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屍従王  作者: シギ
第三章 魔法封印事変編
75/113

060 試写会

 俺は急遽ゴライを呼び寄せ、メガボンから事情を聞き出す(俺とメガボンはジェスチャーでしか話ができないからだ)。


 なんてこったい。


 えらいこっちゃだ。


 こりゃ外交問題だ。


 サトゥーザに知られたら、問答無用に叩き斬られても文句は言えない。


 メガボンがしでかしたこととはいえ、その責任はヤツの製造主である俺にある。

 

 スケルトンを匿っていただけでなく、それがまさかのスケ()ルトンであり、まさかうら若い女性に悪さをしでかすなんて誰が予想できようか。


 懸命に言い訳を考えつつも、証拠隠滅を図ろうとしたが、そんな風に悩んでる最中に彼女は眼を覚ましてしまう──。



 そんなわけで現在、我ら3体はセイラーを前に土下座しているのである。


「この度は、不慮の事故とはいえ、当方の部下が大変なご迷惑をお掛けしまして、まことに申し訳ございません。心から猛省し、今後このようなことがないように努めたいと考える所存でございます。

 そして、此度のことが起きたわけと致しましては、このスケベルトンが申しますに、“湯船にて気絶した女性”を発見したので介抱をしようと思ったとのことで、上司たる私めが簡易的なものとはいえ回復魔法を所持していることから、私のところへ運ぶのが最善だろう…そう安易に判断したことによるものであり、まったくもって浅慮軽薄だったと、製造責任者と致しましても遺憾に思うところでございまして…」


 汗はかけないし、そもそも仮面ではあるが、しきりにハンケチで俺は額の汗を拭う真似をしつつ陳謝の言葉を述べ続ける。


「あのー…」


「は、はい!」


「要するに私を助けて下さった、というわけですよね?」


「そ、その通りでございます! 方法はともかくとして、行動は善意からのものでございます!」


「ならば謝られることはないのでは…?」


「なんと! では、お許しいただけるので!? お代官様!?」


「あ! 顔を上げないで!」


「も、申し訳ございません!」


 再び頭を下げる。


 ヤバイ! やっぱ怒っているじゃん!


 そりゃ、湯船からほぼ真っ裸のまんま公衆の面前に晒されりゃ怒るよなぁ。


「ウァッホハハッハァーォアーンッ!」


「……?」


 肩を震わせて、泣き真似をしながらセイラーの反応を探るが、顔を上げられないせいで今どんな顔をしてるかまったくわからん。   


「…それで、そちらの御二方はカダベル公の配下であると?」


 うっ! 動かない死体のフリでもさせて置けば誤魔化せたか……


「カッコカクカク」


「メガボンとゴライ、デッセ」


 おバカ! 正直に名乗るんじゃありませんよ!


「メガボン様と、ゴライさん…」


 は?


 なんでメガボンだけ“様”付け?


「あ、顔を上げないで!」


「ハハーッ!」


 なんでだよ!


 メガボンもゴライも顔上げてんじゃん!


 なんで俺だけ……


「気を失った私を、メガボン様が介抱して下さった…と」


「カコカコ! カックン!」


「“そうです! マイ・レディ”…と言ってマッセ」


「…まあ」


 なにがマイ・レディだ。メガボンの癖に調子に乗りやがって……


「なるほど。私としたことが、感謝をお伝えするのを忘れておりました。改めて、心より御礼を申し上げさせていただきます。助けて頂きありがとうございました」


 ん? おお?


 セイラーが感謝してる??


 なにがどうなったかはよくわからんが、外交問題に発展することだけは避けられた様だ。


「…で、セイラー女史。なにとぞ、このことは団長には…」


「顔を上げないで!」


「ハハーッ!」


 俺だけ土下座してままだ。腑に落ちん。


「……俺の顔は仮面越しでも不可なのに、メガボンの顔は平気なんで?」


「え、ええ。メガボン様は…眼鏡をかけてらっしゃるんで、少し…ひょうきんに見えますので」


 なら俺も眼鏡をかけたらイケるのか? 


 やはりどうしても納得できないなぁ。


「メガボン様たちは普段どちらに?」


「はい? あー、それは私めの居る屋敷に…」


「一緒に…暮らしておられる?」


「は、はぁ…。そうですが?」


 なんでそんなこと聞くんだ?

 

 墓地で毎晩楽しく運動会してますとでも言っといた方がよかったのか?


 あ! そうか。ミイラ、ゾンビ、スケルトン…この3匹が揃った屋敷なんて、セイラーからすりゃ恐怖の館じゃないか!


「……」

 

 この沈黙はなんだ? まさか、サトゥーザに言って俺の屋敷に総攻撃でも仕掛ける算段でも……


「あ、あの〜、それでぇ、団長にはぁ〜?」


 俺は揉み手をしながら尋ねる。頭を下げさせられたままなんで、実に変な格好だ。


 しかし、メガボンだけでなく、ゴライのことも知られた以上は口裏を合わせて貰うよりない。


「この件、団長には伝える必要はないかと。私の方もそちらが都合がいいです」


「え!? あ、ありがとうございます!」


 よかった! 本当によかった!


 サトゥーザやジョシュアとこれ以上、揉めるのは御免だしな。


「……その代わりと言ってはなんですが、カダベル公」


「はい?」


「ひとつお願いが…」




──




「なんでなのよ!」


 ジュエルが頬袋をパンパンにさせたリスよろしく、頬を膨らませて俺を睨む。


「なんで、この女が…」


「コラ。そういう事を言うんじゃありません」


 うちのソファーにセイラーが腰掛けている。


 そう。彼女は今、この死者の家にいるのだ。


 なぜかと言えば、彼女の願いが俺の家に泊まりに来ることだったからだ。


「…よりによって、“シシャカイ”の今日じゃなくたって」


「“シシャカイ”?」


 セイラーが問うのに、ジュエルはプイッと顔をそむけてしまう。


「そう意地悪しなさんな。皆で楽しめばいいじゃん」


「むー」


「いつまでも怒っている子には、アレはあげませんよー」


「イヤだ! 食べるの!!」


 俺とジュエルのやり取りに、セイラーからクスッと笑ったような声がした。


 顔を見るが、別に笑ってはいないから俺の気のせいか?


「…あー、日も暮れてきたし、そろそろ準備をするかね」


 俺がそう言うと、ゴライとメガボンがカーテンを閉め出す。


「カダベル公!」

 

 途端、セイラーが声を上げる。


「ん?」


「お願いですから、絶対にその仮面は外さないで下さい。暗いと余計に怖いです。あと、私にあまり近づかないでいただけると…」


 ならウチに来なきゃいいじゃん…と言いたいのを我慢する。


「了解。…聞いたな、ゴライ、メガボン」


「あ、いえ。メガボン様たちは大丈夫です」


「…え?」


「カダベル公は…その、眼が無いのが怖いので」


「……え? メガボンも眼ないじゃん」


「ええ。そうなんですが…。眼鏡をかけていらっしゃるので平気です」


 どういう理屈だ?


 まったくもって納得がいかん。


「カッコン」


 それと、メガボンのなんか勝ち誇った様な態度がイラッとくる。


「…まあいいや。俺は仮面を外さず、近づかなきゃいいのね」


「……すみません」


 怖がられるのは慣れているからいいや。


 キララも、ゴライとメガボンにはすぐ懐いたしな。それにも関わらず、未だに俺の素顔を見ると泣き出す。俺の顔面にはなんか呪いでもかかってるんだろうか。チキショウめ。


「ゴライ。“アレ”を取りに…」


「はいッセ!」


 あれ? 台所にあるんじゃないの?


 いつの持ってきたのやら、ゴライがすでに“アレ”が山盛りになったバスケットを手にしていた。


「やったー!」


「これは…」


「“ポップコーン”よ! 知らないの?」


「ぽっぷ…??」


 そりゃ知るわきゃないだろ。ジュエルだって俺が作るまでは知らなかったんだから。


「トウモロコシを油で炒った物だよ」


 正確にはトウモロコシに似た植物だけど、若干色合いが違うだけでほぼ前の世界のと同じだ。

 米があるぐらいだから、存在はしていると思ってはいたが、もっと南の温かい土地にしかなく、手に入れるためにルフェルニにはかなり苦労させてしまった。


「あ、これ! 甘いやつじゃないの!?」


「カラメルソースはプリン作るのに使い切っちまったんでね。塩だけでもイケるよ。食べてみ」


「むー!」


「食べないなら片付けるぞ」


「食べるもん!」


 ジュエルはバクバクと食べ始める。どうせ食べるんだから文句なんて言わなきゃいいのに。


「さあ、セイラー女史も」


「あ、はい」


 彼女は白く膨らんだ種をしげしげと眺めてから口に含む。


「…! 不思議な食感。こんなもの今まで食べたことがありません」


「フフ。そうだろうとも。さ、ゴライとメガボンも座って食べるといい。後は俺がやるから」


 そう言うと、2体もソファーに腰掛ける。


 しかし、メガボン。セイラーの隣に当たり前のように座るんじゃないよ。遠慮しなさいよ。


 ポップコーンは噛む感覚が面白いのか、メガボンもお気に入りだ。キュッキュッという咀嚼音を楽しんでいる。


「カダベルは食べないの?」


「いまはいい。油でベトベトになるからな」

 

 ポップコーンの嫌なところは後で洗い流さなきゃならんことだ。ゴライに至っては食い方が下手なせいでかなり面倒だが、まあ彼だけ食べさせないってのも可哀想なんでそんなことはしない。


 壁側に白いスクリーンを用意し、机に置いた小箱を弄っているとセイラーが不思議そうに俺を見てきた。


「……このお屋敷には、使用人はおられないのですか?」


「いないよ。俺たちだけだからね」


「カダベル公はこの家の主人ですよね?」


「まあ、そうなるね」


「いま何をされているのかは存じませんが…主人自らが働かれるのですか?」


 着座して当たり前のようにポップコーンを食べているゴライとメガボンを見やって言う。


「まあ、これは俺にしかできないからね。

 …さて、今回は上手くいくかな。試写会の始まりだ」


 俺は【糸操】と【連動】を使う。箱の中で俺のイメージ通りに動く気配があった。


 魔蓄石の【照光】と【収束】が【連動】によって作動し、乾板に光を当てて、箱の一辺に取り付けたレンズへと投射する。


 投射された光はスクリーンに映像を結ぶ。ブレてしまうところは【調整】任せだ。


「これは…」


 セイラーが眼を大きく見開く。


 スクリーンに映されたのは、ゾドルとミライ。


 台所に置かれた揚げ物をゾドルがツマミ食いして、ミライが「アンター!」と怒って追いかけ回す…そんな1分に満たないドタバタ活劇だ。


 映像はカクカク。音声はズレている。それでも素人が初めてゼロから作ったんだから、観れるだけでも褒めて貰いたいところだな。


「…どうだった?」


 聞くまでもないだろう。ジュエルは「アハハ」と指さして笑っているし、ゴライもメガボンも手を叩いて喝采してくれている。


「今のは…村長ですか? いったいどこから?」


 セイラーはキョロキョロと辺りを見回す。


「今のは映像だよ。本人はここにはいない」


「【映像投影】? しかし、カダベル公は高ランクの魔法は使用できないと…」


「うん。使えないし、【映像投影】でもない。あの魔法って、自分の姿や資料を皆に見せたりするプロジェクター機能しかないでしょ。今みたいに過去の映像を流したりはできないと思うよ」


「過去の…? そんなことが…」


 セイラーは訝しげにして、机の小箱を見やる。


「中が気になる?」


「え、ええ」


 俺が小箱の上蓋を外すと、そこには小さな人形が数体いて、上を見上げてギョッとする…と、まあこれは俺がそうやって操作しているんだけどね。


「どういうことですか? これは魔法なんですか?」


「魔法だよ」


「こんな魔法…聞いたことも…」


 まあ、当然の反応だよな。見聞きしたことあるとか言われたら、俺の苦労はなんだったんだって話になる。


「この小人たちが、その回し車を動かすとフィルムが右から左へと巻き取られていくんだ


 回し係の小人に手を挙げさせる。


「そのフィルムに光が当たると、今みたいに映像がスクリーンに映し出される」


 フィルムの後ろに置いた【照光】の魔蓄石を指差す。


「そして、フィルムの手前側には【連動】の魔蓄石が3つ並んでいるんたけど、さらに一番奥にあるのが【残声】だよ。ちなみに【糸操】で俺が操っているのは手前の小人だけで、後は【連動】効果によるものなんだ」


 ややあって、奥の魔蓄石にいる小人が手を挙げる。


「この【連動】の魔蓄石がポイントでね。間にこれを噛ませることで、わざとタイムラグを生んでいる」


 そうじゃないと映像と同時に音声も流れるんだが、どうしても音声の方が早いんだよね。今の感じだとまだまだ改良は必要だし、さらに映像を長くするには微妙なズレを調節するために【残声】の魔蓄石を増やさなきゃならない。本当ならBGMも付けたいところだ。


「しかしね、一番大変だったの…どれかわかるぅ?」


「い、いえ…」


「これ! このフィルムだよ! この乾板を用意するのが大変だった! この世界にもガラスはあるんだけどさぁ、薄くて透明な物ってのがまず無いでしょ!」


 俺はやけに分厚いフィルムを見て、感慨深く頷いてみせる。


 樹脂でなんとかできないかと、実験を重ねたんだが極薄のフィルムはできなかった。ロールプレス機で圧力を加えながら引き延ばせばいいんだろうが、そもそもそんな機械をどうやって調達していいかわからんので、ゴライの作った粗悪な石車で悪戦苦闘し、困った時の【調整】でそれなりに均一にしつつ、何とか巻き取れるフィルムを作り出したわけだ。


「ん? 薄く削り出すなら、【剥離】使えばいけたのか…い、いや! それはわからん!」


 いまになって、ふとある魔法が思い至ったが、そうなると今までの苦労が無駄になる。 


 なんで作り終えた後に思いつくんだ! あー、もう!


「カダベル公?」 


「い、いや! なんでもない! それよりさ、聞いてよ!」


「はい。お聞きしますけど、あまりお近づきにならないで…」


「またそれからが苦労の連続でさぁ、【筆記】や【描写】があることから何かしらの記録媒体を作れるとは思っていたけど、魔畜石が魔力痕を残す、そしてそれを【抽出】すればデータとして活用できる…まではいいが、どうやって外の映像や音声を記録させるかがわからなくてねぇ」


「は、はぁ…」


 ミューンから【描写】の魔蓄石を使うと、その内部に同じ絵が生じることを聞いて、ようやくパウダー状に砕いた魔畜石をフィルムに塗布することを思いついたのは最近のことだ。


 その考えは当たっていた様で、そのフィルムに、【照光】【収束】を使うと、照らした像を焼き付けることが可能性になった。これは感光というより、魔力の反応と魔力痕を利用したものだ。てっきりモノクロにしかできないと思っていたら、ちゃんと色まで付いていたのには驚いた。


「本当ならフィルムに音声を付けられればいいんだけど、その方法がまだ…」 


「あの…その仰っていることがまったく私にはわからないのですが」


「つまんない!」


 え? こんなにわかりやすく説明してんのに?


「カダベルの魔法の話! ホントつまんない!」


「…お前、魔女で俺よりスゴイ魔法使えたじゃん」


「カンケーない! そんなこと考えながら魔法使わないもん!」


 チェッ。本当に世の中、理不尽だよな。


 俺にもっと高位魔法が使えれば、もっと多くの事が簡単にできそうなのにさ。


「あー、そう。その、これの撮影にも苦労してるんだけど、その話は?」


「もういい!」


 撮影も数週間かけて…嫌がるミライを説得するのに、俺とゾドルがどんなに苦労したのか。


 ああ、こういう話をする相手はやっぱりミューンだよな。


「カダベル! もう一回やって!」


「…もう一度、見たりできるんですか?」


「できるよ! “巻き戻せ”るんだって!」 


「な、ならお願いします!」


「…はいはい」

 

 まあ、楽しんで貰えたならいいか。


 結局その日は、ジュエルとセイラーが眠くなるまで、何百回と再生させられるハメになったのだった……。

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