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屍従王  作者: シギ
第三章 魔法封印事変編
89/113

 挿話① サトゥーザの滅私な日常

重い内容が続いているので、少し息抜きとなるお話です。


065の直後の出来事となります。

 カダベルの屋敷の側に、倉庫として使っていた小屋があった。


 ゾドルの作った木彫りや、ゴライの石細工、メガボンがどこからか拾ってきた調理器具、ジュエルのオモチャなど、カダベルが屋敷に置きたくないものや、または大きすぎて嵩張るもの、滅多に使わないものなどが安置されてあった。

 今ではそれらは隅にへと片づけられ、生活できる最低限のスペースが確保されている。


 小屋の横で、外套を脱いだふたり…サトゥーザとジョシュアが向かい合って剣を振るっていた。


「いい踏み込みだ!」


 ジョシュアの鋭い剣戟を見て、サトゥーザは頷く。


「さあ、続けて来い!」


「はい!」


 汗だくのジョシュアは肩で息をしていたが、サトゥーザは涼し気な表情で、長い髪を払い、シャツを整える余裕もある。

 それでいて果敢に攻めてくるジョシュアの剣を軽く受け止めていた。


「隙のない攻めだ。上達したな。だが、こう来たらどうする?」


 サトゥーザは大きく胸を開く。薄手のシャツ越しに豊満な胸が弾んだかと思いきや、深く屈み込み、脚のバネを利用して一気に剣を横薙に払った。


「うあッ!」


 正面に剣を振り降ろそうとしていたジョシュアは、思いもよらないサトゥーザの一撃に剣を弾き飛ばされ、その場に尻餅をつく。


「己が優位に立っている時こそ、相手の動きに注意すべきだ。顔、うなじッ! 肩、胸ッ! 腰ッ、尻ッ! 敵のすべての部位をよく観察し、次の動きを予測するようにな」


 サトゥーザは自身の後ろ髪を上げてうなじを見せ、胸や尻を部位名を呼称しながら指差し、わざわざジョシュアに見せつける。


「そうでないと今のように思わぬ反撃を受けることになるぞ!」


「は、はい!」


 ジョシュアは感嘆と尊敬のこもった眼で頷き、伸ばされたサトゥーザの手を握ろうとして止まる。


「なんだ?」


「あ、いえ。団長。その…」


 言い淀むジョシュアに、サトゥーザは「構わん。言ってみろ」と促す。


「だいぶ、そのシャツは古くなって、傷んでいるのでは…?」


「うん? そうか?」


 彼女のシャツはだいぶくたびれており、前部分が伸びてしまっていて、サトゥーザが手を差し伸べた時に前屈みになった時に首元が垂れ下がり、胸の谷間が見えてしまったのだ。


「そうか。気に入ってたのだがな。この村で買い替えるのもありか…」


 サトゥーザは自身のシャツをぐいっと引っ張る。


「ええ。あ、団長。そんなに引っ張ると…」


「引っ張るとなんだ?」


「……その、胸が…」


 視線を彷徨わせて言うジョシュアに、サトゥーザはカッと眼を見開く。


「滅私ッッッ!!!」


 サトゥーザから怒号の一喝が放たれる!


「騎士となった瞬間に、私は“女”を棄てた身! こんなものは脂肪の塊に過ぎんッ!!」


「は、はい!」


 自分の乳房を持ち上げたり、寄せたりしながらサトゥーザは怒り狂う。


「いいか! 確かに、今はセイラー様の護衛のためとはいえ、私とふたりっきりで、あの狭い小屋で過ごす日々を我々は送っている!!」


「はい! 団長直々に稽古をつけてもらえることは感謝です!」


「感謝などするな! すべてはあのふざけたミイラのせいだ! 上司と部下とはいえ、男女が!! 男女が寝食を共にしている!! あの狭い山小屋で!!」


 サトゥーザはなぜか“狭い山小屋”を強調する。


「……団長。俺は外で寝ても…」


「そういう話をしているんじゃない!!」


 顔を真っ赤にして怒るサトゥーザとは対照的に、ジョシュアは真っ青になる。


「いいか! ジョシュア! 私に“女”を意識するな! 確かに過ちがあってもおかしくはない状況だ!! しかし、騎士たるもの、常に滅私の精神を持って我欲を消しなければならないッ!!」


「は、はい! わかりました!」


 サトゥーザの鬼の形相が固まる。 


「だ、団長?」


「…………わかっちゃったの? 本当に?」


 サトゥーザの怒りがフッと消え、眉を寄せて睨まれるのに、ジョシュアは首を傾げた。


「はい。最近は姉や、父の仇……そいつへの怒りが再燃してしまい、自制心を失うことが多かったです」


 ゴライと出会ってしまったことをサトゥーザにまだ話せていないジョシュアは、その罪悪感もあって唇を噛んだ。


「俺の未熟さのせいで団長の足を引っ張…」


「そうじゃなーい!!」


「え?」


「若さってそういうんじゃないだろ! 勢いというかさ! ガバッとなるみたいなさぁ! 一夜のそういうアレ…それアレがあるだろ!」


 血走った眼で肩を前後に揺すぶられ、ジョシュアは頭を前後にガックンガックンさせる。


「あ、あの…」


「なに!?」


 サトゥーザは頬を上気させ、潤んだ瞳でジョシュアを見る。乱れた毛先が口元にかかっていた。


「……いや、なぜか今の団長がカダベルみたいに見えてしまったんで」


 一瞬だけ呆気にとられたサトゥーザだったが、すぐに肩を落として前のめりになる。肩紐が落ちて見えてはいけない部分が見えそうになったので、ジョシュアは空を見上げた。


「……私がカダベルに?」


「す、すみません。なんか、勢いで喋るところが…なんとなく。そりゃ、見た目は全然違いますけど」


 ジョシュアには、意味不明なことで興奮する様がカダベルの姿に重なって見えたのだった。


「…………悪かった」


「い、いえ。…そうだ。俺、物資の買い出しに行ってきます」


「…………そうだな。頼む」


「セイラー様の警護は…」


 サトゥーザは俯いたまま首を横に振る。


「……我々は屋敷には入れん。“あの男”が【害意検知】を定期的に使っているはずだ。動きがないということはセイラー様には危害は加えられない」


 ジョシュアは、あの軽薄そうな八翼神官の姿を思い浮かべる。

 サトゥーザを含む騎士団からも敬遠され、セイラーも苦手としている印象こそあったが、魔法の腕だけは確かで、仮にセイラーが重傷を負ったとしても、死んでさえいなければ元通りに治せるという力の持ち主だと聞いていたのだ。


「そうだとしても、こんなことをいつまで続ければいいんでしょうか…」


「……さあな。だが、時折、屋敷から笑い声が聞こえてくる」


「セイラー様の?」

 

 サトゥーザは俯いたまま、頭を上下に振って肯定する。

 ジョシュアはあの鉄仮面みたいな無表情が動くことが少し信じられなかった。


「決して油断していいわけではない。……だが、セイラー様もクルシァンで経験したことがない平穏な日々を送っているのであれば、しばらくこのまま過ごさせてやりたい」


 サトゥーザの気持ちを汲み取り、ジョシュアは頷く。


 巫女としての生活は決して自由気ままなものではない。今回みたいな国から国への大移動でなくとも、必ず騎士団が付き添い、時間も分刻みで組まれるのだ。常時監視されている生活は決して楽しいとは言えないだろう。


 皮肉なことに、敵対するかも知れない相手、屍従王という存在がセイラーに束の間の休息を与えている結果となっていたのだ。


「……では、俺は村の方へ行ってきます」


「……待て。下着を着替えていけ。そのままだと風邪をひく」


「は、はい。でも、団長…俺は自分の服は自分で洗えますから…」


「いいんだ。洗っておく。貸せ」


 ジョシュアはシャツを脱ぎ、まだ濡れたままなので躊躇っていると、サトゥーザの手がガシッとシャツを掴む。


「……あの…」


「行ってらっしゃい」


「……行ってきます」


 俯いたままのサトゥーザに強い不安感を感じつつ、ジョシュアは手早く替えのシャツを取り、外套を着て坂を降りていった。


 なぜかその間、ずっとサトゥーザは動かずに同じ姿勢のままだった。




──

 



 ジョシュアが行ったあと、サトゥーザは小屋の中へと戻って来た。


「……くひひッ」


 サトゥーザは痙攣するかのように震えつつ笑う。


「いいぞ、いいぞ! ジョシュアたんは私を意識し始めているッ!! 間違いない!!」


 濡れたシャツを握りしめ、サトゥーザは上下にそれを振るう。

 

 特訓の際、わざと乱れた髪や、薄着で乳房や尻を強調しつつ、“誘惑”していたのである。

 古くなったダルンダルンのシャツもわざとであり、あわよくばはだけてしまえというぐらいの気持で激しく動いていたのだ。


「いかん。いかんな。ダメだぞ。つい、ヨシュアたんとの蜜月のひとときを堪能してしまっている。いかんぞ、サトゥーザ・パパトゥ。セイラーの護衛で我々は来てるんだ。任務優先、任務優先。滅私、滅私…」


 そんな事を言いつつも、サトゥーザのニヤニヤは止まらなかった。


「…だって、これ、もう夫婦だろ! ひとつ同じ屋根の下って!! フッヒーッ!!」


 サトゥーザは鼻息荒く、ジョシュアの着ていた濡れたシャツに顔を近づけ…


「! まだ早い! ご褒美は後にとっておかねば…」


 ジョシュアが戻って来るまで小1時間はあるだろうと考えたサトゥーザは、ご機嫌な鼻歌混じりにフリルのついたピンク色のエプロンに着替えた。

 そのエプロンには、胸元にハートマークと共にジョシュアの顔の刺繍(サトゥーザ謹製)がされている。


「さて、行くぞ!」

 

 サトゥーザは後ろ髪をヘアゴムでまとめると、まるで戦闘でも開始するような気迫で動き出す。


 水のついた鍋に火をつけ、野菜や肉を手早く切り分け、調味料を合わせ、かつ水が湧くまでの間を利用して小屋の中を上から下へと掃除していく。


 その動きには一切の迷いも無駄もなく、洗練されており、まるでダンスでも踊っているかのような華麗さがあった。


 寝かしておいた生地を成形し、簡易竈でソーダブレッドを焼き上げる。

 ナッツやカタイチゴのドライフルーツ、湯通しして苦味や抜いた山菜や乾燥肉を細かく散らし、上から溶かしたチーズとオリーブ油、塩胡椒で軽く味を整えたソースをかけて和える。


「メインの味は…よし! いい!」


 この村で教わった芋のスープ、ベーコンやカブやタマネギのシンプルな具材を使い、トマトベースに

は乾燥させたクロイマを磨り潰して、炒って隠し味とするのだが、サトゥーザは村長夫人から食べさせてもらった一杯を口にしただけで完全にトレースしてしまっていた(ちなみにレシピを教わったはずのロリーシェでも未だに再現できていない)。


 この小屋には簡易的な調理設備しかないが、サトゥーザは短時間で、クルシァンの中流家庭以上の夕飯を作り上げてしまったのだ。


 ジョシュアは買い出しに出たが、実はそんな必要はまったくなく、サトゥーザはセイラーの警護の合間に必要な食材をすでに調達済みであった。

 ジョシュアは経験則で日持ちする食材などを適当に買ってくるが、彼がなにを買ってこようが毎日違う料理、しかも栄養バランスにも配慮が行き届いたものを提供する自信がサトゥーザにはあった。


「……我ながら完璧すぎる。完璧な“嫁”だ」


 桶に【流水】を貯めて洗濯の準備をしつつ、サトゥーザは含み笑いをする。


「帰ってきたら、『おかえり、ジョシュアたん♡』。いや、それはないな。なら、“ダーリン”? “旦那様”?」


 石鹸をシャカシャカと泡立てながら、サトゥーザは上擦った声で言う。


「『食事にする? 先にお風呂? それとも私にしちゃう?』…えへ、エヒェヘヘヘヘッ!! たまんねぇな! オイ! 部下に団長が食べられちゃうってよォ!」


 タオルや汚れ物を物凄い握力で洗い立てつつ、サトゥーザは興奮して鼻の穴を開けっぴろげる。


 そしてカゴに畳んで入れてあった、先程の濡れたジョシュアのシャツを見て邪悪にニタリと微笑んだ。


「…ご褒美の時間だ」


 乾いた布で濡れた手をよく拭き取り、震える手で恭しくシャツを掴む。そしてゴクリと息を呑むと、キスでもするかのようにゆっくりと顔を近づけ──



「それはどうかと思うぞ」



 “ジョシュア吸い”…サトゥーザが命名したこの“ご褒美”を達成する前に背中に声が掛かる。


 慌てて振り返ると、そこには銀色の盆を手にしたカダベルがいた。


「き、キッザマーッ!!」

 

 サトゥーザは声にならない声で絶叫したかと思いきや、壁に立てかけてあった剣を取り抜き放つ。


「おいおい!」


「なにをしに来た!? 気配も感じさせぬように近づくとは!!」


「なにをしにって、お裾分けだよ。ちゃんとノックはしたぞ」


 カダベルは自身の持つ皿を指差す。そこには昼間に獲った魚が焼かれたものが載っていた。


「なんだよ。ご馳走だな。俺んちより豪勢じゃね? タイミングが悪かったな。けど、若いから食えんだろ」


 所狭しと料理が並んでいるテーブルの上に、カダベルは皿を置く。


「じゃ、用は済んだから帰るわ」


「ま、待て…」


 手をヒラヒラさせて帰ろうとするカダベルを、サトゥーザは射殺すような眼で睨みつつ呼び止める。


「……どこから見て、聞いていた?」


「ん?」


「返答次第では、キサマを殺してから私も命を絶つ…」


「なんでよ? 意味わかんないんですけど。あと、もうすでにこっちは死んでんですけど」


「聞いたことに答えろ!!」


「んー、“褒美”がどうのこうの言って笑ってるところからかな」


「ッ!!」


 サトゥーザの額から汗が一筋流れ落ちる。


「…キサマは勘違いしている」


「勘違い?」


「これは部下のシャツだ。そのニオイを嗅ぐことで、その日の体調の変化を素早く察知し、事前に手を打つことができる」


「……犬みたいだな」


「黙って聞け。…そして団長である私が自らそれを行う。これは部下に対する“褒美”と言ってもいい行為だ」


 苦しい言い訳だった。しかし、サトゥーザはこれで押し切るつもりなのだ。


「……そうか。部下思いなんだな」


「わ、わかったか!」

 

 口達者なカダベルが特に異論を挟まないことに、サトゥーザはホッと安堵する。


「し、しかしだ。あまり部下にこういったことは…」


「わかっている。ジョシュアには話さんよ。団長の影の努力とかは口にして伝わるもんでもないでしょ」


「な、なかなか話がわかるミイラだ」


 カダベルは肩をすくめて見せる。


「…あ。それと」


「な、なんだ?」


「エプロン姿、なかなか似合うな。可愛いと思うよ」


 サトゥーザの眼が驚愕に見開かれる。そしてなんとリアクションしていいか迷っているうちに、カダベルは小屋を出て行ってしまった。


「チッ。死者に世辞を言われても嬉しくもなんとも…」


 そこまで言って、サトゥーザは自身のエプロンを見やる。


「〜〜〜〜ッッッ!!!」


 そしてサトゥーザは悶絶する。なぜならば、エプロンにはジョシュアの顔とハートマークが描かれていたからだ。


「カダベルッ!! カダベル・ソリテールッ!!! まて!! まだキサマは大きな勘違いしているぞォッッッ!!!」


 サトゥーザは大声を張り上げ、エプロンを投げ捨てると、カダベルの後を追ったのであった──。




──




「…うーん」


 カダベルは居間でコーヒーを嗜みながら考え事をする。

 

「なによ。さっきから唸って。糞詰まり?」


 床で馬車のオモチャを転がしていたジュエルが、テーブル越しに睨む。


「あいにくと俺の胃袋以下はまっさらで君たち生者よりも綺麗だよ。

 それよりゴライたちはどうした?」


「落ち込んでる」


「落ち込んでいるのは知っている。ジョシュアの件でだろう。そうじゃない。どこにいるかを聞いているんだ」


「なら最初にそう言えよ。ゴライとメガボンは、なんかセイラーと、ロリーシェの誕生日の秘密の準備してるみたい」


 カダベルは顔を上げる。二階で時折ガタガタとやっている音が聴こえてはいたのだ。


「お前は一緒には準備しないのか?」


「アタシはアイツらが立てた計画のダメ出しをする係」


「それはなんとも性格が悪いな」


 カダベルは「まあ、それはいい」と払う仕草をすると、ジュエルも遊びに戻ろうとしたがそれを呼び止める。


「なによ?」


「聞きたいことがあってね」


「だから、なによ?」


「俺よりジュエルはかなり年上だよな?」


 ジュエルは一瞬だけ不可解そうな顔を浮かべたが、立ち上がると腰に手を当てて胸をそらす。


「そうね! カダベルは年長者のアタシに敬意を払うべきよ!」


「ふむ。敬意はともかくとして、聞きたいのはだな、仮に俺とこれだけ年齢差があっても恋愛は成り立つのかという点だ」


 ジュエルは怪訝そうに、カダベルの顔を見やる。


「なに? アンタ、アタシのこと好きなの?」


「そういう話じゃない。年齢があまりにも離れていると話が合わんだろう? それで上手くいくのかなぁと思ってね」


「話なんかより、そもそもアンタはキスもできないじゃん」


「キス?」


 話が急に飛んだように感じたカダベルは首を傾げる。


「だって、アンタは唇ないじゃん。メガボンもそうだけど」


「? そこ?」


 カダベルは自身の仮面に触れ、その下の素顔が確かに歯列剥き出しだと改めて実感する。


「あー、ジュエルにとって好きとはキスすることなのか?」


「当たり前じゃん」


 カダベルは聞く相手を間違えたと首を横に振る。


「カダベルとメガボンはキスできないじゃん。ゴライはできるけど」


「なんだって? ゴライにはキスするのか?」


「うん。たまーに、ほっぺに」


「なに! ミイラとスケルトンにキスできないのに、ゾンビにはキスできるってか!? クノヤロウ!!」


 カダベルは前のめりになって机をゴンゴンと叩く。


「だって、アンタらはほっぺたないじゃん」


「頬骨にしなさいよ! 頬骨に!!」


 仮面を外して、カダベルは剥き出しの歯列の横を指先で叩く。


「イヤ! 固いもん!」


「は! まさかゴライの唇にも…」


「唇は本当に好きな人しかダメに決まってんじゃん」


「……そうか」


 カダベルは「よくわからんな」と椅子に座り直す。


「……なら、その本当に好きな人の、だ。汗で濡れた下着にもキスするもんか?」


「は? なにそれ、キモ。そんなんするわけないじゃん」


「……だよな。うーん」


「逆にカダベルはロリーシェの履いたパンツにキスしてんの?」


「は? なんで俺がロリーのパンツにキスせにゃならんのだ? どんな変態だ?」


「いや、いま聞いたことってそういうことでしょ?」


 カダベルとジュエルはしばらく見つめ合い、互いに左右に首を傾げる。


「……なら、今度、アタシがいっぱい汗かいた下着もってくるから試しにそれにキスしてみなさいよ」


 カダベルは「やはり相談する相手を間違えた」と天を仰いだのであった──。

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