046 決戦! カダベルVSジュエル
片腕でしかないが、それでも魔女の剣戟を捌き切る。
「キミ! 魔法士なら魔法士らしく、魔法で勝負しろ!」
「そんなこと言って、そっちこそ近距離戦ばかりじゃないかね」
「知ってるぞ! ホントは【大火球】を使えんだろ!? アタシには通用しないから! 撃ってみろよ!」
「通用しないのに撃つわけないじゃんー」
どうにも、俺が何か変な魔法を使わないか警戒してんのかな。
それにしたって慎重すぎるな。通用しないとわかってるのに、接近戦を挑む理由がわからない。
「…もしかしてカウンター特化だとか」
「え!?」
「え?」
「そんなわけないだろ! 【尖岩投槍】!」
岩で創られた槍が投擲される!
【射準】も兼ねたホーミング性能のある魔法だが、辛うじて【牽引・倍】の連続で避ける。
ランクの高い攻撃系魔法にありがちなんだが、あくまで“対人戦”を想定したものが多い。
“空を飛ぶ者”は撃ち落とせるだろうが、“空を跳ね回る者”を倒すことまでは想定していないだろ。
狙いが定めにくいハズだ。
「これで死ねよ!? なんでだ!!」
まさか本当にカウンター特化の魔法しか持ってないのか?
なんとなくそう思っただけなんだがね。
だとしたら、範囲攻撃魔法は持っていない? いまのランク4が使える最大攻撃魔法なのか?
となると、城を壊したヤツは違うのかな?
あくまで対物用の魔法ってことかしら。
もしそうだとしたら少しは勝機が見えてきたぞ。
対人魔法が不得手だから、あえての特攻だったんじゃなかろうか。特攻でこちらの魔法を誘う狙いがあったのかも知れない。
「…ちなみに聞きたいんだが」
「今は戦闘中だよ!」
「まあ、いいじゃないか。今まで戦闘した経験はあるのかい?」
「あ、あるよ! 何回も何回もやった!」
うん。なさそうだな。戦い慣れているって感じがまったくしない。
なんか小さな子が、大きな玩具を与えられて持て余しているって感じがする。
戦闘経験の乏しい魔女、戦争をしなくなって久しい国…なんか変な感じがして気持ち悪いな。
そういう風にわざと“組み立てよう”とした、何らかの意図があるような気がしてならない。
そうだ。俺が気づいた、あの源術と魔法の関係のように……
「お前は“何のルールに縛られている”んだ?」
「縛られる? アタシが!? そんなものはない! アタシは自由だ!! 自由にやっていい!! そういう権利が与えられててるんだよッ!!」
「与えられている? 誰に?」
「ウルサイ!! お喋りなんかしたくない!! 【土流砂塵】!!」
「とと! 流砂か!」
城跡の砂が動き出し、いくつもの流砂が出現する。
なんだ。広範囲魔法あるんじゃーん。
でも、カダベルの識る魔法と少し違うな。【土流砂塵】は蟻地獄みたいな流砂を1つ創るだけだが、どうやら魔力の規模が桁違いだとランク4の魔法でも威力や範囲を変えられるらしい。
砂の中から助けた人たちは…良かった。遠くに離れている。大丈夫そうだな。
王国騎士団が来てるのは見えてたし、ジョシュアたちも頑張ってくれたんだろう。
もしかしてジュエルがこの魔法使わなかったのは逃げる時間を考えて…いや、そんなわけないか。
でも、城の人間に危害を加えようとまでは考えていないはずだ。
要は子供の癇癪に過ぎない。もし本気で皆殺しにするつもりなら追撃しているだろうしね。
そうなると、不毛な戦いなんだよなぁ、これって。本当に。
「【覇岩衝地転震】!!!!」
おお、カダベルの知らん大魔法きたー!
マジか! 魔女は地震まで起こせるのかよ!
王国全体が大きく揺れ動く!
耐震性のない遠くの建物が幾つか倒壊するのが見えた。
この世界には、確か地震はないよな。いやー、街中でパニックになっていないといいけど。
「な、なんで生きてる!?」
「いや、もう生きてはいないんだけどね」
確かに凄い強力な魔法だ。こっちに向かって来ていた騎士たちが全員転げているし、あっちこっちで火の手が上がって悲鳴が聞こえる。
だが、空中を飛び回ってきた俺には効果は薄いし、地割れでも出来て呑み込まれでもするなら話は別だが、直接ダメージを受けないんじゃあんまり意味がない。
相性の問題…というわけでもないな。ただ単に向こうが決定打に欠けているだけだ。
さっきの大魔法以外は識っている。どんな攻撃が来るのかわかっていれば、今の俺なら見てからでも避けるのはそう難しくない。
「聖技『鋭』!」
「ッ!?」
おお! サトゥーザが、余所見をしていたジュエルに横から斬り込んだ!
「魔女ジュエル! 貴様を打ち倒すッ!!」
「はぁ!? 敵はあっちだろ!」
「違う! 人間に害をなす貴様も敵だ! 魔女!! 聖なる刃を受けて砕け散れ!」
いーね。よくわからんが同士討ちしてくれるなら好都合ではある。
俺には前衛もいなかったことだ…あ!?
「死ね! 屍従王!!」
「こっちもかよ!」
サトゥーザの剣閃を慌てて避ける。
「どっちか一方にしろよ! 三つ巴なんて嫌だぞ! 俺は!」
「黙れ! 魔女も屍従王もこの聖騎士団、“義炎”の団長サトゥーザ・パパトゥが斬り伏せてくれるッ!!」
えー。なんかメチャクチャ怒ってるんですけど。
なんだよ、このオバサン!
魔女はともかく、俺は特に何もやってないじゃん!
「邪魔するな!」
ジュエルが魔法で【尖岩投槍】を飛ばすが、サトゥーザは軽々とそれを剣で打ち砕く!
やっべー。実力差かなりあるのに、サトゥーザさんはやっぱパネェすよ!
「チッ! ふざけッ!」
いやー、【魔剣生成】じゃ無理でしょ。相手はあの団長よ。
ほら、すぐに砕かれた。
本当に半端ねぇよ、あのオバサン。
剣振ってんのまったく見えねぇんだもん。
あ! なんか大技がきそう!?
──聖撃『神聖爆颯』──
いやぁー、コイツも中二病なのかよ!
黄金色の光を伴った突風がジュエルに襲いかかって…
「【呪怨地重報復】!!!!!」
あー、カウンター魔法。
たぶん。ジュエルの魔法が聖撃を吸収して、その攻撃の威力をそのまま返す感じだろう。
予想通り、自分の技を返されて、サトゥーザが大きくブッ飛んで行く!
さよーならー。
ま、あの団長なら死にゃしないだろ。
だけど、もう少し魔力を削って欲しかったな。
ま、ジュエルの手の内が少しわかっただけでもいいか。
こっちからの攻撃はマズイ…と。心にメモね。
といっても、俺の魔法で跳ね返されて困る物なんて一切ないけどね!
「ザマァー!」
「いや、女の子のセリフとしてはどうかと思うよ」
「ウルサイ! もうどうなってもいいんだよ!」
「いや、投げやりになるのはよくないって〜」
「【遠隔空間転移】」
「ここにきてそれか!」
だが、転移先を戦いながら修正…いや、違うな。元々から転移先を“城”にしといたなら話は別だったか。
俺は【集音】を使う。たぶん呼び出した5体は正門近くに出た。きっとドリアンだろう。
「キミみたいなのを相手にあんま魔力使いたくないんだから!」
「わかる! わかるぞ! 殺虫剤をまきまくっても、すみっこに隠れてしぶとく生き残っているヤツいるよな! あれにはイライラするよなぁ!」
「何の話だよ!」
「俺を倒したいんだろ? なら、倒すためのレクチャーをしてやろうって言ってるんだ」
──
突如として現れた5体ものドリアンを前に、兵士たちに戦慄が走る。
特に対峙したことのあるルフェルニの驚きは顕著だった。
「なんだ! あの化け物は!?」
ゼロサムが驚く様を見て、ルフェルニは眼を丸くする。
「陛下。あれは魔女が創った魔物です。ご存知だったのでは?」
「? 知らんぞ」
「王。確か報告書が上がっていたか…と」
「? そうなのか? 印を押せと言われたから押した書類はあったが」
「まさか玉璽を? …いや、そんなに軽々と押していい代物では」
内政には口出す権限のないバックドロッパーは、モゴモゴと気まずそうに言う。
「陛下は王としての自覚が足りなさすぎです!」
ルフェルニがそう一喝するのに、周囲がギョッとする。
それは不敬だ。いくら伯爵といえど、王に対する侮辱と見做されれば、国法ではその場で首を斬られてもおかしくはない。
「…そうだな。俺は王に相応しくない」
特に怒るでもなく、ゼロサムは当然とばかりに頷いた。
ルフェルニが何かを言おうとする前に、ゼロサムはニヤリと笑ってそれを制した。
「ディカッター卿。そういうことは平時に…それも、もっと前に言えばよかったのだ!」
「ゼロサム陛下…」
「だが、いまはアイツらを蹴散らすことが“王”の役目!」
弓兵に指示を出し、掃射を命じた。即座に何本の矢が放たれるが、ドリアンにはまったく刺さらずに弾かれる。
「硬いな!」
「ええ。恐らく投石の方が…」
「近付いて斬りかかるのはダメか? どうしたらいいと思う?」
「え?」
まるで友達のように意見を求められ、ルフェルニは動揺する。
「お前は相談役だろう。ルフェルニ」
ディカッターの立場は王の影の相談役だ。だが、それは前代の話であり、今ではもはや形骸と化していたシステムだ。
「俺より、お前の方があの化け物については詳しいのだろう。教えろ」
「は、はい。周囲に強い刺激臭を撒き散らしますから近づくのは危険です」
「さっき投石とか言ったな?」
「はい。ダメージは与えられるか不明ですが、多少は動きを鈍らせられるかと…」
「そうか! わかった! バックドロッパー! 投石機を持て! ありったけだ!」
「は…はっ!」
「敵が近づこうとするのは、弓か長槍で時間を稼げ! 何としても食い止めよ!」
「かしこまりました!」
バックドロッパーは目頭を拭って敬礼する。
彼が涙していたのは、今まで特攻しか命じなかった王のことを想い、感慨深いものが生じて胸が熱くなったからだった。
「ただちに…ッ!?」
不可思議な光が辺りを照らし、一気にドリアンたちが倍の数に増える!
しかもそれだけではなく、他のプロトたちまで一気に姿を現していた。それも10体や20体ではすまない数だ。
「まだ増えるか!」
「どこからやって来たというんだ?!」
(そ、そんな…。カダベル殿の話では一度に転送できる数には限りがあると言っていたのに…)
一気に勝機が失われたような気がした。
しかし、カダベルから「想定外はいつでも起きる」という言葉を聞かされていたルフェルニは、決して取り乱すことはなかった。
「陛下。街の被害が最小限になるように住宅地区から離れつつ、分散して引き付けましょう」
「そうなると魔女と屍従王は…。いや、今は目の前の敵を何とかするのが先か」
「あのプロトは知性をほとんど持ち合わせていません。上手く誘導できれば、王都外に連れ出せます」
ルフェルニが冷静に言うのに、ゼロサムもバックドロッパーも頷く。
「よし! まずはこの化け物どもを我が国から追い払うぞッ!!」
そして、果たすべき役目を果たそうと、それぞれが最善と思われる行動を取り始めたのだった……。




