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屍従王  作者: シギ
第二章 ギアナードの魔女編
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047 カダベル最期の策

「レクチャーなんていらない。キミを倒す方法はいくらでもあるから」


 やっべー。


 想定外だ。どうしよう。


 俺は魔力測定機を見て、内心ひどく焦っていた。

 

 数字がどうしたことか、倍近く…2,330,000にまで跳ね上がっている。


 変身もしてないじゃん。おかしくね?


 あれだけ魔法を使ったのに、減るどころか増しているってどういうことよ。


 しかも、【集音】で感じる限りだと…50体近くのプロトを一斉に転移させたらしい。


 おかしい。おかしすぎる。

 

 アレって、こんな魔法じゃないはずだ。


「…不思議?」


「うん。とっても…ね」


 俺の動揺を知って、ジュエルは満足そうに八重歯を出して笑う。


 彼女はどうしてかさっきから左右にステップを踏み、前後に漕ぐように手を交互に動かしている。まるでそれはダンスでもしているかのようだ。


「コレ、“魔束解放リリース”って言うの。本来の魔女の力が発揮された状態。…魔法も当然強化されるわけ」


「へー。そうなんですか。…って、マジか! 魔女の特権てやつなのか?」


「そういうこと。【尖岩投槍】!」


「おお!?」


 さっきまで1本だけだった槍が…上空見渡す限りに増えた!


 こんなのありかよ。


「そら!」


「うげ!?」


 槍の雨だ!


 こんなん避けきれるかよ!


「ッ!! 無理だぁ!」

 

 クソ! 何本か貰ってしまった!


「……それでも生きてるの?」


 ジュエルの瞳の色が、螺旋に渦巻くように揺らいでいて奇妙だ。


 彼女の全身から強い魔力が、とめどなく溢れだしているのを感じる。


「…はー、元々死んでいるんだ。これぐらいは…どうってことないね」


 腹、脚、肩に…避け損なった槍が深々と刺さってる。生きていたら間違いなく致命傷だ。


「魔女ジュエル・ルディ。いまさらだが聞こう。この勝利の果てに、お前が得られるものはなんだ?」


「…またお喋り? 死者は黙ってる方がお似合いだよ」


「そうだな。冥土の土産に知りたいと思ってね」


「……キミを殺してスカッとする。邪魔者がいなくなるってのはそういうことでしょ」


「ただそれだけか?」


「…偉そうに言うキミこそなんだよ。プロトたちをやっつけて、マクセラルを倒して、次はアタシなの? それで何がしたいわけ?」


「さてね。未来について語るのは生者の特権だ。俺は土に還るだけ。だから無意味なんだ。もう、俺の目的は達成した」


「達成した?」


 そう。最低でもロリーを助けること。これができた時点で俺はだいぶ満足している。

 おまけに弟のジョシュアも助けた…と思う。姉弟の関係は時間さえあれば修復するだろう。


 そして、次にルフェルニとの約束…だ。


「…この国は魔女を脅威と見なすだろう。今までのようにはならんよ。力を振りかざしての支配はままならなくなるからね」


 ジュエルの眼が憎々しげに俺を睨む。


「あの男と同じようなことを!」


「あの男?」


 誰の話だ? 王か? それとも大臣か?


「そんなことには絶対ならない! させない! 今までも、これからもずっとこの国はアタシのために存在するんだ!」


 どうあっても自分のオモチャ箱ってことか…。


「人間は目に見えない力は恐れ敬う。魔女は畏怖の象徴として、確かに裏側から王や国を支配できていたのかも知れない」


「アタシは支配なんてしてない!」


「君はそう思っているんだろう。しかし、王国はそうは思わない」


 見事だよ。


 そう。ジュエルは事実、何もやらなかった。


 それでも機能していたのは、彼女という“爆弾そのもの”を、国が潜在的に畏れるような仕組みになっていたからだ。


「…しかし、その力を見せつけられた人間は、やがて現実的な対処方法を考え始めるものだ」


「対処方法だって?」


「最初は畏れるがあまり、君の前で平伏するかも知れない。だが、差し迫った脅威…喉元にナイフを当てられたままに喜んで頷く者はいない。ナイフから逃れる方法を常々考えるようになるだろう」


「…さっきからウダウダとッ」


「人間は安心と安全を求める生き物だ。その欲求は魔女の恐怖に勝る…」


 俺は周囲を見よとばかりに、両腕を開く。


「魔女ジュエル・ルディ! 力を見せたのがお前の失敗だ! 破壊の後には何も残らん!」


 ジュエルの眼が、砂だらけの更地となった周囲に初めて意識を向けた。


 そうだ。自覚しろ。


 これをやったのはお前だ。


 そして壊してしまった物は、もう元には戻らない。

 

「……ジュエル。最後にはああやって、ひとりぼっちになるだけだぞ」


 俺は杖の先で、中空に浮かんでいる彼女の星型の居城を指し示す。


「…ひとりぼっち?」


 あの魔女だけの居城は、まるでよるべをなくし、迷子となっている彼女の心を表しているように俺には思えていた。


「そ、それがどうした…。アタシは…」


「ギアナードが魔女を敵とみなしたならば、この後は単純だ。お前が滅ぶか、国が滅ぶかしかない」


「…そんなはずない! 黙れよ!」


「和解するか? …そんな器用な真似はできんだろ?」


「ウルサイ!」


「最初から感情を殺して妥協できるんだったら、俺がお前の立場なら屍従王を抱き込んでいたハズだ」


「ウルサイウルサイ!!」


「俺が離反するなら、その段階で処分すれば良かったんだ。目的のない戦いなど、初めから成立していない」


「ウルサイウルサイウルサイ!!!」


 これでいい。俺はここで滅ぼされてしまうに違いないが道は作れた。


 後はルフェルニやミューンたちが結束し、魔女と戦うことだろう。それは生者の仕事だ。


 あとはできる限り、彼女の魔力を削るだけなんだが……


「もう使い果たしても構わない!! ホンキでブッ潰してやる!!」


 とてつもない勢いで魔力が高まっているのが目に見えてわかる。


「…すげーな」


 魔法で生み出した山のような巨石…あれで俺を一気に押し潰す気だろう。


 チキショウめ。


 あの魔法で彼女の魔力はどんだけ減るのかなー。


 メーターは下がりはじめているけど、ゆっくり過ぎてわからん。


 ああ。デジタル表示ができないからって、ドラム式のメーターにしたは失敗だった。桁が多すぎて、正確に表示されるまでに時間がかかるんだ。


「……さ、俺の“奥の手”と、どっちが上なのか最後の勝負だ!」




──




 王国騎士団は徐々に後退し始める。敵を分散させて引きつけるはずなのに、むしろ逆に追い込まれてしまっている形になっていた。


 ルフェルニは大通りに立ち、チェリーやキウイを相手にして、できるだけドリアンの側から引き離すことを心掛けて戦う。


「クッ! しまっ…」


 うっかり深く突き刺してしまい、剣が抜けなくなったルフェルニは焦る。


 横からチェリーが猛特攻してくるのに、ルフェルニはダメージを覚悟して眼を閉じた。


 しかし、いつまで立っても衝撃が来ない。


 恐る恐る眼を開けると、そこには白銀の騎士が立っていた。

 その隣には、真っ二つになったチェリーだ。


「…助けて…くれた?」


 敵だ…そう思ったルフェルニは眉を寄せたが、その横顔がロリーシェにそっくりなことに気づいて驚く。


「…コイツは手当たり次第に動いている者を襲う。強さはそうでもないが、数の多さは厄介だ。

 特に棘の生えたヤツの全体攻撃は、魔法じゃ防御しきれない」


 プロトのことを説明しつつ、刺さった剣を引き抜くのを手伝う。

 その時、ルフェルニの顔を見た聖騎士がハッとした。


「お前はカダベルと一緒にいたヴァンパイアか…」


「やっぱり、あの時の聖騎士…」


 ふたりの間に気まずい空気が流れる中、遠くから大声で呼ぶ声がした。


「生きていたか! ルフェルニ! それに…ジョシュア!」


 ゼロサムが瓦礫の山を乗り越えてやって来た。


「ゼロサム王…」


「陛下…その傷は!」


「なに、掠り傷だ。舐めときゃ治る」


 肩口がバックリと噛まれていて、流れ出る血の量からしてとても軽傷とは言えないが、ゼロサムは歯の抜けた顔でカカカと笑う。


「しかし面倒な敵だ。なかなかに固い。剣が通らん」


 ゼロサムがボロボロに刃こぼれした剣をかざす。

 ジョシュアも自分の剣がだいぶ傷んでいるのを見て眼を細めた。


「外殻を大幅に強化したんでしょう。普通の武器では倒すのは難しいかもしれません」


 ルフェルニが言うのに、ジョシュアが怪訝そうにする。


「魔女ジュエルがこんなものを造っていたとはな。聖騎士が警戒するわけだ」


 ゼロサムにウインクされ、ジョシュアは何とも言えなさそうにした。

 聖騎士団は魔女を敵視していたが、表向きは王国に来賓待遇で迎えてもらっていたので、なにやら複雑な気持ちになったのだ。


「ゼロサム王。この事態、このままにはして置けません。魔女も…屍従王もまだあの中心にいます」


「屍従王が?」


 ルフェルニが一瞬だけ喜色を見せたが、幸いにしてゼロサムにもジョシュアにも気付かれなかった。

 なぜならばその時、ちょうど辺りが大きく揺れ動き、地割れがそこかしこに生じたからである。


「またコレか! いったいあそこで何が起きてるんだ…」


 中空に浮かぶ星型の城の下で、恐らくは魔法を使った、想像もできないような戦いが起きているのだろうと3人は思った。


「まずはプロトたちを…」


「ああ。各門は開くように指示をしてある。なんとか王都からアイツらを追い出して、騎士団を再編成し、王城…王城跡にと向かうつもりなんだが」


 ゼロサムは頭を掻いて言う。というのも、細かな指示はすべて将軍バックドロッパーに丸投げしていたからだ。


「俺だけでも先にあそこに向かいたい」


 ジョシュアが星型の城を指差すのに、ルフェルニが不安そうな顔を浮かべた。


「屍従王を滅ぼすためか?」


「……いいえ、その、少し…話をする必要がある…かも、と」


 先程まで堂々としていたジョシュアが、困ったように口籠る。


 ルフェルニはどうしたのかと不思議に思ったが、ジョシュアの中に何かしらの心境に変化があったのだろうということだけは察せられた。


「……よくわからんな」


「なにがですか?」


「ウム。屍従王自身もそうなんだが、本当に戦う気があったのか?」


 ゼロサムが外での苦い戦いを思い出して言う。

 戦いを心から望んでいた彼からすれば、不完全燃焼と言うか、肩透かしを喰らったような気分だったのだ。

 しかし今スッキリした顔をしているのは、プロトという敵と存分に戦えているお陰だろう。


「陛下。もし、屍従王の狙いが他にあるのだとしたら…」


 カダベルのことを擁護するチャンスと見たルフェルニがそう続けようとした時、周囲で大きな声が上がった。


「て、敵が一斉に!」


「一箇所に固まろうとしています!」


「なんだと!?」


 兵士たちの言う方を見やると、バラけていたはずのプロトたちが再び城跡の前に集結しようとしているのが見えた。


「そんな馬鹿な! 動いてる者を追いかける習性があるはずなのに!」


「…さっき強化したとか言っていたな。もしかしたら戦略も変えてきたという可能性はないのか」


 ジョシュアにそう言われ、ルフェルニはそれを否定しようと口を開きかける。しかし出来なかった。


「想定外はいつでも起きる…」


 この場にカダベルがいたら何と言うだろう…どう対処したのだろう、ルフェルニはそう思った。


「集まられるのはまずい。集団で動くならば止める術がなくなる」


「やるしかないか…」


 3人は剣を構える。


 ここで食い止めることができなければ、街に被害が及ぶ。

 今ではまだ民衆は家に閉じこもっているが、これ以上地震が起きて、もし恐怖に耐えきれなくなって外に飛び出してきたら事だ。


「…ジョシュア。お前は客人だ。ここで命を張る必要はないぞ」


「いいえ、誰かを守り戦うこと…それが聖騎士の矜持です」


「そうか。感謝する」


 ゼロサムはニヤリと笑って頷く。


「…それにヴァンパイア。お前に対しては謝罪しなければならない。ここで戦うことで詫びとさせてくれ」

 

 崖から落とされた件だと、ルフェルニは気づく。

 だが、結果として無事だったのだ。それにカダベルと親密になるキッカケともなったので、ルフェルニとすれば恨みとまで思うことではなかった。


「…さっき助けられたので帳消しでしょう」


「それじゃ俺の気が済まないんだ」


「そうですか。…先程、お礼を言い忘れてましたね。改めて、助けてくれてありがとうございます」


 ルフェルニは深々と頭を下げる。


「そして、よろしくお願いします」


 ルフェルニが横に立つのを見て、ジョシュアは少しだけ笑った。


「王! 一箇所に集まった敵がこちらに!」


 バックドロッパーが慌てて走って来てそう伝える。


「見えている! 兵を集めろ! 分散作戦は失敗した! 正面から迎え撃つ!」


 群れとなり迫り来るプロトたちを前に、兵士たちも集い始める。

 数では王国騎士たちが優勢。しかし、ドリアンも混じえた集団のプロトを相手に、彼らが勝てるかどうかはまったくわからなかった。


「気合を入れろ! あんな物に我々は負けん! 怯むな!」

 

 ゼロサムが先頭に立って叫ぶのに、兵士たちそれぞれが覚悟を決めた。

 この街には愛すべき守る者たちがいる。こんな化け物に好き勝手させるわけにはいかない。


「全軍! 突…」



「マ゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ゛!!!」



 地を揺るがす雄叫びと共に、何かが側道から飛び出してきて、ドリアンの1体を薙ぎ倒した。



「あ、あれは城門を壊した怪物か!? まさか! 街の中に入っていただと!?」



「カッコカコカコ!!」



 顎を鳴らし、物凄い勢いで屋根から屋根を飛び回るスケルトンが、プロトの群れの中に突っ込む!

 ドリアンは一斉に悪臭を放つが、すでに死者である2体にはまったく効果がなかった。


「な、なんだ! 何が起きている!?」


「し、死者です! 死者の群れが後方より接近!!」


 王国軍の後方から迫る新たな群れを見て、ゼロサムは眼を丸くする。


「外門の敵か!? あれらは倒しただろう! なぜだ!?」


「わかりません!」


 死者はすべて動かなくなったことを確認していたはずだった。


「クソ! このままでは挟み撃ちに! 後退しつつ迎撃し…なに?!」


 バックドロッパーが指示を出す終える前に、死者は左右二手に大きく散開し、王国軍を迂回するルートで進む。


 そして、プロトたちに向かって一直線に進行し、その中へと躊躇いもなく突っ込んで行った。


「もう知らないんだから! 知らない知らない!」


 後から来た道化師の格好…それも、殴り合いでもしたのかという程にボロボロになった女が、半べそをかきながら魔法を使っている。


「こんなこと予定にない! マイマスターに怒られる!」


「怒られてもいいんです! カダベル様を助けるのが最優先です!!」


 その女の両肩を掴み、これもまたボロボロの修道士の女が血走った眼で言う。

 どう見ても、修道士が力づくで道化師に言うことを聞かせているようだった。


「ろ、ロリー!?」「ロリーシェさん!」


 ジョシュアとルフェルニが驚いた声を上げると、修道士はハッと正面に向き直る。


「カダベル様はどこ!? 城が無くなったから慌てて引き返して来たのよ! 

 そう! やっぱり赤鬼たちね! あれらがカダベル様を狙ってるのね!! ユルセナイッ!!」


 ひとりで勝手にそう結論付け、怒り狂うロリーシェに、全員がドン引きする。


「な、なんだ…。あの女、気でも狂っているのか」


 ゼロサムがポツリとそう言うのに、ロリーシェは歯を剥き出しにして唸る。


「カダベル様の敵は私の敵! ゴライ! メカボン! 倒すの! 1匹も残さずにね!!」


 ドンと道化師の背中を叩く。


「もうイヤぁ。なんなの、この…」


「し、しかし、あの死者の群れでも…」


 ルフェルニが戦況を見やる。ゴライやメガボンは善戦しているが、それでも敵の数は多い。

 死者はハッキリ言って戦力外だ。チェリーに噛み付かれて簡単にバラバラになっている。これでは単なる時間稼ぎの囮にしかならない。



「弓部隊、構え。放ちなさぁーい!」



 指示を出したのは、ゼロサムでもバックドロッパーでもなかった。


 死者たちの群れの後ろからやって来た謎の部隊が、大きな放物線を描く矢を放つ!


 そんな矢など効果がないと誰しも思ったが、プロトや死者に当たると大きな爆発を引き起こした。


「あーもう! 外してるの結構あるわよ! “魔法矢”は高いんだからね! 無駄にしたら弁済させるわよ!」


 馬に乗った豪華な紫鎧に身をまとった男が姿を現す。

 まるで孔雀が羽根広げたような姿のせいで、ギアナード王よりも遥かに目立っていた。


「その声は…まさかナドか?」


 ジョシュアがそう呟くと、孔雀鎧が腰に手を当てて胸を反らす。


「正解よ。不良坊主」


 庇を上げ、ナドが素顔をさらし、髭の端をつまんで笑ってみせた。

 こんな時でもバッチリと化粧はしている。


 ロリーシェは知った顔で頷く。


「な、何者だ…?」


「馬上から失礼を。申し遅れました。お初にお目にかかります。わたくし、聖路中央クルシァン正統教示国セドカイ地区自治領、領主ソリテール公爵家の執事長を勤めます、ナド・ベンチェーベと申します」


「こ、公爵家の…」


 バックドロッパーは眼を丸くする。クルシァンの公爵家と言えば、それこそ聖騎士団長などよりももっと格上の存在だと知っていたからだ。


「危急な事態とお見受けし、私兵を率いて勝手に貴国に入りましたこと深くお詫び致します。何卒ご容赦頂けばと」


「か、構わん。救ってくれたこと…感謝する」


 ゼロサムはギクシャクとしながらそんなことを言う。堅苦しい挨拶は苦手としていたからだ。


「今更となるかも知れませんが、ご協力させて頂いても?」


 ゼロサムはチラッとバックドロッパーを見やる。


「ベンチェーべ殿。それは願ってもないこと。御家のご支援に感謝致します」


 バックドロッパーが改めて名乗ると、ナドは丁寧に挨拶を返す。

 戦時中の略式であったが、その仕草だけでもかなりの教養がある男だとバックドロッパーは思った。


「…しかし、先程ソリテール公爵家と仰られたか?」


「左様です。バックドロッパー卿」


「まさか、屍従王カダベル・ソリテールと何か関係が?」


「はい。わたくしどもは、“生前”のカダベル・ソリテールの“遺言”に従って、取り急ぎ参上した次第でございます」

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