挿話④ 屍従王の地域振興プロジェクト(7)
しかし、女性陣の浴衣姿は映えるな。日本人的ではないが、不思議と似合うもんだ。また、着る体型を選ばんってのも和服の魅力だろう。
ロリーは、それでも相変わらずパッツンパッツンだな。一番大きなサイズを用意したはずだが、歩く度に胸が隙間から落ちそうになっている。
中にシャツでも着ればとは思うんだが、ゆったりした浴衣の意味がなくなってしまうと思って言わない。もうワンサイズ大きな浴衣も依頼しておこう。
ジュエルは当然お子様用だ。走り回るからすぐに帯が解ける。全裸疾走するのは、少しは自分の年齢を考えて止めて貰いたい。
転けそうになる度に、ゴライかメガボンが支えてやっている。その度に「ジャマしないで!」て殴られているのが不憫だ。
カナルは違和感なく見事に着こなしている。和服を着たことありますみたいな所作だし、どこで見つけたのか、薄手の半纏を肩に掛けている。
髪をアップにして留めているのは、うなじの色っぽさを強調してのことだろう…この短期間に浴衣の魅力をここまで引き出せるのは只者ではない。
ルフェルニは素足なのが落ち着かないらしい。普段からズボン履いてるとそうなるよな。隙間から見えたりしないかどうか気にしてぎこちない動作だ。
髪の色も白だし、肌も雪のように白い…なんかこの儚げさが保護欲のようなものを抱かせる。堂々としているルフェルニもいいが、こういう変に無防備なところも彼女の魅力だろう。
イスカは…もう、姐御と呼びたくなる感じだ。ロリーとは違った意味で、こぼれるなら、こぼれちまえといった潔さのような物がある。組んだ脚も尻まで見えてしまいそうだが本人は全然気にしていない。
まあ、俺はこんな豪胆な部分は演技だって知ってるけどな。武闘派の女領主ってのも大変な立場なんだろう。
「なんだい。何をさっきからジロジロと見てんだよ」
「よく目玉の無い俺の目線がわかるな。別に君だけを見ていたわけじゃないよ」
俺がそう言うと、イスカは舌打つと再びソファーにもたれかかる。
「どうだ? こういう宿なら人は集まるとは思わんかね?」
「…さあね。やってみなきゃわかんないだろ」
うーん。ツンケンしてるな。
俺をここまで嫌うのは、以前、恥をかかされたせいだな。本人はみっともない命乞いしてしまったとか思っているんだろう。
「カダベル殿。若干暗いようですし、そろそろ火を灯しませんか? 部屋からランタンをお持ちします」
「若干じゃない。かなり暗い」
イスカは不貞腐れたように言う。
日は落ちてしまっている。ラウンジは真っ暗だ。廊下の奥から漏れる光で何とか見えている感じだ。
「お前は【照光】が使えるからいいんだろうが、照明を取り払ったのは失敗だよ。昼間は窓から日の光が入るからいいが、夜は月明かりが必ず入るとも限らな…」
「ちゃんと考えがあってのことさ」
【照光】は便利な魔法なのに習得率は低い。というのは、センスが無い者だと一瞬だけ光るだけで継続できない場合が多いのだ。
そんな使えるかどうかわからない物をわざわざ覚えるくらいなら、ランタンやロウソクの方が安心かつ安定して使えるというのがギアナード的な考えなのだろう。
「まあ、座ってくれ。そこの台を真ん中にしてな」
俺は立ち上がると準備を始める。それぞれの窓にカーテンを下ろす。
「…ゴライ、メガボン。例の物を並べてくれ」
「あ。それは…」
「そうだ。君たちが一生懸命に彫ってくれた木彫りさ」
台の上に多角形の木彫りが置かれる。
「少し間隔を空けて。よしよし、それでいい。【照光】が使えないなら、これをやるのはロウソクでも問題ないんだ」
俺は【照光】を使う。イメージはオレンジ色の電球色だ。
この【照光】って術者の想像力にかなり左右されるんで、貧弱だと豆電球くらいの光しか出せなかったりする。
「ああ!」
皆が感嘆の声を上げる。予想通りの反応に、俺は思わず笑い声を上げそうになった。
俺は光を絞り、木彫りの中を通す。すると、穴を開けたところから光が漏れてカーテンに絵を映し出す。
「凄いです! カダベル様!!」
ロリーが眼を輝かせて影を追う。
「あ! ゴライのデッセ!」
ゴライが彫った蝶々だな。ユラユラと動くのをゴライは子供のように追いかけて行く。
「ホントだ! あっちのドクロはメガボンのだよ!」
「カッコン!」
俺は【照光】の角度を変えつつ、順繰りに箱の中を通して行く。そうすることで、まるで影絵が動いているような演出となる。
本当は回り行燈のような物を作りたかったんだが、和紙のような薄い良質の紙が手に入らなかったのだ。
まあ、今度、紙の量産や品質向上化も…本当にやることは多いなぁ。
「あ。私とカダベル様…です」
手を繋いだ俺とロリーの影が伸びていく。そしてゴライやメガボン、ジュエルやカナル、ルフェルニがその横に並ぶ。
「…あのウサギ耳は、まさか私かい?」
イスカが少し驚いたようにロリーを見やる。彼女からすれば、自分まで仲間に入れられるとは思ってもみなかったという感じなのだろう。
「イスカさんのお陰で、こうやってカダベル様と楽しい一時を過ごせたんで…本当に感謝しています」
「お前…」
「ロリーだけじゃない。俺も感謝している。久しぶりに童心に帰ったと言うか…ん? 生前に戻ったと言うべきなのか? …そんな気分だ」
俺がそう言うと、ルフェルニが微笑んで、「イスカも…」と口走ったところで、本人が「自分で言う」と制した。
「…カダベル。悪かったわ。お前みたいな化け物に…いや、生者じゃない者に何ができると正直に言うと侮っていた」
「気にしなくていい。第一印象が最悪だったのだから仕方ない」
そう答えると、イスカは「どこまでもおちょくってくれるね」と言うが、その言葉に険は感じられ無かった。
よし。最後の“作戦成功”だ。
「えーと、それで、イスカ。渡さなきゃいかん物があるんだが。受け取ってくれるか?」
今ならもう問題ないだろう。たぶん打ち解けた…だろうから。
「渡さなきゃいけないもの?」
本当はこっそりここに置いておくつもりだったが、やはりちゃんと渡した方がいいもんな。
「なんだ? もったいぶらずに渡せよ」
「へへ。ちょっとオーバーしちゃってさ…」
俺は浴衣の内ポッケから、折り畳まれた書面を取り出してそのままイスカに手渡す。
怪訝な顔のままそれを受け取ったイスカは、紙を広げると眼を見開いた。
「お、お前! こ、これッ!」
「え? な、なんです? 改装工事の請求書? え! この額は…」
ルフェルニも横から覗き込んで“少しだけ”驚いた顔をしている。
「ま、まあ、ほら、初期投資って大事だから…」
「だからと言って、こんな大金が払えるかッ!」
「で、でもほら、ちゃんと回収できるから…」
「保証は?」
「え?」
「この額面、回収できる保証はあるんだろうな? 責任取ってくれるんだよなぁ!?」
「……あのー、ほら、俺、死んでるから!」
「前言撤回だ! お前は本当に信用ならん死者だ!!」
そして、すったもんだした挙げ句、ルフェルニが掛かった費用の一部を立て替え、得た収益で少しずつ返済するという話で一応決着したのだった……。
──
移動も含め、およそ1ヶ月ほどの滞在を終えてサーフィン村へと帰還する。
「思ったより長い旅行になりましたね」
「そうだね」
「今度は村の皆も連れて行きましょうね、カダベル様」
「うん。イスカもさらに工夫を重ねると言ってたし、次回、バンモミルに行くのが楽しみだな」
あの後、イスカは観光組合と再度話し合いをし、俺が提案した幾つかのアイディアを採用し、モデルケースを作って観光客相手に試してみると言っていた。
自分が体験したからそこ、真に迫る話もできるだろう。実際に天麩羅とかを口に入れれば組合の人たちもちょっとは驚くかも知れない。
「お、おお! カダベル様! お帰りなさいませ!」
村に入ると、ゾドルが走ってきて迎えてくれた。脇には将棋盤が抱えられている。
「首を長くしてお待ちしておりました!! な、なにとぞ! 一勝負!」
「将棋か。それもいいんだけど、もっと複数で出来る遊びもしようじゃないか」
「複数?」
俺はメガボンが持ち上げる鞄を示す。あの中には麻雀セットが入っている。
「次にバンモミルを訪れる時には麻雀大会を開催する! 今からルールを覚えて貰うからな。覚悟しといてくれ」
「な、なんと!」
将棋にこれだけハマったゾドルだ。また新しく楽しいことがあると知って興奮した様子だ。
男連中はこういったゲームを嬉々としてやるんだが…女性たちは…
「お帰りなさい! ロリーシェお姉ちゃん! ジュエルお姉ちゃん! カナルお姉ちゃん!」
キララが走って来る。そりゃ大好きなお姉ちゃんたちに会えて嬉しいだろう。
だから、ゴライ、メガボン。そんなにショボンとするな。忘れられているわけじゃない。優先順位の問題なんだ。
「キララ。お土産があります!」
ロリーがニッコリ笑って、多角形の箱を取り出して持ち上げる。
「わー。なぁに、それ?」
「凄い物よ!」
「どんな風に凄いの!?」
「フフ。夜になったらわかるわよ」
「えー、夜ぅ?」
そうだ。女性陣は影絵の方が気に入ったらしい。
…うーん。あんなに喜んでもらえたなら、回り行燈も本気で作ってみるかな。簡易なプラネタリウムとかもいいかも知れない。
「なあ、カダベル様! 俺にもお土産! ちゃんと留守番してたんだからさぁ!」
まあ、男の子はあんまり興味ないよな。モルトは口を尖らかせてピョンピョン飛ぶ。
将棋は…飽きたか? まあ、モルトは身体動かす方が好きそうだしな。
「もちろん大丈夫だよ。旨いものを食わせてやる」
「ウマいもの!? マジ!? やったー!」
俺がゴライの持つ荷袋を指す。もちろん、中身は魚介類だ。氷で覆って【防腐】済だから鮮度は保てている。
「ほら、あんたたち。カダベル様たちはお疲れだよ。その辺にしな」
ミライが、モルトやキララをやんわりと注意する。
「俺は疲れはせんから気にしなくていい。…それよりも何か変わったことは…ん?」
村の状況を聞こうとした矢先、何やら広場の方で何かに追いかけられて走っている者の姿が見える。
「あれは……ナッシュか?」
ランニングシャツを着たナッシュが、今にも死にそうな感じにヨヨレになって走っている。
その後ろから追随するのは、ウサギ耳のマッチョ2体。エルフ…ではなくて、ハーフヴァンパイアのロイホとエイクだ。
「一体なにを…」
「ゼハァゼハァ!!」
ナッシュは俺の前で倒れ込むようにして両手を地面に付くと、肩で息をしている。
対して、ロイホもエイクも涼し気な顔だ。全然、全速力でもないという感じだったんだろう。
「ただ、村の警護をするだけではと思いまして…」
「ちょうど良い機会だと思い、彼を鍛えておりました」
ああ。なるほどな。確かに襲ってくる者がいるはずもないし、ボーッとしてるのも暇だしな。それなら鍛えておいて損はないか。
「留守をありがとう。そうか。ナッシュもだいぶ強くなれて…」
ナッシュがいきなり顔を上げ、俺を血走った眼で睨む。
うーん? どうして帰って来て早々、そんな眼で見られなきゃ…
「なんで置いて行ったんですかぁッ!! お、俺も連れて行ってくれると言ったじゃないですかぁッ!」
「え?」
あ! そ、そうだった!
すっかり忘れてた。
そういや、ナッシュもこの旅に同行させて、“ロリーと温泉で仲良しこよし計画”を実行する予定だったんだ!
「あー、ナッシュくん…その…」
「あんまりだぁッ! 先に行ってしまった挙げ句、こんな辛い日々を送らねばならないなんて!!」
エイクとロイホは「大した訓練はしていないが」「筋肉もほとんどつかなかったしな」と怪訝そうにする。
「いやー、何というか…」
「なんですか!?」
「影が薄いから、いなくても気づかなかった…かも」
「あんまりだッ! あんまりすぎるッ!!」
泣き喚くナッシュ。まるで気にした様子のないロリー。
…ミイラには関係ないけど、恋のすれ違いっていつも大変だよなぁ。
「カダベル様! なに他人事みたいな顔されてるんですか!」
「…仮面つけてるからそんな顔してるかなんてわからんでしょ」
「雰囲気で解りますからッ!!」
──
帰還してから数ヶ月後、珍しい客人が俺の元へ訪れた。
「カダベルゥ! なんて事をしてくれたんだよぉ!」
チンチラみたいな顔がクシャクシャ…まあ、毛だらけなんでよく分からんのだが、たぶん、そんな顔をして泣いている。
「いきなり来たかと思えば、何の話だよ?」
「イスカのバンモミルだよ! お前が変な助言したって聞いたぞ! そのせいでスーモワランドにお客が来なくなっちゃったんだ!」
「スモーワランド?」
「僕の領地だよ! 王都の北部にある!! 知ってるだろ?」
「聞いたような聞いたことないような…」
「やっぱりお前はヒドイ奴だな! 死体を提供させたんだ! 場所くらい覚えとけよ!」
うーん。ルフェルニからもだいたいの場所しか聞いていない。地名とかもあんまり興味がなかったし、はっきり言ってうろ覚えもいいところだ。
「うーんと…モッドばかりの国なの?」
「そんなわけない! ヒューマンだってエルフだって普通にいるよ! 死体だってほどんどそうだったろ!」
まあ、そうだな。正直、小さなモッドの死体があっても困る。意図的に外した…ってよりは、モッドはそこまで個体数が多くないとか言っていたような。
「しかし、意外だな。北なんて、それこそサーフィン村より質素な山岳地帯ばかりだろ。観光客なんて来るのか?」
「来るよ! 標高はここより低いし、周囲を山に囲まれてるだけで殆どが盆地なんだ。そりゃ往来に手間はかかるけど、ソバやチーズみたい名産品があるからバンモミルよりは多く人が集まっていたんだよ!」
「蕎麦!? 蕎麦があるのか!! ズルズル食えるアレか!?」
「え? ズルズル? そんな感じでは食べないけど、汁の中に団子状にして…」
「ああ、“蕎麦がき”か。麺状にして食べてないんだな。もったいない」
「麺状? なんだそれ?」
「そういう食べ方があるんだよ。それとチーズか。ということは牛がいて酪農をしてるのか?」
「牛? いや、メルシーって生き物だけど…」
「メルシー? なんだそれ? 聞いたことないな」
「この辺じゃいないよ。ギアナードでは、スモーワランドでしか飼育できないんだ。だから遠方から来てでも欲しがる名産になるってわけさ」
「なるほどな」
山羊(なんかラクダに似てて微妙に違う)の乳があるのは知っていたが、なんか低脂肪牛乳とか脱脂粉乳に近くサラサラしてて美味くはない。
もし牛に近い、濃厚な乳が取れるならアイスクリームを作るのも夢ではないな。
「だけれど、お前が余計なことをしてくれたもんだから…」
ブツクサと文句を言われるが、俺はシャムシュの顔を見ていて、ふと思いつく。
「お前自身がマスコットにでもなって客寄せすればいいじゃないか」
「そんなこと…」
「うん。いや、今思いつきで言っただけのつもりだったんだが…わりかし上手い考えかも知れんぞ。アイスクリーム、マスコット…子供が喜びそうだ」
俺はコーヒカップやジェットコースターのあるアトラクション施設を思い浮かべる。
昼食には天麩羅蕎麦を出して、おやつにはアイスクリームだな。
なんか変だけど、どっちも俺の好物だからいいや。
…あれ? 天麩羅とアイスの食い合わせはまずかったっけ?
まあ、俺は腹壊さないからそこもどーでもいっか。
例の有名マスコットも…そうだな。若干、シャムシュに似てなくもない。
「お前にその気があるのなら、そのスモーワランドとやら、本当の“ランド”にしてみないか?」
「え?」
「フフフ。安心しろ、シャムシュ。悪いようにはしないからさぁ〜」
「カダベル? なにを…?」
「お前の領地の地域振興を承った!」
「はぁ!? そんなこと頼んでないんだけど!」
「うるさい! ガタガタ抜かすな! このカダベル・ソリテールにすべて任せるんだ!」
よーし! スモーワランドとやらに、世界一デカイ観覧車を建造してやるぞー!!
これにて挿話④完結です。
随分と長い話となってしまい申し訳ありません。
もし少しでも愉しんで頂けたとしたら幸いです。




