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屍従王  作者: シギ
第一章 世界異動編
16/113

016 ニルヴァ魔法兵団来襲

 野盗に見えるように、土を身体に塗り、ボロボロの臭い革鎧を身にまとう。そして粗悪な造りの曲刀をいた。


「このマクセラル様とあろう者が、こんな格好をしなきゃいけねぇとは…」


 【反返】で作り出した反射板を使い、出来栄えを確認する。

 美男子が台無しだと思ったが、ワイルドなそんな自分も別な味があっていい。毛先をいじくり、もう少し粗野な感じ出してみる。


「『おい! テメェら! 調子に乗ってやがるみてぇだな! このニルヴァの大盗賊マクセラル・グラブル様を前にタダじゃすまねぇぞ!!』」


 芝居がかった風に大げさに、凄んで見せる。…我ながら格好良すぎる。震えがきてしまうほどだ。

 マクセラルは鋭い犬歯を光らせて笑った。


「…ニルヴァの名前だす必要ある? それに本名で名乗る必要もまったくないんだけど」


「ああん?」


 せっかく気持ちよくなっている時に、わざわざ水を差してくる、紫髪をアップにした女性を睨みつける。


「いーんだよ。どうせ、村人は皆殺しにしろって指示だ」


「…なら、こんな格好する必要もないじゃん」


 彼女もまた野盗に扮していた。小綺麗な化粧だけきっちりしているのはいただけないが、それ以外は完璧だ。


「もし万が一…いや、億分の一だが…取り逃がした時のためだ」


「は? …それならなおさら名乗っちゃダメじゃん」


 冷静にそうツッコまれ、マクセラルは口の端を歪ませる。


「まあまあ、マクセラルもカナルも。それくらいに。実名程度ならばいいでしょう。どうせ、この寒村でニルヴァのことを調べる術はないでしょうから」

 

 角眼鏡の男が、ニコニコと笑いながら言う。

 そんな彼も野盗となっていた。眼鏡にまでわざわざ泥をつけているのが何だかひょうきんだ。


「ヴァイス。あんたはどう考えてんの。この作戦をさ」


「…まあ、上手くいくんじゃないでしょうか。僕の【魔力検知】で調べた結果、使われたのはランク1の魔法だけです。大した使い手の魔法士とは思えないですね」


 ヴァイスは【映像投影】で空間に戦力分析グラフを出して見せる。


「ランク1だ? それであのチェリーを倒せんのか?」


「聞いた限り、倒したのは今までのように物理攻撃で…でしょう。思うに、今回は拘束しようとして魔法を使用したものかと」


「…なんで?」


「さあ、そこまでは…」


「もしかして、力を隠しているとか?」


「ないでしょう。それだと今まで魔法を使わなかった理由もわかりませんしね。魔法で倒す手段があるなら最初から使うはずです」


「村人に魔法を使う知恵が出てきたってところか? …だとしたら、張り合いもねぇ、つまんねぇ話だわな」


「はぁー。それにニルヴァ魔法兵団を投入するかよ…。魔女様も人が悪いわ。…ま、人かどうかも怪しいけれど」


「およしなさい。聞かれたら大変ですよ」


 ヴァイスに嗜められ、カナルは両手を上げて降参のポーズを取る。


「…で、手順の方は?」


「いつものように魔女様からお借りしたチェリーを4体。手始めに、前面から攻撃を仕掛けます」


「少ないなぁ…。敵の中にはそこそこ戦える戦士がいるんだろ?」


「ええ。ですから、今回は“キウイ”も入れます。3体お借りして来ました。これだったら山越えもできますから、背面からも攻撃を仕掛けられます。伏兵とするつもりです」


「前面に集中させて、背後から奇襲ってやつか。今までにないパターン。これなら、裏をかけるかもね」


「それでも計7体か。コイツらだけじゃ厳しそうだな。チェリーを倒して、キウイに向かえばいいだけだもんな」


「だからこそ、後詰めに僕たちがいるんでしょう。キウイに手間取っている間に、野盗に襲われる…ま、いくら敵は弱いとはいえ、寡戦ですからね」


「ああ、敵を分散させないわけね」


「どういうことだ?」


「…勘弁してよ、リーダー。あの広い花畑に散った村人を、あたしたち3人で倒すのはしんどいでしょ」


「そうか? だって、たったの100人程度だろ?」


 カナルとヴァイスは目に見えて大きくため息をつく。


「魔法の使用は厳禁」


「あ」


 ようやくそれを思い出したマクセラルはポンと手を叩いた。


「剣だけで1人あたり30人を倒さなきゃいけないのは現実的ではありませんね。

 ならば身動きをとれなくさせ、村に火を放つのが一番でしょう。…そして、入口に逃げてきた残りを殲滅するのが確実です」


「…地味だな」


 目に見えてマクセラルのテンションが下がる。


「なぁー、ヴァイス・ラマナール大先生よ。もちょっと面白くできねぇのかよ」


「…面白くだなんて言われましても」


「マクセラル、遊びじゃないんだから…。

 逃げ惑う人々を見るだけでもいいじゃん。焼死体はちょっと愉しみだし」


 カナルの鼻息が荒くなるのを見て、マクセラルは心底嫌そうな顔をする。

 

「悪趣味だな。屍体愛好家ネクロフィリアってのは」


「…うるさいな。そうじゃなきゃこんな仕事やんねーっての」


「…うーん。そうですね…。村の中で、若い綺麗な女性をひとり…もちろん居ればという前提の話なんですがね」


「若い綺麗な女?」


「ええ。その女性を、チェリーやキウイから僕たちが助けてあげるっていうのはどうでしょう?」


「はぁ? それの何が面白いんだよ。そもそも皆殺しにしろって指示じゃんか…」


 ヴァイスの顔が暗い笑みに染まる。


「…命ギリギリのところを救われた女性は心から感謝するでしょう。それを優しく迎え入れてあげましょう。そうすることで、マクセラルに強い好意を抱くはずです」


「…へえ。そう上手くいくもんかねぇ」


 少し興味を覚えたらしいマクセラルは頬をポリとかく。


「フフ。恐怖による心拍数の上昇を、恋による心拍数の上昇と脳が誤認識するそうです。本当かどうか試してみましょうよ」


「あたしたちが村人殺してるのを見て感謝するぅ? ありえなくない?」


 しばらく奇妙そうな表情をしたカナルだったが、ヴァイスが何を言わんとしているのか察してみるみるうちに怒り出す。


「ちょっと! 冗談じゃない!」


「…僕とカナルで100人だったらなんとかなるでしょう」


「ふざけ! あたしはそんなんやらないからね!」


「どういうことだ? 俺たちは3人だろ?」


「…はぁ。だから、わかんないかな! こいつは、わたしとヴァイスだけで戦わせるつもりなの。あんたに女を守らせてね!」


「は? なんだそりゃ! 俺に戦うなってのか! それは絶対に嫌だぜ! つまんねぇ!!」


 ふたりが猛烈に抗議すると、ヴァイスは困ったように笑う。


「…それならば、その女性に【疑似幻覚】をかけましょう。マクセラルが村人を斬り殺すのを、キウイを倒しているように見えるようにね」


「魔法厳禁…」


「戦いに使うわけじゃありませんから。ルールは逸脱してはいません」


「…で、そもそも助けてどうすんだよ?」


 カナルとヴァイスはもう一度顔を見合わせてため息をつく。


「…だから、あんたに惚れさせた上で、実は俺が村人をブッ殺してたんだよーって絶望を与えてやるのを愉しむって話でしょ」


「え? おお…。なにそれヤベ! それちょっと楽しくね? 興奮してきた!!」


「…言っとくけど、あんたの性癖の方がヤバいよ」


「まったくですね」


「…ヴァイスもあたしの中では同類だから」




──




 キウイ…緑色をしたチェリーの上位互換種に騎乗し、5体のチェリーを引き連れ、マクセラルたち3人はゴゴル村へと急ぐ。


 キウイのツルツルしたボディは実に座り心地が悪いが、ヴァイスが使う【自在引力】は【牽引】の数倍の力を持ち、少しもガタつくことなく座り続けることが可能だ。


「思った以上にシケた村だな…。本当にチェリーを撃退するような戦士がいんのかよ」


「チェリーぐらいなら村人でも倒せんでしょ。10体を倒したってのはなかなか聞かないけれどさ。この国の雑魚騎士でも、まあ余裕は余裕でしょ」


「あの単純な動きに気づきさえすれば、対処はそう難しくはありません。…まあ、だからこそキウイには翻弄されるのですがね」


 キウイは最高速度こそチェリーには劣るが、高低差にも強く、機動力に長け、かつ索敵も視覚だけじゃなく嗅覚や聴覚も使える。より“生物”に近づいた存在だ。

 攻撃力や耐久力も上がっており、鉄を腐食させるような溶解液を吐き出すので、普通の戦士では手も足もでない。


「なおさら、わからないわね。キウイ1体でなんとでもなりそうなのに…。今までの村だってそうじゃない」


「村人が魔法を使い始めたからでしょう」


「そこよ。なぜ魔法を使われることに対して、魔女様はあんなにも過剰に反応するのかしら?」


「“魔法社会の真の実現のため”…でしょう」


「だから! 魔法社会を実現するなら、わたしたちみたいに取り込んでしまった方がいいじゃんかって言っているのよ」


「…そこまでは知りませんよ。淘汰するつもりだと勝手に思っておりましたが」


「淘汰?」


「弱い力は不要…ということでしょう」


「おいおい! いつまでくだらないことお喋りしてんだよ!」


 リーダーが怒るのに、ふたりは口を噤む。


 普段はバカでどうしようもない男だ。だが、持って生まれたマクセラルの戦いのセンスは本物だ。


 この中で一番高いランク4の魔法を使いこなすヴァイスですら、直接戦闘となればマクセラルには一歩及ばないだろう。

 だからこそ、こういった場面ではカナルも反論しない。


「…おーう。いっちょ前に対策はしてるみたいだな」


 村の入口の周辺の馬房柵を見やり、マクセラルはニィと笑う。


「さて、今までとは違うぜ。せいぜい楽しませてくれよ。ゴゴル村の皆さんよぉ」


「…そうか。なら遠慮なく楽しませてやろう」


「…は?」


 いつの間にか、杖を持った細身の男が側に立っていた。


 真っ黒なフード付きの外套。先端で捻じり曲がった杖。パッとした見た目でそれが魔法士であることはわかる。


 しかし不気味なのは顔を覆う木の仮面と、腕や足首に包帯がグルグル巻きにされているところだろう。


「…なんだ? テメェは。まさか、あの村の…」


 マクセラルの勘が、この男がおそらくチェリーを捕まえた魔法士であろうと言っていた。


「…あーあ、テステス。本日は晴天なり。本日は晴天なり。よし、冗談だ。こんなことやらんでも聴こえるだろう」


「はあ? 誰に向かって話しかけて…」


「さあ、やっておしまい。ゴライ」


 杖の先端を挑戦的にマクセラルへと向ける。


 ドォン!! そんな轟音が村の方角から聞こえた。


「な、なんの音だ!?」


「上よ!!」


「まずい!!」


 大きな木が投げ槍のように飛んでくるのを見て、3人は眼を見開いた。


「クッ! 散れ! チェリーどもを横に! アレに当たらなければいい!!」


 マクセラルが即座に指示を出す。


 このままだとチェリーはジッとしていただろうが、真っ直ぐに飛んできている以上、前か後ろに動かしてしまえば避けるなんて造作もないことだ。


「【射準】! 【牽引】、【倍加】、【調整】!」


 男が飛んできた木に向かって魔法を使う!


(ランク1の魔法? あんなゴミ魔法で何を…)


 マクセラルは鼻で笑おうとして、すぐに自分の誤りに気づくことになる。


 真っ直ぐに飛んできていた木が、急に方向を変えて横回転となったのだ。


 それはわずかな角度の調整に過ぎなかったが、飛ぶ勢いは失速し、落ちるであろうと思っていた目測位置を大きく外れ、前に進み出そうとしていたチェリーたちを一気に薙ぎ倒す!!!


 紫色の血が辺りに飛び散り、マクセラルたちの身体にもそれが掛かった。


(…ッ! 角度によっちゃ、俺たちまで巻き込んでやがった!)


 マクセルの額に冷や汗が流れる。魔法で防御する暇もなかったのだ。


「て、テメェッ!!!」


 あの魔法士を睨みつけようとするが、もうすでにその場からいなくなっていた……。




──



 【軽化】で自分の体重を半分にし、【浮揚】で水の中にいるような揚力を持たせる。


 どちらも無生物にしか掛けられず、荷物運びが楽になる程度の魔法に過ぎないのだが、“屍体”にだったら掛けられるだろうと早くに思いついて良かった。


 それに【牽引】を使い、そこら辺の枝にぶら下がるようにすれば高速で移動できる。

 まあ、劇的にというわけではないが、ミイラが走るよりは間違いなく速い。


 だが、正直、面倒くさい。


 なんで移動だけに俺はこんなに魔法かけなきゃいかんのだ。しかも3つとも毎回のようにかけ直さなきゃいけない。


 ああ、マンガみたいに…


「ハッハッハ! さらばだ!」 ドォン!


 …って、飛んでいきたい。


 魔法使いなのに、移動手段がオランウータンと同じってどうなのよ。


「ウホウホ! バカか俺は! …仮面も邪魔!」


 仮面はすごく鬱陶しい。


 仮面つけて戦うなんて、馬鹿なんじゃないかとしか思えない。


 ちょっと気合入れて格好いいデザインにしてみたんだが、眼んとこを小さい穴にすると全然見えないじゃん。


 これ手作りでやってみてわかったが、バイクのフルフェイスってよく考えられて作られてるんだと思うわ。


 かといって目玉んとこ大きく拡げると、俺に目玉がないの丸わかりだし、そもそも目玉ねぇのになんで仮面つけて視覚が遮られるのかも意味わかんない。


「…次はグラサンか。いや、マヌケだろ。この格好でグラサンって」


 途中で【集音】してみる。


 敵の数は3体になっていた。赤鬼は上手く全滅させられたようだ。


 あの鬼……色から、緑鬼でいいのかな?


 上に乗っていたヤツらの魔力が消えてるから、きっと降りて分散したんだろう。

 ずっと乗ったままなら馬鹿だ。当然だな。どこに行ったかわからないのはちょっと困るが。


「よーし、ゴライ。“ゴライ砲”の再装填! 今度は“散弾”の方だ。そっちにも【倍加】忘れるなよ〜」


 普通の声量だが、ゴライには充分に聴こえているだろう。


 正直、この距離で俺の声が聴こえるだなんて、うるさいんじゃないかと思うんだが、そこはゾンビの図太さなんだろう。


 いや、俺はミイラでも耳元で喋られたりしたら嫌なんだけどな。個体差があるのかも知れん。

 

 さっき木を飛ばしたのは単純な仕組みだ。長い板を用意して、支点となる土台を置いただけの投石機カタパルトってやつだ。


 これの片側に木や石を載せ、反対側に【倍加】させたゴライを飛び乗らせるというわけだ。


 もちろん結果は言うまでもない。木や石はエライ勢いで飛んで行くことだろう。


 だが、当然こんな大雑把な兵器で、小さな目標に当たるわけがない。


 だからこそ俺がアイツらの側まで行って、大体の位置をゴライに知らせ(ゴライの探知能力はそこまで正確じゃないため)、なおかつ飛んできた投擲物に俺が微調整を加えたというわけだ。


 特に【射準】は、例えば小さなものだったら百発百中で、ゴミをゴミ箱に投げ入れる時にはとっても便利なのだが、あんな大きな物が相手では当然ながらズレてしまう。

 それでもある程度はトレースするので、当たる直前に使えば、敵が移動した位置を目測し、ある程度は軌道修正ができるだろうと思ったのだ。

 結果はさっきのように、俺の狙い通りになった。


 まあ、あの赤鬼しか倒せなかった状態を見ると正直言って役に立ったのか不明だが。

 まあ即席にしては、ファールにもならず、ちゃんと当てられたんだから良しとしよう。


「そもそも俺の予定じゃ、次は赤鬼15体とか20体だったんだ。まだ『グフフ。ならばコレならばどうだ』って感じで、様子見に数で攻めてくるとかだろうよ。そのための準備を全部台無しにしやがって…」


 敵襲と聞いて、【集音】を使って驚いた。数が少なくなっている上、大きさ的に人間らしき者までいたからだ。


 数が少なくなったとのは、もしかしたら少数精鋭でくるかも…そんな気はしていたが、それでも今回は赤鬼に毛が生えたような物がでてくるのが定番ってもんだろう。


 そうだな。ちょっと知能が上がってて、機動性が増して、「なにぃ? 赤鬼より速い! 緑なのに3倍速だと!?」…みたいな。いや、それはそれで困るけど。


 でも、まあ、それがだ。首謀者らしき人間がいたわけだ。


 それだけならまだしも、3人も来るなんて完璧に想定外だ。


 来るならせめて下っ端から1人ずつ来いよ。クソ。こっちは攻撃手段少ねぇんだぞ。


「……でも、もしかしたら単なる野盗なのかな?」


 みすぼらしいあの格好を見る限りだと、盗賊か何かに見えた。


 魔法を使えない下っ端が、魔法士にモンスターをあてがわれて村を襲う?


 そんな可能性もあるのか?


「いや、絶対にない。【自在引力】みたいな魔法使えたら、最初から盗賊になんてならん。間違いなく3人とも魔法士だ。それも俺より遥かに強力な奴らだ」


 俺は甘い考えを打ち消す。少なくともランク4を使える魔法士が相手だ。


 俺はカダベルの記憶を頼りに、ランク5以下の“魔法全部”について考えを巡らした……。




──




 マクセラルの腹は煮えくり返っていた。


「いきなり攻撃してくるたぁどういう了見だ! 人違いだったらどーすんだ!」


「人違いということはないでしょう。野蛮な戦術ではありますが、してやられましたね」


「奇襲かけるつもりが、逆にかれられるのはシャレにならないね。

 にしてもさ、ランク1しか使えない魔法士じゃなかったの?」


「…そうですね。認識を改める必要がありそうです」


「…いや、ランク1しか使えない魔法士には間違いねぇだろ。さっき使ってた魔法はみなそうだ。温存してるようにも見えなかった」


 冷静さが戻ってきたマクセラルが言う。


「…だが、気づいたか? 魔法展開速度が尋常じゃねえ」


「ええ。確かに。気にはなりました。複数の魔法を一瞬で連続にだなんて…魔女様並みですね」


「だが、攻撃方法を見る限り、決定打がねぇんだろ」


「…なるほどね。だからあんな手段とるしかなかったというわけか」


 かかった紫色の血を【流水】で洗い流し、潰れたチェリーたちを見やる。


「…一時撤退しますか?」


「策を弄するタイプなら、退いて時間を与えるのは良くねぇな」


「キウイ3体でいける? 裏に回り込ませるのは見られた以上、もう使えない手でしょ」


「いや、逆だな…」


「ええ。僕もそう思います。キウイの奇襲は予定通りにしましょう」


「なんで?」


 いつもの会話と違い、自分だけがわからないことにカナルは不貞腐れる。


「ここまで単騎で出てきたということは、あの村に辿り着く前に数を減らしたかったんでしょう」


「ということは、村を守りながら戦うことができないと見るのが正確だ。回り込まれて攻撃されるのは嫌がるだろう」


「…でも、それで各個撃破が狙いだとしたら?」


 マクセラルとヴァイスは顔を見合わせる。


「戦力分散が狙いなら、囮もなしに手の内は見せない」


「逃げたのは真正面から戦えないから、行く先々で罠を張る必要があるからですね。つまり、まとまって動いていた方が標的にされや…ッ!」


 何やら響く音がして、ヴァイスが眼を見開く。


「また巨木か!?」


「違います!! 石です! 無数の石!」


 ヴァイスの言う通り、幾つかの小さな石が散らばって飛んでくる。

 飛んでくるに従って、広範囲に拡がるのが見て取れた。


「あんなの避けられないわ!」


「クソ野郎がッ! 【断膜壁】!」


 マクセラルが魔法で壁を生じさせて石礫を防ぐ。


「魔法は!」


「言ってる場合か! クソッ! クソクソッ! ヤロウッ! 狙いを定められねぇと見て、数を撃ち込んできやがった! ふざけやがって!!」


「何をどうやって? …何個かの石に【倍加】がかけられているようですが」


 ヴァイスは【魔法検知】で判別する。


「なら、もう魔法ありでいーのよね! 【銅兵4】」


 カナルがポケットから銅貨4枚を取り出して投げると、それが人間の腰丈ぐらいの鎧兵4体にと変化する。


「そのランク2の魔法は知らねぇな。そいつはキウイみたいに遠隔にできんだっけか?」


「前に話したでしょ。あたしの眼に視えてる範囲だけカバーする魔法。でも、さっきの投石から守るくらいなら簡単にできるわ」


「なら、攻めますか…。僕は周囲を警戒しますが、さっきの魔法ではない攻撃が来たら…」


「ああ。俺かカナルで防御する」


 魔法を使う前提での戦いではなかったので、改めて作戦を確認する。


 同じ魔法兵団とはいえ、自分の使う範囲外のことまで熟知しているわけではない。

 仲間がどんな魔法が使えて効果がどのようなものか漠然としたことは知っているが、通常とは異なる条件によって思わぬ結果を招くこともある。

 前もって使う魔法や作戦の筋道を決めて置かないと、魔法干渉を起こすことがあったのだ。


「行くぞ! 舐めた真似したことを徹底的に後悔させてやるッ!!」

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