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屍従王  作者: シギ
─幕間─
62/113

 挿話④ 屍従王の地域振興プロジェクト(6)



「ゴライ。表を向いてちゃいかん。全部裏返すんだ」


「はいデッセ」


「メガボン。配置を覚えるとかはナシだぞ」


「カッコカク!」


 ジャラジャラと卓上でかき混ぜる。一通り混ぜ終わると、17牌2段の山を作る。

 この硬質な牌を作るために、色んな樹脂をナドに取り寄せさせたりして大変だった。その甲斐あって、前の世界とほぼ同じ品質の物を用意することができたのだ。


「良いね。実に良い。温泉といったら、コレだよなぁ〜」


 そう。これは麻雀だ。俺とゴライ、メガボンは浴衣姿となって麻雀を興じている。


 さてさて、配牌は…萬子マンズ一盃口イーペーコーが揃い、断么九タンヤオも狙える二向聴リャンシャンテンか…なかなか幸先が良い。


「食べながらでいいぞ。普段なら行儀が悪いとやらせんが、今日は特別だ」


 俺は刺し身を箸で摘んで口に放る。

 咀嚼して味を楽しむと一気に飲み込んだ。唾液が無いせいで妙に引っかかる感じがするが、茶で少し口内を潤しつつゆっくり残りも流す。

 満足感は噛んで吐き出した時の比ではない。やっぱり噛んで飲み込まないと食べた気はしないんだよね。


「本当に飲み込んでいいんデッセ?」


「構わんよ。最近、【抽出】の精度があがってね。胃に入った異物を全部取り出せるんだ」


 俺は自分に魔法をかけると、噛んだ刺し身を黒い袋にと移す。水分は後で念入りに【乾燥】させればいい。

 それを見てゴライもようやく納得したらしく飲み込む。


「メガボンは食べ物は楽しめんからな。近いうちに何か対処法を考えてみよう」 

 

 メガボンは俺やゴライのように源核を主軸として動いていない。宿木石という魔法力の効果だ。


 最初は疑似AIみたいなものかと思っていたが、どうにもメガボンはメガボンなりの意識や人格のような物を発現しているようだ。

 たぶんだが、製作者である俺の意識などの一部がトレースされたんではないかと見ている。


 俺は顎に手をやると、メガボンも同じようにする。思考回路が似通っているのかも知れない。…まあ、直接会話はできないので単なる憶測でしかない話だが。


「ま、食べ物は楽しめないが…【酩酊】」


 俺はゴライとメガボンに魔法をかける。


「おー、なんだかポカポカした気がしまッセ! なんだか揺れるデッセ!」


「うん。気のせいだ。お前はゾンビだろ。生前の酔った記憶を元に、源核がそう感じているだけだよ」


 俺も自分に魔法をかける。当然、生きた人間のような肉体的に顕著な反応はないが、酔った経験のある俺にも魔法は発動し、簡単に言えば“ほろ酔い”に似た感じを味わえる。

 フワフワとした快い気分だ。なんならスキップして外を駆け回ってもいいくらいに気分が高揚する。

 あまりやると癖になるから気をつけなければ…肉体的な依存性はないので、自制するのに苦痛がないのは利点だ。


「メガボンはどうだ?」


「カッココンッ!」


 うーん。見た目ではさっぱり解らん。俺はゴライを見やると、「良い気分だと言っておりマッセ」と通訳してくれる。

 メガボンは生前の肉体の持ち主の記憶を引き継いでいるわけじゃない。なら、【酩酊】に影響を受けるこれも、やはり俺の持つ経験の一部によるものということだろう。


「ま、難しいことは後だ! せっかくこんな西の最果てくんだりまで来たんだ! その上、昼夜問わず働き詰めだったしなぁ。ブラック企業どころの話じゃない! 少しは遊んでも罰は当たらんだろう!」


 テンションの高い死者同士で盛り上がる。まあ、実際に盛り上がっているのは久し振りに麻雀やっている自分だけなんだけどな。


「おっと…なんだ。結局、一向聴イーシャンテンから伸びずに流局かよ。立直リーチせずに正解だな。欲張って高い手にしようとしすぎたかしら」


 最初はこんなもんでいいだろ。ゴライもメガボンにも軽くしかルールは教えてないしな。そもそも口頭で教えたからって覚えられるもんでもない。


「俺は聴牌テンパイだ。ゴライ。練習だから、不聴ノーテンでも構わん。牌を倒して見せてくれ」


 言われた様に、ゴライは自分の牌を慣れない手付きでひとつずつ倒していく。


「おー、この“東”、“南”、“西”、“北”を1枚づつ持っているのは何なんだい?」


「これを揃えたら意味があるかと思い…マッセ」


「ハハハ。そういった役もあるが、基本的には字牌は同じのを揃えるんだよ。場風なら今は“東”、自風なら今のゴライは“南”だ。これが3枚になるとそれだけで1役になる」


「む、難しいデッセ!」


 まあ、そうだよな。ゴライからして見れば、漢数字や字牌は読めないだろうしな。

 ミミズみたいなこの世界の文字で牌に書いてもいいんだが、なんだか違うんだよなぁ。


「とりあえず、流局だな。聴牌の人間が点棒を受け取って、親が聴牌だと連…なんだ? メガボン?」


 メガボンが挙手して、自分の河を指差す。


「ん? お前は不聴だったんじゃ…」


「なんだか“マンガン”だとか言ってまッセ」


「満貫? …は? ああッ!?」


 ま、まさか“流し満貫”か!? 


 流し満貫とは、自分の捨て牌を一定条件で捨てると成立する役なんだが…


 た、確かに幺九牌ヤオチューハイしか捨ててないし、この場では誰も鳴いては…いない。


「冗談だろ!? 一回説明を聞いただけで、狙ってやれるような和了アガリじゃないぞ!」


「カッコカッコ!」


 クゥッ! 何を言ってるかはわからんが、勝ち誇った様子なのがムカつく!!

 俺をベースにしてるはずなのに、どうしてこんな無駄なところでハイスペックなんだ!


「ま、まだだ! 東一局を制したぐらいでいい気に…」


 点棒を渡して牌をかき混ぜようとした時、ドタドタと廊下を走る音が響く。


「カダベル様ァ!!」


「ろ、ロリー!?」


 真っ赤な顔をしたロリーが部屋に飛び込んで来た。

 恥ずかしがって赤くなったとかじゃなく、茹でられたみたいに全身が赤いのだ。


「なんでお風呂に来られないんですかぁッ!? 待っていたのにぃッ!!!」


「風呂? へ? いや、俺はミイラだし」


 入浴は必要ない…というか、入れない。水が隙間や関節に入り込むと乾かすのが面倒だからだ。ゴライも同様だ。


「でも、せっかくの温泉ですよ!!」


「そ、そんな事を言われても…。メガボンなら入れるぞ。さっき試したが」


 メガボンは骨だからな。風通しも良いし、濡れてもすぐに乾く。湯の心地良さは体験できんだろうが。


「違うんです! メガボンと入っても楽しくありません!!」


 メガボンよ。ここぞとばかりに胸を抑えてショック受けたみたいな態度を取るな…そんなこと少しも思ってない癖に。


「私はカダベル様と入りたかったんですぅ!!」


「俺に女湯に入れとでも言うのか? 相変わらず君は何を言ってるんだ?」


「女湯じゃなくて私と入って欲しいんです!」


「もっと意味がわからん。なんでミイラと一緒に風呂入るんだ。ダシでもでるのか? 美容にいいのか?」


「違います!」


「そりゃ温泉に入れるもんなら入りたいが、汗をかいたり、皮脂の汚れが生じない、俺やゴライはそもそも入る必要がないからなぁ〜」


「ということは、汗をかく私は汚らわしいということですか!? つまりキライになったんですかぁ!?」


「なーにを言ってるんだね、君は。…しかし、その服装は…」


 ロリーの着ている浴衣はしっちゃかめっちゃかだ。帯の端が太腿に絡まっている。


「なんか事後みたいで嫌だなぁ〜。ちゃんと着なさい」


「事後? 事後って何ですか?」


「事後ってのは…」


「カダベル! これの着方! わかんない!」


「おおう! お前! ビショ濡れじゃん! その格好でここまで来たのか?」


 全裸のジュエルがむくれて俺に浴衣を突きつける。


「まったく。こんなん袖を通して、腰で縛るだけじゃないか…俺はお前の召使いじゃないんだぞ」


「いいから着せて!」


「その前に乾かさにゃ…。メガボン。そこの後ろにある戸棚からタオルを取ってくれ」


 俺は【乾燥】を使いつつ、タオルでジュエルの髪を拭う。 


「本当に毎回毎回…」


「え? もしかして、カダベル様はいつもジュエルの着替えを…」


「いつもじゃない。最近はゴムパンツを買ったから、紐で縛るタイプの時だけだ」


「あれイヤ! お腹の周りに跡になるんだもん!」


「ワガママ言うな。履いてて伸びれば気にならん。それに早く自分で紐を縛れるようになんなさい」


「な、なら私の着替えも…」


「ロリーはお姉ちゃんなんだから自分で着ましょう」


「ひどいです!」


 はー。俺はゆっくり麻雀もやらせてもらえんのかよ。

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