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屍従王  作者: シギ
─幕間─
66/113

 挿話⑤ 屍従王と世界渡りの占い師(後)

 ウィスクの街。特に目立ったところもない、普通に綺麗な街並みだ。


 大都会とまではいかないが、初期の街よりもプレイヤーは多いし、沢山の人が行き来している。


 カラフルな石畳を進み続けて、ようやく広場へと出る。

 

 バザーでもやっているのか? ガヤガヤと賑わっている。ターバンを頭を巻いた商人たちがそこかしこで露天を開いていた。


 そんな中、お手製の木製看板が目に付く。



──よろず、占い承ります──



「コヒナさん。いま戻りました」


「お帰りなさい〜! い……メルロンさん!」


 メルロンさんが看板の前で立ち止まってた俺を手招きしている。


「ええと、それで、お客さんを連れてきましたよ」


「ホントですか〜。ありがとうございます〜」


 机の前に座ったエルフの少女が、立ち上がってパチパチと手を叩いて見せる。


 飾りのついた緑の大きなマギハットに緑のドレス…典型的な魔法使いだと、まず俺はそう思った。

 穏やかそうな笑みを浮かべているが、耳には大きな金のリングを付け、首や手には様々な宝飾品を身につけている。


「占い師のコヒナさんです」


「はじめまして〜。えっと、“メdaka14”さんと仰るんでしょうか〜?」


 うん。ローマ字の変換はミスりやすいよな。


「失礼を~。medaka14 sannですね~」


「……あ、いえ、“14”は不要です。メダカと呼んで下さい」


「度々すみません〜。ではメダカさんとお呼びさせていただきますね〜」


 見た目通りの、緩い感じというか…なんだか間延びする変わった喋り方だ。


 しかし、エルフの美少年と美少女を前にすると…なんだか自分が不格好に感じられて仕方がない。

 大きな身体を縮こまらせている気分なんだが、俺のアバターは偉そうな仁王立ちのままだ。


「コヒナさん。実は……」


 メルロンさんがコヒナさんに耳打ちしている。

 コヒナさんのアバターがそれに合わせ、「ほうほう」と頷いて見せている。


 やけに芸が細かいな。ってか、俺に聞かれないようにプライベートチャットで会話しているから、そんな動作はいらんだろうに。


 しかし、不思議なゲームだ。まるで生きている人間が目の前にいる様だ。

 だからこそ、プレイヤーもアバターを細かく操作してこの世界にと溶け込んでいけるのだろう。


「……お話、お伺いしました〜。とても災難でしたね。大変だったでしょう〜」


「ええ。でも、メルロンさんのお陰ですぐに助かりましたし…」


「メダカさん〜。〈エタリリ〉でこういうことをする悪質プレイヤーは本当に一握りだけです。ですから…」


「ええ。もちろん。まあ、ろくな下調べもせず、ゲームを始めた私も迂闊でした」


 俺がそう言うと、メルロンさんは少し困ったような顔を浮かべる。


「…あー、どうでしょう。メダカさん。占いを通して、これから進む先を占ってもらうというのは…何か光が見えるかもしれませんし」


 コヒナさんが「もし、メダカさんさえよろしければの話ですが〜」と微笑む。


 なんとなくメルロンさんが、俺を彼女の元へ連れてきた理由がわかってきた。


 何か時間の流れが彼女の周りだけゆっくりな感じがする。


 ステータスを見やると、なぜか彼女はレベル11。


 奇妙な話だ。メルロンさんの同行者にしても、レベルに差があり過ぎる。


 “護衛”、“守りながら進む予行練習”…これは何かの縛りプレイの一環なのかな?


 俺の中で、“たかがゲームに…”という黒い想いが沸き上がってくる。


 なんとなく付いて来てしまったが、別にゲーム内で占いなんかしてもらいたい気分ではない。


「……ありがとうございます。しかし、私にはお支払いできる対価がないのです」


 これで無難に断れるだろう。


「お代は…そうですね〜。メダカさんがゲームを続けて、また私の占いに来て下さった時に改めてお支払い頂くっていうのはいかがでしょうか〜?」


 コヒナさんがチラッとメルロンさんを見やった。


 なるほど。彼のアイディアか…お代はいらないなんて言ったら、俺が気にすると見越してるんだな。なかなかに鋭い。


「…随分と信用して下さるのですね。踏み倒す危険もありますよ」


「大丈夫です。その時は俺が地の果てまで追って取り立てますから」


 画面の前で思わず吹き出してしまった。


 いや、“護衛”ねぇ。ちょっとその範疇を越えている気がしないでもないね。


 まあいいや。これ以上、断る理由を探す方が面倒そうだ。適当に聞き流して済ませよう。


「……冗談が過ぎました。申し訳ない。それで良いのなら、ぜひとも占って頂きたいです」


「はい〜。かしこまりました〜。…では何を占いましょうか〜?」


 何を? そんなのを指定しなきゃならんのか。


 うーん、ひどく面倒だな。


 仕事運…恋愛運とかは…どうせ絶望的だろうしな。占ってもらうまでもない。


「なら、私の運勢…いや、これから先がどうなるか教えてもらっても?」


「ええ〜。ただ未来のこととかになると〜、だいぶ漠然とした答えになる可能性もありますが〜」


「……私自身、何を質問していいのか漠然としていまして。それでも大丈夫です」


「かしこまりました〜」


 今まで表情豊かだったコヒナさんがピタッと止まる。


「えっと…」


「占っています。本人がタロットで」


 コヒナさんの代わりに、メルロンさんが答えた。


 え? タロット?


 ゲームの機能か何かで占うんじゃないの?


 まさか現実でカード広げて占っているの?


「おああッ!?」


「お?」


 いきなりコヒナさんが絶叫したのに、俺もメルロンさんも驚く。


「な、なにか?」「どうしたんですか?」


「……いえ、なにも」


「いや、なにもって…」


「……はい〜。結果が出ました〜。申し上げてもよいですか〜?」


 コヒナさんがペコリと頭を下げて言う。


 メルロンさんは結果が出たのを見て離れようとしたけれど、俺は思わず呼び止めてしまった。


「お客さんの占いの内容を聞くのは…」


「別に気にしませんよ。大丈夫です。聞いて下さっていても」


 俺がそう言うと、メルロンさんは納得したようで頷く。


「それでは〜。まず、1枚目です。〈聖杯の5 正位置〉。これには、倒れてしまったカップを嘆く人物が描かれています。倒れてしまったカップに気を取られ、まだ手元にある、倒れていないカップのことは考えられないようです。ネガティブ思考、失った物や持っていない物を嘆くカードです」


 今の俺の現状そのものだな。…倒れたカップは沢山あるし、今も倒れそうになっている。 


 でも、倒れてないカップとは…なんだ?


「2枚目は〈死神 正位置〉が出ています」


「え? …し、死神?」


 リアルの俺は眉を寄せ、メルロンさんも啞然としている。


「あ〜、いえいえ〜。びっくりしてしまうカードですが、普通は『死』そのものは意味しません。ただ『終わり』を示すカードです」


「終り…ですか?」


 1枚目との連想から良いイメージは抱けない。それって、このゲームを終えるって意味じゃないのか?


「はい〜。いい意味には取りづらいカードですが、周りのカードから、この終わりは『生まれ変わるための終わり』と解釈できると思います〜。生まれ変わったと実感できるような出来事があるかもしれません」


 生まれ変わった…そんなことあるのかな?


 そして、コヒナさんはちょっと小首を傾げる。


「…3枚目は、うーん。これはどう見るべきなんでしょうね」


「え?」 


 コヒナさんはしばらく悩んだ後、思い切ったように頷く。


「〈法王 正位置〉です」


「法王?」


「常識、広い視点、人との関わり、思いやり。直接に『生きるため』に必要というわけではないですけれど、人として生きる為に必要な物や、それを諭す人、頼れる大人を意味するカードですね〜」


 ぜ、全然当たってなくない?


 俺の困惑を察したらしいコヒナさんが、ワタワタと手を横に振る。


「これはメダカさんの未来にこうなるかも知れないという占いですから〜。希望があるってことですよ〜。法王は人との関わり、優しさを意味します。本来ご自身の持つ優しさにも気付く事ができるかも〜」


「優しさ…ですか?」


「過去に出ているのは後悔や嘆きです。現在は転機…と見るなれば、古い自分を捨てて、新しく生まれ変わる自分と出会う出来事があるかもです〜」


 ピンと来るものがあったわけじゃない。


 ただ“古い自分”に固執しているってのは事実だ。


「エタリリの世界で…新たなアバターを作る。これは新しい自分ですね。なるほど」


 コヒナさんのアバターの動きが止まる。


「そうかもしれません〜。けど、何か特別な意味もあるかもです〜」


「特別の意味?」


「ええ〜。実はこのカードだけ、するりんと私の手元から滑って行ってしまいまして〜」


「スルリン、と?」


「はい。するりん、と〜」


 コヒナさんは手を前後させて、カードが滑る様をジェスチャーする。


「それで床にぽとりと〜」


「ポトリ、と?」


 コヒナさんが頷くのに合わせて、メルロンさんが気を利かせたのか、地図のようなものをその場に放って演出して見せてくれる。


 いや、別に口で言ってくれているだけでも、どういう状況かぐらいは理解できるんだが…。


「もしかして、さっき絶叫したのって…」


「はい〜。お恥ずかしながら、机の下に落としたカードを拾う際、頭をぶつけてしまった叫びなのです〜」


 …え? 叫び?


 それ、いちいちチャットで書くことか?


 黙っていればわからなかっただろうに。


「…でも、カードが床に落ちるのって不吉な意味じゃ?」


「いえいえ〜。そうとも限りません。こういう場合、何か別の深いメッセージが隠されている可能性もあります〜」


 本当かな? この占い師さんがただ単におっちょこちょいなだけじゃ……


「〈法王〉は大アルカナ5番目のカードです〜。あらゆる物事の変化、力強く発展させていくっていう意味もあります。前に出たカードも合わせて見ると、何か転換期にメダカさんはおられるのではないでしょうか〜」


 転換期?


 現実の俺は、ふとディスクの上にあるチラシに眼をやってしまった。


「……なるほど」


「むう。あまりお役に立てませんでしたか〜?」


「いえ、今の現状は当たっていますしね。ただ、どうしてもその未来に確信が持てないというか。それで戸惑ってしまっていて…」


 そこまで言って、俺はふたりを見る。


 アバター越しにも感じられるのは気遣いだ。


 なんだか、このふたりの雰囲気は似ている。同じエルフだからっていうのもあるんだが、それ以前にこのゲームを通して“生きている”様な感じがする。


 俺をハメた悪質プレイヤーとは違う。優しさだなんて言うと陳腐に聞こえるが、実際にきっとリアルでも良い人たちなんだろう。そんな感じがしていた。


「……そうですね。本当はこのままゲームを止めてしまうつもりだったのですが…もう少し続けてみようと思います」


 俺がそう言うと、メルロンさんはホッとした様子だった。コヒナさんも嬉しそうに頷く。


 そうだ。彼らの善意は、きっとこの世界を心から愉しんでいるから…それを俺に伝えたかったんだろうと思う。


「おふたりはリアルでもご友人なのですか?」

 

 尋ねると、コヒナさんもメルロンさんも首を横に振る。


「なるほど」


「あ。これから、メダカさんはどうされるんですか〜?」


「ああ。とりあえず初期の村に戻ろうかと…たぶん、今のレベルならフィールドモンスターに殺されることもないでしょうから」


 ダンジョンのモンスターは無理だが、フィールドモンスターであれば、強敵から逃げるぐらいなら何とかできそうだ。


 コヒナさんは、俺とメルロンさんを交互に見て、少し悩んだ末にチャットを打ち込む。


「私たちは、実はこれからあるアクセサリーを取りに行こうとしていたんです〜」


「ええ。それはお聞きしました」


「私はわけあって戦闘ができないのですが、もしよろしければ一緒に〜」


「あ! コヒナさん!」


 メルロンさんが慌てふためく。


「でも、私もここまで連れてきてもらってるので〜。私が決めることはできないのですが〜」


「あ。いや、その…」


 何やら気まずい雰囲気が漂う。


 そうだ。これは電車とかで席を譲り合う時や、最後の商品を取ろうとした時の「どうぞ、どうぞ」だ。


 配慮しすぎるがあまり、むしろ相手に余計な気を遣わせてしまって申し訳ない…そんな感じが漂っている。


 このふたりの距離感は……


 ははーん。なるほどね。そういうことか。


「…それはいいですね。直接攻撃では役に立ちませんが、魔法であれば遠距離の支援ができますし。多少レベルが上がった今ならば、私も全く役に立たないということもないと思います」


 俺はわざとメルロンさんの方を見て言う。


「リザードマンさんは、ウロコがあるから防御力が高いんですよね〜」


 コヒナさんが、俺のことをヨイショし始めた。メルロンさんへの心象を良くするための配慮だろう。

 

 もちろん、これは実は配慮になっていない。


 メルロンさんはチャットを打ち込もうとして、何を言っていいかわからず困っている。


「ええ。ガリガリのリザードマンでも、コヒナさんの盾になるぐらいならできますとも」


「あ〜、そんなつもりは〜。それは申し訳ない事です〜」


「いえ、私もメルロンさんに助けられた借りを一刻も早くお返ししたいので」


 俺がコヒナさんに合わせてそんなことを言うと、メルロンさんが無言の中でみるみるうちに不機嫌になっていくのがわかる。


 ああ、面白い反応だ。


 けれど、恩人にこれ以上はダメだよな。


「…と、それは冗談です」


「はへ?」


 コヒナさんが前のめりに倒れそうになる。


「……私、明日ちょっと仕事で早いんですよ。ですから、今日はもう落ちなければならないのです」


「え? そうだったんですか?」


 嘘だ。仕事があるのは本当だが、別に今すぐ落ちなければ支障がでるというわけでもない。あと1、2時間位ならば平気だ。


「ですから、メルロンさん。コヒナさんの護衛はあなたに一任せねばなりませんね」


「え? あ、はい…」


 メルロンさんは鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしている。


「なんですか? その返事は? それで彼女を守れるんですか?」


「大丈夫です。コヒナさんは僕が守りますから」


 そこまで言って、コヒナさんが側にいることを思い出したメルロンさんは、何やら言い訳がましいことを言い始めた。


 当のコヒナさんは不思議そうに眼をクルリと回している。


 いや、青春っぽい。いいねぇ〜。


 アバターだから、正確な年齢はわからないが…それでもきっと若いハズだ。


「……ということで、私も本腰を入れてレベルアップを致しますので。

 なるべく早く、メルロンさんより頼りがいのあるタフガイになって戻って参ります」


「ええ?」


「タフガイ…というと、マッチョ……マッチョなメダカさん…あはははは」


 なにかがコヒナさんのツボに入ったのか大爆笑される。


「それでは」


「はい〜。またお会いしましょう〜。メダカさんの旅が、幸多きものでありますように~」


「えっと…? お、おつかれ様です?」


 名残惜しさを覚えつつ、俺は会釈してログアウトする。



 パソコンの電源を落とすと、俺は大きく息を吐いて椅子の背もたれに寄りかかった。


「さて、次回に会う時には、ふたりの仲は進展しているかな……ちょっと楽しみが増えたな」



 しかしながら、次の日にノートパソコンが、戦闘中している最中にオシャカとなり、俺は二度と〈エタリリ〉の世界に戻れる事はなかったのだった──。




──




「……と、そんなことがあってな」


 もちろんパソコンなんてない世界で、そんなゲームの話なんてしても伝わるわけがない。

 そこら辺は、リザードマンのアバター等の部分は上手く誤魔化して、コヒナさんとメルロンさんというふたりのエルフと出会った話に置き換えた。


 この世界のエルフはトンガリ耳じゃなくて、ウサギみたいな耳をしているから…きっとロリーの中ではそんなイメージになっているんだろうが。


「…ん? おああッ! なんだお前たち!!」


 気づいたら、村人がなぜか俺の周りに集まって話を聞いていた。


「ああ、凄い! カダベル様のことを的確に予言する占い師だなんて!」


「それを聞いたら、村長の適当な占いなんて聞いていられないわ! なにが『現在は恋愛運爆上昇』よ! イルミナードの男と別れたばっかだっつーの!」


「い、いや、それは自分が悪いわけじゃ…。だって、カダベル様のアンチョコにそう書いて…」


 ゾドルくん。人のせいにするのは良くないなぁ〜。


 とりあえず、ゾドルのなんちゃってタロット占いは思った以上に不評だったんで、俺の話の方に自然と皆が集まって来たってことか。


「マイマスター。そのコヒナさんという方は今はどちらに?」


 お。カナルも来ていたのか…。占いとか不確実っぽいの嫌いそうな性格なのに。


「うーん。そうだな。こことは違う、遠い離れた場所だからね。それこそ世界を渡ることができれば…この国にも来てくれるかもな」


 そんなわけない…そう思いつつも俺は心の中で笑う。


 もし、再び会えたら…メルロンさんと無事にアクセサリーを手に入れられたか聞かないとな。


 …もちろん、ダンジョンでふたりっきりになったんだろうから、きっとプロポーズぐらいはしているに違いない。


「しかし、カダベル様にとっての大恩人であれば、この村に来られた時には、盛大にもてなさなければなりませんな! その偉大なる占い師を! なあ、皆の衆!」


 俺のご機嫌を取るような発言で、村長の威厳をここぞとばかりに取り戻そうとするゾドル。

 そういうところが尊敬されない点だというのに…。


「まあ、そうだね。コヒナさんが居なきゃ、もしかしたら俺はこの村に来ていなかったかもだし…」


 この村っていうか、異世界移動サービスなんて怪し気な店に行くのを踏みとどまっていたかも知れない。


 “転換期”という言葉があったからこそ、あの時に前に進んだ…と言っても過言ではないだろう。


「よし! そうとなれば祭りの準備だ! サーフィン村を挙げて“コヒナ祭”を執り行う!!」


「は? ゾドル? お前、何を言って…」


 ゾドルはポーカーセットを机に放り投げて、「善は急げだ!」と、とんでもない勢いで待合所を出て行った。


「お、おい。え…。もう嫌な予感しか…」


 ふと視線を感じて振り返ると、ロリーが涙を目尻一杯にためていてギョッとさせられる。


「ろ、ロリー? お前もなんで泣いて…」


「カダベル様!! そんな…そんな昔の女に想いを馳せて!! 好きだったんですか!!?」


「何を言ってるんだね、君は…」


「そのエルフ! 可愛かったんでしょう!?」


「…可愛い? まあ、そりゃ、ちょっとおっとりした美人だとは思ったが…」


「ひどいですぅ!!! そのコヒナ()さんってヤツが来たら、占いでカダベル様を賭けて勝負しますぅ!!」


「なんだそりゃ? 占いでバトルって聞いたことねぇよ。それに誰だよ。コヒナタさんって…。もう別人になってんじゃん」




──




 こうして、なぜかわからないが、肝心の当人も居ないのに、サーフィン村では『コヒナ祭』という宴が年に1回のペースで催されることとなった。


 『占いタロットバトル』なる、恋敵を巡るような、トレーディングカードゲームのような、元ネタが何なのかもわからんメインイベントも行われる様になったが、これはもちろん俺の発案なんかじゃない…。


「はぁ。俺、本当に誰かを諭せるような〈法王〉だったのかねぇ…。どうしても当たっているようには思えないんですけど」


 遠くから見える広場では、コヒナさんを模した藁人形を同士をぶつけ合うゾドルとゴライ。そして、響き渡る村人の歓声。

 

「コヒナさん。もう一度、占い直してくれないかなぁー」


 俺はそう呟いて、〈法王〉のカード懐の奥深くへとしまったのだった……。

最後までお読みいただき感謝いたします。


実は占いの部分には続きがありまして、コヒナさんは道貞がカダベルになったことを知らない前提なので本編に入れ込むことができなかったのですが、ここでそのまま引用させて頂きます。


『お金を払えば別世界に別人として異動できる時代、騙されて不良物件を掴まされた主人公。元の世界にも戻れず絶望の毎日を過ごしていた彼は、少女を助けるため一つの決意をします。

 屍従王。絶対の軛を打ち破りし御方。まだ幼いこの世界に、我らが人として生きる術をお与え下さい』



そして改めて、こんな素晴らしい、素敵な占い師コヒナさんとメルロンくんが登場する作品は下記にございます!


『世界渡りの占い師は NPCなので世界を救わない』https://ncode.syosetu.com/n0706hf/

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― 新着の感想 ―
[良い点] ありがとうございます。 最高の三日間でした。 コヒナさんでした。メルロン君でした。エタリリでした。 それでいて私には表せないシギさんの世界でした。 同じ道を歩くものとして感謝し、尊敬致しま…
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