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屍従王  作者: シギ
第一章 世界異動編
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006 甦るゴライ(3)

 魔法とはとどのつまり、アプリケーションである。


 肉体というハードウェアがあり、頭脳というCPUやメモリーが存在する。

 そしてそれらは“魂”というOSによって統括操作されている。


 そしてコンピューターと違うのは、このOSが非常に高性能で、多岐にわたることを制御している部分だということだ。


 肉体というハードウェアの構成要素も、そもそもこの中に組み込まれており、ソフトウェアに相当する人格だけでなく、個人に関わるすべて記憶…それこそ当人が意識していなかったり、忘れているようなものもすべて保存されており、それは決して壊れたり失われたりすることがない。


 そしてこの世界では、水晶のような形のもの…“源核オリジン・コア”として、目に見える形で魂が存在する。

 これは半物質的な物のようで、物質と精神を強く結びつけている存在なのだ。

 

 生きている間はもちろん存在し続けるが、肉体が死を迎えると源核はしばらく肉体にとどまり、その後にこの世界の“裏側”へと溶け込み、物理的な特性をすべて失ってエネルギー情報だけとなる。


 その先は誰もわからない“天国への旅路”へ向かうこととなる…美しく表現するとそうなるのだろうが、もしかしたら、ただ無に帰するのやも知れない。それは今ある情報だけではなんとも言えなかった。


 さて、魔法はアプリケーションであるという話に戻そう。


 ここまで聞けば気づくかも知れないが、“魔法”がこの世界に存在している理由は、この源核というものが存在するからに他ならない。


 もしかしたら俺のいた元の世界にもこの源核というのが存在しているのかも知れないし、見つかっていないだけなのかも知れないが、異動してしまった俺にもはやそれを知る術は無い。


 また動物や植物はどうなっているのか…そういう疑問もあるが、“人間(これは亜人も含む)には、確実に源核が額の後ろに備わっている”ようだ。

 動物や植物では存在していてもどこにあるのか、はたまたどんな形をしているのかまでは不明だ。

 そして、魔法は人間種しか使わない。これがひとつの答えとなっているのではないかと思われる。


 魔法を創った古代人は少なくともそれを知っていた。

 この世界の人々は、魔法をもたらせた存在、魔法書を最初に書いた者たちのことを“賢者ワイズマン”と呼んでいた。それこそ、神や神話の英雄のような人智を越えた存在であるそうだ。


 しかし、この魔法書を書いた“人間”は、ただ単に、この世界の理…源なる技術…“源術げんじゅつ”の存在に気付き、それを基にして魔法という超便利なアプリを編み出したに過ぎない。


 この源術が何かと言えば、さっきのコンピューターで言うところの機械語みたいなものだ。

 もし使いこなせるならば世界のシステム自体に干渉することも可能だろうが、それこそ世界そのものを壊すことに繋がるかも知れない。


 賢者ワイズマンたちはそれを恐れ、その一部を抜き出し、“魔法というアプリ”にて限定的な作用を引き起こすことに成功したというわけだ。


 ……と、思う。


 偉そうにそんなことを日記に綴ったが、ぶっちゃけよくわからない。単なる知ったかぶりの憶測だ。


 俺は科学者でもましてやプログラマーでもないのだ。


 ただゴライの源核から源術という物の存在を知り、断片的な情報を繋ぎ合わせるとそういうことになると思われた。


 少なくとも源術から魔法が生み出され、それをやったのが賢者たち…という部分には間違いないはずだ。


 カダベルは俺よりは頭が良いのは確実だろうが、それでも魔法は、神々や賢者のような存在が生み出した何かだと曖昧に結論を出して終わらせていた。


 まあ、魔法の始まりを突き詰めていくと、どうしても神話になってしまう。

 カダベルは神話やの存在は証明しようがないとして、魔法がある以上は信じてなくはないが、あまり仔細には語りたがらなかった。その辺は研究者らしい部分だ。


 しかし、彼は源核の存在にも気づいていなかったし、それ以前に“魔法を同時に発動させる”なんて考えすらも抱いたことがなかった。


 俺はゴライを弄る際、複数の魔法をほぼ同時に発動させた。


 俺は何となくできるだろうと思ってやったことだが、カダベルの記憶を元に考えると、この世界の人々はそんなことはできないらしい。


 【糸操】と【空圧】の同時使用や、【牽引】で引っ張りつつ、【接合】などをひとりで行うなどは普通ではありえない。


 これを行うには2人以上でやるか、【牽引】を行って固定させてから【接合】という2つのプロセスに分けてでないと無理な様だ。


 これは文明の利器をフル活用できる若者がスマフォを弄りながらパソコンで検索しつつ、かつビデオゲームするなどといった同時作業が難なくできるのに対し、年配者だとパソコンひとつ起動させるのがおぼつかない…例えるのにこれが適切かは知らないが、まあ、それと似ているような気がする。


 俺はゴライの源核を改変するのにまずやったことは、ゴライの肉体が死んでいるという事実をどうにかできないかということだった。


 源核は肉体が滅びた、維持できない、機能しない…そう判断すると消えてしまうようだ。


 現在の状態で【抽出】してみると、源核は“確実にゴライは死んでいる”と表示された。


 さて、ここからやったことと言えば単純だ。取り敢えず【抽出】で死に関する記述を片っ端から【筆記】で書き換えていったのだ。


 やり取りはこんな感じだ。



──この人、呼吸ないですよね?


 →生きている。


──この人、血が流れ出て無くなってますよね?  


 →それでも生きている。


──この人、脳味噌半分ないですよね?


 →うるせー! 生きているってんだろうが!


 

 実際の内容はこうじゃなかったが、雰囲気でいえばこんな感じだ。


 書き換える度に質問の嵐…エラーとなるが、その度に強引に書き換える。それはいつ終わるとも知れない途方もない作業であった。


 これで生き返るわけでもないことはわかっていたが、それでもひとつだけ確信していることがあった。


 それは肉体を構成するデータも、この源核に含まれているのではないかということだ。


 簡単に言えばDNAのような肉体の設計図ですら、情報として保持しているはずだと思ったのである。


 もしそうだとしたら、それを基にして肉体を再構築する。つまり、脳の失われた部分も再生できるんではないかと考えたのだ。


 しかし、結論から言えばそれは上手くいかなかった。


 脳は母胎の中で、徐々に魂の入る形に構築されていくもので、一昼夜で簡単にできるものではなかった。


 そして赤ん坊として誕生してからも成人するまでに脳は変化していく。それを再現するには、それこそゴライが胎児だった頃から、最初から全てを創り直した方が早いようであった。


 そして次に考えたのが、とりあえず脳味噌の代用となる物があればいいんじゃないかということだ。


 そこで…ここでは詳細は省くが、まあ平たく言うと代わりの物を用意した。


 もちろん人間の物は難しかったので肉屋で売っている……いや、やはりやめておこう。


 しかし、これもまた無駄なことだった。


 とりあえずある程度弄った源核をゴライの頭に戻し(脳味噌は欠損していたので、額の骨に無理矢理に埋め込んだ)ところ、なぜか源核は“脳がある”という反応を示したのだ。


 これは実に奇妙なことだった。またコンピューターで例えるなら、ハードディスクが叩き壊されているのに、ディスプレイにその中身が表示されているようなものだ。


 もしかしたら脳味噌は必要ないのかも知れない。あれだけ大仰な意味ありげな臓器だが、もしかしたら単に“源核を肉体に固定するだけ”の器官なのかも知れない。


 まあ、そんなことは医者でもない俺にはどうでもいいことだ。とりあえず、ゴライが動けばそれでいい。


 わからないことは他にもある。俺自身にも源核があるだろうと、試しに自分に源核があると思われる部位を指定して【解析】を試したところ、あの黒いコンソール画面は現れなかった。


 自分を対象にはできないのかと思ったが、しかし肉体の方に【解析】をかけたところ、通常通りの魔法が発動し、カダベル・ソリテールの簡素な情報が文字列となって現れた。


 これは【解析】による通常の動作で、自分だからといって魔法の対象から外れるというわけではないことを示している。


 察するに、コンソール画面を出すには“死んでいる”ことが条件になるのかも知れない。はたまた源核に直接に魔法をかけなければならないという条件である可能性も考えられた。


 いずれにせよ、ゴライ以外の屍体を用意して調べるわけもいかず、この件はわからず終いである。


 そして、ゴライの源核をさらに弄る。生前のように暴れては困るので、当人の記憶にある、ゴライがチンピラになった原因と思われる記憶を幾つか【調整】した。


 【調整】は面白い魔法で、例えば2つの長さの違う棒を用意し、それにかけると双方の長さを揃えたりすることができる。また焚火に使えば火の大きさを大きくしたり小さくしたりできるのだ。

 しかし魔法だからといってなんでもできるわけでもなく、木であれば長くすれば長くした分、中身がスカスカになって脆くなったり、焚火にしても元となる燃料がなければ火を大きくはできないなどという制約がある。


 さて、ではゴライの記憶の何を【調整】するのかと言えば、“記憶の矛盾点”だ。

 

 彼の人生のすべてを俺自身が書き換えることはさすがに時間がどんなにあっても難しい。


 そこで、俺が書き換えた内容に対して【調整】することで、他の記憶も自動的に書き換えられるんじゃないかと考えたのだ。


 実のところ、【筆記】を使う際、何か不具合がでたら嫌だと思って【調整】を使ったのだったが、それは思った以上の効果を発揮した。


 そして書き換えるのはゴライの悲しい記憶や辛い記憶だけだ。


 人格や感情に干渉することもできるだろうが、幾ら相手が悪人でもそこまでは心情的にしたくなかった。そんな俺自身の勝手な自己満だ。


 【抽出】してみると、彼がチンピラとなった原因が幾つかあった。


 それは親の虐待であったり、彼自身の幼少期からの大柄な体格を友達がからかった…そんな小さな出来事が重なって彼の心を少しずつ歪ませていったのだ。


 なにせ文章ばかりの説明なので状況そのものが見えているわけではないが、“虐待された”を“虐待されなかった”と、“馬鹿にされた”を“馬鹿にされなかった”と打ち消していく。

 それに【調整】をかけると、俺が手を付けた部分以外のズレが自動的に整っていく。


 このコンソール平面的に見えているが、実際は立体的な構成になっている。いわゆるキュービックパズルのようなイメージだ。


 ひとつの情報が幾つもの情報と紐付けされており、下手なことをするとすぐに噛み合わなくなってしまう。だからこそ【調整】が必要なのだ。


 文字の中には理解できないものもあった。数式のような物を、俺が理解できる部分で【抽出】すると画面に表示しきれないほどの説明文に化けてしまう。その中の断片的な部分しか、それも解る部分しか弄ることができない。


 もしかしたらもっとより良いやり方があるのかも知れない。


 【解析】、【抽出】、【筆記】、【調整】…思いつくあたり、使えそうな魔法を選んだが、高ランクの魔法にはこれらをいちいち組み合わせなくても使えそうな魔法があった。


 ちなみに源核は全ての魔法が反応した。俺が選んだ魔法がたまたま当たりだった…とか、そんなわけではなかった。


 【牽引】を使えば画面自体を動かせたし、【空圧】を使えば画面に波紋を起こせる。そして【施錠】などの魔法では、画面を一時的にロックすることができた。


 【施錠】にしても石は必要とならないなど、不思議なことに、源核をターゲットにすると魔法の動きや働きが微妙に変わったりするのだ。


 すべてを終えてコンソールを閉じた時、俺はホッと安堵の息を吐く。


 失敗かもしれない。いや、失敗している可能性の方が濃厚だ。だがやれることはやった。


 これでもし駄目なら、ゴライの源核は解放してやろう。悪人とはいえ、いつまでも朽ちた身体に置いたままにするのは忍びない。俺の実験材料になったことで充分に罰は受けたと思う。


 それにゴライの記憶をかいつまんで見て、確かに悪い部分もあるが良いところも少なからずあった。


 酒場で暴れてる客をボコボコにして追い出して自分が占拠してみたり、子供から菓子を奪って腹を空かした野良犬に食わせてやったり…いや、なんかひどく悪いことのように思われるが、ゴライ本人はまったくの善行でやったと思っていたようだ。


 そう。ゴライそのものが悪いのではない。環境と運が悪かっただけなのだ。しかし、次からは…ゾンビとしての人生(?)は華開くかも知れない。俺はその手助けをしたのだ。


 たぶん……


「……さあ、目覚めろ。ゴライ・アダムルよ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジワジワとしたこの展開、読んでいてとても楽しいです! 超基本的な魔法でなんとかしようというのも、なんだかワクワクしますね。 [一言] ペースは遅いですが、引き続き拝読したいと思います!
2021/12/15 19:45 退会済み
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