「カダベル…これは…」


 ミューンがなにか言いたげにしたが、俺は首を横に振る。


「『来たれ! 我が招致に応じし“死者の王”! 汝が進むべき道は、神意ある道にしかず! 聖心余す所無く照らされんがために!』」


 フェルトマンが指を3本立てて「聖心余す〜」の部分を同じように繰り返し、少し遅れて躊躇いがちにサトゥーザも同じようにした。


「俺がそれを信じると思って…」


「『屍従王カダベル』」


 ? いま笑ったのか?


「『“ニホン”から招致されし者よ…』」


「!! おい! いま“日本”って言ったか?」


 セイラー…いや、源神はニヤリと笑うと、グルンと白眼を向いて地面に落ちる。

 地面に接触するすれすれのところをフェルトマンが抱き止めた。


「待て。聞きたいことが…」


「いえ、おしまいです」


「なに? こんな一方的な…」


「それが託宣ですとも。カダベル公爵」


 なんかフェルトマンは嬉しそうにしてるな。若い女を抱っこしていると、怪しいオッサンにしか見えん。

 

 しかし、源神は俺…いや、道貞のことを知ってるのか? 


「……今のが源神オーヴァスか?」


「ええ。そうですとも」


 自慢げに不敵な笑みを浮かべているフェルトマンに対し、なんでかサトゥーザはキョドっている様に見える。


「カダベル公爵! これは名誉なことですぞ!」


「名誉?」


「つまりは貴卿が源神に選ばれたということ! そして死からの復活もまた、源神の御心に適ったこと! カダベル・ソリテール公爵がクルシァンに生まれ、ギアナードの地に没し、死者として復活を遂げ、地没刑の魔女ジュエル・ルディを倒した! これらすべてが繋がっていた!!」


 恍惚とした笑みを浮かべ、フェルトマンは何度も源神への感謝の言葉を並べ立てる。


「……なあ、実際に以前に託宣を見た事はあるのか?」


「いや、私は…」


 俺がサトゥーザに問いかけると、いつになく彼女は唇を噛んで言い淀む。


「当方は見たことがあります。一度だけね。しかし、高位神官以外を前に託宣されたことは…」


 聞いてもいないのに、その代わりとばかりにフェルトマンが意気揚々と答える。


「……ふーん」

 

「“ふーん”? いえ、これはとてつもない事で…」


「もういいや。わかったよ」


 俺が素っ気なくそう言うと、気持ちよく語っていたフェルトマンはバツが悪そうに口角を下げる。


「……セイラー様を少し休ませたい」


「ああ。いいよ」


 半ばフェルトマンから奪うように、サトゥーザがセイラーを抱きかかえる。


「話し合いはまた後日に…」


「……いや、いま結論は出しとくよ」


「なに?」


「本当はクルシァンに行く気はなかった。あの場は俺がいなきゃ魔法が使えなかったとか、なんやかんやとイチャモンつけて、ジュエルを助けて貰った事を棚上げしようと思ったんだがねぇ」


 フェルトマンが目を瞬く。


「カダベル。貴様…」


「怖い顔をするなって。というのも、先にロッジモンドに話してからにしようと思ったんだ。それが筋かなぁってね。でも、今の託宣を見て気が変わったよ」


 サトゥーザはフェルトマンと顔を見合わせる。


「クルシァンに行こう。起きたら、そうセイラーに伝えてくれ」


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