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屍従王  作者: シギ
第三章 魔法封印事変編
85/113

070 ゴライ砲・“改”

 残り7体。内1体は半死半生だがまだ動けそうだ。


 こちらが自分たちを殺せる手段を持っているんだと理解したら、次に相手はどう動くだろうか?


 俺が彼らの立場なら撤退する。撤退する際、仕掛けられた罠を警戒しつつも、残った仲間が生き残る確率の高い確実な退却を選ぶ。


 “仲間を失った時点で読み間違えていた”んだ。俺ならこれを敗けと考える。


 聖騎士ならどうだろう?


 サトゥーザやジョシュアなら?


 屍従王カダベル・ソリテールに、この段階で和解を申し込んで受け容れられると聖騎士たちは果たして考えるだろうか?


 ああ、ナンセンスな質問だ。こうなったとしたら、屍従王()は“全滅させる”ことしか考えないさ。


 聖騎士と戦うしかなかった時点で、彼らだけでなく、これは“俺の敗北”でもあるのだ。


 さて、今はケンタウロスたちだ。彼らはどうだろうか?


 目的は魔女ジュエルを始末すること。ここで諦めるられるわけもないはずだ。


 そして、魔獣は魔獣並の知能しか持ち合わせていない。


 迂回する、地面を穿って穴を掘り進む、空を飛ぶ、魔法を使う……まあ、色々と考えはするさ。


 ただ聖騎士相手なら、初手は正々堂々だろうとは思っていたからね。


 幸いにして、ケンタウロスたちは正々堂々というわけではないが、2つの愚直な結論に至った様だ。


 “矢が放たれる前に村への侵入を果たす”…まあ、戦うことを選ぶなら間違いなくそうするだろう。脚力に自信があるならそうする。


 四足歩行形態。最初からそうされていたら、最初から最高速度で来られていたら、バリスタは当たらなかったかも知れない。


 でも、遅い。


 罠っていうのは幾重にも張り巡らされ、“掛かった”ことを悟らせないからこそ意味がある。


 俺とゴライのいる不自然に開いた門。明らかに罠だとわかる。


 しかし、本当に小細工はない。普通に開け放っているだけだ。

 だからこそ、向こう側から見るとこう見える。それはちょうどバリスタが一斉掃射できそうな中央路なのだからして、“なるほどな。そうか。それが狙いか”、と。

 

 だが、なかなか来ない2射目。連発は出来ない。これも嘘じゃない。敢えて連弩式にはしていない。理由はコスト面の問題もあるが、“対抗措置を講じさせない”ためだ。


 連射してくるバリスタがあれば、対処する側は頭を悩ませる。悩ませた挙げ句に、俺が予想だにしない一手を打ってくるかも知れない。


 敵は追い詰めないことが肝心だ。


 “なんとかなりそうだ”…そんな甘さを見せてやることが、“地獄の門を潜らせる”には必要なのだ。


 もう1つの愚直な結論とはこれだ。“2射目が来る前に接近してしまおう。もし発射されても、最低限の被害に抑えて乗り込めさえすればこちらの勝ちだ”、だ。


 ビギッタたちがバリスタを“必死に操作している”のはなかなか様になっている。この村の最大の攻撃手段はバリスタしかないと思わせるのに充分だ。


 そして、ケンタウロスは花畑を全力疾走してくる。2射目が撃たれる前に近づかねばならんからね。

 

 ビギッタがなにか吠えたのが聞こえた。


「ゾドルにもビギッタにも言わず、夜な夜な彼らの知らん物を拵えているわけだ。俺は酷いヤツだな。ゴライよ」


「違うと思いマッセ」


 ゴライは俺に言われる前に、大型の器械を引きずって来ており、すでに準備を済ませていた。


「ご主人サマは、いつもゴライたちの事を考えてくれてマッセ」


「……それ、他の人には言うなよ。なんかムズ痒い気がしてくる」


「?」


「気にしなくていい。さあ、やろう」


 ゴライは俺の指示に従い、器械の横に取り付けたクランクをこれでもかというぐらいに回している。

 これにより、真ん中にあるドラムに捻れたロープが巻かれていく。本来は何人もの力で頑丈で弾性のあるロープを巻かなければならないが、馬鹿力のゴライならひとりで巻ききってしまう。


「大丈夫デッセ!」


 ゴライがクランクを固定して頷く。俺は先端のフックに魔蓄石が詰まった網袋を引っ掛け、【刻報】を使った。


「いい距離だ。“ゴライ砲・改”、発射!」


 俺が差し込んだ横木のストッパーを外すと、ゴライが巻ききった捻りロープが勢いよくドラムを回転させ、ロープの先端が繋がった長いアームを勢いよく跳ね上げる。それがフレームに当たり、その反動で先端フックに取り付けていた網袋を高く飛ばした。


 それはマクセラルたちに使ったような簡易的な物ではない、ちゃんとした投石機(カタパルト)だ。


 しかし、飛ぶ角度はケンタウロスたちに向けてではない。それよりも花畑の中央の、より高い位置に向けて飛ばした。

 “敵に当てる必要がない”から、魔法による補助は一切ない。


 これを見て相手が「失敗したのか?」と思ったとしたら、俺にとっては大成功だ。


 少し考えれば、大型弩砲バリスタを作る技術があって失敗するはずもないとわかるだろう。

 

 以前にゴライ砲の散弾投石は、マクセラルの【断膜壁】に弾かれたことがあった。

 聖騎士がこの魔法を習得している可能性は少ないとは思ったが、これでもランク3の魔法だ。魔法士でないからといって、絶対に持っていないとも言い難い。


 そうでなくとも聖騎士なら鎧を強化する【守護光】を会得しているかもしれない。

 同じランク3でも、こちらのほうが習得確率が高いと思う。こちらも魔法だけでなく、物理攻撃も防ぐから、飛び道具を恐れるなら会得率の高いこっちを選ぶだろう。


 となると、散弾投石を当てても倒し切らないのはわかり切っている。

 ましてや神官職がいれば治癒も容易だ。防御できる、治せると分かれば、サトゥーザだったら間違いなく特攻してくるだろう。


「一発限りの騙し合いなら負けんよ」


 【刻報】の定められた時間経過により、魔蓄石に込められた魔法のひとつ【磁着】が発動する。


 【磁着】とは、マグネットで遊んだことがあるならわかりやすい魔法だろう。

 片方にS極、もう片方にN極と定めると互いに引かれ合って強くくっつく現象を引き起こす。ただし磁石と違うのは、同極同士による反発などは起きない、また石や布のような磁力を持たない物を対象としても魔法は発動する。


 くっつけるだけなら【接合】の方が優秀だし、半永久的に効果が持続する。一方で、【磁着】は少し強いマグネットを合わせた程度の接着しかない上、時間も最大1時間程度だ。

 これを使うのは、ハンガーのない時に洗濯物を物干し竿に直接固定したり、同じ物質同士はくっつけられない【接合】の微妙な代用にしか使えない(【接合・倍】で同物質同士をくっつけられる俺にはそもそも必要ないが)。

 元カダベルは、河原で拾ってきたちょうどよい大きさの丸石2つにこの魔法をかけ、胸側と背中側に石を当て、胸元の石を動かして背中をマッサージするのに使っていた。磁力ではなく魔法の力なんで、間に障害物があっても引かれ合う力は弱まらず、とてもいい塩梅でコリ部分をほぐせたのだ。


 さて、この“マッサージ魔法”も、実は魔蓄石に込めることで本当の性質が発揮される。


 どうなるかと言うと、魔蓄石そのものをS極かN極に指定することができたのだ。

 これは河原石でも同じじゃないかと思われるかも知れないが、実はそんなレベルではなく、魔蓄石同士が強烈に引き合うようになったのだ。

 それも学校で砂鉄を集める普通の磁石だったものが、1gで数kgの鉄も持ち上げるネオジム磁石に変化したんじゃないかといわんばかりにパワーアップしたのである。


 これらについては、魔蓄石の持つ特性…魔力を蓄えることが影響している。

 【複製】と【連動】により、全く同じ魔法痕を持つ魔蓄石を作った場合、そこには魔力的な繋がりができる。魔蓄石の作成者と、それに魔法を込める人物が同じだとさらにその繋がりは顕著になり、【糸繰】のような精密な操作が必要な魔法だと違いがさらに浮き彫りになる。


 仮にミューンが作った魔蓄石を人形に取付け、俺が【糸繰】と【連動】を入れて動かしたとすると、今まで滑らかに動いていたのが急に鈍くなったり伝達が上手くいかなかったりする。そこら辺は【調整】で修正できる部分だが、これを知っているのと知らないのとでは、魔法同士を連携させるのに大きな差が生じるのは言うまでもない。


 そして【磁着】は単独でありながら、そういったことに大きく影響を受ける魔法だというわけだ。

 魔力の見えない繋がりは、S極とN極の引かれ合う性質を増強させる。


 そして、空高く飛ばした網袋に入っている沢山の魔蓄石にはS極と指定した【磁着】が入っている。


 空を舞っているうちに網が解けて中空へと散らばるタイミングで、【刻報】により【連動】が発動して全ての魔蓄石の【磁着】がONとなる。


 予め、花畑の地面にはN極に指定した【磁着】の魔蓄石が放り投げた数だけ埋めてある。


 これは【連動】なしに、魔蓄石の持つ繋がりを持つ【磁着】の効果だけで“対”として勝手に発動する。


 さて、何が起きると言うのかいえば、物理的な法則を無視して“最も近いS極とN極を持つ魔蓄石がくっつこうとする”のだ。


 強く引かれ合う空のS極の魔蓄石と、地のN極の魔蓄石。


 その間を邪魔するように立ち尽くすケンタウロスは当然邪魔者だ。



 だから── 



 グチャッ! ガッチンッ!


 ドチャッ! ガッチンッ!


 ブチャッ! ガッチンッ!



 無慈悲にもケンタウロスの頭や体を突き抜けて、その頭上で1つになる魔蓄石たち。

 動きには規則性はあるが、対抗手段を見い出す前に穴だらけにされ、花畑の上に血飛沫を撒き散らして倒れる。


 残念ながら追尾性があるわけではないので、運が良ければ生き残れる。半死半生だった1体はもはやここで運を使い果たしたみたいだな。


 しかき、急所にさえ当たらなければ致命傷とはならないし、事実、ケンタウロスはまだ3体がピンピンとしていた。


 だが、当然これで終わりなハズもない。


 “空高く放り上げた”のは威力を増すためでもあったが、本当の狙いは合わさった魔蓄石を”破裂”させることにある。


 S極とN極が勢いよく合わさった魔蓄石はその瞬間に爆散して細かな礫となる。


 その細かな無数の破片の炸裂弾は、生き残ったケンタウロスどもの全身に容赦なく襲いかかるのだ。


「【障壁】」


 俺はランク1の見えない盾を作る。

 パントマイムをする時か、風を一時的に遮る程度にしか役立たないベニヤ板より若干強度のある防御魔法だ。

【倍加】にしてもベニヤ板の厚みが倍に増した程度の強度にしかならないが、軽い飛び道具や液体・気体を“一瞬だけ絡め取る”には役立つ。

 なぜこれを使ったかと言うと、飛んできた魔蓄石の破片が【障壁】に当たった瞬間に解除することで、その勢いを削いで落とすことができるのだ。


「瞬きをしない死人だからこそできる芸当だね」


 俺は自分の足元に散らばった破片を見て呟く。いくら速度が早くとも軽ければこうなるが、例えば投げ斧とかだと【障壁】を解除する前に突き破ってくるだろうから、勢いを殺せず俺の脳天に突き刺さるだろう。


「ふむ。【磁着】を上手く使えれば、レールガンとかもできそうなんだけどねぇ」


 【射準】の代わりに、林の向こうにN極を置いて銃弾みたいに飛ばせないかもと実験したが、距離が開きすぎると、少しでも位置が違うと真っ直ぐに飛ばず、地面を潜ってしまったり、魔球のように変に湾曲しながら飛んで行くので、狙ったところに当てるのが難しく、命中率もバリスタに遠く及ばないことから今の運用が一番だと判断したのだ(ちなみに【射準】と一緒に使うと、なぜか【磁着】の方が優先されて【射準】の効果が無効化されてしまう。効果を重ねては使えない魔法なのかもしれない)。


「これで全滅…っと、おや、しぶといねぇ。まだ1匹生き残っていたか」


 無傷とまではいかなかったが、仲間の死体に隠れて炸裂弾の直撃をやり過ごしたのがいた。

 これが人間なら恐怖に心が折れると思うが、そこらへんはケダモノなだけあって、敵意を剥き出しに歯を見せて唸っている。


「ゴライ。やらんでいいよ」


 サーフィンボードを構えたゴライを止める。


「手負の獣には近づくもんじゃない。接近戦で苦戦させられたのを忘れたかい?」


 【集音・倍】で近づく気配がもうないことはわかっている。戦力の逐次投入はないと見ていいだろう。


 グレアボースにも変わった動きはない。


 ケンタウロスの目的が本当に、“魔力を失ったジュエルの始末だけ”だとしたら充分な戦力だ。

 仮にここが王都インペリアーで、ゼロサム王が彼女を保護するために全軍を率いて当たったとしても、ケンタウロス10体はそれを軽く殲滅しうる力を持っている。


 まず尖兵を遣わし、その後に数を増やして攻める……このやり方には覚えがある。この村を襲った赤鬼。ジュエルのやり方そのものだ。


「彼女に教えた戦術で、彼女を始末するのだとしたら…なんとも性格が悪いな」


 邪悪な咆哮を上げるケンタウロスに、先程のジュエルの憔悴しきった顔が重なる。


「そういうのはキライなんだよ…」


 ビギッタたちがバリスタを発射するが当たるわけもない。あれは元々は奇襲用だ。不意打ちならともかく、この仕組みを理解したケンタウロスの身体能力でなら避けられてしまうのは当然だろう。

 それを射つぐらいなら、小型のクロスボウに持ち変えて牽制した方が……と、まだそこまでは教えてなかったか。


 そして生き残ったケンタウロスはどこへ向かうかと言えば、俺やゴライの居る方向じゃない。いまさら、“俺たちが本命なのだ”と気付いたろうからな。

 向かうのは弱点を晒している側だ。バリスタの矢が当たらず、あたふたとしているビギッタたちの方だな。ヤツらからすれば、あんな壁なんて飛び越えてしまえばいいだけの物だ。


「もう撤退していいぞ。俺たちの勝ちだ」


 俺は【残声・倍】で呼びかけるが、なぜかビギッタたちは発射台から降りてこない。


「? なにをやっている? さっさと…」


「“最後まで戦います”って言ってマッセ」


「なんだって?」


「“必ず倒すから信じて下さい”…だと言ってマッセ」


 敵は手負いの1体…“絶対に勝つ確実な方法”を俺が選ぶのに反対なんだろう。


「俺もケチだから気持ちはわかるがね。ゴライ。A2とA3の隔壁のパージを頼む」


 アルファベットと番号を割り振った塀を指差すと、ゴライは頷く。


「仕方ない。では、走るとするかね」

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